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空が愛したのはインドラジット  作者: 殿様
第一章
4/10

再開と帰還〜4柱〜


「ゲイル、大丈夫!? 何、この部屋……」


 階段を降りて来たのは姉さんだった。どうやらヴェルナは部屋の隅に開いている隠し通路から逃げたようだ。

 姉さんは部屋を見渡すと少し気分が悪くなったのだろう、口元を押さえる素振りを見せた。


「姉さん、実は……」


 俺はこの部屋で起こったことを全て話した。ヴェルナという男が部屋の主であること。ヴェルナの目的は殺された自身の娘の蘇生だということ。


 姉さんは俺の話を聞き終わると、ゆっくりと口を開いた。


「事情は分かったわ、ゲイル。ところで、最後にヴェルナって人が言った『お土産』の中身は見たの?」


「ちょうどそこで姉さんが降りて来てくれたんだ。姉さんは下がってて、俺がまず見るよ」


「ゲイル、私が姉なんだから私が先に見るわ」


「分かった。だったら2人で開けよう。準備は良い? じゃあ……いくよ」


 俺達は一気に開け、中を覗き込む。


 そこには見覚えのある少女が眠っていた。悪夢の中で見たそのままに近い姿で、その娘は横たわっている。

 呼吸をしている姿に俺達は驚きと共に嬉しさが込み上げてきた。


「ユピ……生きてた」


「ゲイル、良かったね……」


 生きてる……生きてる! 

 間違いない。あの時より髪は伸びているが見間違えるはずがない!


「でも、何でユピがここに居るのかな? ヴェルナって人がユピをここに連れてきた経緯も、理由も分からないわ」


 分かっているのはただ1つ。ヴェルナは娘の身体の再生と保存のためと言っていた。部屋の周囲にあるものを見る限り相当な人数の命が奴に奪われただろう。

 研究成果は出たとわざわざ言っていたからにはユピが狙われることは無い。奴の次の目的は娘の魂ということ以外分からないが、今はユピの無事を素直に喜ばう。


 マスターが遅れて到着した後報告を聞き終わると、俺達はユピを連れてこの部屋を出た。

 

「ゲイル、宿に着いたらエリアの部屋に寝かせてやれ。俺様は夜が明けたらセルゲイの野郎のとこにひとっ走りしてくる」


「分かりました。ユピの件、よろしくお願いします」


「任せとけ! 戻ったらすぐケリドに帰るから準備しとけ!」


 姉さんにユピを(たく)し、俺は自室に戻った。連日の昼夜逆転生活に加え、ここまでユピを抱えて来たので疲れがピークに達したようだ。

 ベッドに横になり、沈むように眠りに着いた。





 何時間程眠っただろうか?


 目を開けたくない……だけどユピが待ってるかもしれない。


 俺は重たい身体を起こした。




「やぁ、ゲイル君。清々しい目覚めだね」


「なっ、ヴェルナ!?」


 俺はナイフを引き抜こうとしたがそこにナイフはなかった。


「おっと、今は敵意は無いからね。すまないが武器は全て外させて貰ったよ。ゆっくりと話をしようじゃないか」


 くそっ! 本当に何も無い!


「なら、素手で組み伏せてやる!」


「遅いよ、ゲイル君」


 右の拳を突き出した瞬間、腹部に重い感触が伝わってきた。


「かはっ!! ……なんだよ、あんた俺なんかに何の用があるんだよ」


「あの場では語り合えなかったからね。君に興味が湧いたから質問しに来たのさ。あの娘と君は知り合いみたいだったが、彼女のことを君はどこまで知っているのかな? そして、オルフェウスという神のことについて知っていることがあれば全て話してくれないかな?」


「ユピとは昔一緒に住んでただけだよ。あと、そんな神は知らない」


 ヴェルナは残念そうに(うつむ)くと立ち上がり、扉の方へ向かった。


「ありがとう、ゲイル君。これは返しておくよ」


 ヴェルナは俺のナイフをこちらへ放り投げた。


「待て! 俺も聞きたいことがある!」


「ほう、何かなゲイル君?」


「あんたはユピをどこで見つけたんだ?」


 ヴェルナはこちらを向き、腕を組んだ。間を空け、右半分だけ見える口を開いた。


「私はただ『買った』だけさ」


 そう言い残し、ヴェルナは部屋を出た。

 ナイフを拾い、追いかけたが奴の姿は既になかった。


「どうしたの、ゲイル? ナイフ持って怖い顔して……」


 俺がヴェルナを探していると姉さんが部屋から出て来た。姉さんの後ろから小さな姿が一緒に出てくる。


「ユピ!」


「ゲイル?」


 ユピは泣きそうな眼でこちらを見つめ、問う。俺が軽く頷くとユピは飛び込んできた。


「ゲイル! ゲイル!! 会いたかった……」


「……俺もだよ、ユピ。ずっとユピは逝なくなってしまったものだと思ってた。何があったかはまた今度でいいから、ゆっくりお休み」


 ユピはそのまま泣き出してしまった。俺は姉さんの部屋にユピをもう一度寝かしつけ、部屋を出た。


 マスターが帰ってくるまで3日が経った。俺はその間、姉さんと共にユピを連れてゾトーバスを散策した。ユピは日に日に元気な姿を取り戻したようだった。

 改めてユピをマスターに紹介したが、マスターのモンスターボディを恐れたのか姉さんの後ろへ隠れてしまった。


「なぁゲイル、俺様そんな怖いか?」


「むしろ怖くない方が少ないですよ」


「そうか……それはともかくだ、2人ともよく聞け? セルゲイの野郎にユピちゃんをうちのギルド預かりでアースに連れて行くと言っておいた。この通り、局長様直筆の身柄の証明書も書かせた」


 こういう時、マスターは凄く頼りになる。俺と姉さんの思いを先に汲んでくれる。


「マスター、私からもお礼を言わせて? ありがとう」


「それにしてもよく管理局長が書いてくれましたね」


「俺様が神の窓(ティアラ)で暴れるのとどっちがいいか聞いただけだ」


 脅しじゃねぇか!!


 晴れてユピは朔月の杯(ケリドドロップ)の客人として神の窓(ティアラ)を通り、来た時と同じ馬車を借りてケリドの街へとやってきた。

 ホームへと帰ってきた俺達は積もる話もあるがユピを休ませるため、部屋を案内した。


「さてと、帰って来たばかりだが……ユピちゃんが寝てる内に今回の件についてセルゲイの野郎から聞いてきたことを話しておこう」


 俺達は広間へと集まった。長テーブルには薄っすらと埃が積もっていたが思っていたよりは綺麗なものだ。


「マスター、やっぱり私の予想は当たってたの?」


「結論を先に言うなら……大当たりだ。セルゲイの野郎は『ヴェルナ・エクスデウス』が潜伏していることを知っていて俺様達を送り込んだ」


「局長はヴェルナのこと、なにか言ってませんでしたか?」


「あー、ここで話すのもアレなんだが……闇市で5から15歳辺りの子供を買うことで有名だってよ。野郎が調べただけでも800人は下らない、だと」


 俺が見つけた部屋にあったのは極一部ってわけかよ。


 マスターが静かに立ち上がると俺の前へやって来た。


「お前が見つけた部屋のことだが……俺様が弔っておいた。後始末も済んでる。ゾトーバスに行った時にはココに寄るといい」


 マスターはそう言って一枚の紙を俺に渡した。

 俺はそれを受け取り、財布の中に大事にたたみ入れた。


 ユピも一つ間違えれば他の子供達同様の末路を辿っていたかも知れない。ホッとする反面、己の心を醜く思う。犠牲者の親兄弟はもし知ればちょっと前の俺みたいな心境だろう。


「ゲイル? エリア?」


 そうこうしている間にどうやらユピが起きてきたようだ。琥珀色の瞳を擦りながら話し声が聞こえたのか広間に入ってきた。


「ユピ、おはよう。よく眠れたかしら? 体調はどう?」


「ねむれたけどあたまがすこーしクラクラするぅ……う?」


 ユピは近付いてきた巨体に驚いたように一歩足を引いた。


「おっはよう! 俺様のギルドへようこそユピちゃん!」


「……ゲイルぅ」


 やはり怖かったのか。俺の足の後ろに回り、しがみつく。マスターはがっくりと肩を落とし、元居た位置へ戻って行った。

 

 改めて見ると服装は姉さんのものを借りっぱなしだ。色々とサイズがあっていないため、(すそ)を引きずり、服を痛めてしまう。


「マスター、今日はユピの服を買いに行って来て良いですか?」

 

「あ、あぁ……行ってこい。エリア、俺様の金いくらか出して渡してやってくれぇ。ゴリアテの奴のとこで髪も整えて貰え」





 ホームから出て左に大通りを進み、市場とは逆方向にケリドの街で最も大きな屋敷がある。街の統治者であり、月の女神『ケリドウェヌ』の薬屋だ。

 薬屋の中に間借りしている美容室の店主が正直言ってあまり会いたくないが仕方ない。


「どうも、お久しぶりです『パール』さん」


 今日は暇なのかハサミを手入れしていたマスターと似たり寄ったりのモンスターがこちらを振り向く。


「あら! 本当に久しぶりじゃな〜い! 元気してたかしらぁ、ゲイルちゃん?」


「お陰様で、パールさんこそお元気そうでなによりぃ!?」


 物凄くいい人なのだがどうしても肉圧で迫られるから苦手だ……。


「ゲイルをいじめるなぁ!」


 身体が何倍もある相手に拳を振るう姿は何とも可愛らしいが、多分逆に痛くなるぞ。


「う〜いたいぃ」


「あらまぁ、ゲイルちゃんどこで(さら)って来たの!? 知り合いの傭兵呼んだ方が良いかしら?」


「マスターなら今へこんでるんで追い返されると思います」


「あらん、どうして?」


 結構ショック受けてたから今頃花の手入れでもしてるだろう。


 俺はゴリア……パールさんにユピの髪を切って貰い、オマケでリボンを貰った。髪を両サイドに綺麗に束ねて貰ったユピは、御機嫌な顔でパールに結び方を教えて貰っていた。

 帰り際、ケリドウェヌさんにも挨拶しようとしたが奥で研究中(こもってる)らしい。


 次に服だが、パールさんが選んでくれると付いてきた。お店はいいのだろうか?


 

「どうかしら? 予算とそろそろ寒さが厳しくなってくることを考慮して、こんな感じになったわよん」


「ど、どうかなゲイル?」


 おぉ、意外と普通だ! パールさんのことだから、もっととんでもない姿にされると覚悟してたが良い意味で拍子抜けだ。値段も銀貨15枚で手頃だ!


「うん、良いと思うぞユピ」


「ほんと!? えへへ〜」


「イレアノスの『オウケアニス』って街にある学校で採用されてる制服をイメージしてみたわよん。スカートは二重構造でこう見えて厚く作られてるわ。あと、生足は女の武器よ」


 まだ年端もいかない子に何言ってんだ。


 店を出るとパールさんは食事に誘ってくれたが、ユピの当面の生活費を帰って相談しないといけない。俺はまた今度お願いしますと丁重にお断りした。


ユピ(11?)

種族・??

所属ギルド・なし

ギルド朔月の杯により身柄を保護


身長145cm

体重32kg


好きな食べ物

わたあめ


嫌いな食べ物

苦い野菜


特技

パールに教えて貰った髪の結い方を独自アレンジ


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