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空が愛したのはインドラジット  作者: 殿様
第一章
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依頼〜2柱〜


「ゲイル〜、みてみて! へんな木〜!」


「それに触っちゃ駄目だよ、ユピ? その木触ると(かゆ)くなって痛いんだ」


 少年は木を指差しながら注告した。少年は自身がそれを触ったため、身をもって知っていた。


「えっ!? あぶなかった〜。えへへ、ゲイルはものしりだね!」


 少女は思わず手を引っ込める。少女は少年と少年の姉以外の友達が出来たことはない。そんな少女を少年は妹のように可愛がっていた。

 少年達が住んでいる街は治安が悪い。少年の姉はいつも夜は外を歩いてはいけないと言い聞かせていた。


 俺と姉さんは廃墟となった元病院に隠れ住んでいる。2ヶ月前、ここに突然ユピがやって来た。泥だらけになっていて、何があったかはあえて聞かなかった。

 よく晴れたある日、俺はユピと廃墟内にある中庭で遊んでいた。夢中になっていると数人の大人達に見つかった。

 少年の後ろで少女が捕まり、大人達の中へ引きずり込まれる。


「ゲイル! たすけて!!」


「くそっ! ユピを離せ!」


 ユピ! ユピ!! 今助ける!!


 蹴飛ばされた。


 俺はもう一度突撃する!


 今度は殴り飛ばされた。


 俺は(あばら)の骨が折れた身体を必死に動かそうとした。

 ユピはどんどん遠去かり、見えなくなっていく。


 嫌だ! ユピを連れて行かないでくれ! 代わりに俺を……その瞬間、少年は後ろから衝撃を感じ、意識は闇に溶けた。













「あぁぁぁぁぁぁあ!! ……はぁはぁ、うっ、くそ!!」


 俺は飛び起きた。後頭部を思わず触り、怪我が無いことを確かめる。


 痛みも無ければコブの1つも無い。


 ぶつけようのない自身への怒りだけがまだ拳に残っている。まるで呪いだ。


「……呪いがある内はいい」


 鏡に映り込む俺自身に俺は言う。


 不毛でも何でも忘れてはいけない。背負っていかないといけない。肩が重く感じる。そこにユピは居るのだろうか。居てくれたら良いな。


 突然、扉をノックする音が聞こえた。


「ゲイル、ご飯出来たよ。速くおいで」


「分かった。すぐ行くよ」


 服を着替え、身支度を整える。今日も外は晴れ。天気は気分とは逆行するようにでもなっているのだろうか。



 ギルド朔月の杯(ケリドドロップ)の奔走が始まる。



「ふぅ、食った食った! エリアなかなか料理上達したじゃないか!」


「ありがとう、マスター。……嬉しい」


 俺は姉さんと一緒に食器を片付ける。毎日毎日、凄まじい食べっぷりだ。


「あー、2人とも? 片付け終わったらちょっと座ってくれ。大事な話がある」


 珍しい。姉さんだけならともかく俺まで呼ばれることはそうは無い。少し不思議に思いながらも手早く片付け、席に着いた。


「2人とも来たな。まずはコレを見ろ」


 マスターは白い宝石をテーブルの上に置いた。


 俺と姉さんは白い宝石に映し出された依頼を覗き込んだ。


〜ギルド朔月の月・緊急依頼〜


 日頃よりミッション、依頼を解決へお導き頂き誠にありがとうございます。

 さて、マスター・ボルドー様、貴殿のギルドは少ない戦力ながら優秀な活動実績をこなされていると存じ上げます。つきましては、別途記載の依頼を朔月の月へ要請致します。


追伸


 これはギルド統括管理局局長セルゲイ・ドラゴニアからの依頼である。



俺と姉さんはマスターの方へ一斉に向く。


「これがどういう意味か分かるか?」


 俺にはあまり分からない。それこそ書いてある通り少人数の弱小ギルドだ。わざわざギルド統括管理局局長なんて地位のお偉いさんが依頼してくるのはおかしい。


「もしかして、潜入のような依頼でしょうか?」


「さっすがエリア、正解! 依頼内容は簡単に言うとだ。」


 5つの世界の1つ「ゾトーバス」。

 機械を始めとした科学技術が発達したこの世界は5つの世界でも最高峰の頭脳が集結する。


 ゾトーバスは一つの広域大都市だけで構成されており、それ以外の土地は生き物の住めない場所となっている。そのため、他の世界からの入場にとても厳しい検査があることで有名だ。


 依頼目的は、ゾトーバスの研究施設34箇所の調査及び、仮に人体実験等非人道的実験の確証が得られた場合の破壊工作。

 条件はアースのギルドが関与している事の隠匿(いんとく)。全メンバーでの出動。


「なるほど、確かにこの条件だと少人数のギルドであることが最低条件ですね」


「いざとなったら破壊工作が出来るだけの個人の実力が必要となるとここ以外ないよね」


「まぁ不審な点は他にもあるが……報酬のとこ見てみ?」


金貨6枚!?

大銀貨2枚で一般的な1月辺りの収入だ。それが60枚分……。


「これって!?」


「あまりに依頼内容と報酬が釣り合っていない。間違いなく何かがある。これをウチに回したセルゲイの野郎の思惑も分からん。だ、が! 無視する訳にもいかねぇ」


 マスターが後ろ向きになり、ゴソゴソと何かを取り出す。黒光りする鉄の塊・・・『銃』だ。


「一応こいつをゲイルに渡しておく。最悪の状況になっちまった時だけ使え」


 銃まで必要になるのか分からない。

 俺は軽く頷き、それを受け取った。


「決行は1週間後! それまで準備を怠らず、身体を休めとけ!」


「「はい!」」


 銃か・・・手に収まるサイズだが、こんなのでも鉛の弾を火薬の爆破で撃ち出し、簡単に致命傷を与えることが出来る機械。

 戦争が勃発していた時代にはこれよりも遥かに高性能な物が当たり前に使われたという。


 世界によってはかなり規制がかかっており、無闇に持ち歩く事は出来ない。


 ちょっと待てよ? これってもしかしなくてももしかするよな?


 咄嗟にマスターを見たが完全に無視だ。


 やられた……。


 どうにかして持ち込む方法を考えないと。









 依頼の話があった2日後、自室で1人考え込む。


 駄目だ。全然良い案が浮かばない。姉さんに聞いてみるか?

 いや、姉さんは姉さんで準備をしているはず。


 こうなれば仕方ない。


「マスター、ちょっと良いですか?」


 俺はマスターを訪ねた。

 そもそもマスターはどうするつもりだったのか。聞いておかねばならない。俺に押し付けたのだから!


「おいおい、ゲイル。俺様は最悪の状況になったら使えって言っただけだぞ? 別にゾトーバスに持って行けとは言ってねぇ。てか、銃の弾倉は見たのか?」


 は、はぁ!?あの状況で出されたら持っていけってことだと思うだろう!?


「弾倉? ……あっ!」


 鉛の弾が入っておらず、代わりに緑色の宝石が手の平に転がった。


神石(マジクス)!?」


「そうだ、言ってる意味分かっただろう?」


 神々の加護を受けた宝石、神石(マジクス)

 加護を込めた神の力の一部を借り、奇跡を起こすものだ。魔法が使えない者にとっては喉から手が出るほど欲しい逸品。


 ある意味銃よりもこちらの方が危ないが神石(マジクス)には制限がある。

 人間、亜人、怪物(モンスター)等を直接的に傷付ける事が出来ないというものだ。

 神そのものであれば神罰として焼き払うことも出来ようが俺達にその権利は無い。


 神石(マジクス)は高価な物だ。

 宝石自体の値段に加え、上位の神であればある程加護の価値も上がる。


「……何処で手に入れたんですか、コレ?」


「買ったわけじゃないから安心しろ! 出所も言わないがな!」


「そうですか……あえて何も聞きません。ありがとうございます」


 モヤモヤは残るが大仕事の前に準備出来るものとしては最高だ。神石(マジクス)なら堂々と持ち込める。


「ちなみにどんな神の加護が込められているんですか?」


「知らん!!」


えぇぇ……


「適当に他人(ひと)の迷惑にならないように試してこい!」




 ケリドの東門から出て南に進む。左手に見えた街道が見えなくなると遮る物の無い大平原『女神が駆けた地』が見えてくる。


 神石(マジクス)には様々な種類の加護が込められているが、大きく分けて4つ。

 火で燃やしたり、風を吹かせたりする『発生』。

 無機物を動かしたり、土を変形させたりする『操作』。

 傷を治したり、身体を強化したりする『影響』。

 神石(マジクス)神石(マジクス)で効果を及ぼす『共鳴』。


 神石(マジクス)の発動は簡単だ。

 石に直接触れて神力(しんりょく)というエネルギーの溜まり具合を確認し、必要最低限以上の神力を消費する。神力は時間経過と共に溜まっていき、神石(マジクス)によってその上限は異なる。目標が必要な神石(マジクス)はそれをしっかりと認識する事が求められる。


「神力は……十分だ。何が起こるかは分からないが目標は決めておこう。適当なものは……コレで良いだろう」


 俺は足下に落ちていた木の枝を拾い、地面に突き刺した。刺した場所から木の枝が見える程度に距離を置き、神石(マジクス)を握り込む。全く加工のされていない宝石は手に容赦なく食い込む。


 集中・・・


 俺は発動を意識した!



 ……?

 何も、起きない?


 もちろん神力は上限まで溜まっている。目標は今も視界の中でそびえ立っている。


「もしかして影響系の神石(マジクス)か?」


 俺は軽く走ってみる。


 いつも通りだ。


 神石(マジクス)を握った際に手の平に付いた傷に意識を集中する。


 癒える様子は無い。


 共鳴系であれば今は試せない。


 とりあえず思い付く限りの事を試そう。






半日後






「うーん、やはり共鳴系か?」


 日も落ちてきた。今日のところは帰ってマスターに相談しよう。


 ギルドへの帰り道、秋の風が火照った頬を冷やす。


 あと5日・・・今までのマスターや姉さんの手伝いとは違う。

 今回の仕事が上手くいけば、俺は大星になれるだろうか?









「おう! 帰ったかゲイル! どうだったよ?」


「いえ、何の神の加護か全く分かりませんでした。共鳴系かもしれないのでマスターの神石(マジクス)を貸して頂けませんか?」


 広間の中央、長テーブルでマスターと姉さんは既に夕食を食べ始めていた。


 俺はマスターから黒い神石(マジクス)を受け取り、持っている緑色の宝石を近づけた。


 幾ら近づけても当ててみてもウンともスンとも言わない。この神石(マジクス)が共鳴系であれば、通常これでキィンという澄み渡った音が鳴り出す。


「こりゃ違うな。俺様の神石(マジクス)で反応しないわけがねぇ」


 マスターの神石(マジクス)は上位の神の加護を受けている。仮に最上位の神のものでも必ず反応を示す。

 共鳴系であるという可能性は静かに消えた。


「明日、また色々試して来ます」


「私も手伝うよ、ゲイル?」


「っ!! ありがとう姉さん! お願いするよ!」


 姉さんが手伝ってくれるのは本当にありがたい。明日は影響系の線を重点的に調べてみよう。





 次の日、俺は姉さんと共にまた大平原へと来た。







ボルドー・ナグスドルト(28)

種族・人間

所属ギルド『朔月の杯』


身長191cm

体重113kg


好きな食べ物

魚全般


嫌いな食べ物

リンゴ

酸っぱいもの


趣味

園芸





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