第1話
ふと現実恋愛というジャンルに手を出してみたくなり、執筆し始めた小説です。
本日、12月25日は大学推薦入試の合格発表日だ。
クリスマスに合格発表とはいかがなものかと思うが、俺は指定校推薦なので合格したも同然。
合否発表を見る前から既に気持ちは最高潮だ。
「それにしても、寒い! なんで今日に限って雪が降るんだよ。ホワイトクリスマスなんてものを喜ぶのはリア充だけだというのに……はあ、俺も彼女欲しいなぁ」
言うと、真っ白な吐息が口から漏れる。
彼女という存在は高校生になれば自然と形成されるものだと思っていたのだが、どうやらそれは誤りだったらしい。
というか高校3年間、彼女どころか友人すらまともに作れなかったのは何かのバグか?
もしそうなら早急に修正して欲しい。
だって、大学くらいは沢山友達を作りたいし。
まあ、そもそも前髪で瞳を隠したような不審者と友人になろうとするやつなんていないか。
分かるよ、その気持ち。
俺だってそんなやつと友達になりたくないもん。
不気味だし。
近寄り難いし。
変態極めてそうだし。
いや最後のはド偏見だな。
うん。
「身バレを防ぐためにはこうするしかなかったんだけど、やっぱり寂しいな」
あの時落ち着いて対処さえできていれば、なんて思っても後の祭り、か。
まあ、大学はここから結構離れているし顔を隠す必要性は無さそうだから良かったけど。
「……って、久しぶりに来たな。ワニ池」
ふと、既視感を覚えて左を見る。
底の見えない濁った水。
水面に浮かぶ謎の草。
人の寄り付かない苔だらけの遊歩道。
寄り付かないというか、金網で覆われていて寄り付けないんだけどね。
この池の名前は、ワニ池。
なんでも、本当にワニがいるんだとか。
まあ、俺は実際に見たことしか信じないからワニはいないものと認識して過ごしてきたわけだが。
「そういえばここって、自殺スポットとして有名なんだっけ? 死体処理はワニにお任せってか」
ははは、笑えねえ。
それにしても、冬場の池ってなんだか不気味なんだよな。
幽霊とか居そうで怖いし……ほら、なんだっけ、水面に浮かぶ人影が云々かんぬん。
そう、あんな感じだよ。
あの黒い服を身に纏った……って、は?
「嘘、だろ……おい。あれ、人間……だよな」
言い終わった時にはもう、体は動いていた。
ガシャガシャと音を立てながら金網を登り、苔だらけの遊歩道に飛び降りる。
経年劣化からか、手入れしていないからかは不明だが歩道は全体的に朽ちていた。
今にも崩壊してしまいそうだ。
これは、急がないと色々とヤバそうな気がする。
池の中央、すなわち遊歩道に架けられた橋もどきの最奥部に佇む女性。
季節外れの黒っぽいレースを見に纏った姿は、あまりにも異様で、危険な匂いがする。
あれは恐らく、自殺志願者。
そうでもなければ、こんな立ち入り禁止区域に侵入しようなど思うまい。
「頼むからまだ飛び込まないでくれ……!」
走りにくいブーツを脱ぎ捨て、靴下のまま地面を駆ける。
つ、冷てえ!
あの人にたどり着く前に俺が凍死しそうだ。
こんなことになるんだったら、動きやすい靴で来るべきだった。
まあ、今更そんなことを言ってもしようがない。
「その自殺……ちょっとまったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
叫びながら、どんどん距離を詰めていく。
すると、後7メートルというところで女性はこちらに気付いたのか、その場でクルッと振り返ると――
――力のない声で叫んだ。
「こ、来ないでくださいッ! それ以上こっちに来たら飛び込みます……!」
「――え、えええええぇぇ! そんな急に言われても止まれるかあぁぁ!」
ふんぬ! と足にブレーキを掛けるも、俺の下半身はスィーっとお構いなしに滑っていく。
地面が凍り付いて、スケートのリンクみたいになっているのだ。
ちょちょちょ……止まらないんだけど!
摩擦さん少しは働いて!?
「そこの君ッ! 危ないから避けてえぇ!」
「え、え!? こっち来ないでって……」
「いやいやいや、体が言うことを聞かないんだッ! というか、ぶつかる……あっ」
バキッ……
手すりが腐って、るだと!?
――あ、これ死んだわ。
どぼん。
ぶくぶくぶく……
どうしよう、俺、泳げないんだった。
冷たい水が体を包んでいく。
外部から内部へと、冷水が侵蝕を始めていく。
こちらに近づく気配は、ワニ?
いや、今は冬眠してるはずだからそれはない、か。
息が、苦しい。
俺、死ぬのか。
まあ、これも運命。
……ああ、我が人生に悔いなし。
いや、一つだけ悔いはある。
「ばのぼ、ぶぐびだばっばべ……」
と、その時、だった。
水面が揺れると同時に一本の細い腕が水中に侵入し、俺の腕を掴んだ。
次の瞬間、上へと強引に引っ張られる。
「――ぷはっ……はあはあ、はあ」
「早く上がってください!」
ぐぬぬ、と水分を含んだ服に手こずりながら、なんとか橋の上に上がる。
橋と水面が近くてよかった。
「はあ、はあ……死ぬかと、思った」
「どうして……どうしてあんな真似をしたのですか……!」
女性の頬を一筋の涙が伝う。
「そんなの、決まってる、だろ。あんたが、自殺、しようとしたからだ」
「それでどうして貴方が自殺しているのですか……!」
「ぶふっ」
「笑わないでください!」
言いながら、俺を睨む。
あー…怒っちゃった。
まあ、何はともあれ、この人が落ちなくてよかった。
もし仮に一緒に落ちてたら共倒れだし、この人だけ落ちても助ける手立てが俺にはなかったからなあ。
まさに不幸中の幸いだ。
「ふー……あんたが面白いこと言うからだろう? とりあえず、一回落ち着いたらどう?」
「わ、私は落ち着いて……」
言いながら自分の状態に気付いたのか、顔を羞恥に染め上げながら俯いてしまった。
そして暫く経った後、落ち着きを取り戻したのか、細々とした声で言葉を紡ぐ。
「お見苦しいところを、お見せしました」
「いや別に見苦しくはなかったけれど……まあ、それはいいとして。寒いから一旦家に帰らない? 俺、今にも凍死しそうなんだよね」
「え……え?」
「ほら、立った立った。俺の家、ここから近いから一先ずそこまで行こう」
そう捲し立てると、混乱気味な女性の腕を掴む。
ここで会話をするのは悪手だ。
ふとした拍子に自殺の衝動が襲ってこないとも限らないし、先の通り、万が一にでも飛び込まれたら手の施しようが無くなる。
それだけは絶対に防がなければいけない。
会話云々は家でも出来るからな。
「あ、あの……手を離してくれませんか?」
「ははは、それは無理なお願いだ。今この温もりを手放したら凍死しかねない」
「それなら仕方がない、ですね……」
消え入るような声で返事をする女性を尻目に、俺は掴んだ腕を離すまいと少しだけ力を入れるのだった。
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