駄菓子屋会議
とりあえず近くの定食屋さんで二人お昼を済ませ、隣町へ向かう。
「そういえば、牧野さんはこのあたりの出身なんですか?」
「いいえ、私は京都の出身なんです。でも、親の仕事の関係で中学校の時にこっちに越してきました。」
なるほど、そりゃ知り合いも少ないわけだ。「こっちで直接ここの事務職として就職したんで、本社とか面接以来行ってなかったくらいですよー」と、前回の出張時にテンションが上がっていた理由を話した。「まあ、たまにはいいと思いますよ。息抜きも大事です」というと
「ですよねー。仕事は嫌じゃないですけれど、たまにはそういうのも大事ですよね」
30連休ほしいですねー、みたいなアホなトークに変わってくる頃、駄菓子屋の最寄の停留所に着いた。
「わあ。こういう駄菓子屋さんって、懐かしいですね」
「ですよね。自分も初めて来たときはびっくりしました。さながら、タイムスリップですよ」
ちょっとまだ早いか。こんにちわー、とお店に声をかけ、遠くから「まっててねー」と返ってくる。「待ってればいいみたいですよ」
そう牧野さんに伝える。
「以前ここの駄菓子屋さんに来たって言ってましたけど、お知り合いなんですか?」
「知り合いってほどでもないですがね。町の話をしてもらったときに、本件について説明したら乗ってくれたんです」
そうなんですね!といって、牧野さんは
「こんにちわー!」
と挨拶を投げた。すると、すごい勢いでどたどたと駄菓子屋が出てきた。
「いらっしゃ…い、ませ?」
お客さんと勘違いしたらしい。ええ、俺が最初来た時そんなだっけ?
「あはは、そうだったの!いらっしゃい。今日はよろしくお願いしますね」
駄菓子屋が牧野さんにあいさつしなんかこっちをにらんで奥に消えていった。なんだよ。
「豪快な人ですね。髪も金髪だし」
インパクトありますよね~などと話していると
「お疲れ様です。って、まだ誰も来てないのか。と思ったらこれはこれは、西野さん。こんにちわ。」
カフェちゃんが入ってきた。一瞬だれかわからなかった。Tシャツにスキニーパンツのラフな格好で登場した。なるほど、営業中のカフェの店員さんだと思えば納得がいく。
「今日は見学ですか?」と聞くので
「そうなんです。取材の一環で。今日は仕事ですのでどうぞお気になさらずに」と伝える。
「写真とか取りますか?もっと気合い入れた格好をして来ればよかったですね…」
まあ、自然体でいいと思いますよ。牧野さんも挨拶を済ませ、なお駄菓子屋の店頭で待つ。
「遅れてすみません!」そういって男の人たちが3人入ってきた。一人は謝りながら入ってきた十台かと見紛う青年。あとは優しそうなおじいさんと、気前のよさそうなお兄ちゃん。
「おや、あんたたち、お客さんかい?駄菓子屋の奴は何やってんだ」
おーい!アベックのお客さんきてんぞーと奥に向かって叫ぶ。「ああ、違います!」私達こういうものです、と名刺をだしてその兄ちゃんに自己紹介した。
「出版社?」
「杉浦堂出版という出版社で、今回は取材の一環でこちらにお邪魔させていただいているということです」
「おっ、そうなのか!取材ねえ…写真とか撮るか?俺のこと、かっこよく撮ってくれよ!」
気のよさそうな兄ちゃんは、本当に気の良い兄ちゃんだった。後、まさかとは思うがカメラが珍しいのか?この町。
「この町の取材か?何もないぞ、この町は」
そういってきたのは、おじいさんだった。
「いいんです、そういうところでどんな取り組みがあるのか、それをいろいろな人に知ってもらいたいと思ってここに来たんですから」
おじいさんはニコニコと
「まあ、何もないがゆっくりしていきなね」
といって、近くのパイプ椅子に腰かけた。あとは…
「あ、よろしくお願いします」
そう青年にあいさつをした。
「不束者ですが、よろしくお願いします!!」お嫁に来たのかな?牧野さんは「かわいい」と俺の後ろでずっとつぶやいていた。怖いよ。
間もなく、駄菓子屋が戻ってきた。
会議は駄菓子屋店内でとはずいぶん砕けているなとは思ったが、案の定井戸端会議の延長だ。画としてはありなので、牧野さんにたまに写真を撮ってもらった。
「あの、いちいちピースしなくていいですよ。カフェさん」
議題が夏祭りのことに代わり、ここでやっと会議をしているっぽい雰囲気になってきた。
「今年は花火とかどうしますか」
駄菓子屋がかしこまって言う。
「ちなみに、私はやりたいです」
と付け加えた。
「今年は少し規模が小さくなるかもしれないが、駄菓子屋が言うんだからやろうかね。」
と豆腐屋のおじいさん。
「駄菓子屋商工会長に異議なーし」
と居酒屋のお兄ちゃん。
「花火の写真のはがきを作ると、結構売れるんですよね」
と、郵便屋の青年。
「今年も盛大にやりましょ!花火だけは欠かせないですよね!」
とカフェちゃん。
なるほど、夏まではまだあるが、納涼花火大会も兼ねているのか。商工会や、商店街が作るお祭りとしては結構本格的だ。駄菓子屋は
「じゃあ去年頼んだ花火資産のところに今年も連絡しますね。あとは…」
あとは、と言いかけて、時計をチラ見した。
「じゃー、今日はいったんこれで終わりにしましょう。はーいおわりー」
えっ、もう終わるのか。さっき一瞬みんな真剣だったじゃん。もう終わり?
「今日はもう終わりですか?」
みんな仕事中に抜けてやっているから、ここで会議が長くなりそうだったら夜やるのよ。今日は居酒屋さんところがいいわね。と兄ちゃんに促す。
「よーし、じゃあ今日は商工会の皆々様ご予約ですね~」
このお兄ちゃん、料理得意そう。
「あんたたちも来る?」
駄菓子屋が言うので牧野さんにどうするか聞こうとする間もなく
「お供します!」
とノリノリで答えていた。はい、そういうことで、またお邪魔してもいいですか。
「いいわよ!ちゃんと楽しい内容にしてよね!」
と言って、ふふんと鼻を鳴らした。