若者の飲み会
佐山は仕事終わりにそのまま居酒屋に向かうとのことで、我々はバスを使って市街まで向かった。
「バスも風情があっていいですね」
「都会にもバスくらいあるでしょ」
「まあ、そうなんですけどね。切符とか、ICカードでぴってやるだけなんで、こっちで初めて乗った時は乗り方わかりませんでした。」そういうと駄菓子屋は
「かーっ。厭味ったらしいね!どうせこちとら田舎だよ!」
と謎の食いつきだった。これが都会へのコンプレックスなのか…
駅前の居酒屋街に着き、佐川と合流した。両脇の女性陣を見て、
「俺はお前の友達でよかったよ」
と耳打ちされた。俺の株、薄っぺらいところで急上昇。前回この人たちを見た居酒屋、もとい俺と佐山でこちらに来た時初めて利用したところに行くことにした。
「それじゃ―カンパーイ」
カーンとジョッキを鳴らして飲み会が始まった。
「いやー、仕事終わりのビールはおいしいねえ!」
駄菓子屋がそういうので
「駄菓子屋さんって、定休日とかあるんですか?」ときくと
「ないよー!不定休」
と勢いよく回答があった。
「前お休みしたのはもう1年位前よね。ようこちゃんが風邪をひいて」
なるほど、お店を閉めないといけない時だけ休むスタイルか。現代にはそぐわないな。大変っちゃ、大変か。
「でもその日は、たしか居酒屋さんが明けてくれたから営業はしてたわよ」
ご近所付き合い、すげえ。
「あのー」
そういうのは佐山だ。
「自己紹介しません?」
改めて、佐山が自己紹介をする。
「医者なんですか!?」
と恐ろしく食い気味なのは『カフェちゃん』こと『かなちゃん』だ。ちなみに佐山は医者ではない。
「リハビリ士とかそんな感じのですかね」
「ぎゃー!すごい!かっこいいですね!」
興奮気味のカフェちゃんをよそに「いつもこんな感じなの?」と駄菓子屋に聞くと
「別に男好きってわけではないんだけど、近い世代の人とこうやって飲みに来たりすることもめったにないから楽しくてしょうがないのよ」
と答える。
「へえー。何歳なんですか?」と、特に意識もしないで質問してしまい、次の瞬間にはわき腹にパンチを食らっていた。失礼しました。
ちなみに二人とも28歳らしい。なるほど、近いな。
お酒も進んできたところで、俺の仕事の話になった。
「自分の今の仕事は、地方に根付いた文化なんかを記事にして、最終的にはそれが本になるんだよ。そういう仕事。」
佐山は
「前までは本社勤めだったのにな。大変だな、記者も」
というのでやりたくて進んでこっち来たんだよと付けた。
カフェちゃんは
「うちのことも取材してくれますか?」
と嬉しそうに言ってくるので
「もちろん。しっかりとお勧めできるように記事にするよ。ほかにも、あの町のいいところや、仲のいいお店なんかも教えてね。あと、夏のお祭りのことをメーンに据えて書こうと思ってるから、何か手伝えることがあれば言ってね。」
そんなやり取りをぼーっと見ていた駄菓子屋がごにょっとなんか小さい声で言った。え、なんで小さい声なの。
「うちも記事にしなさいよ!!」
今度は大きい声で言った。なんなんだ。
「わかったよ!記事にするから!第一町人だから!大々的にやってやるから!」
すると
「わーい」
と一言言って、寝た。この居酒屋、人が寝がち。な、佐山。って、お前も寝てるんかい。
「じゃあ今日はお開きにしましょうか」そう生き残りのカフェちゃんに伝えると
「今日は楽しかったです~。ようこちゃんも久々に年の近い人たちと遊べて楽しかったんでしょうね。普段外に飲みに出てで寝ちゃうこと、あまりないですから」
焼酎のお湯割りを飲みながら、寝顔に微笑んでいる。この二人は本当に仲がいいんだなあ。
「じゃあ、お会計にしましょう。はらってきますね」
「後で割ってくださいね~」
律儀な子だな。まあここは「俺(が勝手に使う佐山の財布)が出しておきますよ」と伝え、ついでにタクシーも手配した。
お店の入り口で女性陣を見送って、佐山をひっぱたいて起こして今日は帰った。