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ルポライターの仕事  作者: みやもり
6/25

記者の魂とイケメン?

 「西野さんは野心があっていいですなあ」

 決起集会の幹事を請け負った髭で眼鏡で小太りの男性。過去には政治部で海外情勢などを担当していた。戦場カメラマンとはいかないが、そんな感じの人だ。名前は熊井。見た目のそのまんまかよ。

「熊井さんだってむしろ相当な野心をもってやられていたじゃないですか」

 がははとビールを飲みながら

「僕はね、もう疲れましたよ。そんな時にこの話を聞いて、すこしゆっくりした仕事をして気を休めようかなと。もちろん、手は抜きませんよ。本件で僕が取り扱うのは戦争ですし。得意分野をそのまま落とし込む形つもりですよ」

「そりゃ熊井さん、記事の中にコラム欄とか作って海外の話ばかりしていそうですね」

 ケラケラ笑いながら割って入ってきたのはほっそりとしたスーツの似合う男性。

「あの人、かっこいいですね、塩顔ですね、」

 牧野さん、酔うと結構しゃべるんですね。あいつはやめたほうがいいですよと言いながら

「久しぶりだな、四方」よもかた、と呼ばれた珍しい苗字のそいつは「西野さんはやっぱりすげえっすね~。プレゼンさせたら右に出る者はいないっすよ」ほめているんだかけなしているんだかわからない、飄々とした表情のまま「自分は何も思い浮かんでないっす。ちゃんと考えないと。」急に我に返った。なんなんだ。

「お前はこういう仕事っていう柄じゃないよな。もっとお堅い感じのな。」そういうと

「腐るつもりはないですよ~。経済的な視点から地方の衰勢を追いかけるような企画がいいんですが…」

「それめっちゃいいじゃん!なんで発表しなかったんだ」

「皆さんもっと地域に寄り添ったというか、なんと言うか色で言ったら暖色系の内容ばかりだったので…日和ました。」

 ガハハと熊井さんが笑う。「馬鹿だな、会長は誰が何言ってもニコニコしてただろ。好きなことして、この発行本を暖色も寒色も混ぜ込んでカラフルにしてくれってことだよ。多分な」

「そうだといいんですがねぇ~」

 煮え切らない四方だったが「まあ企画の筋が通っているなら概要送ってくれよ。俺も目を通してやるから」と伝えると。

「持つべきものはエリートな先輩方っすね~、あざ~す」と言って別の輪に戻っていった。

「よ、よもかた…さん…かっこいいですね…」

 ま、牧野さん…?声かけりゃよかったのに…というと

「いえ、そういうのではありません」

 と急に早口で真っ向否定された。勝手にしてくれ。この子、本当読めないなあ…

 自分たちより早く終電が来る人たちもいたので、そこでお開きとなった。

「同じ船に乗ったからには、協力していこうな!」

 遠くで熊井さんの大声が響く。なんだよ部長。誰も腐ってないじゃん。みんな記者魂があるんだなあ。


 新幹線内でほろ酔いの牧野さんは「なんで行く時より荷物が多くなるんですかね!旅行って!」と上機嫌だった。あちゃー。言った。ついに言っちゃったよ。旅行って。旅行じゃないよ?仕事だよ?頼むよ。

 車内販売で買った缶ビールを二人で飲みながら、俺は真っ暗な車窓を眺めた。俺の荷物にも、お土産の紙袋が増えていた。


 次の週末、俺は駄菓子屋に向かっていた。適当にお土産を見繕ってきたのだ。いかにもな東京土産を。駄菓子屋を入り口から覗き「こんちわー」と声をかける。

 遠くから「はーいよーいらっしゃー」と声がする。が、全然出てこない。

「お菓子持っていっちゃいますよー」

 というと「はーいよー」とよくわからない反応だけが返ってくるのであきらめて少し待った。

 5分後

「お、お兄さんじゃん。いらっさい」

「お菓子盗まれたらどうするんですか。」と尋ねると

「声で分かってたから。余裕余裕」そういうことじゃないんだけど…

「最近東京に出張に行ってたので、お土産です。」いかにもな東京を土産を差し出すと

「お、気が利くねえ!ありがとう!いかにもな東京土産だね!」

 と笑われる。もらっといてそういうこと言わないでほしい。

 この1か月、この駄菓子屋には通うまで行かずとも、たまに顔を出したし自分の素性も話している。面白そーとか言って乗り気だったのもあって、時折にこうやって話に来るのだ。

「そういえば今日は、かなちゃんが来るからあんたも待ってなよ。」

 そうですかー。って、誰だよかなちゃん。

「あー、そうか。あれだよあれ。カフェちゃん」

 はえー、カフェちゃんか。「かわいいけど焼酎しか飲まないというあのカフェちゃん?」と聞けば大爆笑。それそれとヒーヒー笑いながら

「挨拶だけでもしていきなよ。若い人が町には少ないからねえ」


 しばらく駄菓子屋とこの町についての話を聞きながら、そういえばこの子は何て名前なんだろう。というか年は俺より上なのか?などと適当に考えながらすごした。しかし、若いのに本当にここにお店を構えて何十年もこの町を見ているおばあちゃんみたいに昔ばなしから何からポンポン出てくる。さらに不思議なことに、その話をただ聞いているだけなのに、飽きないのだ。話の内容に魅力があるのか、話し方に魅力があるのか、はたまたこの女性に魅力があるのか。最後のは我ながらどうだろう。

 そして5時も過ぎようというころ向こうから人がやってきた。

「ようこちゃん!いる!?いるの!?イケメンは!どこ!?」

 大げさすぎなレベルでフリフリの格好で登場したお嬢様みたいな人が入ってきた。場に合わなさすぎる。異世界もの?

「あ、かなちゃんおつかれー。すげえカッコしてんな。」

 ゲラゲラ笑いながら

「ほら、ここに殿方~」

 と言って、駄菓子屋はこちらを指さした。

「こんにちわ!イケメンですね!私は隣の通りでカフェをやってます!はい!」

 食い気味だなあ。大丈夫かなこの子…

「は、はじめまして…」名を名乗る前に

「ようこちゃんなんでこんなイケメンと知り合いなの!」

 俺、そんなにイケメンか?

「この人、そんなにイケメンか?」

 くそ。駄菓子屋に思考盗聴された。

「お、落ち着いてください。俺の名前は西野です。後、別にイケメンじゃないと思います。普通です、普通」というと駄菓子屋が

「自分のこと普通っていうやつはたいていちょっとイケメン寄りだと思っている」

 グサッときつつ「そ、そんなことはないです…だいたい自己紹介で不細工ですよ!不細工!っていう人見たことないでしょう!」そう返すと

「まあ、言われてみりゃそうだな」

 はははと笑いながら

「それじゃあ飲みに行きますか!」

 というので、今日はお開きかな。「あ、じゃあ僕は挨拶も済んだので今日は帰りまー…」「一緒に行きましょう?ね?」

 かぶせられた。カフェちゃんことかなちゃん、おそるべし。

「まあまあ、美人二人おいて帰るなんて~」

 悪い気はしないが、今日はちょっと帰りたかったんだけどなー…

「ほ、他に誰か呼びますか?」そう聞くと

「え、あんたもうこっちにほかの知り合いいるの?」

 と聞くので「地元の友人が一人こっちにいるんです」というや否や

「男ですか?」

 カフェさん、早い。反応。「え、ええまあ、そうです。隣の市のあの病院で勤務しています」

「「呼んで!!」」

 悪い佐山。お前も友達、欲しがってたよな?しかも女の子だぞ。喜べ。

 結果として、電話に出た佐山はすごく喜んだ。そりゃよかったな。

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