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ルポライターの仕事  作者: みやもり
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東京本社と決起集会

 駄菓子屋を出て、町の中心を抜けていく。本当に分かりやすい高台があって、まっずぐ頂上へ向けて階段が伸びていた。

「風情あるな」

 そういいながら一段ずつ登っていく。登って…ちょっと長くない?結構高くない?

 頂上の手前に鳥居が一つ。それをくぐり、頂上に着くと、そこそこ広い範囲が神社の敷地となっているのがわかる。神社をぐるっと見回しながら、裏手のほうに回るとこれまた山も海も町も望めるスーパービュースポットだ。

「これはウケるだろうなあ」

こういう土地で育ってきた人間がどういう人々なのか、そういったことも記事に盛り込める。誰もかれもあの駄菓子屋みたいな感じでなければいいのだが。

 風が吹いた。突風だ。ふと風の行方を追うと、何か動物が茂みに入っていった。あっあれってハクビシン?まあいいや。下りよ。今日はもう帰ってゆっくりするか。今度、仕事の際は風土を調べながら町のお店巡りをしよう。


 そうして、4月が目まぐるしく…もなく過ぎていった。やはり、こういう土地は時間の進みがゆっくりだ。穏やかで、生き易い。この1か月でひとまずこの町の人文学を詰め込んだ。明日は本社で進捗会議が行われるので、一時東京に向かう。今回のキックオフに当たる会議で、各地方に飛ばされた社員は何を手土産にしてくるだろうか。ちなみに、今回は牧野さんが同行するようだ。なぜ。「しばらく東京に行っていなかったので…観光もかねて…」正直者だな。

 前乗りをしたので、東京に着き、当日は本社で待ち合わせとして、解散した。さてと。

「…もしもし、部長ですか?今日、こっちに帰ってきましたよ。飲みに行きましょう。はい、はい。わかりました。ではいつもの場所で」

 そういって電話を切り、時間つぶしに1か月ぶりの喧騒に消えることにした。

 その夜、自分を今の仕事に薦めてくれた張本人こと、総務部長と行きつけの居酒屋に来ていた。

「何か面白いことはありそうか?地方だと遊ぶ場所も多くないだろう」

 そういう部長に

「まあ、もともと自分も地方の出ですからね。そんなに苦労はしてないですよ。地元の友達もあっちに一人いますし。町の人とも話したりするので」

「もう地元の人と打ち解けているのか。感心だな。どうだ。いい記事はかけそうか」

 そう聞かれて、胸を張ってこたえるにはまだ至らないですねと加えつつ

「地方のお祭りと、お祭りを担う町の人にフォーカスした記事で行こうかと思います」

「ほう。そこまで固まってるのか。明日の会議のMVPはたぶん西野だな」

「ほかの担当はそこまでなんですか?」

「もちろん、社を上げての事業だから悪いようにはされていないんだが、地方に飛ばされたと嘆いて仕事にならないやつもいるし、記事にする事象に道筋がないから、何を書くかで頭を抱えているやつも少なくないと聞いたぞ」

「そういうもんなんですね~」

「まあまあ、そんな話は明日の会議だ。今日は飲もうじゃないか」

 改めて乾杯をして、夜は更けていく。


 翌日、朝食を摂りおえたのちに本社に出向いた。受付で「あら西野くん、久しぶりね。どうですか。地方部。え?お土産は?」とくだを巻いてきたのは同期の受付嬢だ。

「お土産なんてないよ!元気だねえ朝から」「朝から元気なのが一番大切な業務だからね」とキャッキャと久しぶりの談笑をしていると

「お、お、おはようございます」

 と後ろから牧野さんがやってきた。なんでこんなに緊張気味なんだこの子は。

「おはようございます。ゆっくり観光はできましたか?」と聞くと

「あああ、そういうの会社の中で言わないでくださいよ。さぼっていると思われちゃいます!」

 大丈夫大丈夫、そういう会社だからといいながら、受付にも紹介を済ませていざ会議室へむかう。

「あの子、かわいい子ね~。受付にしたら来客増えるんじゃないかしら」との評判だったらしい。


 本社出勤なので、念のためスーツできたが、半分は私服だ。まあ、ライターだしな。失礼ながら浮世離れしているような人種だ。今日は会長も出席されるというのに…

「はい、今日はお集まりいただきありがとうございます。4月からの新年度事業のキックオフ会議を始めます。起立」

 よろしくお願いします。と、今日の会議が執り行われた。堅苦しい内容は割愛させていただく。地方にある各12支店に配属されたライターや、同伴の支店社員など、各々現状の報告と方向性の確認を述べていく。やはり、その地方に由来する事柄や、衣食住各文化について掘り下げたものが多い。中には都市伝説や心霊なんかをまとめると言っているライターもいる。会長はどの意見もニコニコと聞いて面白い、いいね、とつぶやいていた。いいのか、これで。「では次に西野さん、お願いします」進行係に促されて、発表に移る。

「西野です。お願いします。私の今いる地方は、交通の便も発達しており、地方とはいえ、現代慣れした地域だと感じております。ただ、やはりその中でもその町や地域に根付いたものがその土地の祭りかと思います。今回、私はこの地域のお祭りや、それらに携わる人たちについて、記事にしたいと考えています。万人に読んでもらえる内容ですが、特にせわしなく日々を過ごす都会のサラリーマンに刺さるような記事を目指しております」その後その地域の人文学について学んだ内容やら風土に関してつらつらと語り、牧野さんに止められて終了した。会長は…ニコニコのままだ。あぶねえ。勢いがついてしまった。

 会議も終わりに向かい最後に会長からのありがたいお話の中では「皆に期待をしています」という旨のお言葉もいただき、キックオフにしてはなかなかの会議だったではないだろうか。政治部とかの会議っていつも喧嘩してるしなあ。

 地方から来たメンツが集まっているわけで、帰るのも一苦労だ。新幹線が使えた組はほとんど前乗りが多かったが、帰りの時間を考慮して明日支社へ戻るものも少なくない。そんな中で「今回のメンツで決起集会でも行かないか」という話がどこからか上がり、牧野さんも参加したそうだったので、終電までの時間、決起集会に参加することにした。


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