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ルポライターの仕事  作者: みやもり
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駄菓子屋

 翌日。二日酔いかなという頭を振って、今日も仕事…と、今日は土曜日だ。一応、休みだ。今日は何をしよう、というのは特に考えていない。とりあえず、外に出てみるか。




 この町は何もない。何もないというのは失礼かもしれない。しかし、海と山があり、車で20分も走らせれば市街に出るので、別に不便ということもない。適度に便利でなおかつ田舎なこの町は、静かでとても過ごしやすいのだ。今日は市のほうへは出ずに、歩いてこの町を探検でもしよう。仕事と思わずに。 


 外勤で仕事の日も休みの日も同じような過ごし方になる業務をするというのは、もしかしたら意外なストレスが潜んでいそうだ。そう、休みの日も仕事の日も変わらないのだ。休みの日を休みとして過ごす最適な方法は…昼間からお酒でもひっかける他ない。


 歩いて海沿いへ下る。海が見えてきた。海が見えてきた時のこの高揚感というのは、出身の海無し県の血だろう。海っていいなあ。海沿いを歩く。歩道があってよかった。そのまま歩いていると、海沿いに面する形で古い建物があった。お店のようだ。寄ってみるか。そこでビールでもあれば、まさに休みならではに一杯ひっかけよう。


「こんちわ」と入ってみると、おっと。これはアルコールの気配など微塵も感じない。10円から60円程度の菓子と、30円程度で代えるスーパーボール。カウンターの奥のガラス棚にはいつからあるんだというガンプラと、まさか、あれはファミコン!?タイムスリップもいいところだな…そんな風に所見してから、入ってしまったので仕事モードも脳裏の片隅に置いて、店を物色する。


「懐かしいなー。モロッコヨーグルだ。黄粉 棒もあるし、金券グミもある。懐かしすぎるだろ…」


 と、奥からがたがたと聞こえた。店主が出てくるようだ。「あーい、いらっしゃーい」声色は女性だ。おばあちゃん…ではなさそうだ。家族が店番でもしてるのだろうか。


「なんだい?」


 そういって顔を出したのは、うら若き乙女だった。乙女は言いすぎた。歳は自分よりいくらか下の女性。髪の毛は金髪。金髪!?


「あ、昨日の」


 そういうと


「昨日?なにかあったっけ?」


 と頭をかきながらカウンターに陣取る。


「なんでもいいけど、冷やかしなら帰ってねー。私は頭痛くて寝たいんだよ」


 とぶっきらぼうに投げる。営業努力が感じられない…


「昨日、市街の居酒屋にいましたよね?」


 なぜそこまで突っかかろうとしたのかは我ながら謎だった。ただ、その女性はとても綺麗だった。それのせいか。それのせいなのか。俺よ。


「昨日…?居酒屋には飲みに行ってたな…あー…思い出してきた。隣の席でつぶれた人介抱してたにーちゃんか。」


 思い出してくれたようだ。


「そうです。最近この町に引っ越してきて。今日は休みなんでぶらぶらしてたんです」


 素直に言うと


「まためずらしい、こんな田舎に新しい住人だってよ」


 はは、と笑ってその女性は


「仕事?それとも都会に疲れた?」


 と聞いてきた。「仕事です」と返すと


「何もないけどいい町だよ。なんて言ったって何もないからね」


 と決め台詞のように言って


「じゃあ何か買って行ってね」


 と付け足した。


「あのー、駄菓子屋にビールはないっすよねー…」


 そう聞くと、一瞬止まったその女性は裏へ引っ込んだ。暫くして「高いよ~」といいながら缶ビールを持ってきた。それ絶対自家用じゃん…念のため「いくらですか」と聞けば


「私と飲むならただでいいよ、あ、何かつまみに駄菓子は買ってね」


 と言われたので、すり身の駄菓子を100円買った。




「「かんぱーい」」


 何に対しての乾杯かはわからないが、乾杯をした。その他つまみは駄菓子を適宜補充。駄菓子の支払いは俺持ちのようだ。


 昼間から飲むお酒は禁断を感じて美味しいな。かーっと実際声に出して、「いただきます」と蒲焼きの駄菓子を食べた。


「蒲焼きのお菓子は合うよね~」


 と駄菓子屋が言う。「ビールと駄菓子って、禁断的ですね」というと「慣れた」と言われた。なんなんだ。駄菓子屋の女性も店から適当に駄菓子を摘まむ。「自由に食べられていいですね」というと「会計はお兄さんもちだよ」と言われた。謀られた。


「お兄さんは何の仕事をしているんだい?」


 駄菓子屋がそう聞いてくる。なんと言おうか。


「ただのサラリーマンですよ。東京から転勤になったんです」


 そう答えると「ぷーっ!負け組か?島流しか?」とくすくす笑いよる。こちとら望んできたというのに。


「駄菓子屋さんはこの町の地元の人なんですか?」


 そう聞くと


「そりゃあ、この駄菓子屋の跡取りだからね。生まれも育ちもこの町よ。」


 まあ、言われてみればそうだな。「そういえば、昨日居酒屋にいましたよね。市街の」というと


「あー昨日ね!昨日居酒屋にいた時は、この町の夏のお祭りについて、商工会でどんなお店をやるかを話し合う予定でいたのよ。まあお酒が入っちゃえばその話も進まないんだけれどね。」


 語尾に(笑)が付く程度に居酒屋にいた理由を話してくれた。町には遅くまでやっている大きな居酒屋はなく、たまに市街まで出るのだそうだ。


  祭りか。これは記事としては面白いものが書けるかもしれない。地域の祭りを記事として盛り上げることもできるかもしれない。はやる気持ちを抑えながら、祭りの詳細について聞いてみよう。


「あの」


 居酒屋の店主は「なんだい?まだビールのむかい?」ときくので、「いえ、今日はもういいです。ごちそうさまでした。」素性をまだ明かしていないし、今日あった人間に急にいろいろと聞かれても不審だろう。…まあ、ほぼ初対面の人間に自宅の駄菓子屋でビールを乾杯しているという変な絵面ではあるのだが。であればもう一つの疑問を聞いてみよう。


「あの~、一つ聞いてもいいですか?」


 そういうと、


「一つ300円ね~」


 冗談風にいうので、ひとまず無視してこの質問を投げかけてみた。


「なぜ昨日の居酒屋では、職業名で呼び合っていたんですか?」


 少しの沈黙。そして


「何言ってんのこの人」


 と怪訝そうに見てきた。あれ、さすがに酔っぱらっていたか。気のせいだったのか。


「あ、違いました?あーじゃあ、酔っ払っていただけかもしれません。すみません」


 気にしないでと付け加えていると


「なんてね!うちの商工会は、伝統的に屋号で呼び合っているんだよ。よく気付いたね」


 間違っていなかった。これは本当に記事としても面白いかもしれない。間違いない。こんな人たちを取材すれば、これはきっと面白い記事になる。


 そんなこんなで、町の話を聞きながら、祭りの開催場所である、高台の神社の場所を教えてもらった。駄菓子屋曰く、当人もなかなかお気に入りのスポットらしい。試しに行ってみるか、という話をして、駄菓子屋を後にした。


「あ、お会計は1280円な。毎度あり」


 抜かりないな。

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