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ルポライターの仕事  作者: みやもり
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不思議な会話

 そして俺は海にいる。とりあえず、海を見ているのだ。なんでかというと、まだやることがないからだ。

 4月1日でこの海も山もある西日本の田舎町へ引っ越しをしてきた。支社は隣の市にあるが、この際なので車を買い、田舎町のほうから出勤している。ではなぜこの田舎町なのか。なんとなくだ。

 ちなみに昨年の年末に飲み屋で話していた佐山も、なんという偶然か支社のある市に住んでいるのだ。腐れ縁、ご都合主義、なんとでも言ってくれ。奇跡的な話である。

 支社へ出勤した当日。一応市街の一等地の商業ビル(3階建て)の1区画に支社を構えていたわけだが、始業より早く出勤したもののだれもおらず、始業10分前に一人やってきた。「おはようございます…?」怪訝そうな顔で俺を見つめるOLは、「だれですか?」とストレートに聞いてきた。

「今日から本社より異動になりました、西野といいます。よろしくお願いします。」

 彼女はハッとして「あ!今日からの!失礼しました!今開けます!」と言って解錠し、中へ招き入れられた。というか、本当にこの時間まで誰も来てなかったのか…大丈夫かこの支社。

 始業5分前になって、走りながら小太りの中年が入ってきた。この人は知っている人だ。「ご無沙汰してます。有楽さん。」

「おー、西野君。久しぶりだねえ。はあ、疲れた。ま、牧野君お茶。」

 はいはいと言いながらてきぱきとお茶を入れた牧野さんと呼ばれたOLは「課長はいつもこんな感じなので…」と申し訳なさそうにしていた。「大丈夫、知っているから」とフォローを入れた。彼女はこの支社にも頼りになりそうな人間が赴任してきたのだと安堵を浮かべているようだ。「朝礼、しませんか?」

 俺の一声で朝礼が始まった。

「えー、今日付けで我が支社に赴任してきた西野君だ。よろしくね。何か一言ある?」

 部長に催促されてとりあえず発言をする。と言っても、この3人しかいないんだが。

「初めまして。また、お久しぶりです。西野と言います。」

 当たり障りのない挨拶を済ませ、業務の確認をした。それによると、今回仰せつかっている仕事の遂行として、基本外勤でよいようだ。週に2日支社に顔を出して進捗や必要書類の提出など事務作業を行っていればよいとのことである。いい仕事だな、おい。課長と牧野さんは内勤なので、事務職のような形らしい。明日から早速その動きをしていいと言われた。「しかし今回の新事業のコンセプトをどのように遂行すればよいのでしょうか…?」と聞くと「地方に行った各ライターには、好きにやらせろという指示しか出てないんだよ…」と課長も悩んでいるらしい。

 まあ知らない土地だし、1か月後に開かれる本社での会議の時までは取材と称してぶらぶらして、ほかのライターの進捗でも聞きながら方向を固めるか、ということで両者納得した。そうして、見知らぬ土地での新しい生活がここに始まったのである。


「西野~まさかこっちでお前と飲むことになるなんてな~」とベロベロになりながら佐山が言う。確かにな。「こっち来てから仕事以外じゃ知り合いもいないし本当に暇だったわ…これからも遊んでくれよ」涙ながらにそう言って、お酒を飲み、「あーこっちは食べ物がうまいよ~~~」といって、寝た。運ぶのか、これ…

 佐山と奇跡的な再開を喜び、さてどんなことを記事にしようかと考えかけたが、ちょっと俺も飲みすぎたので、それはまた今度考えよう。

 それでも起きないかなと佐山を放っておいてお酒を飲んでいると、隣の席の話が少し聞こえてきた。よい趣味ではないが、ちょっと酒のつまみに聞いてみよう

 ――

「だいたいさー、カフェちゃんはかわいすぎるのよね!ずるいわ!」

「そんなことはありませんよ。駄菓子屋さんもかわいいじゃないですか。ね、豆腐屋さん。」

「そうじゃな。二人ともかわいいよ。おーい、燗追加で。」

「やっぱ田舎じゃなくて都会に出さねーと繁盛しねーなー。うちも都会に引っ越すかあ。」

「ダメダメ!居酒屋さんがなくなっちゃったら私どこに飲みに行けばいいのよ!」

「居酒屋さんもメニューにもっと今風のお酒出しましょうよ!カルーアミルクとか、モヒートとか、レモネードのお酒とか」

「でもカフェちゃん飲むの焼酎じゃない。」

「お豆腐屋さん!駄菓子屋さんがいじめる!」

「だめだぞー。燗追加で。」

「飲みすぎないでくださいよお豆腐屋さん!」

「郵便屋が運んでくれるだろ!任せたぞ!」

「絶対嫌です。」

 ――


 ん?俺が酔っているのか?よくある会話なんだが、何かが変だ。

 なんでこの人たち職業(と思われる)名で呼び合ってるの!?「こわ!」

 と声が出てしまった。隣の席から金髪の女の子が「なにか?」と声をかけてきた。

「あ、いや、何でもないです。友達が寝ちゃいましてね。起きなくて怖いなーと。」

 そう、と金髪の人は一瞬でこちらに興味をなくし席に戻る。危なかった。

 ていうか本当に起きないなこいつ、あきらめて帰るか。

 携帯のメモに、「この地では職業名で名前を呼びあう人がいる」と無駄にメモを残し、タクシーを待った。


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