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ルポライターの仕事  作者: みやもり
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春 新生活

 という話が年末にあった。今はそこから3か月ほどたった。新年度だ。春である。平日だというのに、俺は海のある片田舎にいる。スーツも来ていない。まるで無職だ。

 海も山もある、この片田舎で、俺はいったい何をしているんだろう。

 このお話は、特にまじめな話でも怖い話でもないので、サクッと事の顛末を語ろう。


 俺はその後、仕事納めをして、年末年始は実家に帰った。兄も妹もすでに結婚していて、実家が子供だらけでうるさい。「あんたも早く」という声なき声、もしくは実際に発せられるもので、この実家の居心地は最悪なものだった。地元で忘年会があるので行ってみると、居酒屋だが禁煙席。そさいて宴席にはやはり同級生の子供たちもいる。「この年にもなるとねー。子供も目を離せないし」自慢したいだけでしょ!まだ結婚してないのかコールがここでも響く。ああ、いっそ逃げ出してしまいたい。そんな帰省となった。年明けて、仕事初め。仕事に関して特に変わらずにこなし、3月になろうというときに内示があった。

「西野。ちょっといいか。」

 会議室へ招かれた。「内示だ。心して聞くように。」

 忘年会のときはこの話は関係ないなどと言っておきながら、ちゃっかり意識調査してるじゃん。ひどいなあ。

「どこへ飛ばされますか。政治ですか。経済ですか。」

 部長はまあ聞けと言いながら「地方部への異動の話が出ている」と告げた。

 地方部か。地方部とは社内での通称で、正確にはたしか地域振興部。大本営は本社内にあるが、地方営業所などで勤務することもある。あまりやりたがる人間のいない部署だ。

「なんだ、階が変わるだけじゃないですか。今そんなに地方部って人手ほしかったでしたっけ。」

「申し上げにくいんだが、今回の異動で、お前は東京から飛ばされることになる。」

 ほう。

「どこですか?」

「西日本だ。」

 部長がそう告げ、窓のほうを向く。「さらに言うと、西日本支社のことではなく、より地方の小さい支社だ。」

 すごい田舎じゃん。いやぁ…

「少々心苦しいが、そこで勤務してもらいたい。」

 部長はこちらに向き直って

「一人のライターとして、そこで地域の方から話を聞いて、記事を書いてくれ。本を出版するんだ。」

 その瞬間、謎が解けた探偵バリにハッとなった。ここ最近抱えていた後ろ向きな気持ちが、少しスッとなった気がした。

「ライター活動ができるんですか?」

 そう聞くと、「そうだ」と部長は大きく頷いた。

「新年度に伴い、新事業として地方支社にライターを送り、地域のことに特化した内容の出版物を、社を上げて出したい、という会長きっての俗にいう肝いり事業が発足する。それに従事してもらいたいというのが大元にあるんだ。どうだい。やってみないか?」

 俺は自分のここまでの人生を振り返っていた。大学を出て、そのまま東京に住み着き、東京の生活に慣れ、地方へ目を向けることは少なかった。実家に帰っても居心地は悪いし、ここはいっそ遠くへ飛んでみるのもありなのかもしれない。

「やってみたいです。」

 そう告げた。部長は「お前のここでの仕事量は凄まじかったから、内示だが部署内には特別に話を上げていい。引継ぎ作業をみんなでしよう」と言ってほほ笑んだ。

 こんな中堅の年代で、仕事に対して忙しや以外に無い、楽しくない生活を送っていたことを考えると、所謂やりがいを持てるというのはそれだけでうれしい。笑顔で会議室を出た。


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