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ルポライターの仕事  作者: みやもり
14/25

岸部葉子は動じない

 6月末、進捗会議。駄菓子屋同行。あと、牧野さんも同行。出勤形態に関しては略。駄菓子屋はよくわからないから俺についていくということらしい。牧野さんについていけばいいのに。ちなみに駄菓子屋は居酒屋さんが開けるということらしい。

 新幹線の改札で駄菓子屋を待っていると、見慣れない見た目の女性が声をかけてきた。

「待たせたわね」

 ん?人違いですよと告げた。すかさず靴を思いっきり踏みつけられた。

「なんですか!」

 と声を上げると同時に、踏みつけ犯は顔を上げゲラゲラ笑った。

「ひ~。面白い。私だよ!」

 金髪ロングではない、ショートボブでモカブラウンな垢ぬけた駄菓子屋がいた。

「お前…」

 正直に言うと、とてもかわいい。いっそ正直に言うと、出会ったときから整った容姿だとは思っていたが、ここまでとは。

「どうしてイメージチェンジしてきたんだ?」

 動揺しながら聞くと

「東京に行くのなんて修学旅行ぶりよ。少しはまともな格好をしないとと思ってね」

 とニコニコ笑った。

「一応、遊びに行くんじゃなくて仕事の付き添いなんだからな!忘れるなよ。」

「へいへい。わかってますよ」

 と聞きなれた説教をあしらうように言った後

「でも、そういうシーンにこそ、やぼったい恰好はよくないわよね?」

 浮かれるなよ、的なことを伝えたかったが、言われてみればその通りだ。ビジネスシーンにこそ見合った格好をするのが普通のことである。突然のイメチェンに動揺して、浮かれたのはもしや自分のほうではないか…?恥ずかしい~すごく恥ずかしい。もう帰りたい。帰りたいというか行きたくない。恥ずかしい。

「そ、それもそうだな。よし、気張っていこう」

 そういって直後、新幹線が入線してきた。

「おい、駄菓子屋」

「何よ」

「似合ってるぞ」

 恥ずかしいので新幹線の音に混ぜ込んだ、かすんだ俺の感想は、

「当たり前でしょ!」

 ちゃんと届いていたようだ。


 そんなこんなで、イメージチェンジに成功した駄菓子屋と東京に到着した。今住んでいるところと温度差はないはずなのに、以上に暑く感じた。

 品川で降りて、電車に乗り継ぎ新橋へ向かう。

「もう酒が飲みたいわ。昼間から飲み屋が開いてるわよ。テラス席で飲んでるサラリーマンは何者なのかしら」

 駄菓子屋が恨めしそうにつぶやく。俺にもわからん。「すごく偉い人か、すごく偉くない人」のどちらかだ。

 そんなことを言いつつ、じゃあ今日は終わったらどこそこに連れて行ってやると結局浮かれた話をしながら、本社についた。

 東京本社は、さながら大企業みたいな雰囲気を醸し出す、そこそこでかいビルだ。

「ふ、ふーん。こ、こここがあんたが働いている会社のなのね。ふうーん。すごいじゃない」

 足がすくんでいるぞ。

「これでも一応大手出版社だからな。さあ、入るぞ」

 受付に向かう。同期の受付嬢が手を振っている。

「あらー。西野君、おはよー」

「おはよう。今日の会議は何階だっけ」

 同期は手元の手帳をパラパラしながら

「9時半から一二階のD会議室でーす。そちらの方は?」

 駄菓子屋のほうを見る。

「今回の記事で取材を受けていただいている先方だよ。来賓だぞ」

「すっっっっっっごくかわいいじゃない!あなた、お名前は?」

「え、ええ岸辺です。本日は、よ、よろしくお願いします!」

 とても初々しい。髪型が変わったのもあって、なんか幼い。あと、岸辺っていうんだ。全然知らなかった。岸部葉子。

「いやあ、ほんとかわいいわねえ。前連れてきた牧野さんといい、あんたほんと天然ジゴロね」

「失礼な。ビジネスパートナーだぞ!あと今日も牧野さん来るぞ」

「また受付にスカウトすることにするわ。ほら、ほかの来客があるからさっさと行きなさい」

 自分勝手だなあと思いつつ、受付を後にした。

「東京の女って感じね…」

 駄菓子屋がつぶやく。東京の女。どんな感じなんだ。


 会議は滞りなく行われた。駄菓子屋には、特にしゃべってもらう予定はなかったが、地域の祭りに対する意気込みを聞きたいという会長の質問で、ひとしきりスピーチをしていた。

「―――ということで、私は幼少から慣れ親しんだ自分の町のお祭りを、今度は自分で作り上げるべく努力をしています。御社で取材をご担当されている西野さんも、積極的に参加をしていただいて百人力です。御社の企画の成功と、お祭りの成功を願っています」

 おおー、と拍手が沸いた。何のスピーチだ、これ。

 会議後、四方がこちらへすっ飛んできた。

「岸部さん。ラインを交換しませんか?」

 早速ナンパかよ、こいつは。

「私スマートフォン持ってないんで。すみません」

 さっきまでの印象とは正反対のツーンとした態度でバッサリ切り捨てられた。ざまあみろ。

「西野さん、西野さん。今日は飲んでいけるのか?」

 熊井さんだ。「後泊なんで、大丈夫です」

 そう伝えると、駄菓子屋も「私もご一緒してもよろしいですか?」と早々に参加表明をした。あれ?牧野さんは?

「課長に呼ばれてしまったので今日はもう支社へ帰ります!お疲れ様です!」

 とすごいスピードで帰っていた。何かやらかした?


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