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ルポライターの仕事  作者: みやもり
10/25

居酒屋会議

 一旦解散となり、どうしますか?と牧野さんに聞かれたが何をどうするのだ、自分たちも仕事中なんですから、事務所に戻りますよと伝えた。そんなにしょんぼりしないで。バス停の向かいの海に悲しく別れを告げないで。葉桜を眺めないで。ほら帰りますよ。


 事務所につき、ひとまず先ほどの取材音源や写真のデータを洗い出す。写真で見ると、駄菓子屋の趣のある店内がきれいに背景として機能し、熱量のある被写体と相まってかなりそれっぽい。いいぞ、こりゃ。牧野さんも

「雰囲気があっていいですね!地方でもこうやって皆さんいろいろ考えながらやっているんですね」

 と前向きな感想を述べていた。確かに。さびれた地方商店街や、シャッター街が増えているというニュースをよく見る。大型ショッピングモールなんかに地域が乗っ取られるなんて言う言い草の記事だってある。それでも、シャッターを閉めていても、さびれていても、そこには営みがある。そんなことを考えさせてもらえるような、ある意味で熱い写真と、会議音声だ。

「まあ、カフェさんと居酒屋さんのカメラを意識しすぎたピースは使いどころに迷いますけれどね」


 夜。有楽課長に旨を伝え、もし切れたらうちで生産するよ、と今回の飲み会の領収書を持ってこいと言われた。ホワイト企業かよ。牧野さんは「ただ酒だオラー!」と盛り上がっていた。もう酔っぱらっているの?顔を><こんなにさせて。


 定時に上がって、それまでの間、牧野さんと二人で時間をつぶすのも迷惑かなと思い、残業をすることにした。牧野さんは一度帰宅するそうだ。楽な服装に着替えるとのこと。一応、取材を兼ねているのであって、ただの飲み会ではないのだがね。

 6時半ころ、タクシーを拾って件の居酒屋に向かうことにした。


 居酒屋はこぢんまりとしていたが、居心地の良いまったりしたところだ。それでいて、小料理屋のような丁寧な店内となっている。

「とりあえず、お通しね」

 そういって人数分刺身のようなものが出てきた。これがお通しかよ。高そう。

「本当にあまりもんを出してるから別に高かねえよ。今日の突き出しは、いわゆるカルパッチョみたいなもんだな」

「あとはビールを人数分ね!」

 駄菓子屋がそういうと「自分で用意しろ」と声を張られ、はいよーと渋々カウンターの中へ入っていった。フリーダムかよ。瓶ビールが適当な本数用意され、

「それでは、本日の会議の二回戦と行きましょうか!乾杯!」

 かんぱーいと会議と称した飲み会が始まった。

 わいわいと各々に、今年の祭りはこれをやりたいというのを言っている。さてはまとめる気は全くないな?候補をどんどん上げて、絞って行く式だ。これが実は、現代の日本組織における会議においては、結構大事だ。

 たいていの「会議」と呼ばれるものはある程度道筋が決まっている「報告型」「賛同型」といった出来レースと「プレゼン型」という、いわば新しい何かをその話し合いの中で決めるタイプがある。しかし、後者も実は前者の要素を強く持つことがあって、何か考えましょうという流れであるにもかかわらず、実はこの意見で行くつもりなのでみんなこれにしようねっていうケースが多い。偉い人が主導する形なんかだとよくある。日本の会議では、いささか意見を言ったり、新しい発想を表現するにはハードルが高いのだ。居酒屋での会話から、日本組織の会議像を考えさせられた。

「記者はどう思うんだ?」

 記者?貴社?汽車?はて

「記者さんは記者さんでしょ~」

 渋い焼酎グラスを回しながら、カフェちゃんが言った。そうか、俺はこの中では「記者」という役割を与えられたのか。

「そうだぞ!記者はどうなんだ!」

 そういわれましても…「流行り物の屋台ってどうですかね?例えばタピオカ?とか」

「タピオカあ?そんなもん俺は売らねえぞ!」

 カフェちゃんは

「うちのカフェでもタピオカやろうかと思ってたんですよね!あ、でも今はなかなか材料が買えないっていうしなあ」

 優しそうなおじさんが

「ならば、うちの豆腐作りに使う豆乳を売ろう」

「豆乳だあ?どう売るんだい?飲んでもらうのかい」

 居酒屋が食いつく。カフェちゃんが

「豆乳もいいですね~。うちに卸してもらってる豆乳で作るお菓子やラテは大人気ですよ!」

「豆乳使う路線、いいんじゃないかしら」

 駄菓子屋も続く。

「豆乳を使ったお酒でも考えてみたら?」

 うーん、なるほどなあと頭をかきながら「商工会として力を合わせて出すなら、商工会の店が持ってるもので喜んでもらう。そういうのがいいかあ。よし、いっちょ作ってみよう。」

「何で割ったらうまいんだ、俺はカクテルなんて作り方わからないぞ」、「じゃあ私がやります!」とカフェちゃんと居酒屋がわいわいお酒を作り出した。

「あ、あの~」

 そうこちらに尋ねてきたのは青年だ。

「自分は、この町の郵便物を取り扱っているものです。郵便屋と呼ばれています。よろしくお願いします」

 町の郵便屋さん。簡易局の嘱託社員といった感じか。

「うちの父が商店をしていて、そこを間借りしてやっているんです。僕も、町の瓦版を作成したりしています」

 おお、同業者みたいなもんか。つまり

「商工会の広報ね。顔もかわいいし」

 駄菓子屋が入り込んでくる

「ほんと、かわいいですね~」

 牧野さんも続く。

「と、とにかく!僕にも記事の作り方のご指導をお願いします!」

 任せなさい!と、将来有望な子の教育も承ることに相成った。

 この日は、出し物の一つとして「豆乳を使った何か」を作るということが決まった。あと日中に決まった「花火を上げる」この二点だ。これ進捗的にどうなんだろう…この時間も、記者としてのインタビューやら、写真やらを撮らせてもらえた。最後に、全員で記念写真も撮れた。ん、何の記念だろう。明日は、今日の内容をひとまず文章に落としてみるか。


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