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新人君  作者: くらいいんぐ
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第三話 全体会議

期待の新人君が入社して、半年が経とうとしていた。

窓から流れるさわやかな風は、とても心地よく、たまに聞こえる蝉の声が夏の訪れを感じさせていた。

新人君はふと開発部の部長の机の上に置いてある本の題名を見て、苦い顔をした。

その本には「ゆとり世代を即戦力にする50の方法」と書かれていた。

席につくと、隣の席の同僚が話しかけてきた。

「最近、ブラック企業が増えてるらしいぜ。うちの会社もそれっぽいけど。」

新人君は、黙ってメールチェックをしていた。

すると、次のメールが開発部全員に送られていた。

【全体会議のお知らせ】

社内のコミュニケーション、報連相についてのディスカッションを行います。

本日13:00に、第一会議室に出席して下さい。

新人君はため息をつき、仕事を始めた。

その日の午前中は、何事もなく時が過ぎた。嵐の前の静けさだったのかもしれない。

しかし、仕事に集中できたことに満足していた。

午後13:00、第一会議室に開発部全員が席に揃った。

部長が口火を切る。

「みなさん、メールでお伝えしたようにコミュニケーション、報連相について、ざっくばらんにディスカッションしたいと思います。色んな意見を交わせたらと思います。まず、課長、現状の報告をして下さい。」

「はい、ではまずこれを見て下さい。」

課長は、箇条書きにされた紙をみんなにまわした。

その内容は、報連相、コミュニケーション不足により、仕事が円滑に進まないというものだった。

「この通り、弊社はある意味、危機的状況であると考えます。その原因は、世代の格差が要因として挙げられます。」

部長は落ち着いた口調で、こう言った。

「それについて、若い人たちの意見も聞きたいですね。誰かいませんか。」

すると、同僚のS君が手を挙げた。

「私たちは、指導に問題があると思います。的確な指示があれば、うまく動けますし、自分も成長します。」

課長は、少し早口で言う。

「指導と言うけど、おまえたちは言われたこと以外なにもしないんで、いちいち手順から何まですべて言わなくちゃいけない状態じゃないの?」

「そんなことありません。自分たちは、やる気になれないだけです。いちいちカリカリされたんじゃ、何を指示されたかわかりません。」

「じゃあどうすればいいんだ?仲良しクラブになれっていうのか?」

「違います。自分たちは褒められたいんです。褒められて伸びるんです。」

課長をはじめ先輩たちは唖然としてた。

そして、課長がこう言う。

「大体、俺が若い頃は、もっとキツイこといわれてきたぞ。それでもなにくそって頑張るんだよ。それが会社じゃないのか。」

「それです。そうやって昔の話をされても、もう時代は変わってますから。精神論は止めて下さい。」

「お、おまえ・・・」

すると、部長が口をはさむ。

「新人君はどう思うかね?君は今年入社した中で一番落ち着いてるように見えるが。」

一瞬間を置き、新人君は話し始めた。

「そうですね、たぶん言い合いをしても仕方ないんじゃないかと。僕が言えるのは生産性のある発言をした方が良いかなと感じます。」

「ほう、その生産性のある発言とは?」

「例えば、今回のお題目に関して言えば、笑顔・・・ですかね。」

課長がもうすでにカリカリして言う。

「笑顔ってなんだよ!そんな気遣いしながら仕事なんてしてられるか!」

「笑顔といったのは、第一段階としてという事です。笑顔から始まって、笑いをつくるんです。」

「は?なんだそれ。」

「笑いは、人の気持ちを和らげます。新しい発想力にもなります。」

部長がなにかを感じたようだが、冷静にこう言った。

「まあ、この題目はもう少し時間がかかりそうですね。ただ、生産性のある考え方というのは大切ですね。みなさんもこの機会に考えて見て下さい。」

こうして、全体会議は終わった。

会議室を出ようとしたとき、同僚Sがこう言ってきた。

「おまえ、笑いってなんだよ、面白いやつだな。」

新人君は、笑顔で答えた。

「そうだろ、面白いだろ?」


同僚Sはその反応に、なんだか不思議な気持ちで黙ってしまった。

ただまだ、変なやつだなとしか思うことができなかった。


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