タイムリミットと新しい爆弾(?)
よろしくお願いします
“カタッカタカタッ”
例の騒ぎからもう数日が経ち、私は今、“セイントーラス学院”の学生寮に戻る馬車の中、ものすごくガタガタと揺れています、ええ、全身が。
いや、原因はわかっています、それは私がさっき読んだ当代王妃様からのお手紙。
ほんと、そこのお嬢様、この王妃様が何言いましたかお分かりで?
まあ、その前に少しだけ言っておきたいことがあります。
そう、それは数日前、私が例の騒ぎを起こし、メリエード伯爵邸の中に戻った頃から始まります。
私はもうメリエード伯爵家当主代理のセレナラバー2号、ではなく、お兄様に自室以外禁足され、エリティにも二日間会えなくなった。
それならばまだしも、私はお兄様から毎日1食しか食べさせてもらいませんでした。
ほんと、ある意味虐待ですわ!
幸いお父様とお母様が噂を聞きつけ領地から帰ってきていただき、私とエリティはやっと禁足が溶けました。
同時に例の騒ぎはやっぱりゴシップ好きなマダム達の耳に入り、私への評価は“あの美しい公爵令嬢を汚す毒婦”と“兄も婚約者も公爵令嬢に奪われた可憐な少女”と真っ二つに別れました。
いや、これは喜んでいいでしょうか?
まあ、あの大魔王様、ではなく翔さんは「こんな短時間にこんな事ができるなんぞアホ女にしてはまあまあよくやったな」と褒めてるのかどうかわからないメモを闇ちゃんを使って送ってきましたけど......
ちなみに闇ちゃんは私がつけた全身闇色の文通鳥の名前です、まあ、翔さんは何も言いませんでしたから黙秘したと受け止めます。
あ、いつの間に話が......
コホン、本題に戻しましょう
お父様たちが戻られた後、私は泣きながらお父様へ直談判し、お父様も何も言わず、ただ国王陛下と王妃様からアポを取り、次の日に城へとエスコートするように手配してくれた。
まあ、お母様によるとお父様はとっくにレオールやお兄様の様子が変だと気づいたそうで、ですが一人は一国の王子でもう一人は自分の実の息子、あまり疑いたくなかったと言う。
ですが例の噂を聞いた後、彼は色んな事を調べ、そしてやっと私がどう苦労してたのか、貶められたのか知ったらしい。
お母様はこの婚約破棄はお父様からのほんの少しだけのお詫びだと言いますけど、私にとってその気持だけでものすごく嬉しいと同時に両親とエリティを疑ってしまい胸がチクチクと痛みながらなにか重い鎖に縛られる感覚もある。
あ、そう言えばあのときどうやって部屋に帰ったかわからない、ただ部屋に戻る直前にお母様の目が少しうるうるしてたような、いや、多分私の考えすぎだと思います。
でもやはり現実は理想通りに行かず、
次の日の朝、メリエード伯爵邸に国王陛下から派遣された使者が来て、王妃様の体調があまりよろしくないから後日手紙を送ると言われた。
そして計算してたのかなんだか私が学園の寮に戻る直前に手紙は渡されました。
ええ、それが私が今持っているこの手紙ですわ。
もう一度言ってみます、ほんと、そこのお嬢様、この王妃様が何言いましたかお分かりで?
手紙で王妃様は「今で婚約破棄しましたら例の噂が事実だと証明し、レオールとケレンドル公爵令嬢だけでなくあなたのお兄様にも、メリエード伯爵家にとっても不名誉なことですよ」と脅してきました。
しかもです、王妃様は私に「夫を信じるのが妻の役目」とか、「愛し合う二人に障害があって当然ですわ」とか、
あの、この手紙、送る人間違っていません?
「愛し合う二人に障害があって当然ですわ」って、実質私が“障害”そのものですが。
日差しが強くなっていき、外にいるみんなは「暑い」とつぶやき始めた頃、私はそんな暑さなんか感じられず、この手紙を捨てないよう、レデイーに相応しくない振る舞いをしないよう理性の糸をつなげている。
太陽が西側の地面に降りようとする頃、私はやっと学園の正門に着き、私に新しくついたメイド、名前は確かミランダ、と一緒に寮へと向かう。
ちなみにリチェルの処刑日はまだ決まっておらず、翔さんからの情報だと一年以内に処刑するという。
要するに私に残ったタイムリミットは1年、この一年でどう悪役なり、世間からの高感度を上げながら性悪女と戦うかでリチェルの運命は変わるということね。
まあ、それだけでしたら無理して自信をつけますが、ですが翔さんのこともありますし......
ほんと、私に茨の道しか残ってないですわね。
寮につき、実家から運んできた“お土産”を整理し数時間後、太陽が完全に西の地面に潜り、家から出てきたお月様とお星様達がワルツを踊り、同時に私はベッドの上で目を開けている。
まあ、今日は私の読み外れみたいでした、ほんと、今日ぐらいはレオールが形だけでも仲がいい婚約者となり、私を迎えに来ると思ってた。
まあ、私が自惚れてただけですわ、ただ、それだけです、ええ。
“チクッタクッ、チクッタクッ”
はあ、眠れません
全然眠れません
まったく眠れません
“チクッタクッ、チクッタクッ”
もう、耐えられませんわ!
“ガバッ”
私はお布団を行儀悪く蹴り、上に外室用のコートを着て外に出た。
まあ、外に出たと言いましてもただ寮の近くでブラブラするだけです。
外に出たときはまるですべての生き物がこの静寂と別れがしたくないかの様に外は静かだった。
そう、今は私の足跡の音が加えてきてから風は私に抗議してるみたいに吹き、夜行性の小鳥は私を敵と認識したかの様にバサバサと羽を叩く、
まあ、これでも少しだけ申し訳ないと思っていますわ。
ですが少しだけ不思議ですわ、明かりはお月さまとお星様だけなのに道がこんなに明るいなんて。
私は部屋に出るときに「ただ寮の近くへブラブラするだけ」と決めた事をすっかり忘れ、寮とちょっと離れた花園へ足を運んだ。
ほんと、ここはアフタヌーンティー以外では立ち寄らないので少し新鮮気味です......わ......
あれ?
近くの下り坂で人が一人倒れてた、幸いそこの地面は柔らかい草で敷いてあるから血とかは出ていないですけど。
ですがここで寝たら風邪引きますわ、少し注意しませんと。
そして私はその人へと近づき、「どこか見たことがある顔ですわね」と思いながら彼に近づき、少しだけ彼を押した。
「あの、ここで寝たら風邪引きますわよ」
あれ?ぐっすり寝てるせいですか?
「。。。。。。。。。」
息はちゃんとしてますのに、おかしいですわね。
「あの、起きてください、風邪引きますわよ。」
ううう、
「あの、ここで寝たら風邪引きますわよ。」
「......うるさい。」
やっと起きましたか、まあ確かに夜分遅くに大声出し過ぎたみたいですが。
「あの、すみません、ですがここで寝たら......」
“チュッ”
あ、あれ?
私は何も考えられず、ただ彼の、このお月さまの色をした髪の持ち主の整った顔がドアップされたのを見て、呆然としている......
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