正体
よろしくお願いします
先程まで明るかったまあるいお月さまが雲に隠れ、フードを被った少女はとある人気のない街に現れる。
「ねえ、いるんでしょう、出てきなさい。」
少女がその言葉を放った直後に街角の影から白いフードを深く被った女が現れ、少女のところへ一歩、一歩とゆっくり歩いていく。
「まあ、どうしたの、そんなに怒っていらして。」
「それは怒るわよ、だって私がこんなに苦労したのに結果エモリア・メリエードはただの地味娘だったからよ。
まったく、もう少しでエルドアとレオールの前で恥をかくところでしたわ。」
「まあ、それはどういう?」
隠れていたお月さまは一旦雲から顔を出し、少し時間が経つとまた雲に潜ってしまう。
「まあ、そんな事があったの......」
「何よ、なにか言いたいの」
「いいえ、ただ、もしあなたの言う通りエモリア・メリエードが転生者じゃなかったなら少し不可解な点がありまして。」
「不可解な点?」
「ええ、ゲーム内のエモリア・メリエードは平凡で平凡でただただ平凡な少女だけどたった1つだけ、プレーヤーは彼女のその事で心を打たれたの。」
「それは?」
「愛よ。ゲームの中のエモリア・メリエードは家族と婚約者のレオールが命より大切なの。だから彼女は自分の婚約者のルートだけではなく、実の兄のルートでさえ悪役令嬢になっている。
やがてその愛はプレーヤの心にも響かせ、多くのプレーヤーがエモリアに幸せを与えてと苦情が殺到したそうよ。」
「何それ、まるで彼女が主人公じゃない。」
「まあ、ある意味そうね。」
「プッはハハハ、ありえない。この世界で私以外に主人公はいらない!」
「そうね、この世界ではあなたが主人公よ。
でもね、セレナ、あなたが知ってるこの世界でのエモリア・メリエードはそんなに家族やレオールに執着して見えた?
私があなたから聞いた話だとそう感じ取れなかったけど。」
「それって、」
「念の為もう一度彼女に会って考えてみたら。」
いつの間にか白いフードの女が消え、残った少女の顔はフードで見えないがくいしばった歯と力強く握った手が彼女の考えを少しだけ示し、波乱の予感を表せた。
一方もう一人の少女は数時間前までいた裏山にある建物に入り、大至急に地下室へと入った。
ええっと、確かこの階段を降りてからすぐ......あ、この部屋だ。
入った部屋には何故かソファーが足しており、暗黒の髪をした美少年はそこでくつろいでいた。
「ったくどんだけ待たせる気だ、ノロ亀より遅いぞ。」
「はいはいごめんなさい、あ、それと色々ありがとうございます。」
そう、さっき一人で考えて気づいたんだけどこの裏山自体がレントルス公爵家の敷地内で、そもそもこの付近に拾える馬車なんて無い。
だけど私が大至急屋敷から飛び出した時不自然なぐらい偶然に馬車が屋敷の近くにとまってた。
まあ、一瞬レオール王子やセレナの馬車だと思ったけど彼らがこんな庶民的で地味な馬車に乗るはずがない。
第一私は裏山の建物から飛び出した時には一文も持っていなかった、それなのに馬車の運転する人は道が一緒だからお金はいらないと言ってくれた。
どう考えてもおかしいでしょう。
「ふ、なんのことだ?」
ええ、思いつく答えは一つしか無い、多分彼がすべて手配してくれたのでしょう。
まったく心配ならちゃんとそう言って欲しいですわ。
でも、今は、
「いいえ、ただそう言いたいだけです。」
「そうか、ってなにを笑ってる、気持ち悪い。」
「フフフ、いいえ、なんでも。そう言えばこのメモに書いている大事な事ってなんですか?」
「ああ、その前にこっちへ来い、授業の続きだぞ。」
「え?あ、はい。」
あの某ニュース番組顔負けのボードは私が数時間前に出ていったときと変わらず、例の記事ばまだ私の目に痛く入り、心の中の炎が一段と増していく。
「それじゃあ次に行こうか?」
「は?」
“ポチッ”
“ダアアアア”
えええええええ、まだありましたの?しかも今回は上から?これはもう顔負けどころじゃありませんよ、もう比べようがないと思いますわよ!
そのボードには各ルートの悪役令嬢が多分どの時間帯でどう処刑されるか、そして攻略キャラに違って処刑される日にちがどう変わるのか、どの名目で処刑されるのかと詳しく(?)書いている。
いや、その、どうしてこんなに詳しく知ってるのかは置いといて、ええっと、なにか偏ってるような......
うん、これは気の所為ではありませんね。
「あの、先生!」
「質問は後にしろ、先に聞け」
うう、このやりとりどっかで......ですが今回は絶対に引きません!
「だめですわ、今聴きたいです!」
「ったく何だ、手短に言え。」
「はい、あの、手短に言いますと、あなたは一体何者ですか?」
「は?」
「その、今ではペドルア・レントルスですけど、私が聞きたいのは前世の事です。」
「う、」
「あの、もしかして、いや、絶対にそうですよね」
「ああ、そうだよ、俺は......」
「前世では女の人でしたのね!」
「......は?」
そうでしょう、こんなにこのクソゲーをやりこなし、まるでゲーム制作者みたいにこの世界を知っている。これって、何回もこのゲームをやりこなした証拠、しかも、
「しかも前世ではペドルア・レントルス推しだった!ですから異常にペドルア・レントルスに関するデータやプロフィール、そしてペドルアルートにまつわるすべてが詳しかったんですね。」
そう、数時間前から違和感がありました。ですがこの人が前世でペドルア推しでしたらすべての理屈が通ります。
「ったくお前は何考えてるのか?」
「ふふん、どうです、あたりですか?」
「ちげーよ、俺は前世でも今でも男だ。」
「......え、それではゲーム制作者あたりですか?」
「う、半分そうとも言えるな」
..................あ、そうですか、ああ、ええっと、はい。
男で、ヤンデレ幼馴染推しで、クソゲーをこんなに詳しく知っていて、しかもゲーム制作者ではないと......
「ああ、うん、はい。」
「な、何だその変態を見る冷たい目は!」
「いいえ、何も、だって前世でどんな人でも今では多分関係ありませんと思いますよ。ええ、だって今では攻略者の一人で美少年ですからね、うん、はい。」
「ぐあああああ!!!ったく俺の役だからだ!」
「は?」
「いるだろう、プレーヤじゃなくても、ゲーム制作者じゃなくてもこのゲームが詳しい人!」
「はい、それは変「アアッ!!?」いいえ、何も。」
「はあああ、正直に言う、俺の前世での名前は秋内翔、このバカ売れのゲームでペドルア・レントルスの声を演じた声優だ。」
秋内翔、声優、.....ええっと、確か、前世で人気急上昇中の現役高校生声優で、個人ライブとかいっぱい開いて、顔がいいから声優関連グッツ販売店でもよく彼を見つける、あの?
「いやいやいやいや、そんなまさか。」
「どうだ、そのちっぽけな脳味噌でも俺のこと知ってるだろう。」
ええ、そうですね、だって、
「前世の友達がデビュー当時からのファンでした。」
「う、お前は声優に興味ないのか?」
え?どんだけ自信あるんですか?
「いいえ、しいていえば秋内翔さんの公式ライバルの立花雄踏さん推しです。」
「は?」
「え?」
「は?!」
「え?何か?」
「いや、そんな二股男が好きなんて、お前ほんと物好きだな。」
「......え?高校生で二股ですか?」
「は?いや、聞くけど前世のお前はいつ死んだのか?」
「え、いつって言われましても......」
私が就職先を見つけてすぐですが、
「それじゃあ言え、このクソゲーの第二部が出てきたときか?それとも第三部か?」
いや、おっしゃってる意味が......ってあれ?
もしかして私とペドルアさんって......
「あの、もしかしてですが、前世で何歳まで生きておりましたか?」
「は?ああ、まあ、第三部が出てきてすぐだから25か26前後か。で、お前は?」
「......第一部が出てきて4ヶ月ぐらいです。」
その一瞬、最初っから暗かったこの地下室はもっと黒いオーラに包まれ、この建物に潜んでた鳥たちは一気にパタパタと空へ逃げていった......
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