そして僕は悪役になる ペドルア視点、後編
ヤンデレ注意報レベル3
宜しくお願いします
茜色の夕日に照らされたこの貴族街は静寂に包まれ、僕の視界にやっと彼女が現れた。
うう、今になって緊張してきた。
今更だけど彼女とどうして話そう、
“こんにちは、奇遇ですね!”
いや、何かわざとらしいな。
“元気でしたか!”
何か馴れ馴れしいな。
使いたくなかったが、今はこれしかない。
「コホン、コホンコホン!!!!!
ああ、具合が悪い、さっきから具合がものすごく悪い!!」
そうだ、一般的なご令嬢、いや、一般的な貴族でしたらこれが仮病だと分かっても『どうされましたか?』と訪ねてくる。
ま、当たり前だ、誰だってレントルス公爵家と関わりたいからな。
だがエモリア嬢がこの手に食いつくとは限らない、だから僕は、
「ああ!誰かと思えばエモリア嬢ではないですか、コホンコホン!コホン!」
「。。。。。。。。。」
な、僕が直接名前まで呼んだのに!?
「エモリア嬢?」
「。。。。。。。。。」
「エモリア嬢、エモリア令嬢、なあエモリア!!」
は!とした顔で見上げたエモリア嬢の目には驚愕と少しの恐怖で満ち溢れている。
「え、嘘......」
しまった、僕、さっきエモリア嬢をなんて?
「あ、すみません、いきなりお呼びしてしまい。」
「いいえ、まさかここでレントルス公爵令息と会えるとは思っていませんでした。お久しぶりですわ。」
「そ、そうですね。」
チラッと見たらエモリア嬢後ろにはボボともう一人の暗部部員が誰かと戦っている。
ち、やはりあの王子に勘づかれたか。
「では、これで、ごきげんよう」
「あ、ちょっと待ってください。」
ボボ達がやっと繋いでくれたのだチャンスを無駄にできるものか!
「はい、何でしょうか?」
どうしよう、
「ああ、うう、その、ええっと、」
つなぎ留めたのはいいとして僕は何を言ったら......
「。。。。。。。。。」
「うう、」
「どうしたのです?」
「う、その、エモリア・メリエード伯爵令嬢!」
「え、はい、」
あ、そうだ、僕が今言いたい事を言ったら、
「僕の家に来てください!!!」
何言ってるんだ僕は!!!!!!!!
違う、違うんだ、これは結婚のプロポーズではなくて、あの、その......
「ええっと、」
あ、これは完全に警戒されてる顔ですね。
「僕の家でお茶しませんか?」
そう、僕は消して不審者ではありませんよ、ただあなたを見守っている親切な人なんです!
結果、僕はできるだけ粘ってくれたボボたちのおかげで後日エモリア嬢とお茶をする約束を取れた。
だが後日なんて待ち遠しい、だから僕は日が昇った頃から起きたばっかりのメイド達にお茶の支度を言い渡しエモリア嬢を迎えに行った。
ちなみにエモリア嬢は今日のお茶会を非常に驚いて、隣りにいたセナルデン侯爵令嬢の顔は何故か真っ青になっていく。
んん、エモリア嬢のお友達を疑いたくないがやはりセナルデン侯爵令嬢には要注意だ。
それに彼女に関しては非常に興味深い噂もあるしな......
だが、今日は時間がない。
さっき暗部から聞いた情報によると昨日僕がエモリア嬢に会った事を知ったあの第三王子は現在こちらに向かっているらしい。
「さあ、エモリア嬢参りましょう。」
「......はい。」
僕が言うのも何だけどレントルス公爵邸はリナレード王国の中で王宮に次ぐ立派な豪邸だ。
だがエモリア嬢は何故か始めてきた誰もと違いキョロキョロ見渡さず、「これはなんですの?」と聞いてこない。まるでここに何度も足を運んだことがある様に彼女のリアクションは薄かった。
いや、おかしいのはこっちの方だ。
どうしてだろう、お茶は2階にある客室用のサロンに置いてあるのに、それなのに気づいたら僕は一回しか入ったことが無い倉庫部屋にエモリア嬢を連れ出した。
“バタン!!”
「ヒッ!」
あ、びっくりさせちゃったかな、でも、
「あ、あの、レントルス公爵令息?」
「。。。。。。。。」
なぜだ、始めてきたときには吐気がするほどここが嫌いだったのに、それなのになぜか僕はここでエモリア嬢と笑っている幻が見える?
「翔さん!」
うう、またあの夢だ!
ったくいい加減にしろ、僕は!!
“タッ”
エモリア嬢、君は一体僕の何なのですか?
そしてあなたは僕自身が知らない僕をどこまで知っているのですか?
「。。。。。。。。。」
「あなたは誰なんですか?」
誰、と言われましても、
「。。。。。。。。。」
「レントルス公爵令息ですか、それとも......」
しょうさんなのですか?
僕はなぜかそう思えた。
ほんと、どうしてそう考えられるのでしょう。
そう、僕自身でさえ僕が誰だが知りません。
ですが一つだけ確認させてください。
「さあ、どうでしょう。その前にエモリア嬢はこの部屋を見てどう思います?」
「す、素敵なお部屋ですわね。」
ふ、教科書並みのお嬢様発言だな。
「そうでしょうか?僕が初めてここを見つけた時は正直この部屋を壊したかったです。」
「え?」
「僕はセレナ・ケレンドル公爵令嬢を愛してます。」
そうだ、僕はセレナを愛しているから君に近づいた。
それが最初の目的だった。
「ああ、やはりそうでしたか......」
だが、
「ですが、いつも夢に出てくるのです。」
「夢、ですか?」
以前と僕は多重人格という一人の体の中に二人や三人の人格がいて、その一人ひとりの人格はお互いのことが知らないケースの論文を見たことがある。
もし僕の考えが正しかったらエモリア嬢が愛してる「翔さん」はもうひとりの僕で、僕はそのもうひとりの自分、即ち僕は「しょうさん」の存在に気づいていなかった。
それが本当でしたら今まで「しょうさん」の情報を掴めなかったのも納得できる、でも、
“タッ”
僕は喜べない。
だって「しょうさん」は僕でもエモリア嬢は僕の事を好きじゃない。
そして彼女は「しょうさん」に自分の一番愛らしい姿を見せて、「しょうさん」と心の底から笑い合って、「しょうさん」と......
だめだ、そんなの絶対にだめだ!!
「僕はセレナを愛してるのに、それなのにどうしていつもあなたが出てくるのですか?」
あなたのせいでここ最近僕の頭はあなたで一杯になってるのに、
あなたのせいで僕の心は時に刃物のように刺されたかのように痛いのに、
あなたのせいで、あなたのせいで、僕は、僕は......
それなのに君は僕じゃなく「しょうさん」を!!!!!
ああ、何だ、僕、エモリア嬢のすべてが欲しいのか、
それじゃあ全て奪えばいい、奪って、僕のすべてを与えて、彼女の目と心に「しょうさん」ではなく僕だけを映してしまえばいい。
そう、だから、
「大丈夫です、責任は取ります。
ですがこれはあなたのせいで起きたことです。」
そう、もう君だけを離したりはしない。
「いや、ですから、近すぎます。」
だから?
「ねえ、エモリア嬢、あなたは一体誰なのですか?僕は、どうしたあなたを......」
さあ、言ってください、君はもうひとりの僕の恋人だと。
そして僕はそれを理由に君を強制的に第三王子と別れさせて、君を世間的に、法律的に、事実的に、そして行く行くは精神的につながるカップルにして、君を僕の側に永遠に縛りつけて差し上げます。
だが、その前に、
“チュッ”
「んん!!んんんんんんんん!!!!!!」
甘い、なんて上品な甘さなのだ。
“プハッ!”
「。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。」
「......ねえ、」
「え、ああ、はい!」
“ガバッ”
僕はここ最近ずっとしたかった事をし、同時に僕のエモリア嬢は小動物みたいに体を縮ませている。
「や、め、」
「だめだよ、僕しか考えちゃだめ、ずっと、ずっと、永遠に僕だけを考えて!」
「うう、」
そして彼女は何かの呪文にかけられたみたいに抵抗が弱くなり、熱気をこもった目には理性を失いかけていた。
ああ、これはちょっと苛めてみたいな、
「ダメですよエモリア嬢、眼の前に僕がいるのに僕以外のことに気を取られるなんて、」
“チュッ”
「んん......」
ああ、やはりあなたは僕の家に来て僕のそばで永遠に僕の事だけ思いながら僕を愛せばいい。
「あ、う、」
そのうるうるとした目、なんて可憐で麗しいのだ。
ああ、これは一生僕が、いいえ、僕たちが責任を取らなければいけませんね。
「そうだ、エモリア嬢はどこに住みたいですか?レントルス家の領地、それとも王都?」
それに新しい家には僕とエモリアの間に生まれる愛の結晶の部屋を作らないと。
ああ、でもそれは男の子かな、女の子かな?
ま、どうせ両方とも必要になるからどうでもいいや。
「だ、ダメです、私には婚約者がいるのですよ!」
ち、これかよ。
気づいたらエモリアのうるうるとした目には多少理性が戻っていた。
「それはもう冷え切ったと、それにもう時期婚約破棄されるじゃないですか。」
「な、」
フフ、これで事後エモリアは自ら進んで婚約破棄を進んでいくでしょう。
「ですがセレナ・ケレンドル公爵令嬢はいかがなさるのですか?あなたはさっきも彼女を愛してると!」
そうだな、僕は確かにセレナを愛していたと思う。
だが、
“カチャッ”
僕は彼女の手に巻いてる鎖を腕までしっかり巻き、僕の覚悟を唇で示した。
ああ、エモリア、君は僕をそんな風にした悪い女だ。
だが大丈夫、君は永遠にそのままでいいのだぞ、だって僕は君のすべてを受け止める準備はとっくにしてるから。
君は............
......大丈夫、君を手に入れたら受け入れてくれる時間なんて腐る程ある。
「いや、ですからレントルスさん、これは、そのやばいんじゃ、んん、......」
エモリア、エモリア、エモリア、エモリア、エモリア、
“プハッ!”
「いやですから......ん、」
“チュッ”
ああ、エモリア、愛してる、「しょうさん」なんか放っといて僕のところへおいで、君が浮気しない限り僕は永遠に愛し続ける。
ま、僕の手をとったら浮気するチャンスなんて与えないけどね。
「ふう、」
「うう、ちょっと、」
“ペロッ”
「ちょ、だから、え!!
ちょっとやめてください、ねえ、降りてください!!」
フフ、照れてるのか、可愛いな。
そうだ、今のうちに、
「言い忘れましたがエモリア、永遠に僕だけのレディーになってください。」
「え?」
最初は何が何だか分からないって顔だったが徐々に彼女のほっぺたは昨日あの貴族街で見たあの夕日如く赤くなり、やっと意識してもらったと確信した僕は彼女の手を取り恋人つなぎにした。
だがおかしい事に次の瞬間彼女の目には意味不明の涙がポロポロと落ちてきて、その涙は深海の真珠如く美しいが同時に僕の心を痛くする。
ああ、これは、彼女は今僕を考えていない。
僕がどんなに思っても、必死に思いを伝えても、彼女の心にはしょうさんしか住んでいない、
そう、彼女の人生に登場するメインヒーローはレントルス公爵令息じゃない.....
......それじゃあせめて僕が悪役になってやる!
“カプッ”
「んんんん!!!!」
噛み付くように塞いだ口は僕でも息苦しく感じ、でもその代償となる触覚が非常に心地よく、心の何処かにある悲しみと罪悪感を麻痺させる。
あ”あ”、
『欲しい、もっと欲しい』と本能が叫んでる。
それがどんな結末を迎えようとも、彼女が手に入れられるならどうでもいい。
だから、
「大丈夫です、あなたが僕ではなくしょうさんを愛していたも、あなたは僕のそばに居てくれる、僕はそう確信できます。
だから僕は大丈夫です、僕を存分利用してください。」
「な、何言ってるんですか?」
彼女はまるで何かに怯えるように僕を見て、僕は悪役のように彼女へ微笑む。
「さあ、どうします?僕も、しょうさんもここにいますよ、だから、ね、何も怖くない、ただ、一緒に堕ちるだけですよ。」
そうして彼女は何かを悟ったみたいに目を開き、徐々に目が熱を取り戻した。
これで、いいんだ、
そう思った僕は唇を彼女のへとゆっくりと近づける......
「ほう、それは面白そうだな、エモリア、レントルス公爵令息、僕も混ざらせてくれないか?」
「な!」
どうして、お前が......
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