ドン底
よろしくお願いします
小鳥の歌声が耳に届き、朝の日差しが窓を通り越し私を包む。
私が意識を失ってから一週間の帰省休暇を頂き、今は実家でハーブティーを飲み、「ホオっ」と清々しい朝に感謝する。
そして、さっきの清々しさが無かったように壁の隅っこに行き人生を疑い始めた。
ほんと、傍から見れば漫画みたいに“ズーーーーン”とした文字が私の真上に乗っかるでしょう。
はは、だって多分私はもうすぐ死ぬんですもの。
確か前世の世界でテンプレというものがあったような、ああ、確かクラスごと異世界に飛ばされて魔王を倒しに行くとか、腐女子と言う男同士の恋愛が好きな女性が異世界に転生して男達に愛されるとか。ですが私は多分もう一つのテンプレにいると思います。
そう、それが平凡な女性が前世で縁があったゲームとやらの世界に転生するって言うテンプレのなかのテンプレ、イコールTHEテンプレの中に私がいるんです。
要するにこの世界は私の前世の友達がやり込んだ恋愛シュミレーションゲーム「愛の道標~王子様達に愛されて~」の世界のど真ん中である。
ちなみに攻略者はこの国の第三王子レオール・ナタリソーテ・レナレードとその側近兼文化大臣の長男エルドア・メリエード率いる合計7人の次世代の希望たち。
え?どうして友達がやり込んでるのによく知ってるの、まさかやったのって?コッホン、お答えしよう。やりました、冒頭だけですが。
いや、確かにスチルとか綺麗で豪華声優陣揃いでバカ売れしてたよ、だけど私にとってこのゲームはただのクソゲーに過ぎない。
例えば主人公のセレナ・ケレンドルはこのリナレード王国3大公爵家の一つ、ケレンドル公爵家の長女で、頭脳明晰、品行方正、傾国の美少女とも言われてる。しかも特技がピアノ、ダンス、歌声で、そしてその全部の特技は王族の教師も認める程の腕前だとか。
それに比べて悪役令嬢はルートごとに違うが全て平々凡々で、もし主人公が誰かとハッピーエンドを迎えたら確実に処刑されるエンドしか無い。
質問、この設定のどこが気に入らないのですか?答えは全てです、しかも私だけではなくこの主人公や世界の設定が強すぎてプレーヤーから感情移入しにくいと苦情が殺到する程で、私もその設定が生理的に受け入れず他のゲームの為に売り飛ばしてしまった。
だけど、はい、今絶賛後悔中です。
ええ、そうですよ、私がその平々凡々の悪役令嬢の一人ですよ、しかも人気が一番多いレオール王子、パット見クールだが中は熱い心を持つ側近とヤンデレ幼馴染3つのルートでの。
ああ、もう、どうして前世でプレーしてなかったの、そうじゃないと私は私の未来を大方予想できたのに!
それだけじゃない、今の様子じゃセレナさんは絶対に伝説の逆ハールートに行っちゃってるよ。ちなみに逆ハールートは全ルートの悪役令嬢全員首切りの刑にされるという最も残酷で非道な結末となる......
......それだ!
確かに私は攻略者が誰か知ってるけど悪役令嬢が誰か知らない。だけど私は悪役令嬢で見知らぬ間に変な噂が立っていたのだ、だから攻略者の関係者で同じく変な噂が立っているご令嬢イコール私の味方ってことになるんじゃない?
絶対にそうだよね。
よし、じゃあ早速味方探しに行きますか!
“コンコン”
あれ、朝っぱらから誰だろう?
「はい、どうぞ。」
先に着替えてよかった。
「姉さん、あ、あの......」
「まあ、エリティ、どうしたの?」
そう、やってきたのは私の可愛い弟エリボア・メリエード、私は彼をエリティと呼んでいる。
「傷は大丈夫?」
「まあ、心配してくれたのね、ありがとう」
ちなみに彼は攻略者ではない、でも、
「姉さん、その、兄上とは......」
そうだよね、兄が女の為に妹を叩いたなら兄と姉両方とも親しい弟は困惑しちゃうもんね。
だから私はエリティの頭を撫でてこう言った、
「大丈夫よエリティ、お兄様と私はただの兄弟喧嘩しただけですぐ仲直りしますからね、大丈夫、大丈夫」
「ふ、本当に恥知らずだな。」
一瞬私は聞き違いだと思った、いや、聞き違いで欲しかった。でも声の方向に目を向いたらやっぱり私の兄、エルドアがいた。
「に、お兄様、ど.....」
「お前に僕を兄と呼ぶ資格は無い。」
私は何も言えなかった、ただ全身が陽だまりに包まれてるのに冷えきっていた。
「......なあ、正直に答えろ、お前はセレナ・ケレンドル公爵令嬢がレオール第三王子と仲良くなるのを見て彼女を階段から突き落としたのか?」
「え?どういうことです?誰が、誰を......やってません、私は何もやってません!」
「ふ、やっぱとぼける気か。」
どうして?どうして信じてくれないの?どうして?
「姉さんは知らないと言ってるのですよ、しかも兄上は姉さんがセレナ・ケレンドル公爵令嬢を突き落とした場面を自分の目で確かめたのですか?」
「な、違うがレオール第三王子見たと言ってる。」
「。。。。。」
「。。。。。」
......遅かったのね、全てのすべてが。
多分これもゲームの強制力と言うものでしょう。
「ね、姉さん......」
私は悪役令嬢だ、でも所詮だからただの伯爵令嬢なの。だからみんな自分より権利がある人に従い、最終的に私に軽蔑する目を送る。そう、それが私の実の兄でも、守ってくれた可愛い弟でもこんな疑いの目をするのだ。
そうなんだ、私、もう
「疲れた、」
「ね、姉さん、どこに行くの?!」
「お兄様、エリティすみません、少し新鮮な空気を吸ってきます。」
メリエード伯爵邸を出て私は自分を落ち着かせるために貴族街へお茶をしに行った。
ティーカップの中に映るこの平凡な顔を見て、私は初めて自分の人生を嘆き始める。
そう、私はさっきレオール第三王子の婚約者としてお城に行こうとした、したんだが門番に追い返された。
私は何度も自分の身分を示し、第三王子に会いたいと申したんだが、門番は私を厄介払いするように追い返したのだ。
でもすぐに私はレオール王子とセレナさんが恋人みたいに王城を出ていくのを見かけた。そしてもっときずついたのが私を追い返そうとした門番から「見ろ、その御方がレオール第三王子の婚約者様だ。」と言われたのだ。
ハッと気づいたらお茶はもう冷めきっていて、なぜか周りから変な視線を感じた。そう、それはさっき私が自分の実の家族から見えた疑いと軽蔑の目。
まあ、多分私の勘違いでしょう。
まあ、もういっぱい飲んだら行きましょうか。
「お嬢様、貴女はもしかしてエモリア・メリエード伯爵令嬢ですか?」
え?この店員さんどうして私の名前を?
「はい、そうですが。」
私が肯定した瞬間あたりがざわざわとなり始めた。
ああ、そうゆうことね......
「申し訳ございませんがメリエード伯爵令嬢、当店は今混んでらっしゃり、お手数ですが素早くご退場いただいてよろしいですか?」
まあ、要するにもう二度とここに来るなってことだね。
「ええ、いいですわ、では。」
クルッと180度回転をし、私は店から出て行った。
朝の日差しが嘘みたいに今は少し曇りだした。
ほんと、今日は最低な日だ。いや、多分明日や明後日はもっと辛いでしょう。
はあ、どうしてこうなったの?
「どうしてこうなったのよ!」
え?
「もうセレナったら、王子と側近を得て何が不満なの?」
え、セレナ??
私は慌てて角の影に隠れ、様子を伺った。
そこには確かにセレナ・ケレンドル公爵令嬢と白いフードを深く被った女の人がいた。
「でもそれじゃあ逆ハーエンドにたどり着けないじゃん、私はすべての攻略者から忠誠が欲しいの!」
逆ハーエンド、攻略者、ま、まさかセレナさんも......
「まあ、欲張りはいい事ですけど時間と労力が必要ですわよ。」
「ええ、知ってますわ、でもレオール、エルドアとペドルアルートの悪役令嬢が全然突っかかってこないのよ!彼女が突っかかってこないと次の話へ進めないの。」
ペドルア?ああ、3大公爵家の一つレントルス公爵家の長男ペドルア・レントルス様ね。
ああ、王子様、ギャップのある側近とヤンデレ幼馴染ルートの悪役令嬢がねえ......
......あれ、それって私じゃない?
「でも彼女はもう攻略者全員に嫌われてもうすぐ神殿で出家に行く予定でしょ?」
え......神殿で出家?でも処刑されるより良いかも。
「何言ってるの?彼女出家だけじゃだめなの。彼女は処刑されて貰わないと私のハーレムエンドが、私の幸せが消えてしまうのよ。」
私はこれ以上聞かなかった、いいえ、聞く勇気がなかった。
そうじゃないと多分私は本当に彼女達に突っかかり、確実に処刑されてしまうから、だから私はその場から逃げた。
朝の陽だまりが嘘みたいに消え、今は寒気しか残っていない。
そして気づいたら空は私の心みたいに泣き叫んでいて、周りには誰もいなくなった。
私は濡れた洋服に構わず、ただ今人気の無い場所で泣いていた。
まだお家に帰りたくないな、でも帰れるならば前世の実家にもう一度行ってみたいものです。
前世の実家にはお節介だけど温かいお母さんがいて、加齢臭があるけどたまにはカッコイイお父さんもいる。そして前世の実家変えるたびに温かいお母さんのご飯が食べられてとっても幸せだった。
前世のお母さん、お父さん、ちゃんとした親孝行ができなくてごめんなさい。
そして今のお母様、お父様、お兄様とエリティ、こんなに警戒心がない私でゴメンね、また親孝行ができないみたい。
はは、もう私の頬をたどるのは雨か涙かもうわからないや。
もう一度、もし私がちゃんとした記憶を持ってもう一度エモリア・メリエードとして転生してたならば
「攻略者たちに最初っから接しなかっただろうに......」
「百パー無理だろうな。」
私は声の方向に目を向けて、そこには暗黒の髪色をした美少年が立っている。
え?誰?
その人の顔は大雨のせいで霞んでよく見えない。
「はあ、ったく風引くぞ。いや、もう引いてるみたいだな。」
そしてその美少年は私を抱え、彼の後ろにある馬車へと移動した。
その時私は確かに意識が朦朧としたけどその馬車の家紋がメリエード家が比べようが無いほどに高貴なのだけはすぐにでも気づいた。
「あ、あの」
「もうすぐ着く、先に寝てろ。」
それが何処かのおまじないのなのか単に疲れ切ったのか、私はこの言葉を聞いた途端ひどい眠気に襲われそのまま意識を闇へ放り投げた......
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