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今日の仕事は

心リラッ!して明日をイメッ!ジッ!行方自由自在

諦めかけちゃった夢にリベンジ(Oh No)

人類皆初投稿です。

「リッチ! 起きて下さいリッチ! 早くこの音を止めて! ああもう、うるさいなぁ!!」


 ガンガンと響くヘビィメタルに負けない声量でリッチを起こす。

 私の声を認識すると 繭が開いた。

 眠そうなリッチを抱きかかえ、椅子に座らせて髪を梳かす。


 彼女に雇われて数ヶ月、徐々にクソやかましい朝にも慣れてきた。

 好みのジャンルをどうにかして欲しいとミーシャにボヤくと随分笑われたことはまだ記憶に新しく、また「そりゃ無理な相談だわね」と返されたことも鮮明に憶えている。

 結局のところ彼女らは――特にリッチは――自分を曲げないことには頑なで、人の意見は取り入れる癖して、少し経てば元に戻ってしまうのだ。


 どこか記憶の片隅にでも、私の悲鳴を残して欲しい。


「ん…………っ、OKジョーカー、音楽を止めて」

「おはようございます、ミセス・リッチ。ミーシャが今朝のことを確認したいと言っていますが、どのように」

「……そうね、もう少ししたら聞くわ。朝食のついでに」


 口に手をかざし、ふぁ、と大きく欠伸して。

 リッチは杖を片手に立ち上がった。


「肩を貸しましょうか」

「大丈夫よ。次の休みに調整するから」


 どうやら脚の具合が優れないようだ。

 あの日の夜からずっと続く不調の原因を、彼女はまだ見つけられずにいるらしい。


「それじゃあ……アポロ。鏡は見たかしら?」

「はぁ、まぁ、そう、ですね」


 周囲に向ける関心をもう少し自分に向けて欲しいものだ。彼女が不調に陥れば困る人は沢山いる。


 彼女を独占しようと思えば出来てしまう。私達は、贅沢なのだと知った。


「今日は髪を上げてみたのね? 似合ってるけど、髪留めはもう少しいいものを使いなさい。今日はそれでいいけれど、次から気を配ること」

「そんな。誰も気にしませんよ」

「私が気にするの。分かった?」

「……不承不承ながら、了承します」


 務め始めた時よりも、遥かに柔らかくなった髪を撫で付け、まだ硬い表情で微笑んだ。



「それで? ミーシャはどこなの?」

「仕事中です。呼び出したのでそろそろ来るとは思いますが」

「そう」


 朝食を頬張りながら、リッチは手元の端末を弄る。

 ゆっくり食べたいとごねたけど、時間が無いから仕方がない。


「あと一時間以内に出発して、移動が二時間。その間にスピーチの原稿を作ってください」

「別にアドリブで話したって問題ないでしょ」

「それは……そう、ですけど」

「オーライ。確認したわ。メイド長を呼んで」


 画面の電源を落とし、彼女はすました顔で食事を続ける。


「ああ、そうだ。貴方にそろそろ休暇を与えようと思うの。休みたい日を後で教えてちょうだい」

「別に必要ありません」

「そうもいかないわ。私は貴方の雇い主よ。どれだけ拒もうとちゃんと休ませるから」


 それから「三ヶ月休まないなんてどうかしてる」と付け加えて、私を手で追い払う。

 朝のリッチは機嫌が悪く、最近は特にそれが顕著だ。朝食を摂る姿は特に見られたくないらしく、なんらかの用事を体良く押し付けられるのが日常となりつつあった。




「なーるほど。そんでしょげてるってわけね」

「ミーシャ、仕事に戻ってください」

「アーハン? 何オメー、アタシが仕事ほったらかしてサボってるって言いたいわけか?」

「違うのですか?」

「全く以てその通りよ。あんだけ広いと草刈りもやってらんないわ」

「仕事に戻ってくださいよ……」


 口笛を吹きながら私の隣で何やら道具を弄るミーシャ。

 目の前にメイド長がいると言うのに、この人はやる気があるのだろうか。


「ま。冗談はさておいて、ちょいと心配ってのが本音さね。会場の関係で今回アタシは休みだし」


 こればっかりはね。

 そう言うミーシャは落ち着かない様子で、倉庫内の箱を徐に整理し始める。

 どうやら奥にある道具が欲しいようだ。庭仕事に使うのかな。


「白兵戦も出来るとは言っても、そのお株はアンタにあるわけだし。信じてもいるけど、自分が行かない現場ってのはどうもねぇ」


 欲しかったのは草刈り機の替刃か。


「心配してくれるなんて意外ですよ、ミーシャ」

「当然。ま、本音を言えば任せられるのが一番良いんだけど」


 そのやり取りが微笑ましいと言いたげに、メイド長は一向に口を挟まない。

 出発の時間も迫っている。そろそろ身支度を整えないと。


「意外と言えば、アンタもね。その髪、似合ってる」

「ああ……これはその……」

「こないだ買ってきた雑誌に載ってたのよね、執事さん?」

「メイド長……内密にとあれほど……」

「あら? 私達は貴方の『内側』でしょ?」

「抜け目ない方だ……」

「それに、そろそろ名前で呼んでちょうだいな。私にもちゃんと、アデーレ・ガジュマリアって名前があるんですから!」

「これは失礼しました、アデーレ婦長」


 アデーレは自慢げに胸を張る。

 さて、私はミーシャの追求をかわさないと。


「なに、なに? あんた雑誌なんて買ってんの!? あんな、如何にもそんなもんキョーミないですーみたいな顔してた小娘が!?」

「興味を持てと言われましたので、髪型くらいはと」


 キャイキャイと騒ぐミーシャを庭まで引っ張って、私はようやく自分の支度に取り掛かるのだった。



◆ ◆ ◆ ◆



 時間より少し早く車を回し、待機させておくと、少し遅れてリッチがアデーレを引き連れて来た。

 いつものメイド服ではないところを見るに――


「今回はアデーレも来てもらうわ。医療班としてね」

「てっきり家事だけかと……」

「あら失礼しちゃうわね執事さん。こう見えても数年前まではゴッド・ハンドなんて密かに言われていたのよ?」


 リッチはなんとも鬱陶しそうに髪を乱して、まだ眠そうな目でアデーレを見た。


「別に、怪我なんかしないもん」

「あらら、そう言う時は決まって大変なことになるのはどこのどなたかしらね、リッチェル」

「口が減らないんだからもう! ねぇアポロ、貴方からも言ってよ。もう子守されるような歳じゃないって!」

「心強いです、アデーレ婦長」

「ねぇアポロったら!」


 ミーシャが言うに、アデーレとリッチは随分古い仲だと言う。

 なんでもまだ両親が生きていた頃からの付き合いらしく、最初の義眼手術にも関わったんだとか。

 一年程の間だが、戦場での医療経験もあると聞いた。

 心強いことこの上ないな。私一人ではリッチのわがままを抑えきれない。


「もう、もう! いつまで経っても母親みたいに振る舞うんだから、嫌になっちゃう!」

「私にとってはいつまでも子供よ、可愛いリッチェル」

「そういうこと言うの、禁止!」


 今日の仕事は四時間もの講義一本。

 リッチの護衛は、それほど手を焼かずに済みそうだ。


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