その4
二年生になって半年、学校の空気が最近おかしい。
「ねぇ、イシタマ様って知ってる?」
「アレでしょ?憎い相手に天罰を与えてくれるっていう神様」
「そう、酷いイジメとかしてた2組の子は家から出なくなったんだって」
「どんな天罰が下ったんだろうねぇ」
こういう話があっちこっちで聞こえる。
もちろん私や由香里はそんな事はしてない。
「……どういう事だと思う?」
「誰かが、イシタマ様の名前を使って復讐をしたと思ってましたが、それにしては数が多過ぎますね。噂に出てるだけで8。そしてそれ以上の数の子が不登校になったり転校したりしてます」
私達が作ってたイシタマ様が何かヤバい事に使われてる。
でも、由香里のカメラとかを確認してもイシタマ様に復讐をお願いする人しか映って無いのが現状だ。
「…………仕方ありません。必要以上に頼りたくはなかったんですが、従姉に意見を聞いてみます」
由香里も現状に責任を感じてるみたいで、嫌がってた従姉からの助言を貰う為にスマフォを操作し出す。
かけたスマフォは二コールもしない内に繋がった。
『はいはーい、頼る美人なお従姉さんだよ。どうしたのかな由香里ちゃん?』
「実はですね――」
かくかくしかじかとイシタマ様の現状を従姉さんに説明してく由香里。
それを聞いた従姉さんはあっけらかんに応えてくる
『うん、それは完全に乗っ取られてるね。まぁ既にある七不思議とか噂とかを利用した方が手っ取り早いし、誰かさんがイシタマ様を使うのも納得かな。確認したいんだけど、二人はその誰かさんにイシタマ様の製作者ってばれたりしてない?』
「それは、分かんないです。こっちは誰がやってるのか分からないんで確認のしようもないですし」
『じゃあ聞き方を変えよう。誰か知らない人から接触とかは無かった?知ってる人でもイシタマ様関係で何か聞かれたとかは?』
「私の方はありませんでしたけど」
由香里がこっちを向いたので、否定を込めて首を横に振った。
「梓ちゃんも無いそうです」
『そっか。使ってたカメラとかにはアドバイス通りに指紋とかは残してないよね』
「はい」
『なら惜しいけどカメラも回収せずに放置安定。二人とも、もうイシタマ様から手を引いた方がいいよ。イシタマ様の話題が出たらいつも通りに適当に反応して流して、とにかく今イシタマ様を利用してる誰かに特定されないように。人を引き籠りや転校させる程の事をするんだ、頭のリミッターが外れてるヤベェ奴な可能性が高いからね。誰かさんはイシタマ様の天罰を邪魔されるのをもっとも警戒してる筈。それをしそうな相手に、どんな“天罰”を下してくるか、ちょっとワタシでも分かんない』
「でも、今のこの状況は―――」
『創った物語が利用されただけで由香里たちに罪はないよ。天罰の責任はイシタマ様を使ってる誰かで、それをどうにかする責任は学校関係者。由香里たちはとにかく、関わらない様に。ホントに何されるか分からないんだから』
それから従姉さんは私達にイシタマ様に関わらない様に何度も念押しして通話は終わった。
通話が終わっても、由香里はしばらくスマフォを下げようとはしなかった。
ただ卒業した後も残るネタ話を一つ作りたかっただけだったのが、こんな事になってしまって一番堪えているのは由香里だろう。
それをどうにかしたくて縋った従姉さんからは、危険だから放置しろという厳しい言葉が返ってきただけ。
従姉さんの言う事は間違ってない。
顔も分からない相手がどんな事をしてくるか分からない以上、知らいない子達よりも従妹の由香里の心配をするのは身内として当たり前。
由香里もそれは分かってるし、無理に止めようと動けば、私にも危害が来るのを恐れてもいるだろう。
由香里はそういう子だ。
対して私は由香里程の強い責任感は無い、無責任なダメな子供だ。
これがフィクションの主人公とかなら、由香里を元気づけて一緒にイシタマ様を使う“誰か”を探す為に動くだろう。
けど私はフィクションの主人公とは違って、見知らぬ誰かよりも、特に仲の良くない見知った子よりも、由香里や私自身の身の安全の方が大事なのだ。
だから私は由香里の手を取ってスマフォを下げさせる。
由香里は俯いたまま動かない。
窓の外をみれば、紅葉になった葉が風に吹かれて落ちて行った。