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小指

作者: A.I

 夏ですね。そして夏と言えばホラー。なので書いてみました。実際何も怖くありませんので、気軽に読んでください。



 放課後。部活生も帰り静まり返った校舎。

 淡い月明かりに照らされた教室。この学校の四階で一番、北にある教室で、玄関からかなりの距離があり利便性が悪い、と言うことで今は使われなくなっている。強いて言えば、何か要らないものだとかを置く物置きに使う程度。

 そんな教室にポツンと向かい合うように佇む二つの椅子と、その片方の上に乗った手紙。

 そしてその手紙には小指の無い手形がついていて、小指があるはずのところに───


 「───私の約束、覚えてる?………ってさ。どうよ、怖くね?」


 クラスで一番のお調子者の弘人(ひろと)がたどたどしい語りで怪談を話していた。

 私達の間では今、怪談が流行っています。高校生にもなって怪談?……とも思ったが、これが以外にも面白くついつい聞き入ってしまう。

 今はいつもの四人で昼食を取りながら、各々がどこかで聞いたり、自分で作った怪談を話していました。

 

 「今の、確かに良かったよね。いつもはなんか、幼稚な自作の怪談もって来る癖に今日のは、なんかゾクッてしたよ」


 「幼稚ってなんだよ!? いつもも怖ぇけど、今日のも怖ぇ、だろ!」


 私の幼なじみの幸大(こうだい)の評価に弘人は幼稚な反論をしている。確かに、私もそれは感じた事だ。いつもは仕様もない馬鹿げた怪談ばかりだが、今日のは本当に怖かった。


 「それな。私も思ったわぁ」


 中学からの友人の優花(ゆうか)が軽いノリで同意を示す。


 「千紗(ちさ)はどう思った?」


 「えっ? えっと……私も優花達と同じかなぁ」


 幸大に感想を聞かれたが、皆と同じような感想しか思い付かなかった。


 「だよねだよね!」


 優花がニコニコしながら私の腕に絡み付いてきた。そんな感じで弘人の怪談の評価をしていると、弘人は不服そうに口を尖らせている。


 「なんだよ! 皆して! そうだよ。どうせ、俺が作った怪談よりも他の誰かが作った怪談方が面白いですよ!」


 やはり、と言うか。今回の怪談は弘人自身のオリジナルでは無かったようだ。まあ、皆、薄々気づいていたとは思うけど。


 「やっぱり。お前が作ったのじゃなかったのか」


 幸大はやれやれ、という感じに首を振っている。

 優花はそれを見てクスクス笑っていた。


 「えー、でも誰が作ったの?」


 「私も知りたい」


 優花が本当の脚本家を尋ねたから、私も同意をして弘人に促した。


 「別に、誰って言うのは知らねえよ? なんかさ、昨日。陸上の顧問に部活サボった罰として図書室の掃除させられてたんだよ。そしたらさあ、表紙もなんにも無い、ずっと白紙の本を見つけてさ」


 そう言うと、弘人は机の横にぶら下げてあったスクールバックの中から本を取り出して皆の前に置いた。


 「えっ? 何これ?」


 優花がそう言って真っ先に本を取り、ページをパラパラ、と捲った。

 そこには、弘人の言う通り何も書かれておらず、何故かちょうど真ん中のページ辺りに黄ばんだ紙切れが挟んであるだけだった。


 「えっと……これに書いてあるの?」


 優花が黄ばんだ紙切れを取り出して開いた。そこにはさっき弘人が話した内容が書かれていた。多少、弘人によるリメイクがされており若干の内容のずれはあるものの、大体同じである。


 「へぇぇ、すごいねこれ。余計ゾッとするよ」


 幸大がそう言いながら優花から紙切れを奪った。

 優花が何か文句を垂れているが幸大は構わず続ける。


 「それでさぁ。どうしてこんなの、俺たちに見せたの?」


 幸大の問いに弘人は待っていましたと言わんばかりに、笑顔で答えた。


 「それがさぁ、本当にそんな教室があるのかなぁって思ってさ。聞いてみたんだよ顧問に。そしたらさ、あるんだって。四階の一番北に物置部屋が。だからさぁ、今夜行ってみね?学校に忍び込んで」


 弘人が馬鹿な事を言っているなぁ、と思いながら聞き流していたが、意外にもルールに厳しい幸大が賛成した。


 「いいな、それ。………じゃあ、今夜2時校門前に集合な」


 「えっ? それって私達も参加?」


 私はとっさに幸大に聞いた。


 「当たり前だろ。こんな話を聞いたんだから、この話を聞いた四人全員で行くだろ。ふつう」


 「いいじゃん、千紗。私達も行こうよ」


 何が普通なのか解らなかったが、優花がこう言うので行くことにした。



 ●●●



 深夜2時。良い子はとっくに鼾をかいて眠る頃だ。けれど、私達は校門の前でいそいそと侵入経路を考えていた。


 「でもさぁ。どうやって入んの?」


 優花の質問は当然だと思う。

 校門のシャッターは乗り越えることが出来るが、校内に侵入するのは不可能だと思う。


 「大丈夫だよ。何故か、いつも体育館の器具室の窓が空いてんだよ」


 そう言って弘人がずかずか、とシャッターを乗り越え、体育館に行ってしまった。


 「えぇ、どうする? 行っちゃったよ? 私達だけ帰る?」


 私は眠くて早く帰りたかったので、ついそんなことを言ってしまった。


 「あはは、弘人を一人置いて帰るのもそれはそれで楽しそうだけど、やっぱり、怪談の真相を確かめる方が面白そうじゃない?」


 そう言って幸大も、行ってしまった。


 「ほら、ビビってないで千紗も行くよ!」


 不本意ではあるが皆、行くようなので、私も体育館に向かった。



 体育館の器具室の窓は本当に空いていた。

 私達はそこから侵入し、問題の教室へ向かっていた。


 「ねえ、夜の学校ってさぁ、雰囲気あるよねぇ」


 「それな。俺もマジ思ったわ」


 優花と、弘人が軽いノリでそんなことを話していた。

 確かに夜の学校には、とてつもなく冷たい空気が漂っていて、別世界に入り込んでしまったような感じがする。なんというか、首筋の辺りがチリチリとする感じだ。


 「てかさ、問題の教室ってさ何処だっけ?」


 「俺の怪談、ちゃんと聞いてた? 四階の一番北だって」


 「いやぁ、でもさ。もう四階着いてるはずだよね?」


 「えっ?」


 優花が突然、怖いことを言い出した。

 確かに、普段よりも階段がやけに長い気がする。でも、それは暗くて足元がみえないからで………。


 「それは暗いからだろ? ……ほら、懐中電灯。貸してやるよ」


 幸大が否定してくれた。

 そうだよね、そんなわけ無いよね、と思いながら幸大から懐中電灯を受け取り、また歩き始めた。


 ……。

 …………。

 ……………………。


 あれ? 多分、皆解ってる。証拠に弘人と優花はさっきからずっとくだらない話をしているし、幸大は何かを必死に考えている。

 ……そう。行けども行けども、四階にたどり着かないのだ。これはもう暗さのせいでも、なんでも無く、ただただつかないのだ。


 「なっ、なあ。なんかさぁ、おかしくね?」


 弘人が耐えかねてそんなことを言った。


 「ちょっと一回戻ろう」


 幸大がそう言って皆を引っ張って無理矢理に降りてようとする。


 「どうしたのさ、幸大も弘人も気のせいだよ」


 優花は気丈にもそんなことを言うが、彼女自身、理解しているはずだ。そして、私と何となく同じような事を考えている気がする。降りてはいけないと。振り返ってはいけないと。

 けれど、幸大は耐えかねて後ろを振り返ってライトで照らした。


 「───ッ!? なんだあれ!」


 幸大の声に急かされ振り返った。

 そこは、廊下の元の色も解らないぐらいに無数の赤い手形で埋め尽くされていた。


 「───ッ! なっ……なんなのよあれ!?」


 優花は口を押さえて、この不可思議すぎる現象に対する疑問を漏らした。


 「……なあ…なんか聞こえないか?」


 弘人は震えながらそんなことを呟いた。

 正直、もうこれ以上、おかしなことが起きるのは御免だ。だから、どうか気のせいであってほしい。

 そう思いながらも、私は怖いもの見たさに耳を済ませた。


 ……………ヒタ。

 …………ヒタ、ヒタ。

 ………ヒタ、ヒタ、ヒタ。


 肉質な足音が聞こえる。そして、それは多分、こちらに近づいてきている。


 「ね、ねえ足音よね」


 優花は否定してほしそうに、そう言った。けれど、残念ながらそれは足音で間違いない。


 「……逃げろ」


 「えっ?」


 「逃げろって早く!!」


 幸大が突然に叫んだ。

 多分、彼はその足音の主の姿を僅かにでも目にしてしまったのだろう。なんせ、『逃げろ』と言ったときの彼の剣幕は肌がチリチリする程の迫力があった。

 その尋常ではない危機を感じ取った私達は終わりの見えない階段をひたすらにかけ上った。その間も、常に足音は聞こえていた。


 ………。

 ……………。

 …………………。


 我武者羅に走っていて今まで気付かなかった。

 私が今、一人でいることに。

 しかも、いつの間にか私は最上階の四階に達していた。それでも尚聞こえる足音。私はこの足音の主から身を隠すため、すぐ近くの教室に入り鍵を閉めた。入ってすぐは鍵が掛かっていなかったことを幸運に思った。けれど、そこは弘人の話した一番北の教室であった。

 しかも、残念なことに教室には二つの向かい合う椅子と手紙があった。私の恐怖はもう既に限界である。気のせいか、右の小指が気になって、仕方がない。もう一刻も早く逃げ出したいのに、体が言うことを聞かない。まるで自分の体ではないような錯覚に陥るほどだ。けれど、私は歯を食いしばって椅子の方まで這いずるように移動した。そのときだった。閉めたはずの鍵が独りでに開き、足音がより強く響きだした。


 「止めて、来ないで…………!!」


 口をついて出るのは無意味な虚しい拒絶の言葉だ。

 私は今、真の恐怖を味わっていることだろう。見えないものへの形なき恐怖。その恐怖ゆえに心臓が軋み、頭が思考を棄てる。

 

 「いやだっ!止めて、誰か助けて!!」


 最早、怖い以外のなにもかもが解らない。それでも、私は必死に助けを乞う。けれど、ドアは無慈悲にも開け放たれた。そしてそこに立っていたのは同い年ぐらいの少女だった。その少女は私を素通りし、手紙の無い方の椅子に腰かけた。この目の前で起きている現象に私は困惑した。そして、少し安堵した。怖いには怖いが、なにも無いのでは無いかと思ったからだ。けれど、そんなことはなく、腰かけた少女はノイズの混じった声で恐ろしいことを話した。


 『ちざちゃん゛。ずっとあ゛ってタよ? やぐそくおぼエテる?』


 彼女は私の名前を呼んだ。そしてから、彼女はその眼球のない目で私を捉えると、口を大きく開けて笑いだした。その笑い声は、金属音のように甲高く、機械のように抑揚がなかった。いきすぎた恐怖に私は失禁してしまったが、それももう気にならない。今はただ、この悪い夢が覚めるのを待つだけだ。

 

 『ちざチャん。やくぞく。め゛をクレるってい゛った』


 まるで見に覚えのない話が進んでいく。

 そして彼女の枝のような右腕が私の右目に向かって来る。抵抗しようにも体が言うことを聞かず、なにも出来ない。そして、そのまま彼女の人差し指が私の目に突き刺さった。

 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。最早、私には理性もなにも残っていない。


 『ぎれいなめ゛。ちざちゃん、やぐそくあ゛おってくれたからこれをあ゛ゲル』


 そして彼女は私の前に見覚えのある指を放ってきた。

 恐る恐る私は残った左目で自分の右手を見た。そこには綺麗に小指だけがない私の手があった。私が自身の手から目を離すと、いつの間にか左目も見えなくなっていた。

 そして、私の意識は真っ暗な視界と共に消えていった。


 ───

 ──────

 ─────────


 「はっ!………はぁ…はぁ」


 どうやら夢オチのようだ。私はいつものように自分のベットで寝ていた。

 ちゃんと小指も………………無い?

 多分、全然怖くないので適当にディスってください。お願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章構成が上手いのでしょうか。 非常に引き込まれます。 ちょっと量が多いかと思いましたが、そんなことなくサクサク読めました。 逆に物足りないぐらいです。 最後まで緊張感があって読み応えがあ…
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