70話 公園でのトークタイム
本当は昨日投稿するつもりでしたぁあああ! すみませんでしたぁああああっ!
「そうか? 俺は可愛い系だと思うけど」
一瞬狂愛さんの異様な雰囲気に息を呑んだが、すぐに平静を取り戻しそう返す。
「そうですか? ワタシはキレイ系だと思いますよ。大人の色気が出てて」
子ども体型のかすみんが……? 見た目相応に子どもっぽい言動があって、おおよそ大人らしさの見られない、あのかすみんが?
まぁ確かに、ちょっと暴走したときのかすみんは大人の色気というか、妖艶さが窺えるが、普段から姿を覗かせているわけではない。
いろんな意見があるもんだな。
「にしても、見てたんだね」
「偶然ですよ。窓際の席だったので、外から見えたんです」
葉雪さんをつけていたわけじゃありませんよ、と怪しい笑みを浮かべる狂愛さん。
思わず、頬が引きつってしまう。
どうしてこうも、犯人を匂わすようなことしてくるのだろうか。
もはやわざとやってるのではと疑いたくなってしまうほど、狂愛さんの発言は怪しい。
本当に、狂愛さんはよくわからない。まぁ今日で二日目だから、知らないことのほうがわからなくて当然だが。
「葉雪さん、このあとお時間ありますか?」
「まぁ、少しくらいなら」
本当は、そろそろ朝日や蓮唯ちゃんが暴れそうなので帰らねばならないのだが、狂愛さんのことを知る貴重な機会を逃すわけにはいかない。
「なら、どこか適当なお店に入りますか? それとも公園がいいですかね?」
「狂愛さんの都合がいいほうで構わないよ」
「そうですか、わかりました。あと、一つお願いしてもいいですか?」
頷いた狂愛さんは、人差し指で一を示し首を傾げた。
「なにかな?」
「その、できれば『さん』意外で呼んでほしいです。呼び捨てか、ちゃんづけか、あだ名とか」
さんづけは少し距離感があって寂しいんですよねと恥ずかしそうに微笑する姿は、ストーカー疑惑がかかっているとは思えないほど年相応の可愛さがあった。
本当に、よくわからない子だ。
「わかった。じゃあ狂愛ちゃん、でどうかな」
そう言うと、狂愛ちゃんは「わかりました」と絵顔を咲かせた。
なるほど、可愛いな。
普段から茜や楓ちゃんといった美少女たちに囲まれ目が肥えた俺からしても、狂愛ちゃんは可愛らしいと思える。
こんな子を、どうして疑わなければならないのか。ここ最近の出来事がなければ、絶対にしないだろうに。
「じゃあ、移動しましょうか」
「あぁ、わかった」
◇妹◇
それから俺たちは商店街から移動して、公園にやって来た。
その公園というのは、数日前に狂愛ちゃんと初めて会って、一緒に財布を探したあの公園だ。つまり、羽真宅にもそこそこ近い。
道中、この公園を選んだ理由を聞いたところ、家が近いからということらしい。まぁ、妥当な理由である。
しかも「あの公園で走ってたなら、葉雪さんの家も近いと思ったので」といった配慮もあったようだ。これだけ聞くと狂愛ちゃんマジ天使。
公園の敷地を跨ぎ、俺と狂愛ちゃんは適当なベンチに腰かけた。
そこはかとなく距離が近いと感じるのだが、狂愛ちゃんは気にする様子もなく「なに話しましょうか」と微笑む。
「じゃあ、狂愛ちゃんの趣味は?」
「あはは。葉雪さんったら最初からグイグイきますね」
「そうか? なら別の質問に──」
「いえいえ、大丈夫です。そうですね、日記をつけること、ですかね。その日あったことを記録してるんです」
「そうなんだ」
「はい。例えば、『散歩していたら可愛いわんちゃんが擦り寄ってきた』とか、『無くした財布を優しいお兄さんが一緒に探してくれた』とか──今日なら、『葉雪さんと話せた』とかですかね」
ふふっ、とどこかからかうような笑みが、実に眩しい。青春真っ只中ですかと聞きたいくらい。
普通に可愛い分、反応に困る。
「俺のことも日記に書いてるんだ」
「はい、大きな出来事ですからね。他には、その日食べたご飯や面白かった番組なんかも書きますよ」
細かく書きすぎて報告書みたいになってます、と狂愛ちゃんは少し恥ずかしそうに頭の後ろに手を当てた。
「確かに」
俺も思わず、ふっと笑みを漏らす。
「あーっ、今笑いましたね!? もぅ恥ずかしいじゃないですかーっ」
すると狂愛ちゃんは、唸りながらぽかぽかと肩を叩いてきた。
そういった行動は茜や司音ちゃんがたまにしてくるが、まさか狂愛ちゃんもしてくるとは。
会って数日だというのに、狂愛ちゃんはパーソナルエリアが狭いのだろうか。
もぅ、と頬を膨らませる狂愛ちゃんの姿に頬が緩むのを感じつつ、じゃあ、と次の質問に入る。
「好きな食べ物は?」
「そうですねー。あまり食で好き嫌いはないんですが、強いて挙げるなら白身魚ですかね、よく食べるので」
そう答えると、狂愛さんはビシッと人差し指を差してきて「葉雪さんはなにが好きですか?」と尋ね返してきた。
「そうだな。俺も好き嫌いするほうじゃないが……やっぱり肉は好きだな」
特に牛。高いやつはその値段にあった、上質な旨味がする。
「やっぱり、葉雪さんも男の子なんですね」
「まぁな」
「じゃあもう一つ。葉雪さんは料理をしますか?」
「するよ、ほぼ毎日」
「毎日ですか? すごいですねぇ。ワタシも少しはしますが、毎日なんて考えられません」
「まぁ、慣れるとそう苦でもないよ」
「なんだか、葉雪さんプロの料理人さんみたいですね」
「あはは。プロはさすがに言いすぎかな」
狂愛ちゃんの称賛に気恥ずかしくなり、頭に手を回す。
いくらされても、褒められるのは慣れないものだ。
それからしばらく話し込んでいると、ふとスマホが振動した。メッセージではなく、通話のようだ。
発信者の場所には、羽真楓と記されていた。
しまった、もう十二時を過ぎてるじゃないか。
チラリと画面上を見てみれば、正午を回ってから二十分も経っていた。
早く帰らねば、朝日や蓮唯ちゃんだけでなく、茜や光月までも暴れだしそうだ。
「狂愛ちゃん、ごめん。そろそろ帰らないと、昼飯はまだかって電話きちゃった」
「ホントだ、もうお昼時になっちゃってましたね。早く帰らないと一時過ぎちゃいますね」
今日はもうお開きにしましょうか、と狂愛ちゃんは腰を上げた。
「そうだね、ありがとう」
「いえいえ。また会えたら話しましょうね」
「あぁ」
そうして、狂愛ちゃんとのトークタイムは幕を閉じた。
余談だが、帰宅したら朝日と蓮唯ちゃんが少し怒ったように頬を膨らませ玄関に仁王立ちしていた。
まぁ、そんなところも可愛いのだが。