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64話 かすみんと一夜 1

遅くなってすみません!

 さんざんはしゃぎ、写真を撮りまくった日の夜。

 

 バーベキューにも負けない豪華な夕食を食べ風呂でサッパリしたあと、約束通りかすみんに添い寝することとなった。

 

 だがまだ寝るような時刻ではなく、今は二人ベッドに腰掛け雑談を交わしている。

 

 

「こうして夜に話すなんて、久しぶりだな」

 

「そうだなぁ。昔かすみんが面倒見てくれたとき以来か?」

 

「そうなるな」

 

 かすみんは頷くと、懐かしむように笑みを浮かべる。

 

「あのときの葉雪(はゆき)は可愛かったな」

 

「男子に可愛いとか言うなよ」

 

 とても失礼な言葉に、俺は真顔で返す。

 

 だがかすみんは「別にいいだろ」と反論してきた。

 

「男子でも可愛いやつはいるぞ。特に小学校から中学校にかけてなら、大抵の男子は可愛い」

 

 その発言に俺は身震いをしながらかすみんから距離を取る。

 

「かすみんってそっちの趣味があるのか?」

 

「冗談はよせ。洒落にならんだろ」

 

 俺が尋ねると、かすみんは鋭い瞳で睨み付けてきた。

 

 怖いから是非とも止めていただきたい。

 

 なんてくだらないことを胸中で呟いていると、呆れたようにかすみんがため息を吐いた。

 

「まったく、昔の葉雪は素直で可愛がったんだがな」

 

「俺は今でも素直だぞ?」

 

 そう反論すると、かすみんは「ウザいくらい素直だよな、シスコンとして」と呆れ半分に頷いた。

 

「別にいいだろ、シスコン。尊い家族愛だろ」

 

「お前の妹の半分近くは実の家族じゃないだろ」

 

「それは(あかね)に文句を言ってくれ……というか、かすみんもそうだろ?」

 

「あぁ、そうだな。誰かさんが私の一世一代の告白を、シスコンだからと断ったから仕方なく、なぁ?」

 

「うぐっ……その件は本当にすまないと思ってる……」

 

 本心ではあるが、ふざけた振り方だと自分でも思っているので、俺は素直に謝罪する。

 

 だがかすみんは寛大にも「そのことはもう気にしてない」と答えた。

 

「一応は、お前の特別な存在になれたわけだからな」

 

「かすみん……っ」

 

「だがまぁ、お前が申し訳なく思うなら、この場でヤって私を妻にしてくれてもいいんだぞ?」

 

「かすみん……」

 

 俺の感動を返せと視線を送ると、かすみんはどこ吹く風と聞き流して「私はまだ諦めてないからな?」と色っぽく微笑んだ。

 

 少しでもドキッとした自分を殴りたい。

 

「ふっ、どうやら可能性はあるみたいだな?」

 

 俺の動揺を感じ取ったのか、かすみんはニヤリと笑ってみせた。

 

 そして誘惑するように、黒い薄地のネグリジェの肩紐を片方下ろす。

 

 肩紐が垂れるのに連れて、かすみんの白くきめ細かな肌が露出されていく。

 

「──ほら、夢中になってるぞ?」

 

「っ!?」

 

 かすみんの声で我に返り、俺はすぐさま視線を逸らした。

 

「べっ、別に見惚れてたわけじゃないし!」

 

「ふふっ、なんだ、まだ可愛いところがあるじゃないか」

 

 目を逸らしているのでわからないが、たぶんかすみんはとても愉快そうに笑っているのだろう。

 

 くっ、こういうときだけ大人ぶりやがって。

 

 そう悪態を吐いていると、ピタリとかすみんが背中に抱き付いてきた。

 

 互いに薄着なため、かすみんの体温と感触がしっかりと伝わってくる。

 

「葉雪は温かいな」

 

「かすみんも、結構体温高いと思うけど」

 

「興奮してるからな」

 

「はいはい、そういう冗談はいいから。……冗談だよな?」

 

 顔が見えないため真偽が読み取れず、不安になってくる。

 

「なんなら、確かめてみるか?」

 

「どうやって確かめるっていうんだよ」

 

「そうだな……触ってみるか?」

 

「うちは健全で通してるからNGで」

 

 なんて背中越しで会話することしばらく。気付けば就寝時間が近くなっていた。

 

 そんなに動き回ったわけではないが、多少体に疲れも溜まっており、俺はかすみんに提案してみる。

 

「ついに私とヤる気になったか」

 

「ちげぇよバカ。普通に寝るだけだ」

 

「普通に寝るとか、お前も盛った猿だったんだな」

 

「男子高校生を発情期呼ばわりしないでくれる?」

 

「冗談だ」

 

 そう言ってかすみんは楽しそうに笑い声を上げる。

 

 あんまりからかわないでほしいのだが。

 

「なぁ葉雪」

 

「なんだ?」

 

「こうして抱き付いても、興奮しないか?」

 

「……」

 

 かすみんの質問に、俺は押し黙ってしまう。

 

「葉雪?」

 

「どうしたんだ?」と尋ねてくるかすみんに、俺は平然を装いつつ「なんでもない」と返す。

 

「ふぅん?」

 

 かすみんは(いぶか)るように相槌を打ち、離れていった。

 

 背中に残るかすみんの体温と感触が、どことなく寂しさを感じさせる。

 

「なぁ葉雪」

 

「なんだ──って、ちょっ!?」

 

 かすみんに呼ばれそちらを向くと、かすみんは床に立ってネグリジェの裾をたくし上げていた。

 

 だが俺が驚いたのはそこではない。

 

「なんで下着付けてないんだよ!」

 

 俺は扇情的な光景に目を逸らす。

 

 さすがに直視できるようなものではない。というか直視してたら俺の理性が爆発四散しそうだ。

 

「はっ、早く下ろせ!」

 

「肩紐を?」

 

「摘まみ上げてる裾を、だよ!」

 

「はぁ、仕方ないな」

 

 やれやれといった声音に、俺は堪らずため息を吐く。

 

 まったく、やれやれなのはこっちだっつうの。

 

 かすみんの言動に呆れていると、後ろから「もういいぞ」と声を掛けられる。

 

「はぁ。かすみんは大人なんだからもう少し常識的な──」

 

 説教をしてやろうと振り向くと、あまりの光景に言葉を失った。

 

 体を守る薄地の寝間着は取り払われ、かすみんは一糸まとわぬ姿で立っていた。

 

 大事なところは手で隠しているも、肌色が多すぎてカバーできていない。

 

 窓から微かに入り込んでくる月明かりは、瑞々しさを失っていない柔肌を照らし、妖艶さを醸し出している。

 

 蠱惑的すぎるかすみんの姿に、俺は間違いなく見惚れていた。

 

 だがそれも一瞬のこと。正気を取り戻した俺は咄嗟に目を逸らす。

 

 だが──

 

「もっと、ちゃんと私を見てくれ」

 

 かすみんに顔を掴まれ、強制的に無期を戻されてしまう。

 

 視界に入ってきたのは、一切隠されていないかすみんの体。

 

 先程よりも刺激が強い姿に、俺は動揺のあまり思考が飛んでしまった。

 

「もっと私を意識してくれ」

 

「あ、ぅ」

 

「体は小さいが……私はちゃんと大人なんだぞ?」

 

「それは、わかってるけど」

 

「ふふっ、あの葉雪もさすがに戸惑うか」

 

「あ、当たり前だろ!」

 

 心底嬉しそうなかすみんは、どこか満足したように「服着るからあっち向いててくれ」と言ってきた。

 

 俺は促されるまま回れ右をして、かすみんが着替え終わるのを待った。

 

 その間、かすみんの扇情的すぎる姿が何度も浮かび上がってきて悶えたのは言うまでもない。

 

 

 

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