61話 目覚めてまたピンチ
「妹ハーレム」一周年です!
目を覚ましたら、見慣れぬ天井が目に入った。
どうして俺はここに寝ているんだ?
まだ目覚めきらない脳を叩き起こし、体を起こして辺りを見渡す。
家具は最低限、壁紙は真っ白でまるで自立したての一人暮らしの家のようだ。
だが細部から滲み出る豪華さに、ここが俺たちが寝泊まりする別荘の一室だと気付く。
こんな部屋を一人で使えるなんて……最高だな。
「おっと、そういえば今は何時だ?」
もう一度部屋を見渡すが、残念ながら時計は設置されていない。
だが扉の横に俺の荷物が置かれており、その中からスマホを探しだす。
「あったあった。えっと今は……」
画面に表示された時刻は午後六時半。どうやら五時間近く寝ていたようだ。
「あれ、どうして寝てたんだ?」
そういえばと俺は記憶を遡る。
五時間前のことなどすぐに思い返され、俺は悶絶した。
そうだ、俺は砂浜に埋められて、それから夜花ちゃんの胸で窒息したんだ……
女の子の胸で窒息するなんて、我ながら情けないが……それにしても凄かった。
巨乳で人は窒息するのか……覚えておこう。
覚えておいて何になるのか。そんなことは自覚しているが念のために記憶に留めておく。
「……よし、もう大丈夫だ」
落ち着いた俺は、服装を確認したのち違和感を感じた。
おかしい、俺が埋められていたのは海パン姿の時のはずだ。
なのに俺は今、ちゃんと服を着ている。勿論下着も。
俺が気絶中に着替えるなんて芸当できるわけないし……
つまり。
「誰かに着替えさせられたってことか……」
うおっ、めっちゃ恥ずかしいじゃねぇか!
つまり、だ。俺はその誰かにアレを見られたことになる。
うぁぁぁぁぁっ……恥ずかしいぃいいいっ!
俺も妹たち──異性にアレを見られて平然でいられる程大人ではない。
ついでに、妹たちの恥ずかしい姿を見るのはいいのだ。理性が削れるが、その程度(?)で済むから。
だが視られたとなると、途端に恥ずかしくなる。
ど、どうしよう……どうすればいい。
俺は床に膝を突いたまま葛藤を繰り返すが、時間を思い出し慌ててリビングに向かった。
「……ん?」
案の定と言うか、リビングには全員揃っていた。
台所では楓ちゃんを筆頭に夜花ちゃん、凉ちゃんと家庭的な面々が夕食を作り、他の妹たちはテレビを見ていたりとくつろいでいる。
だが、どこか態度がよそよそしい。やけに俺のことを意識しているような、そんな感じだ。
何だろうと疑問に思い、俺はソファーに腰掛けている茜の肩を掴む。
茜を選んだのは、一番怪しかったからだ。
「茜、何かあったか?」
「何もありませんよ?」
茜は普段と変わらない口調で首を傾げるが、少し口角が上がっている。
これは俺が言いたいことがわかってるな。
それならこのまま訊き続けても意味はない。
なら、別の角度から探ればいい。
「茜、気絶した俺を誰が運んでくれたんだ?」
「私と楓さんと夜花ちゃんですよ」
ふむ、確かにその三人なら俺を別荘まで運べなくもないか。
「なら、俺の服を着替えさせたのは誰だ?」
その質問に、茜以外の皆がビクッと肩を跳ねさせた。
その反応に俺は嫌な可能性を思い付く。
「茜、俺を着替えさせるときその場に誰がいた?」
「え? お兄ちゃん、質問の意図がよくわかりません」
そう惚けてはいるが、先程から我慢できないのか頬が緩んでいる。
反対に、朝日や魅音ちゃんはワナワナと慌てていた。
何となくわかってきたぞー?
俺は嫌な予想が当たったことに、ついため息を溢す。
「……茜、俺を着替えさせるときその場に全員いただろ」
確信を持ってそう尋ねると、茜は「ふふふっ」と笑みを漏らした。
「そうですよ。私がお兄ちゃんを脱がせ着替えさせましたが、その間ずっと皆さんがいました」
「………………はぁ」
妹たちの様子がおかしかった理由がよくわかった。
つまりそのとき皆は俺のアレを見て、それで俺のことを変に意識してしまうのだろう。
まったく……多分茜の提案だろうな。
「そっ、その、とても立派でしたよ!」
「昔よりも……成長したな」
司音ちゃんとかすみんは、よくわからない感想を述べてくる。
俺は頭を抱えるのであった。
それから楓ちゃんたちが作った夕食がテーブルに並べられ、豪華な食事が始まった。
そのときにはもう落ち着いてきたのか、凉ちゃんや夜花ちゃん以外は普段の態度に戻っていた。
凉ちゃんは性格的に落ち着くまで時間がいるし、夜花ちゃんはその大元の切っ掛けを作った張本人だ、すぐにいつもの態度に戻れるはずがない。
まぁ明日になれば大丈夫だろ。
「ん、このスープ美味しいな」
「それ、夜花ちゃんが作ったんですよ」
「そうなのか。美味しいよ夜花ちゃん」
「あっ、ありがとうございます……」
夜花ちゃんは照れたように俯き、頬に手を当てはにかんだ。
遅れたが、今日の夕食は野菜がたっぷり入ったコンソメベースのスープと、鶏肉の照り焼き、シーザーサラダ等々その他三品目のおかずととても豪華になっている。
どれも素材その物の味かよく、また調理方法もいいのかとてもしっかりした味付けで昼のバーベキューに負けないくらい美味しい。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
楓ちゃんたちが作ってくれた料理を味わっていると、不意に茜に呼ばれ横を向く。
茜が鶏肉を俺に差し出していた。
「はい、あーん♪」
「あーん」
俺は躊躇いなくその鶏肉に食い付き、咀嚼する。
「美味しいですか?」
「あぁ、美味しい」
「ふふっ♪」
俺がそのまま答えると、茜は嬉しそうに微笑んだ。
作ったのは茜じゃないけどな。
「はっ、葉雪にぃさんっ」
と今度は楓ちゃんから呼ばれ、俺は反対側を向く。
わかってはいたが、楓ちゃんも茜に抵抗するように『あーん』をしてきていた。
「あーん」
「どうですか? 私が作ったんですけど……」
楓ちゃんが『あーん』してくれたのは卵焼き。
ふんわりとした食感で、やや甘味があって後味がさっぱりしている。
「うん、とても美味しいよ」
そう言うと楓ちゃんは心底嬉しそうに微笑んだ。
うん、めっちゃ可愛い。
俺は幸せな気分になりながら、楓ちゃんたちが作ってくれた夕食を美味しくいただくのであった。
◇妹◇
夕食を済ませた俺は、一足先に風呂に入った。
茜に聞いたのだが、着替えさせるときある程度タオルで拭いただけらしく、ちゃんと風呂に入ってくださいと茜に念を押されたからだ。
あのホワイトハウス顔負けの豪邸と変わらないくらい広々とした浴室で、俺は誰かが乱入してくる前に体を洗い終え部屋に戻る。
一息吐き時刻を確認するといつの間にか午後九時過ぎになっていた。
明日も妹たちと遊び倒すんだし、今日は早めに寝るか。
そう思いベッドに横になり、ふと思う。
もしかしたら、茜がよば──添い寝に来るかもしれない。
茜は今バレーの優勝賞品として俺との添い寝権を有している。
だが、俺は昼過ぎの夜花ちゃんのこともあり割りと限界が近かった。
今茜に来られたら危ないしな。……よし。
俺は改めて時間を確認し、まだ妹たちが出てきていないことを確認すると静かに部屋を出る。
向かう先は今回使う予定のない余り部屋の一つ。
俺は数ある部屋の中から一番奥にある部屋を選んだ。
「よし、寝るか」
俺は安心の息を吐き、ベッドのシーツを捲る。
「……」
「お兄ちゃん、待ちましたよ♪」
そこには何故か、既に茜が寝ていた。
おかしい、茜の部屋はここじゃなかったはず。
部屋を見渡すが、茜の荷物らしきものは一つも見えない。
というか、それよりも気になるところがある。茜の服装だ。
茜は今、極薄の黒いネグリジェのみを身に纏っている。
それ以外には何もなし。
つまり……体が丸見えだ。
黒いネグリジェに透ける茜の裸体に、頭が熱くなるのを感じる。
やべっ、鼻血出そう。
そんな俺を見て茜は愉快そうに微笑み、
「それじゃあ、添い寝お願いしますね♪」
下唇を舐めずる仕種が、とても淫靡に見えた。