60話 夏と海と水着姿の妹たち 5
毎日投稿十三日目です!
遅れて誠に申し訳ございません……
海と言えばビーチバレーですよね!
「そっ、それでは皆さん日焼け止めを塗ってもらったことですし、そろそろ遊びましょうか」
俺たちの前に立ちそう提案する茜は、未だ肌がうっすらと朱に染まっており声が震えている。
茜への〝お仕置き〟から早十分弱経っているが、どうやらまだ完全には回復できていないみたいだ。
ご、ごめんな茜……お兄ちゃんついやりすぎちまったぜ。
心の中で茜に謝罪し、俺は茜に「何をするんだ?」と尋ねる。
「それは──」
「「それは?」」
「ビーチバレーです!」
ドドン! と高らかに言い放ち、茜はえっへんと胸を張った。
うん、溜めた割りには案外普通だな。
ラノベでも海でバレーなんて定番だ。
まぁ変なのを提案されるより、安心できるし楽しめるからいいか。
と頷いていると、楓ちゃんがおずおずと手を挙げた。
「あの、それだと人数があわないきがしますけど」
確かに、楓ちゃんの言う通りだ。
現状ここにいるのは俺、茜、光月と朝日、かすみん、楓ちゃん、蓮唯ちゃん、凉ちゃん、司音ちゃんと魅音ちゃん、それと夜花ちゃんの計十一人。
一チーム二人で組んでいけば一人余る計算だ。
「そうですね、私たちは十一人ですから一人余ります。なのでお兄ちゃんを審判で固定したいと思います」
茜は意外なことに、俺を審判にすると言ったのだ。
いつもの茜なら「私と組んでくださいお兄ちゃん!」くらい平然と言ってくのに。
……これは何か企んでるな?
確信はないが、そんな気がする。
「それで、何で俺が審判なんだ?」
「簡単なことですよ、お兄ちゃんはハイスペックですし、私たちはか弱い女の子です。普通に敵いませんから」
ふむ、確かにそうだ。それに俺の場合、兄として妹に負けることは許されないと自戒しているし、多少の手加減はしても必ず勝ってしまう。
だが……それだけか?
そう警戒するも、今のところ危惧するようなことは何もないので、俺は静かに茜の言葉を待つ。
「それでですね、私たちで二人一組のチームを作るんですが、なるべくバランスよく組んだ方が公平さがあっていいと思うんですよ」
「そうですね。蓮唯と朝日ちゃんが組んだら結構強そうですからね」
茜の意見に楓ちゃんが賛同する。
二人とも運動系だし当然だな。
「それじゃあまずはチームを決めましょう」
それから数分間妹たちは和気藹々と話し合い(その間俺はコートを準備して)、無事チームが決まった。
順に茜、かすみんペア。光月、朝日ペア。楓ちゃん、凉ちゃんペア。司音ちゃん、魅音ちゃんペア。夜花ちゃん、蓮唯ちゃんペアの五組ができたようだ。
ルールはそのままで十点マッチ、試合形式は総当たり戦となっている。
全ての試合を終えて一番勝ちが多かったペアが優勝らしい。
さて、そろそろ始まるかな。そう思い移動しようとしたところで茜がパンッと手を叩いた。
「それでは! 今回の優勝賞品を発表します!」
その言葉に妹たちは歓声を上げ、俺は何のことだと首を傾げる。
賞品とか聞いてないぞ。もしかして事前に用意していたのか?
少しだけ気になり耳を傾けると茜は、
「優勝したペアには──お兄ちゃんと夜添い寝できる権利をあげます!」
どうやら、賞品とは俺のことだったらしい。
というか何でや、俺何も聞いてないぞ。本人の意思はお構い無しかよ。
なんて冗談半分に考えていると、妹たちが燃えていた。
皆、明らかにやる気になっている。
おかしい、ただの遊びのはずなのに部活の試合よりも熱気を感じるぞ。
「さぁ皆さん、やる気が出たところで一試合目を始めましょう!」
茜の掛け声に、皆は「おぉー!」と空に拳を掲げた。
あれ、和気藹々は何処へ?
◇妹◇
午前ももう九時半。別荘に着いてから一時間も過ぎていた。
そんな中、コートで睨み合う二組のペア。
片方は茜かすみんペア、もう片方は波瀬姉妹ペアだ。
な、何故だろう、俺には両者の間に雷が見える。
「ふふふっ、センパイとの添い寝権は私たちが貰いますよ!」
「ふふっ、そうはさせませんよ。お兄ちゃんと添い寝するのはこの私ですから! 司音ちゃんにはここで負け星を受け取ってもらいます!」
メラメラというかギラギラというか、そんな両者の闘志にプルプルと震える魅音ちゃん。
み、魅音ちゃんも大変だな。
そんな哀れみを覚えながら、俺は試合開始の合図を出す。
「えいっ!」
初手、茜のサーブから試合が始まった。
「それっ」
「えいっ」
「なんのぉっ」
掛け声は気が抜けているが、しっかりとしたラリーが続く。
互いに得点を重ねていくが、やや茜たちの方が優勢となっている。
おぉ、白熱してるな。
審判の仕事を熟しながら、普通に試合を観戦する。
最初こそ威圧があったが、このくらいなら充分楽しめるだろ。
俺は笑顔でバレーをする四人に頬を緩め、そう感じた。
結局試合は十対八で茜かすみんペアの勝ちとなった。
続く第二回戦は楓ちゃん凉ちゃんペア対夜花ちゃん蓮唯ちゃんペア。
両チームにたわわな果実がいる何とも見応えのありそうな組み合わせとなった。
「お兄ちゃん、さっきから目が楓さんか夜花ちゃんの胸にしかいってませんよ」
「そ、そんなことないぞ?」
隣にやってきた茜は、少し冷たい視線を送ってくる。
俺は顔を逸らし、試合開始のブザーを鳴らした。
楓ちゃんのサーブ、それを蓮唯ちゃんがレシーブし夜花ちゃんがトスを上げる。
たゆんっ、と夜花ちゃんの胸が上下に揺れた。
「お兄ちゃん?」
「……」
茜から送られてくる視線が冷たくなったのは、きっと俺の気のせいだ。
蓮唯ちゃんは上げられたボールをスパイクで打ち込む。
だが、意外にも楓ちゃんの反射速度が速く片手でボールを拾った。
プルプルと楓ちゃんの胸が揺れる。
「お兄ちゃん、そんなに楓さんを見つめてナニを見てるんですか?」
「い、いや、パレオが邪魔で動きづらそうだなぁって思ってただけだ」
「ふーん」と納得していない様子。
別に嘘は吐いていない。本当に邪魔そうだなぁとは思う。
気付けば俺は観戦側にいる妹たちに白い目で見られていた。
巨乳対決は惜しくも夜花ちゃん蓮唯ちゃんペア負け幕を閉じた。
続く三試合目は司音ちゃん魅音ちゃんペアと光月朝日ペアの対決。
この試合では、光月と朝日が持ち前のコンビネーションを見せ波瀬姉妹を圧倒した。
やはり双子でダブルスは強いか。
そして四回戦目、対戦カードは茜かすみんペアと夜花ちゃん蓮唯ちゃんペア。
茜たちは一勝しており、これに勝てば二勝目となり他チームより一歩リードすることができる。
そんな試合は、茜のサーブで始まった。
「やっぱりすごいなぁ」
俺は茜たちの動きに関心を示す。
妹たちのプレイには、女子のプレイでよく見る「きゃー」と声を上げながら避けるということがない。誰もがしっかりボールを追い、的確に返している。
それに割りと皆動けるから、一方的な試合にならなくてとても見応えがある。
特に夜花ちゃんはすごい。普段は控えめだが今は積極的にボールを取りに行っている。多分だが、俺と毎朝走っているからボールすぐ反応できるのだろう。
それにしても……やっぱりすごいな。ラッシュガードのジッパーを閉めているのにめっちゃ揺れる。
動けるから余計激しく揺れるんだよなぁ。この場に普通の男子がいたら前屈み待ったなしだな。
そんなことを考えていると、プレイ中の茜に睨まれた。
……試合に集中しような。
「霞さん、トスっ!」
「おう、茜決めろっ」
かすみんが高く上げたボールがゆっくりと降下していくなか、茜はエンドラインから走り高く跳躍した。
「こんのぉっ!」
パァンッ! と音を発て、八つ当たりの入ったスパイクはまっすぐ夜花ちゃんに向かう。
夜花ちゃんは自分目掛け放たれたボールに怯み、そのせいで反応が少し遅れた。
取れるかっ!?
緊張が高まる一瞬。夜花ちゃんはアンダーの構えを取るが……遅い。
ボールは減速することなく夜花ちゃんの──胸に当たり高く飛び上がった。
あ、あれはまさか! ラノベでも稀に見る巨乳にしかできない技!
「「おっぱいレシーブ!」」
奇遇にも、茜と声が揃った。
ま、まさか現物をめにすることができるなんて思ってもみなかった。
よかった……この別荘に来れて本当によかった……
俺は歓喜のあまり、静かに涙を流すのであった。
追記しておくと、このゲームは茜かすみんペアの勝利となり、着実と俺との添い寝に近付いてくるのであった。
◇妹◇
日が射す中試合は次々と行われていき、気付けば最後の試合となっていた。
残る試合は茜かすみんペアと楓ちゃん凉ちゃんペアの試合のみ。
勝利数はこの二チームが三勝ずつ、他三チームは一勝ずつとなっている。
つまり、この試合に勝った方が優勝──つまり俺との添い寝権を手に入れるのだ。
むむむ……なんだろう、俺の気分は今そこまでよくない。
やはり俺自身が賞品にされているからだろうか。
まぁ今は気にすることではない。
俺は最後の試合を開始するブザーを鳴らした。
「いきますよ──えいっ!」
茜は掛け声と共にボールを打ち放つ。
きれいな放物線を描いたボールは、ネットを越え楓ちゃんよりも少し前の位置目掛け降下する。
楓ちゃんは冷静にボールをレシーブし、それを凉ちゃんがトスを上げた。
「はぁっ!」
足場が砂にも関わらず、楓ちゃんは華麗にジャンプをしてスパイクを打つ。
「くっ……!」
茜は全力で拾いに足るが惜しくも届かず、ボールは音を発てて小さくバウンドし砂浜に跡を作った。
最初の得点は楓ちゃんたち。だが、まだ始まったばかりだ。
茜の瞳はまだギラついている。
さて、茜はどうするんだろうな。
そう期待し、俺はブザーを鳴らした。
試合は予想以上に白熱し、得点は両者十点を越えデュースに突入した。
それからも互いに一歩も譲らず点を重ねていく。
正直、テレビでやるような試合よりも白熱している気がする。
見ているこちらもとても緊張する……俺の身が懸かっているからだろうか。
「はぁ……はぁっ」
「ふっ、ふぅっ」
茜と楓ちゃんは人一倍汗を流し肩で息をする。
得点は十九対十八で茜たちの方が優勢だ。
どうなるんだこの試合……
俺は息を呑み、試合に集中する。
「…………っ!」
茜は身長の倍以上ボールを上げる。
それはまるで勝利を告げる祝砲のようで。
やけにゆっくりと感じるその光景。ボールは静かに落ちていき──
「──はいっ!」
タイミングよく跳躍した茜は、今までで一番きれいなフォームでサーブを放った。
「なっ!?」
楓ちゃんは反応を見せたが、疲れからか動けずにボールを取り逃してしまった。
ザッ……と音を発て砂場を転がすボール。
「やっ──やったぁぁぁぁぁあああああっ!」
茜は優勝が決まった途端、両手を上げ歓声を響かせた。
こうして、ビーチバレーは茜かすみんペアの勝利で幕を閉じ、俺はこの宿泊中に二人と添い寝をすることとなった。
青春って……いいなぁ。