6話 妹を守るのは兄の役目です
どうも、ブクマ登録数150人越えと総合アクセス10000越えでにやけすぎて、そろそろ通報されそうな吉乃直です。
2017/12/30.改稿
こちらも、5話同様変更です。
茜が告白されて、なんやかんやがあった翌日。
時刻は五時二十分。
俺は日課のジョギングをするために、ジャージに着替えていた。
着替え終わると、俺は音を発てぬ様廊下を歩き、玄関に向かう。
いつもの運動用靴を履き、そのまま小走りで外へ出た。
まだ四月半ばなだけあって、肌を撫でる朝東風は冷たい。
走っているうちに体は程よく火照り、頬を汗が伝う。
昨日と同じ道を走り公園に着くと、軽くストレッチを始める。
寒さで固まった体を解し、回数をやり終えると、家に向かい走り出す。
俺は早足で部屋に戻ると、着替えのシャツをとり再び部屋を出た。
そのままだだっ広い風呂に向かい、昨日と同じように汗を流す。
昨日と違う点は、脱衣所で楓ちゃんと会わなかったことくらいだろう。
部屋に戻ると、シャツの上から学校の制服を着る。
ポケットにスマホを滑り込ませ、鞄を持ってリビングに向かう。
リビングの扉を開け中に入るが、まだ誰も来ていなかった。
鞄をソファーに置くと、俺は台所に立ち朝食と弁当を作り始める。
それから数分すると、リビングの扉が開かれる。
入ってきたのは楓ちゃんだった。
楓ちゃんはこちらに気付くと、笑顔を向けて挨拶をしてくる。
「おはようございます。葉雪にぃさん」
「おはよう、楓ちゃん。今日も早いね」
俺は手を止めずに楓ちゃんに言葉を返す。
「葉雪にぃさんよりは遅かったみたいですけどね」
そう言いながら楓ちゃんは俺の隣に立つ。
「なにか手伝いましょうか?」
首を傾げて尋ねてくる楓ちゃんに、俺は笑顔で答える。
「それじゃあ、弁当のおかず作ってもらおうかな」
そう言い、葉雪は弁当箱を取り出す。
「あれ?一つ足りませんよ」
「あぁ、それは──」
◇妹◇
朝食の席には、俺含め七人がいた。
茜、光月、朝日、楓ちゃん、蓮唯ちゃん、凉ちゃんの妹六人に俺だ。
仕事の理由で、厳人さんと七波さんは妹たちが揃う前に弁当を持って家を出ていった。
俺は朝食を食べ終えると、楓ちゃんと蓮唯ちゃんの前に弁当を置く。
「「おにぃ、あかねぇの弁当はないの?」」
光月と朝日が声を揃えて尋ねてくる。
「あぁ、茜は今日学校を休むんだ」
そう言うと、二人同時に首を傾げる。
そこまで息ピッタリなんだな。
「「なんで?」」
「色々あるんだよ」
俺はそれだけ答え、鞄を持った。
それから数分程で皆朝食を食べ終え、茜を家に残し学校へ向かった。
俺ははいつも通り二階に上り、教室に向かう。
力強く扉を開け、教室に入る。
「おはよう!」
大声でそう挨拶すると、クラスメイトたちも「おはよう」と返してくる。
机に鞄を置くと、丁度そこへ翼と奏がやってくる。
「おはよう、葉雪」
「おはよー、ユキくん」
二人に「おう」と返すと、俺は教室を出ていった。
「なんか今日は機嫌が悪いね」
「そーだねー。妹ちゃんになにかあったのかなぁ?」
葉雪の背中を見届けた二人は、口々にそう呟いた。
俺は無言で階段を上り、三階に来た。
目的地は茜の所属しているクラス、一年三組だ。
三組の教室の前で止まると、空いた扉から教室の中を確認する。
探し人である司音ちゃんは、席に着いて読書をしていた。
「司音ちゃーん」
声を上げ名前を呼ぶと、司音ちゃんは本に向けていた視線をこちらに向けてくる。
本をパタンと閉じると、司音ちゃんは小走りでこちらに向かってくる。
「先輩、おはようございます」
司音ちゃんは笑顔で挨拶をしてくる。
「おはよう。今時間ある?」
そう尋ねると、司音ちゃんは首を傾げて口を開く。
「今は暇すぎるくらいですけど。なにか用事でもあるんですか?」
その質問に、俺は声を潜めて答える。
「ちょっとな。昨日茜を呼び出した男子分かるか?」
「はい、目の前で誘ってたので覚えてますよ。彼がどうしたんです?」
「そいつに、少し用事がある。放課後に〝昨日の場所に三人で来てくれ〟って伝えてくれ」
そう言うと、司音ちゃんは再び首を傾げる。
「昨日の場所? ってどこですか?」
「詮索無用ってことで」
そう言うと、司音ちゃんは「分かりました」と答える。
「お礼はまた別の機会にするから」
そう言うと、司音ちゃんは頬を朱色に染める。
「ぜ、絶対ですからねっ!」
そう言う司音ちゃんに、俺は頷くことで応え、一年の教室を後にした。
教室に戻ると、翼と奏がこちらに向かってくる。
「葉雪、用事は終わったのか?」
そう尋ねてくる翼に、俺は肩を竦める。
「いいや」
そう答えると、翼は眉をひそめる。
「そうか。で、妹が関係してるんだろ?」
その問いに、俺は首を縦に振る。
「一年生の教室に行ってたっぽいから、茜ちゃんと?」
奏のその問いにも、俺は頷く。
「そうか。手伝えることがあれば言ってくれ」
「助かる」
それだけ言葉を交わすと、互いに席に戻る。
さて、後は〝あの人〟のところに行けばいいか……
俺は静かに怒りを燃え上がらせ、午前の授業を熟していった。
◇妹◇
昼休み。
俺は鞄から弁当を取り出すと、それを持って教室を出た。
そのまま階段を降りて、一階にある職員室へと向かう。
職員室の前まで行くと、丁度探し人が職員室から出てきた。
「かすみん、ちょっといい?」
俺はその教師に声を掛ける。
その教師は、俺を一瞥すると、ため息を吐きながら口を開く。
「高木、何度言ったら分かるんだ。ここじゃかすみんじゃなくて飛矢佐先生だろ」
教師は諭すようにそう言う。
飛矢佐霞。伊吹高校の教師で数学担当、後は二年生二組の副担任だ。艶のある黒髪をサイドテールにしている。ややつり目。そして背だが……俺より低い。確か百三十前半だったはず。ちっさい。
そんなことを考えていると、かすみんがギロリと睨んでくる。
「な、なんだよかすみん」
「かすみんじゃないと言ってるだろ。後ちっちゃいとか言うな、点下げるぞ」
この人私情で生徒の点下げようとしてるよ、怖い。
てか、なに普通に心読んできてんだよ怖いな。
かすみんはめんどくさそうにため息を吐くと、歩き始める。
「どうせ相談事だろ? いつものところで聞くから来い」
その言葉に俺は無言で頷き、かすみんの後を追った。
かすみんに連れてこられたのは『旧生徒指導室』だ。今はただの空き部屋だ。
かすみんは扉の鍵を掛けると、パイプに腰掛ける。
かすみんは足を組むと、俺を見上げてくる。
「それで、今回の話はなんだ。下らないことなら帰るぞ」
そう言うので、俺は真面目に答える。
「実は昨日、茜が告白された」
そう言うと、かすみんは「はぁ……」とため息を吐いた。
「まったく、お前は……それで? もう少し話を聞かせろ」
「おう。それで、昨日の放課後──」
茜から話されたことを全て伝えると、かすみんはゆっくりと口を開く。
「そうか。それで? 私になにをしろって言うんだ? 茜を慰めるのは兄の務めなんだろ?」
「大丈夫だ。かすみんは証人になってくれたらいい」
「だから……まぁ、今はいいか。それで、証人ってどういうことだ?」
その問いに、俺は答える。
「今日の放課後、そいつらに制裁を下す。勿論言質取ってからな。かすみんはそれの証人としていてくれればいい」
「まぁ、分かった。その程度ならいいぞ」
了承を聞き、俺は胸を撫で下ろす。
「さて、話も終わったし飯にするか」
「久しぶりだな」
その日は、かすみんと密室で昼飯を食べた。
◇妹◇
午後の授業も終わり、待ちに待った放課後となった。
俺は急いで〝例の教室〟に向かう。
教室にはまだ誰も来ていなかった。
俺は埃を被った机に腰掛け、三人を待った。
十分程経った頃、教室の前に三人の人影が現れる。
そのまま、三人は扉を開け教室に入ってきた。
「お前が山田でいいんだよな?」
そう言い、中央の男子を指差す。
「あぁ、そうだ」
こいつ、後輩のクセに礼儀がなってねぇ。
いや、俺も然程礼儀正しいわけでもないけど。
「後の二人はどうでもいいや」
そう言うと山田の仲間Aと仲間Bは怒りを露にする。
「単刀直入に言う。昨日茜に告白したのはお前らでいいんだよな?」
そう言うと、山田は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あぁ。結局フラれたけどな」
「そうか。ところで、俺が誰だか知ってるか?」
そう尋ねると、山田は馬鹿にするような笑みを浮かべる。
「茜のお兄さんでしょ? 知ってるよ。シスコン先輩」
そう言うと、仲間Aと仲間Bが品のない笑い声を上げる。
「まぁ、そうだな。俺はシスコンらしい。それじゃあ、俺がお前ら呼び出した理由分かるよな?」
そう言うと、山田は俺を睨んでくる。
正直、三下の睨みなんて怖くないんだよな。
「あぁ? 分かんねぇよそんなの」
本当に分からないのか、山田は真顔で答える。
「そうか、お前って最っ低な野郎だな。そんなんだから茜にフラれるんだよ」
そう言うと、山田は怒り声を荒らげる。
「んだとテメェッ!」
そして、山田は俺に殴り掛かってきた。
俺はそれを躱し、山田の顔面を力強く殴る。
山田は後ろに倒れそうになるが、なんとか立ち止まる。
「て、テメェ! なにしやがる!」
「いや、殴り掛かってきたのはお前だろ」
そう言うと、山田は仲間A・Bに声を掛け、三人同時に殴り掛かってきた。
そこからは一方的だった。
なんと、一対三にも関わらず、俺が圧勝した。
まぁ、日々茜たちを守るために鍛えてるからな。
結構粘ると予想してしたが、ものの十分程度で終わってしまった。
「な、なんでここまで、するんだっ」
顔を腫らした山田が口を開く。
「なんで、か。それはお前たちが茜を傷付けたからだよ」
俺の言葉に、山田たちはわけが分からないといった感じに首を傾げる。
「お前、茜にフラれて『兄が好きなんて気持ち悪い』って言ったよな?」
そう尋ねると、山田はコクコクと頷く。
「お前にとっては腹いせ程度なんだろうけど、茜にしたら泣く程傷付く言葉なんだよ」
そう言うと、山田は口を開く。
「そ、それでなんでここまでするんだよ」
その問いに、俺はゆっくりと答える。
「妹を守るのは、兄の義務だからな」
そう言った途端、扉が開かれる。
「かっこつけてるところじゃないからな」
入ってきたのは、かすみんだった。
「いやいや、俺はこのくらいの覚悟なんだぞって」
「はいはい。そういうのいいから。さて、四人とも職員室に行くぞ」
かすみんに連行され、俺と山田たちは空き教室を後にした。
山田たちは三日間の自宅謹慎となった。それに加え、反省文だと。
俺はかすみんの献身的な説明のお陰で、一週間の自宅謹慎となった。それプラス課題二倍と反省文。
ありがとかすみん。大好きです、まる。