58話 茜とカラオケで愛の熱唱(?) 1
11月になりましたね。というワケで毎日投稿1日目です。
かすみんとのデートを終えた翌日。
俺は茜とカラオケに来ていた。
大まかな経緯は割愛するが、
「霞さんだけズルいです! 私もお兄ちゃんと密室でイチャイチャしたいです!」
と言われ、半ば無理矢理連れてこられたのだ。
茜から聞いたのだが、かすみんは俺と別れた後隠し撮りしていたネカフェの動画を茜に送って煽ったらしい。
おかげでこっちは一日二回も茜を宥めることになったのだ。
次会ったときはお仕置きが必要だな──
「お兄ちゃん? 何ぼーっとしてるんですか?」
「あっいや、何でもない」
茜の呼び声に我に返り、辺りを見渡す。
先にも述べた通り、俺たちが今いるのはカラオケ。それもヒトカラ(一人カラオケの略)専用の部屋だ。
どうしてヒトカラ専用の部屋を俺たち二人が使っているのか、それは単純に部屋がないからである。
とにかく、ヒトカラ専用の部屋は狭い。それを高校生二人で使うのだ。昨日ほどではないが密着するような形となってしまう。
正直、昨日の今日で俺の理性はまだ回復しきっていない。今茜にガンガン攻められると危ういのだが……
「お兄ちゃん、何を歌いますか? 折角なのでデュエットでもしましょう!」
久々のカラオケだからか、茜はハイなテンションになっていた。
多分、この調子なら危惧することは起きないだろう。
「そうだな。デュエットするか」
「はいっ!」
「一曲目は茜が決めていいぞ」
そう言うと、茜は「ホントですか!」と目を輝かせ、嬉しそうにデンモクを操作しだす。
こんなにはしゃぐなんて、よっぽど楽しみだったんだな。
はしゃぐ茜もとても可愛い。
と、だんだん落ち着いてきたので、俺は茜の服装に目を向ける。
ハートの形をしたヘアピンで前髪の端を止めており、首にはフリルのあしらわれた赤いチョーカーをしている。襟元が空きすぎな気がする黒色のチュニックに、今日は珍しくホットパンツを身に付けている。そして極め付けは黒ニーソ! 茜の絶対領域が太陽よりも輝いてるぜ……っ!
「お兄ちゃん、視線がえっちです」
「うおっ、いやすまん。ついな……」
「いえ、いいんですけどね。お兄ちゃんが絶対領域が好きなこと知ってますし」
だからしたんですよ? と微笑む茜。
可愛すぎて直視しかできない。
「まぁ少しお肉がついちゃって、するのは恥ずかしかったんですけど……」
「いや、少しムッチリしてる方が好きだ」
「え?」
「……え?」
もう知られているだろうと気軽に言ってみたのだが、茜はまるで初耳だと言わんばかりに目を見開いた。
……あれ? 俺もしかしてミスった?
そう悟ったのと同時に、茜が目を細めニヤリと笑みを浮かべた。
「そうですか。お兄ちゃんは少し肉感がある方が好きなんですね」
初めて知りました♪ と嬉しそうな茜。
反対に俺はというと、冷や汗が止まらなかった。
バカか俺は! なんで茜に漬け入る隙を与えるようなマネを!
少し前の自分の発言が憎いが、残念ながら過去に遡る能力も、対象の記憶を操作する能力も持っていない。
「お兄ちゃんは肉感のある太ももが好きなんですね。つまり、私の太ももが好きと」
「あ、あぁ。そうなる、かな?」
「そうですか。それじゃあデート──楽しみましょうか♪」
そう微笑む茜は、今までにないくらい蠱惑的だった。
◇妹◇
「じゃあお兄ちゃん、デュエットしましょうか♪」
「お、おう……」
俺が自滅してから数分後。
俺は茜の太ももに手を挟まれながらデュエットをすることとなった。
待て、待ってほしい。これは別に欲望に我を忘れた俺が茜の太ももに手を突っ込んでいるのではない。
仕方ないのだ。茜との勝負に負けたから、仕方なくしているのだ……
それはつい先程のこと。
茜はデュエットをする前にこう持ち出してきたのだ──
「お兄ちゃん、勝負しませんか? お兄ちゃんが負けたら、私がいいと言うまで私の太ももの間に手を突っ込んでもらいます」
このときの俺はやはり、と嫌な予感が当たったことに肩を落としていた。
だが勝てばいいのだ、そう思っていたのだが……
勝てなかった。理由はわかるとは思うが、茜が妨害をしてきたからだ。
それも画面を隠すといった幼稚なことではない。茜はマイクを持っていない方の俺の手を掴んで、自らの胸に押し当てたのだ。昨日のかすみんのように。
昨日のことを思い返した俺は動揺に動揺を重ね、低得点を取り負けた。
はい、回想終了。
いやもうこの程度のことは慣れた。……慣れていいのかはわからないが。(多分ダメだと思う)
「お兄ちゃん、この曲にしましょう!」
茜が見せてきたのは、ラノベ原作のアニメのオープニング曲。
これはわりと有名で俺も茜も歌えるのだが……
「これってデュエット曲じゃないだろ」
「いいじゃないですか♪」
「まぁいいけど」
「じゃあ歌いましょうか♪」
茜は鼻歌を歌いながら曲を入れ、テーブルに置いてあるマイクを渡してくる。
少し長めの前奏が始まり、徐々にテンポが上がってくる。それに合わせ俺のテンションも上がっていった。
「いやぁ、結構歌いましたね」
「そうだな。気持ちよく歌えたからスッキリした」
マイクをテーブルに置き、少し熱くなった顔を手で扇ぐ。
最初に曲を入れてからかれこれ一時間弱。ノンストップで歌を歌い続けていた。(その間もずっと茜の太ももに手を挟まれていた)
流石に疲れてきたので、一旦休憩しようと提案したのだ。
「ふぅ……。ちょっとジュース取ってくるけど、茜は何がいい?」
空になったグラスを二つ手に取り茜に問い掛ける。
「お兄ちゃんの体液がいいです」
「ダメだから」
「じゃあお兄ちゃんの──」
「ホットコーヒーだな、わかった」
「待ってください、クーラーが効いてるとはいえ夏にホットコーヒーは地獄ですっ」
「ならボケるなよ……」
呆れながら呟くと、茜は「ボケてません!」と声を上げた。
なら余計質が悪いわ。
「あっでも、お兄ちゃんの熱いモノだったら──」
「ホットコーヒーだなわかった」
俺は茜の言葉を遮り、足早に部屋を出た。
部屋の方から「ごめんなさいっ!」と聞こえるのはきっと幻聴だろう。
◇妹◇
「うぅ、お兄ちゃんはイジワルです……」
「機嫌直せよ。ホットコーヒーじゃないんだから」
茜は頬を膨らませずっと「お兄ちゃんはイジワルです」と呟いていた。
まったく、茜がボケるからだろ。
ついでに俺が茜に持ってきたのはりんごジュース。当然だが冷たいし氷も入れてある。
「お兄ちゃんがホントにホットコーヒーを持ってくるんじゃないかってヒヤヒヤしましたよ」
そう言いながら、茜は冷たいりんごジュース飲む。
「次同じようなこと言ったら、今度こそホットコーヒー持ってくるからな?」
「………………はぁい」
すごく間を開けた「はぁい」に、ため息が零れる。
大丈夫だろうな、ホント。
「まぁそのことは忘れて、また歌いましょうよ!」
「そうだな」
「どうします? デュエットしますか?」
「うーん、わりとデュエット曲は歌ったからなぁ」
「それじゃあ──勝負します?」
〝勝負〟という単語に、俺は肩を跳ねさせる。
妹相手になに警戒してるんだと言われるかもしれないが、これは仕方ないことなのだ。
「そんなに警戒しなくても、勝負して勝った方が相手に簡単な命令をするだけですよ」
「……ホントだな?」
「はい、ホントです♪」
眩しい笑顔で答える茜。
「はぁ、わかったよ」
「やったぁ♪」
俺が了承すると、茜は嬉しそうに両手を上げた。
晒された脇をくすぐってやろうかと考えたが、茜に反撃されては困るので止めておく。
「じゃあ先攻はお兄ちゃんで」
「いいだろう」
茜からデンモクを受け取り、俺は曲を選ぶ。
大人気ないかもしれないが、今回は特に得意な曲だけを歌わせてもらう。
茜に負けたら何を命令されたかわかったモンじゃないからな。
「よし、これにするか」
俺が選んだのは、前期にアニメ化したばかりのアニメ(妹モノ)のオープニング。
これならば百点もあるだろう。
「茜、すまないが今回は負けるつもりはないからな」
「ふふっ、それはどうでしょうね♪」
茜は含みのある笑みを浮かべると、ピッタリとくっついてきた。
「妨害はしませんから、安心してくださいね」
「……妨害したら勝負は無しだからな?」
「わかってますよ」
茜に確認をしたところで前奏が始まる。
さて、ちょっくら本気出しますかね。
「──ふぅ」
歌い終えた俺は一息吐くと、コーラを口に含み採点結果を待つ。
「お、九十六点か。いい感じだな」
「流石ですねお兄ちゃん」
「なんだ茜、余裕そうじゃないか」
「そうですねー、まぁ勝つ自信はありますよ」
おぉ、この点数を越える持ち曲があるのか。それは楽しみだな。
そう期待に胸を膨らませ──
「やりましたっ!」
「なん、だと……?」
茜が歌い終え、その採点結果が表示された。
「百点、だと……?」
そう、茜はなんと百点を取ったのだ。
「ふふふっ、思い知りましたかお兄ちゃん! これが兄を想う妹の力です!」
腰に手を当てえっへん! と胸を張る茜がうざ可愛い。
それにしてもすごい歌詞だったな。
俺は茜が熱唱していた曲を思い返す。
その曲はアニメ(妹モノ)のエンディング曲で、妹が兄への想いを綴ったような歌詞だった。
終始歌詞の中には「好き」という単語が続出しており、まず男は歌いづらいだろう。
そんな兄LOVEな曲を、茜はなんの躊躇いもなく熱唱した。
まぁ茜もブラコンだしな。
そう納得していると、不意に茜が俺の肩を叩いた。
「ん? どうした茜」
「お兄ちゃん、忘れてませんか?」
「なにを?」
「勝負のことですよ」
「…………」
俺が無言で目を逸らすと、茜は愉快そうに微笑んだ。
「さて、ではお兄ちゃんに命令をします」
「ほ、程々に頼む」
そう言うと、茜は「わかってますよ」と頷いた。
本当にわかっているのだろうか。
微笑を浮かべている茜に疑いの目を向けていると、突然茜が席を立ち──
「えいっ」
そんな気の抜けた掛け声と共に俺に抱き付いてきた!
「あ、茜?」
「命令です。これから私がいいと言うまで抱き締めながら耳元で愛を囁いてください」
茜の〝命令〟は俺が想像していたよりも控え目なモノで、俺は安堵し頷いた。
「じゃあお願いしますね、お兄ちゃん」
ふぅっ、と耳にかけられた吐息は、どことなく熱が籠っていた。




