5話 事件っぽい
「妹ハーレム」が日間9位になってました。ありがとうございます!
2017/12/30.改稿
色々なご指摘を受け、又「妹ハーレム」の方向性を考え直した結果、話を変えさせていただきました。感想でご指摘してくださった皆様、ありがとうございます。
朝、時刻は五時半。
俺は小さなのアラーム音に目を覚ました。
「──……っ!」
俺は腕を伸ばすと、昨晩のことを思い出す。
案の定、とても良い夢を見れたのだが、内容が内容なため、赤面せずにはいられなかった。
どんな内容の夢かって? 教えれるわけないだろ。
俺は気を紛らわせようと、タンスからジャージとシャツを引っ張り出し、それに着替え部屋を出る。
「……さ、最近できてなかったからな」
後付けするように呟き、俺は足早に廊下を駆けた。
羽真宅を出ると、俺は一度振り返り豪邸を上から下へ流し見する。
いつ見ても場違いだなぁ。
そう思いながら、俺は適当に走り始めた。
それからほぼ毎朝来ていた近くの公園に着くと、ストレッチを始める。長座対前屈、腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット、と順番にやっていき、全てを五十回くらいやると、俺は再びジョギングを開始する。
いつもなら自分の家に帰るのだが、今帰る場所は羽真家なので、あの日本にあるべきなのか分からない豪邸に向かって走った。
「ふぅ、距離が増えると少し疲れるな」
そう呟きなら家に入り、一度部屋に戻る。
着替えのシャツをタンスから取ると、時間を確認する。
六時か。まだ大丈夫かな。
そう思い、俺はあの広い風呂場に向かった。
「うーん、広い!」
俺風呂入る度に言ってるよね、これ。
まぁ、そんなことはどうでもいいんやい。
俺は軽くシャワーで、汗を洗い流すとすぐに風呂場を出る。
体を拭き、トランクスを履き、俺は鏡を見る。鍛えられている体は、自分で見ても素晴らしいと思える。
ふっ、まぁ当然だな。
自分の筋肉具合に満足し、うんうんと頷く。
そしてシャツに手を掛け──
ガチャ、と脱衣所の扉が開かれた。
「……」
入ってきたのは、羽真家の長女、楓ちゃんだった。
楓ちゃんの長く綺麗な白髪は所々跳ねている。おそらく寝癖を直しに来たのだろう。眠たそうに半開きになっていた碧の瞳は、俺を捉えると大きく開かれる。
これって、ラッキースケベ?
いや、逆だろう。普通俺が楓ちゃんの着替えをお邪魔するべきだろ。なに? 俺は「きゃー」って叫んで体隠した方がいいの? トランクス履いてるから大丈夫だろうけど。
「……」
「……」
脱衣所に沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは楓ちゃんだった。
「すすすす、すいません! 今出ていきますねっ!」
言うが早いか、楓ちゃんは開いたままだった扉から廊下へ出ていった。
あはは、あれまた気まずいやつだな、これ。
俺は気を沈めながら、いそいそと着替え脱衣所を出た。
部屋に戻り、俺はすぐに制服を着る。
そして、鞄とスマホを持ってすぐに部屋を出る。
それからリビングに行くと、まだ誰も来ていなかった。
ソファーに鞄を置き、俺は台所に向かう。
「さて、久しぶりに作るなぁ」
そう呟き、袖を捲る。
さぁって、腕が鳴るぜっ!
全員分の朝食を作っていると、突然扉が開かれた。
リビングに入ってきたのは、先程顔を会わせた楓ちゃんだった。
「おはよう、楓ちゃん」
「お、おはようございます。葉雪にぃさん」
頬を少し赤く染めながらも、楓ちゃんは挨拶を返してくれた。
よかった。そこまで気まずくはない。
そのことに安堵しつつ、俺は手を動かす。
「葉雪にぃさんが朝食を作るのですか?」
楓ちゃんは隣にやってくると、不思議そうに尋ねてくる。
「そうだね。七波さんは仕事が忙しそうだから、俺が替わりに作ることにしたんだ」
「そうなんですか。……私も母様に替わって作ろうとしたんですけど、まだその時は料理ができなくて……」
楓ちゃんは、悔しそうにそう言うと、表情を曇らせる。
「なら、俺と一緒に作ってみる? 今はもう作っちゃったけど、夕飯は一緒に作らない?」
そう訊くと、楓ちゃんは顔を輝かせる。
「はいっ!」
楓ちゃんは笑顔で返事をすると、鼻歌を歌い始める。
嬉しそうだなぁ。
俺は楓ちゃんの姿を眺めながら、朝食を仕上げた。
◇妹◇
登校時間になり、俺たちは家を出て、学校へ向かった。
茜、光月、朝日と会話しながら歩いていると、目的地である伊吹高校か見えてきた。
ついでに、羽真家からだと浦瀬中学校は伊吹高校よりも更に先になる。
伊吹高校の前で光月、朝日と別れ、そのまま校舎の中へ入る。
それからいつものように二階の階段で茜と別れ、教室に向かった。
「おっはよう!」
無駄に高いテンションで挨拶をすると、クラスメイトたちは笑いながら挨拶を返してくれる。
自分の席に着くと、翼と奏がやってくる。
「おはよう、葉雪」
「おはよー、ユキくん」
「おう、おはよう」
二人に挨拶を返し、俺は背伸びをする。
そうしていると、奏が顔を近付けスンスンと匂いを嗅いでくる。
「お? ユキくんまた朝のジョギング始めた?」
なんだこいつ、なんで分かるんだよ。茜と同類なのか。鼻が良すぎるだろ。
と思いながらも俺は答える。
「まぁな。最近忙しくてできてなかったからな」
「ふーん」
奏はそう言うと顔を離す。
そのまま朝のHRが始まるまで、俺たち三人で雑談をしていた。
◇妹◇
昼休みもいつものように四人で過ごし、午後の授業が始まる。
午後の授業もサラサラと流れていき、放課後となった。
放課後と言えば、加入している部活に出たり、委員会の仕事をする人が多いだろう。
まぁ、俺は妹最優先ですから! 部活も委員会も入ってないんですけどねっ!
茜を迎えに行こうと席を立つと、スマホが振動する。
ポケットからスマホを取り出し確認すると、茜からメールが届いていた。
『用事があるので、校門の所で待っていてください』
先に帰っててくださいって言わないところ、茜だよなぁ。
そう思いながら教室から出る。
さて、茜の用事が終わるまで、どうするかなぁ。
俺は暇潰しに、校内を探索することに決め、第一に階段へ足を進めた。
階段を降りようとすると、上から声が聞こえてきた。
上ってことは、一年生かな。
少し興味が湧き、階段上を見ると一人の少女がノートの山を抱え、階段を降りていた。少女の顔は、下からだと抱えているノートに隠れ見えていない。
つまり、少女からも、下は見えていないことになる。そのためか、少女の足取りは覚束ない。
なんだろう、ものすごく危険な香りがするぞ?
そう思い、声を掛けようとした途端──
「きゃっ!?」
少女は階段を踏み外し、悲鳴を上げながら落ちてきた。
「危ないッ!」
俺は急いで下に移動し、落ちてきた少女を受け止める。
ノートは床に散らばってしまったが、仕方ないだろう。
「大丈夫?」
そう尋ねると、少女は顔を真っ赤に染めてしまう。
俺はゆっくりと少女を下ろし床に立たせ、そのまま少女を観察する。
黒い髪をボブカットにしており、瞳は綺麗な黒色だ。そんでもって、少し幼さが残っている顔立ちである。
幼可愛いなぁ。朝日より幼い印象がある。まぁ冗談だけど。
そう思っていると、少女は潤んだ瞳を向けてくる。
「えっと、大丈夫? 痛いところはない?」
そう尋ねると、少女は口を開く。
「だ、大丈夫です。助かりました」
うん、大丈夫なら問題ないな。
そう思い帰ろうとすると、床に散らばったノートが目に入る。
このまま帰ったらまた同じことが起こりそうだな……
「ノート運ぶの手伝おうか?」
そう尋ねると、少女は一瞬驚きに目を見開き、次には嬉しそうに頬を綻ばせる。
「あの、ありがとうございます!」
「っと、できれば君の名前教えてくれるかな?」
「あの、はい。私は波瀬司音って言います。一年三組です」
一年三組って言うと、茜と同じクラスだよな。
「俺は高木葉雪だ。宜しくな」
そう言うと、司音ちゃんは目を見開く。
「えっ! あのシスコン先輩?」
あのってなんだあのって。なに? 俺は後輩からシスコン先輩って呼ばれてるの?
「ま、まぁ、そのシスコン先輩で間違ってないと思うよ」
苦笑いを浮かべつつ、そう返す。
「あっ、ごめんなさい。こんなこと言ったら失礼ですよね」
司音ちゃんは申し訳なさそうにそう言う。
「大丈夫、気にしないで。それよりノートを早く運ぼう。職員室でいいんだよね?」
そう尋ねると、司音ちゃんは「はい」と答える。
俺と司音ちゃんは床に散らばったノートを集め、二人で職員室に向かった。
「失礼しました」
そう言い、司音ちゃんは職員室の扉を閉める。
「先輩、ありがとうございました」
こちらを向いた司音ちゃんは、そう言いながら頭を下げる。
「いいよ。暇してたし」
そう答えると、司音ちゃんは慈愛に満ちた天使のような笑顔を向けてくる。
くっ、眩しいっ!
「先輩は優しいんですね」
「優しいか。まぁ、時々言われるな」
奏とか特に言ってくるな。あいつよく「宿題忘れてたのぉぉぉおおお!」って叫んで仕方なく見せたら、「ありがとねユキくん! やっぱりユキくんは優しいね~」と言ってきたり。
なんだろう、涙が止まらないや……
「やっぱりですか! 今日はありがとうございました。また明日!」
そう言い、司音ちゃんは階段を上っていった。
教室に戻ってまた降りてくるのかなぁ。
想像してみるととても大変そうだ。
「さて、茜は待ってるかな」
そう呟き、昇降口に向かった。
◇妹◇
校門のところに着くが、まだ茜は来ていなかった。
うーむ、用事ってなんだろう。
メールが来てから十分は経っていると思うんだが。
仕方なく俺は校門に寄り掛かり、茜を待った。
それから十分程待っただろうか。
ふと校舎の方を見ると、茜がトボトボと歩いてきていた。
俯いているのもあり、茜の表情は見えない。
「あーかーねー!」
名前を呼ぶと、茜はハッと顔を上げる。
「お兄ちゃん……っ」
茜は走り出し、抱き付いてくる。
俺は茜を受け止めると、茜の顔を窺う。
「茜、なにかあったか?」
「……」
俺の問いに茜は答えなかったが、様子からしてなにかあったのだろう。
「話したくなったら話してくれよ」
頭を撫でながら、俺は茜にそう言った。
「さて、帰るか」
俺はそう呟き、茜の手を握り歩き始めた。
それから光月、朝日と合流し、四人で家に帰った。
◇妹◇
約束通り、楓ちゃんと一緒に夕飯を作って、それを全員で食べた。
皆美味しいと言っていたので、良かったと言えるだろう。
特に厳人さんが褒め倒してきた。
照れるから止めていただきたい。
俺は部屋で呼ばれるのを待っていた。
何に呼ばれるのを、と訊かれたら、妹たちは今風呂に入っている、と言えば分かるだろう。
「うん、暇だ」
そう呟き、ベッドに横になる。
そう言えば、母さんがよく「食べた後は横になるな」って言ってたな。
その言葉を思いだし、俺は体を起こした。
コンコン──
それから暫くの間妹モノのラノベを読んでいると、不意に扉がノックされた。
「どうぞー」
そう言うと、ガチャッと扉が開かれる。入ってきたのは茜だった。
茜は扉を閉めると、赤い瞳で俺を真っ直ぐ見つめる。
「ん? 茜、どうした?」
茜の様子がおかしいのに気付き、俺は尋ねる。
「ちょっと、話す気になりました」
茜はそう言いながら、俺の隣に腰掛ける。
放課後のことか。
茜は少し間を置くと、ゆっくりと語り始めた。
「放課後、お兄ちゃんのところに行こうとしたら、クラスの男子に呼ばれて空き教室に言ったんですよ」
男子から呼ばれたって、それって告白か? 茜は可愛いからな、仕方ない。
ちょっと黒い感情が沸き上がったが、俺はそれをすぐに吹き飛ばす。
「教室に入ると、他に三人の男子が居たんです。それで、最初の男子が私に言ってきたんです。『高木さんのことが好きです。付き合ってください』って」
うん、やっぱり告白だったか。
「それで? 茜はなんて答えたの?」
「『お兄ちゃんが好きだから、付き合うことはできません。すいません』って答えました」
茜らしい返しに、頬が緩むのを感じる。
我が妹は重度のブラコンに育ったようで。
「そしたら、その男子が『実の兄を好きになるなんておかしい、気持ち悪い』って言ってきて……」
「…………………………」
その言葉を聞いて、俺は昔のことを思い出した。
中学二年生の時に聞いたクラスメイトの女子の会話。
──シスコンなんて気持ち悪い。
俺はその言葉を聞いて悲しくなった。そして次に来たのは恐怖だった。
茜たちに嫌われてるのではないかという恐怖が。茜たちもそう思ってるのではないかという恐怖が。
だかか俺は茜が心配になった。あの時の俺と同じようになってるのではないかと。
「そ、それでその後は?」
そう尋ねると、茜は苦笑いを浮かべる。
「その、ちょっとその言葉が頭に来て、つい叩いちゃいました……」
「そ、そうか……」
「そのまま教室を出たんですけど、そしたら急に悲しくなっちゃって。お兄ちゃんも気持ち悪いって思ってるんじゃないかなって……」
そう言うと、茜は涙を流し始める。
「……」
俺は黙って茜を抱き締める。
「大丈夫、俺は茜こと、気持ち悪いなんて思わないよ」
俺はそう言いながら、茜の背中を擦る。
「それで、その……同じクラスですし、明日も会うことになるって思ったら、なんだか億劫になってしまって……」
弱々しく、茜は言う。
「大丈夫。明日は休め。俺がそいつら説教してやる」
そのまま、茜が落ち着くまで、ずっと慰めていた。
「ありがとうございました、お兄ちゃん」
「おう。今日は安心して寝てくれ」
そう返すと、茜は部屋から出ていった。
「さて……」
俺はベッドに腰掛け、天井を向く。
「茜を傷付けた罪、償ってもらうからな」
俺は誰に対して言うでもなく、ただそう呟いた。