55話 ババ抜きは終わらない
投稿遅れてすいません!
これから「妹ハーレム」及び、妹好きの吉乃復活です!
初夏を眼前としたこの時期に、部屋に満ちる冷たい空気。
勿論それは茜以外の妹たちの視線やオーラである。
今にも楓ちゃん(お姉様モード)の説教が始まりそうだったが、そこに一人の救世主が現れた。
それは旅館の従業員さん。どうやら夕食を運んできてくれたらしい。
これを好機と見た俺は、楓ちゃんに「先に夕食にしよう」と提案し、状況を見て楓ちゃんは渋々といった感じに了承した。
これで、この夕食中に楓ちゃんの機嫌を直せばお説教は免除される……かもしれない。
そうと決まれば早速決行──
「美味しそうだな」
「そうですね。まぁお兄ちゃんの作った料理の方が美味しそうに見えますけど」
俺の意見に賛同しながらも、茜は俺の料理を褒めだした。
いや、ここに並んでいるのは全部旅館の料理なんだけど……
ちょっと呆れながらも、俺は「ありがとう」と茜の頭を撫でた。すると茜は頬を緩め、気持ち良さそうに喉を鳴らし出した。
「こほん。葉雪にぃさん、今は食事中ですよ?」
「す、すまん」
楓ちゃんの無表情の圧に気圧され、俺は反射的に謝った。
どうやら、今のことで楓ちゃんの機嫌はより一層悪くなったようだ。眉間にシワが寄っている。
「か、楓ちゃん」
「なんですか、葉雪にぃさん」
声を掛けてみると、返ってくるのは刺々しさを孕んだ声。
心なしか眼光が厳人さんのように鋭くなっていた。
そこまで怒らせてしまっていたのか。そう思うと申し訳無さが込み上げてくる。
だが、どうして楓ちゃんはここまで怒っているのだろうか。
不意にそんな疑問が脳裏を過った。
確かに今回のは今までに比べて些か度が過ぎているとは思うが、過去の出来事を省みるとそこまで怒るようなことではないと思う。
本人に直接訊いてみるべきだろうか?
そう思い、チラリと楓ちゃんの方へ視線を向ける。
まだ、と言うべきか、楓ちゃんの機嫌は良くなっていなかった。
いつもなら笑顔で料理の感想を口にしながら食事をしている楓ちゃんは、ずっと頬を膨らませ眉を吊り上げている。
……これは夕食の後に訊いた方がいいかもな。
そう思いながら、俺は目の前にある料理を淡々と口に運ぶのであった。
◇妹◇
夕食を済ませ、従業員さんが後片付けを終えると、俺と茜は部屋の真ん中に正座させられた。
そして俺と茜を囲むように、九人の妹たちが並び立つ。
「さて、葉雪にぃさん、話してもらえますか?」
「い、イエッサー……」
疑問をぶつけようとしたが、楓ちゃんの有無を言わさぬ態度と気迫に俺は押し負けおとなしく従う。
さて、どこから話そうかと少しばかり考え、もう最初から話せばいいかと思い、一から説明を始める。
「風呂を上がったとき偶然茜と鉢合わせして、一緒に部屋に戻ってきたんだ。それから茜が『私には興奮しませんか?』って言って浴衣の胸元を煽いでいたんだが、帯が緩かったのか浴衣が脱げて茜が全裸になったってワケだ」
所々省いた説明だったが、どうだろうか。
「……」
楓ちゃんの顔を覗いてみると、何とも言えないような、少し呆れたような顔をしていた。
だが、先程までのような威圧感はなくなっていた。
どうやら話を聞いて俺が悪くないということを理解してくれたようだ。
一先ず安堵しホッと息を吐く。
「取り敢えず、今回のことは茜さんが全面的に悪いということでいいですか?」
首を傾げる楓ちゃんに、俺は頷き返す。
楓ちゃんは「はぁ」と大きくため息を吐いて、茜の方に目を向けた。
「今回はもう過ぎたことですからこれ以上言いませんけど、これからは控えてくださいね?」
「はーい、わかりましたー」
茜の気の抜けた返事に、俺と楓ちゃんは再びため息を吐くのであった。
◇妹◇
午後十時過ぎ。良い子は寝る時間だが……俺たちは誰一人寝ていない。皆バッチリ起きているのだ。
隣の部屋を含め布団が十人分敷いてあり、俺たちはその上で円を作るように集まり座っている。
俺は(妹たちとのデートではしゃぎすぎて)疲れているので早めに寝たいのだが……茜がどうしてもと言うのでまだ起きているのだ。
今から何が始まるのだろうか。
期待よりも不安が勝り、ある意味ドキドキしている。
細心の注意を払っていると、不意に茜がポンッと手を叩いた。
「それでは、怪談話を始めましょう!」
「やらねぇよバカ!」(ペシッ)
「あぁんっ♪」
異様に高いテンションで宣言した茜に、俺は突っ込み(平手)を入れた。
茜は恍惚とした表情で声を上げ、まるで『もう一度やって!』と言わんばかりに目を輝かせ見つめてくる。
俺は頭を押さえて、小さくため息を吐いた。
「それで、どうして怪談話なんだ」
「ほら、夏と言ったら海とプールとキャンプと怪談でしょう?」
「やけに多いな。まぁ確かにそうだが……まだ夏ではないよな?」
すると茜は人差し指を左右に振る。ちょっとウザいが、なんだかんだ可愛い。
「甘い、甘いですよお兄ちゃん。…………もっと厳しくしてください!」
「それはお前の欲望だろ!」
「そうです!」と茜は控えめな胸を張った。
「冗談はさておき」
「冗談には聞こえなかったが」
俺がそう口にすると、妹たち(茜以外)がうんうんと強く頷いた。
「じょ、冗談はさておき」
この状況でも押し通すのか。と俺は苦笑を浮かべる。
「甘いですよお兄ちゃん。確かに今は夏ではありません。ですが、別に夏じゃなきゃしてはいけない、なんて法律はありませんよ?」
「なら何故『夏と言えば』何て言ったんだよ」
「適当です♪」
「…………」
眩しい程の笑顔でボケる茜に、もう突っ込む気力がない。
どうやら俺だけではなく、他の妹たちも呆れていた。
大丈夫だろうか、もしかしたら茜は妹たちの中でも最弱になってしまったのだろうか。
長く無言が続き、流石に耐えられなくなったのか、茜は少し慌てながら「とにかく!」と話を戻した。
「怪談話をしましょう!」
だが皆は何もなかったかのように、各々の布団へと移動を始めた。
茜は慌て涙を浮かべながら「待ってくださいー!」と両手をブンブンと振り回し始める。
仕方ないな。と俺たちは顔を見合わせ、ため息を吐くのであった。
気を改めて、再び俺たちは円を作り、何故か真ん中に茜が座っている。
「では、何をしましょうか」
「ん? 怪談話じゃなかったのか?」
「あれはジョークです」
あそこまで引っ張っておいて、まさかジョークだったのか。
何故だろう、旅館に戻ってきてから茜にはずっと呆れてばっかりだ。
「さて! 今日も終わってしまう前に始めましょうか!」
「何を始めるんだよ」
「ナニってそれは……ハーレムプレ──」
「それ以上口にしたなら俺は明日から三日間程口を利かないぞ」
「ごめんなさい」
こういうときは謝るのが早い茜である。
「それで、本当は何をするんだ?」
「そうですねぇ……」
ふむ、と顎に手を当て、茜は唸りだした。
……ん? まさかとは思うが──
「何も考えてなかった、なんてことはないよな?」
「ギクッ」
「口で効果音言うやつ初めて見たかもしれない……」
もしかしたら記憶を遡れば一人二人はいるのではないか──と、そうではない。
まさか、ここまで引っ張っておいて実は何も思い付いてなかった、だと?
茜らしいといえば茜らしいのだが……どうするんだこの空気。
皆の顔を窺うと、何というか、言葉にしづらいがとても呆れていた。もうその表情が「何やってんだよ」と語っている。
「あっ、その……えぇっとぉ」
皆の反応を見てオロオロと慌てだす茜。
これは流石に助け船を出した方がいいだろうか? そう考えていると、楓ちゃんが「それでは」と口を開いた。
「何かしたい人はいませんか?」
俺よりも先に茜に助け船を出したのは、以外にも楓ちゃんだった。
楓ちゃんの問い掛けに、妹たちは考え口々に案を言い出す。
その中でも多かったのが、トランプだった。
だが、勿論ただのトランプではない。やるゲームはババ抜き、しかも罰ゲーム付きである。
そしてその気になる罰ゲームの内容だが……今回は〝恥ずかしい秘密の暴露〟という、暴露ババ抜きになってしまった。
負けられない戦いが──(以下省略)
◇妹◇
俺がカードの山を切り、一人一人に配っていく。俺含めて十一人、流石に一人に渡る枚数は少なく、最初から揃っている者もいなかった。
カードを配り終え、目の前に伏せてあるカードを捲る。
……よし、ババはないか。
ひとまず安堵し、俺はカード越しに妹たちの様子を窺う。
……誰がババ持ってるかはわからないな。
ここで誰かがわかりやすく反応してくれたなら、ちょっとくらいは楽できたんだがなぁ。
そう思いながら、俺は「始めるか」と声を掛けた。
妹たちが頷き、俺は少しだけ気を引き締め、左隣の茜の手札から一枚選び引き抜いた──
「……終わらねぇ」
「そうですね」
俺の呟きに、茜は疲れ混じりに同調し左隣の夜花ちゃんから一枚引く。
そのカードの絵を見て、残念そうにため息をついて手札をこちらに向けてくる。
どうやら揃わなかったらしい。
というか、これで何周目だろうか。二十周辺りまでは数えていたが、そこから先は切りが無さすぎて数えるのを止めた。
もしかしたら百周とかいってるんじゃないか?
ここまで続くとは、多分誰も思っても見なかっただろう。最初ははしゃいでいた朝日や蓮唯ちゃんも、今は静かに黙って俯いている。
「ほらお兄ちゃん、早く引いてください」
「ん、あぁわかってる」
茜が急かしてくるので、俺は茜の手札から一枚引く。
そのまま自分の手札に加え、ペアがないか確認する。
だが、残念なことにペアはできなかった。
俺はため息を吐きながら右隣の楓ちゃんに手札を向ける。
これで俺の手札は三枚。これでも一番少ない方なのだが……これから全く進まないのだ。
もし茜から引いたカードでペアが作れたら、楓ちゃんに残りの一枚を引かせて俺の勝ち……
そんなことがもう何回続いたことか、とため息を吐く。
「えぇっと……じゃあこれにします」
楓ちゃんは少し悩んだ挙げ句、俺の手札の一番左のカード──スペードの六を引いた。
そしてそれを手札に加え、明らか様にショボンとする楓ちゃん。
そのまま右の凉ちゃんに手札を向けた。
さて、これはいつになったら終わるのやら。
最早罰ゲームなど微塵も気にしていない。ただ、早く終わらせて寝たい。
そう思いながら、俺は欠伸を噛み殺し迫り来る眠気を耐え凌ぐのであった。
──そして更に幾度と番が周り、また俺の番。
茜の手札からどれを引こうかと悩んでいると、ふと茜がにやけているのに気付いた。
まかさ、茜がジョーカーを持っているのか?
少しばかり警戒しながら、俺はわざとらしく一枚だけ飛び出たカードに目をつける。
子供であればババを引かせようとこのように目立たせるのだが……茜がそんな幼稚なことをするとは思えない。
ならば、と考えてみるが、茜の意図は全く読めなかった。
……よし、決めた。
俺はあえてそのカードを引くことにした。例えそれがババであっても、もう気にしない! だって十二時過ぎてるし!
十時過ぎに始めたババ抜き。気付けばもう二時間以上も掛かっていた。しかも、それでもまだ誰もアガっていない。
眠気と疲れと深夜テンションで、俺はもう考えることを放棄した。
そして、勢いよく怪しいカードを引き抜いた。
クルリをカードを裏返し、絵柄を確認する。
ハートのエース──ッ!
ここまで来て奇跡が起きた。そう、ペアができたのだ。
「おっしゃあ! これでアガリだぁああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ……」
俺は楓ちゃんに残りの一枚を託し、布団に大の字に寝転がった。
「ふふふっ、お兄ちゃんが私のハートを……私の愛を引いてくれました。これはつまり、私の愛を受け入れてくれたということ……つまり後は挙式するだけ」
茜が何か呟いているが、別に気にしない。もう俺は寝るんだ。
「おや、すみ……」
俺は残った妹たちにそう告げ、意識を手放した。
やっと、やっと眠れる……──
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