50話 ゲーセンでデート その3
今日4月14日で「妹ハーレム」が投稿開始五ヶ月となりました! 皆様の応援のお陰です!
夜花ちゃんとのデートは終わり、続きまして高木家一のクールガール(俺が勝手に名付けた)こと光月とのデートが始まった。
今回も双子は別々にするらしい。
俺は妹たちに見送られながら、光月と手を繋いで歩き出した。
光月とやって来たのは、三階にあるゲーセン。
四階程ではないが、それでもうるさい。入った途端耳がキーンってなった。
音ゲーやらなんやらの騒音に一瞬顔をしかめながら、俺は光月の手を引いてゲーセンの奥へと進んでいく。
「さて、何して遊ぶか」
「……」
俺が訊ねると、光月は無言でキョロキョロと辺りを見渡す。
なぜだろう、光月の姿が親を探す迷子の子供のように思えた。
何往復かゲーセン内を眺め、不意に光月はグイグイッとシャツの端を引っ張ってきた。やりたいゲームが決まったのだろうか。
「なんだ?」と訊ねると、光月は「あれがやりたい」とゲーセンの一角を指差す。
画面周りに描かれた腐敗した人、そして飛び散っている血。手前には銃が二丁、スタンドに掛けてある。つまり、ゾンビを銃で倒すお馴染みのゲームだ。
まさか、光月がこういうのを選ぶとは思わなかった。
光月の意外な選択に、つい俺は苦笑を浮かべる。
「だめ?」
「いや、いいよ。やるか」
俺が了承すると、光月は控えめに微笑んだ。
そして、俺の手を引っ張って台に向かい歩き出す。
光月にしては、珍しくテンションが高い。どうやらとても楽しみのようだ。
まぁ、相変わらず無表情だけど。
そう思いながら、俺は苦笑を漏らす。
百円硬貨を二枚投入口に入れ、ゲームスタート。画面に映るのは半壊した建物。ゾンビゲームでよくあるベタな場面。
奥の通路からゾンビが二体出てきた。
「よし、それじゃあいくぞ」
「……ふっ」
俺と光月は視線を交わし、不敵な笑みを浮かべた。
こういったゲームは、序盤は比較的簡単で、ゾンビの動きも単純で数も少ない。
俺と光月はゾンビを瞬殺し、次のステージに進む。
ふむ、まだ簡単だな。
俺は銃弾を補充しながら、イベントシーンを眺める。
そのイベントシーンは、少し描写が躊躇われるので述べないでおこう。
始めてから十分。ストーリー的には中盤に入ってきた。
ここからレベルが一段階上がるのだ。具体的には、ゾンビの進行速度が速くなったり、動きが複雑になったり、体力が多くなったり、根本的にゾンビの数が増えたりと。
だが、それでも俺と光月は止まらない。序盤よりかはタイムは延びるも、ゾンビをノーダメージで一人残らず殲滅していく。
ゾンビの波が収まり、俺はスコアに目を向ける。若干ではあるが、光月より俺の方が高い。
ここでも兄の威厳を保つことは出来ている。
俺は安堵の息を漏らし、銃を構えて画面を睨む。
そして始まるイベントシーン。今まで出てきたやつよりも二周り程大きいゾンビが壁を壊しながら現した。
そして全く聞き取れない叫び声を上げ、ドスドスとゴリラのように走り出す。
「よし、気ぃ引き締めろよ、光月!」
「……ん」
◇妹◇
「うわぁぁぁ、惜しかったなぁ」
「……ま、負けた」
俺と光月は銃をスタンドに置き、画面を眺める。
画面には堂々とgame overの文字。そしてその奥には、中盤に出てきた中ボスのゾンビよりも大きい、もはや人形を留めていない異形のゾンビが佇んでいた。
分かると思うが、こいつがラスボス。こいつさえ倒せばクリアできたのだ。
あと一歩のところで終わってしまったことが、とても悔しい。
「いやぁ、あと少し、ラスボスだけだったんだけどなぁ」
「うん、惜しかった」
光月は悔しそうに眉をひそめる。
まぁ、長年一緒にいる人じゃないと気付けないレベルだけど。
「さて、次は何をするか」
「うーん…………あれ」
唸り声を上げ、そして何か見付けたのか目を見開き指差した。
光月が指差す先にあるのは、定番のUFOキャッチャー。中に見えるのは、大きいヴァンにゃんのぬいぐるみ。
ヴァンにゃん。それは最近小中学生の女子で流行っているキャラクターだ。ヴァンパイアにゃんこの略で、鋭い犬歯に黒い羽の生えた黒猫のキャラクターである。
そして見ての通り、光月もヴァンにゃんが大好きだ。部屋にヴァンにゃんのグッズが何個あることか……
少し妬ましいぞヴァンにゃん。
──と、そうしている間に光月はUFOキャッチャーを開始していた。
ヴァンにゃんを見つめているその目が、とても輝いている。
……くっ、ヴァンにゃんめ……っ!
俺は一度ヴァンにゃんを睨み、光月の隣に移動した。
そして五分後。
「……おにぃ、取ってぇ」
服を掴み、涙目で見上げながら懇願してくる光月。
約千円近くを注ぎ込んでも、ヴァンにゃんは穴とは離れた位置に寝ている。
ヴァンにゃんは妬ましいから好きじゃないが……光月のためだ。
俺はため息を吐き、少し荒く光月の頭を撫でる。
「よし、お兄ちゃんに任せろ」
「……っ!」
光月は涙を拭い、力強く頷く。
さて、いっちょやってやりますか。
「ありがとう、おにぃ」
光月はヴァンにゃんのぬいぐるみを抱き締め、屈託のない笑顔を見せる。
俺でもなかなか光月を笑顔に出来ないのに……っ! そう思いながら、光月に抱き抱えられたヴァンにゃんを睨む。勿論、光月には気付かれないように。
「まぁ、光月のためだからな」
「うん、ありがとう」
光月はもう一度礼を口にすると、ヴァンにゃんの後頭部に顔を埋めた。
くそぉぉぉおおお! ヴァンにゃんめぇぇぇえええっ!
俺は込み上げる嫉妬を呑み込み、内心で血の涙を流す。
「そ、そんなに喜んで貰えると、取った甲斐があったよ」
頬が引き吊る。声が震える。ヤバい、俺のシスコンレベルが上がってる……
「そ、そろそろ移動しようぜ」
「うん」
光月はヴァンにゃんから右手を離し、そして俺の左手を握ってきた。
「おにぃ、これおにぃだと思って一生大切にするね」
「…………おう」
向けられる朗らかな笑みに、俺は目を逸らしながら相槌を返す。
あいつが俺、か……。それならまぁ、いいかもしれないな。
そう考えると、少し恥ずかしくなった。
◇妹◇
「おにぃ、最後にあれやろー」
「ん、あぁ……」
デートの時間も残り僅か。そして光月が提案してきたのは、もうお馴染み相性占い。
うん、まぁ分かってたけどね。分かってたんだけど……うん。
俺は光月に引っ張られ、相性占いの前に立つ。
五回目の名前記入、そして表示されるお題。
「えっと──『風呂で最初に洗うところ』か。そうだな、やっぱり俺は頭かな」
「私も」
俺と光月は同じく『頭』と記入する。
お題二つ目。『好きな花』。
俺は桜、光月は月下美人と回答。
ってか月下美人か。なかなかマニアックなところを。
それから計六問、お題に答え結果を待つ。
十秒程で集計中から結果発表へとチェンジした。
「えっと、『付き合いたての初々しいカップル』か。んー、まぁまた反応しづらい結果が」
「……またって?」
「あぁ、実は茜や楓ちゃん、あと二人ともこの相性占いをやったんだよ」
「そうなの」
質問したのに素っ気ない反応。普通なら何故訊いたと思うだろう。
だが俺には分かる。今光月は拗ねているのだ。理由は多分、この占いをしたのが自分だけじゃなかったからだからだ。
これは、結果を言ったら余計拗ねるだろうなぁ。言わないように気を付けよう。
「まぁ、別に俺と光月の相性が悪かったわけじゃないんだし、拗ねないでくれよ」
「……うん」
光月は間を空けて頷き、スタスタと歩き出した。
「おにぃと、カップル……」
光月の微笑む声が、聞こえたような気がした。
◇妹◇
光月とのデートを終え、少しの休憩の後。
次のデート相手は光月の双子の妹、高木家のスポーツ少女、朝日だ。
朝日と手を繋ぎ、俺は集合場所からゲーセンの中へ進んでいった。
ゲーセンに入ると、どんどん朝日のテンションが高くなっていく。
朝日はゲーセン内を見渡し、「わぁーっ」とか「へぇー」とか声を上げ、兎のようにピョンピョンと跳ねる。
忙しなく動く朝日に、俺は微笑を浮かべた。
「さて、何から遊びたい?」
「んーっとねぇ」
俺が訊ねると、朝日は唇に人差し指を当て、ゲーセン内を見渡す。
その仕草にドキッとしながらも、朝日の答えを待つ。
そしてすぐに、「あれっ!」と声を上げ、ある台を指差した。
それはバスケットシュートゲーム。制限時間内に空気のないボールをリングに入れ、得点を競うゲームだ。
スポーツ少女である朝日らしい選択に、頬が緩むのを感じる。
勿論断るわけもなく、俺が「分かった」と了承すると、朝日は目を輝かせる。そして俺の手を引いて進み出す。
まったく、そんなに急がなくてもいいのに。
投入口に百円硬貨を二枚入れ、ゲームスタート。
金網が上に上がり、塞き止められていたボールが一斉に降りてくる。
俺はその一つを掴み、素早くリングにシュート。
バスッと気持ちいい音を発て、ボールはリングの中を通過。そして坂に落ち、コロコロと転がってくる。
その間に俺はもう一球を掴み、シュート。それがゴールする前にもう一球。
テンポよく得点していく俺。ふと横目で朝日を確認する。
得点は俺と同じ。だが体が俺よりも小さいからか、動きは俺よりも大きくなっている。これは回数を重ねれば差が出てくるだろう。
「おにぃ、すごいね!」
シュートを決めながら、称賛の言葉を掛けてくる朝日。
「朝日も、上手いじゃないか」
「そうかな。……えへへ」
お返しに褒めると、朝日は頬を朱色に染めはにかむ。
くっ、可愛いっ! ──ってああっ!
朝日の笑顔に気を取られていると、つい手元が狂いボールがゴールから逸れてしまった。
その間も、朝日は得点を重ねていく。つまり朝日がリードしだしたのだ。
くっ、このまま負けるわけにはいかないっ!
俺は気を改め、的確にシュートを決めていく。
一点、また一点と互いに得点を重ねていく。そして──
ブーーー!
タイムアップを知らせるブザーが鳴り、金網が降りる。
俺と朝日は下に溜まっているボールを金網に投げ置き、スコア表示を待つ。
そしてリングの上にある画面に、互いのスコアが表示された。
朝日の得点が五九。そして俺の得点は六一。なんとか勝つことができた。
「ふぅ……やっぱりおにぃには勝てないなぁ」
汗を掻いたのか、上着のチャックを下ろし、シャツの襟を引っ張り扇ぐ朝日。
「まぁ、妹に負けるわけにはいかないからな」
手で顔を扇ぎながらそう返す俺。ちょっと暑い。
「少し休憩したら、他のゲームもやるか」
「うんっ!」
◇妹◇
そしてゲーセン内を巡り、俺たちは辿り着いた。
「……よぉ、十分振りだなぁ」
「? どうしたのおにぃ」
俺のボケに純粋に首を傾げる朝日。
「なんでもないよ」と頭を撫でて、俺たちはあいつ──相性占いの前に立つ。
まずは名前を記入。そしてお題一つ目。
「『好きなスポーツ』か。まぁ強いて言えばバスケかな?」
「私はテニスかなー」
朝日はそう呟きながら、テニスと記入する。
実は朝日は元テニス部員なのだ。しかもエース。
それは中学二年生の頃。春のうちにスタメン、団体メンバー入りした朝日。だが、夏の三年生の引退試合で三年生と一緒に退部したのだ。理由は教えてもらえなかった。
そしてお題二。『飼いたい動物』
「犬!」
「…………茜」
元気良く犬と答える朝日。そして俺はボソッと茜の名を口に出す。
ペットと考えると、何故か咄嗟に茜の顔が浮かんだのだ。
まぁ、俺が飼いたいって言ったら茜は笑顔で了承しそうだけどな。
俺は思わず苦笑した。
そして計六問を答え終え、結果を待つ。
十秒程で結果表示と画面に表示される。
馴れた俺は反射的にそれを押す。
「えっと、『幼馴染み的存在。ただし恋人になれる可能性あり』……また難しいところを」
「えへへ。おにぃと恋人。……えへへ♪」
結果を見てから、戻る間も笑顔な朝日だった。
朝日の笑顔がとても魅力的だったことを、ここに述べておく。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
誤字脱字、改善点等がございましたら容赦なく教えてください!
この作品を読んで頂いた読者様に最大の感謝を