46話 茜と一夜
遅れてすいません!
茜とのデートの余韻に浸っていると、あっという間に時間は過ぎてき、月曜日となった。
今日も翼と奏と雑談したり、授業では何度も当てられたりと、普通の日々を過ごしていた。
そして昼休み。
俺はかすみんに呼ばれ、茜、司音ちゃん、夜花ちゃんと共に『旧生徒指導室』へ向かった。
「──それでかすみん、今日はなんで呼んだんだ?」
部屋に入ると、俺はすぐに訊ねる。
「あぁ、大切なことを忘れてた」
「大切なこと?」
かすみんは「あぁ」と答えると、懐から一枚の紙を取り出した。
そしてそれを机にバンッと叩き付ける。
その音に夜花ちゃんがビクッと肩を跳ねさせた。
「葉雪、これ覚えてるか?」
「いや、覚えてるかって聞かれても──あっ」
俺は机に置かれた紙を見て、思い出した。
「確かそれ、体育祭前にかすみんがご褒美って言ってたやつか」
「あぁ、あの温泉の宿泊券ですね」
俺の言葉で思い出したのか、茜がぽんっと手を叩く。
「あれ、でもあのときは三枚だったよな。二枚使ったのか?」
そう訊ねると、かすみんは首を横に振り、続けて懐から更に五枚の宿泊券を取り出した。
「……増えてる?」
「母から押し付けられた」
「いや、押し付けられたって、家族で行けばいいだろ」
そう言うと、かすみんは「それができたらよかったんだけどな」と苦笑する。
「母は来週まで出張なんだよ」
「それなら、帰ってきてからでいいだろ」
するとかすみんは再び首を横に振った。
「この宿泊券な、期限が今週の土曜日までなんだ」
かすみんは大きくため息を吐くと、
「だから今週の土曜、全員で温泉な」
そう言い放った。
◇妹◇
放課後。
羽真宅で行われた緊急会議。
議題は、突如決まった温泉旅館の宿泊について。
妹たちが乗り気だったためか、思いの外話はトントン拍子で進んでいった。
まず宿泊するのは、俺、茜、光月、朝日、楓ちゃん、蓮唯ちゃん、凉ちゃん、司音ちゃん、魅音ちゃん、かすみん、夜花ちゃんの計十一人だ。
宿泊券一枚で二人だから、六枚で十二人。結構ギリギリだった。
次に移動手段だ。かすみんの持ってる車じゃこの大人数は乗れない。
そこで楓ちゃんに厳人さんに頼んでもらった結果、なんとリムジンを出してくれることになった。
聞いて驚けあのリムジンだ。外国映画などで金持ちが乗ってる、あのリムジン。これなら十一人も乗れるだろうとのこと。
ちなみに運転手は羽真グループの専属運転手である。
よかったねかすみん、運転しなくて済むよ。
他に話すことはなく、少し雑談をしてこの会議は幕を閉じた。
終了した時刻は七時半過ぎ。
もう遅いこともあって、司音ちゃん、魅音ちゃん、夜花ちゃんの三人は、かすみんが車で送ることとなった。
◇妹◇
夕食を食べ終え、いつも通りの順番で風呂に入った。
ただいつもと違うのは、茜が俺を呼びに来たあとに「妹の残り湯ですよ♪」と言ってきたことだ。
実は昨日も言われている。
そんなことを言われたら、ちょっとは意識する──ことはないのだ。
残念だったな茜。俺はそこまで変態じゃない。
風呂から上がり、寝る準備を整えてベッドに横になっていると、突然扉がノックされた。
体を起こし扉を開けると、そこには黒色の透けたネグリジェを身に纏った茜が立っていた。
またか……。それに白の下着とか絶対狙ってるだろ。
「お兄ちゃん、今日一緒に寝てもいいですか?」
茜は上目遣いで訊ねてくる。
まったく、そんなことされたら断れるわけないだろ。
俺は「はぁ」とため息を吐いて、茜の頭を撫でる。
「いいよ。ほら、早く入れ」
「うんっ、ありがと、お兄ちゃん」
茜は嬉しそうに頬を綻ばせ、そして抱き付いてきた。
仕方なく茜を抱き抱えたまま部屋に入り、そしてベッドに寝かせた。
「お兄ちゃん、初めてだから……優しくしてね?」
ベッドに寝転がると、茜は頬を朱色に染めそう言った。
俺は再びため息を吐いて、茜の額にデコピンを一発。
茜は少し涙目になり、両手で額を擦った。
「優しくしてくださいよお兄ちゃん」
「バカ言ってないで、早く寝るぞ」
俺は部屋の電気を消すと、茜をベッドの奥の方に押しやり、空いたスペースに横になった。
「……やっぱり、狭いな」
以前にも呟いたことを、同じように吐いた。
「茜、落ちそうだからもうちょっと寄ってくれ」
「分かりました」
そう答えた茜は、何故か俺に抱き付いてきた。
更には足を絡め、胸まで押し付けてきて……俺の強靭な理性じゃなきゃ危ないところだったと思う。
俺は一度体を起こし、壁際に寄って再び横になった。
「さて、寝るか」
「えぇー、もう少し起きてましょうよー」
「嫌だ。俺は寝る」
俺はそう返すと、茜の体を払い退けた。
「それじゃあ、おやすみ」
「ひどい、ひどいですよお兄ちゃん。私がここまで誘ってるのに……」
俺は茜の言葉を無視して目を閉じる。
さぁ寝よう。明日も早いからな。
目を閉じると、簡単に睡魔は襲ってくる。
俺はその睡魔に身を任せ、そして眠りに就いた。
「……お兄ちゃんの、バカ」
攻めるような茜の声が、意識が途切れる寸前で聞こえた。
◇妹◇
──チュン、チュンチュン。
そんな雀の鳴き声で俺は目を覚ます。
枕元に置いていたスマホに手を伸ばし、そして時刻を確認する。
えっと……五字半か。いつも通りだな。
俺は体を起こし、二、三度深呼吸をする。
「さて、早く行くか」
俺は布団を捲り、ゆっくりとベッドから降りる。
一度背伸びをして、いざ着替えようとしたとき──ふと茜の姿が目に入った。
「…………………………………………は?」
俺は堪らず、素っ頓狂な声を上げ、一度目を離す。
いやぁ、少し寝惚けてるのかな。
俺は目を擦り、再びベッドで寝ている茜に目を向ける。
やっぱり、茜は全裸で寝ていた。
俺は床に膝を突き、昨晩の記憶を遡る。
えっと確か、寝る前に茜が部屋に来て一緒に寝たいってお願いされて、仕方なく一緒に寝て……なにもないよな?
「これは、茜に直接聞く必要があるな……」
手っ取り早い解決策を口に出し、俺は体を起こして茜に近付く。
茜の体をなるべく見ないようにして、ゆっくりと肩を揺らす。
「おい茜、起きろ」
「…………ふへっ」
が茜は起きず、おかしな声を上げる。
「おにい、ちゃん……ぐへへ」
茜は寝言で俺のことを呼び、そしておかしな笑い声を上げた。
こいつ、どんな夢を見てんだよ。
俺は再び茜の肩を揺らす。が、やはり茜は起きない。
仕方ない、か。こうなったら最終手段だ。
俺はキスができそうな距離まで近付き、耳元で、
「茜、愛してるよ」
そう囁いた途端、茜はカッと目を見開き、物凄い勢いで体を起こした。
……こいつ、実は狸寝入りしてたとかじゃないよな?
あまりの速い反応に、俺は頭を押さえため息を吐いた。
「お兄ちゃん! 今のはホントですかっ!?」
茜は興奮気味に迫ってきて、声を荒らげ訊ねてきた。
俺を真っ直ぐ見つめる瞳からは、期待と喜びの混ざった視線が送られている。
はぁ、ホントにこいつは……
俺はもう一度ため息を吐き、「ホントだよ」と返す。
すると茜は目を輝かせ、ベッドの上で飛び上がった。
「ついにお兄ちゃんから愛の告白が! これで私とお兄ちゃんは結婚できます!」
「落ち着け! 今のは愛の告白じゃないし、茜と結婚する気はない! あと茜、今の自分の姿を確認しろ!」
俺は茜から目を逸らしながらそう言う。
「あぁそう言えば、昨日はお楽しみでしたね、お兄ちゃん♪」
ベッドに女の子座りをした茜は、妖艶な笑みを浮かべ唇に手を当てる。
「まず服を着ろ」
「分かりましたよ。お兄ちゃんはもう少し私の裸を堪能するってことはしないですか、まったく」
茜は何故か拗ねた口調でそう言い、ベッドの端から昨日着ていた純白の下着と、黒色のネグリジェを取り出し、それを身に纏った。
「それで茜、冗談はいいから、どうして裸だったのか答えてくれるか?」
「それは勿論、昨晩にお兄ちゃんとあっつい夜を過ごしたからです」
「はぁ、まったく……。俺は素直で正直な女の子が好きだな」
「こうしてたらお兄ちゃんが起きたとき興奮して私と関係を持ってくれるかなって思ったからです」
伝説の切り札を使うと、茜は素早く本当のことを答えた。
俺はもう一度ため息を吐き、デコピンをかました。
茜は「ふぎゅっ」と変な声を上げ、両手で額を押さえる。
「お、お兄ちゃん……痛いです」
茜は涙目になり、俺を上目遣いで見つめてくる。
「茜がバカやってるからだ。まったく……」
俺はもう一度ため息を吐く。
あぁ、もう起きてから何回ため息を吐いたんだろうか。……はぁ。
「まぁ今回は許してやる。次はもうするなよ?」
少し怒気を込めると、茜は素直に「はい」と頷いた。
そしてしょんぼりと肩を落とす茜。
仕方なく、俺は茜の体を抱き締め頭を撫でる。
「俺は走りに行ってくるから、その間に部屋に戻っとけよ?」
「はい、分かりました。ちゃんと夜花ちゃんを守ってくださいよ?」
守ってくださいって、どこを気にしてんだ。
「まぁ、そんな輩が出たら俺が倒してやるさ」
「それじゃあお兄ちゃん、いってらっしゃい」
「おう」
俺は体を離すと、もう一度茜の頭を撫で、タンスからジャージを取って部屋を出た。
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