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41話 黒藤さんから夜花ちゃん / 新たなる妹

なんとか投稿です!

 登校して教室に向かい、そしていつも通りクラスメイトたちと挨拶を交わす。

 (つばさ)(かなで)と雑談をしてHRまでの時間を潰し、淡々と午前の授業を受ける。

 だが、どうにも朝の黒藤(くろふじ)さんの姿が頭から離れない。

 そのため、授業も集中して聞けず、もう内容なんて殆ど頭に入ってきてない。

 

 そうこうしてる間に四時間目の授業も終わり、昼休みとなった。

 今日は『旧生徒指導室』に呼ばれていないので、久しぶりに教室で過ごすこととなる。

 机に弁当を広げ待っていると、(あかね)司音(しのん)ちゃんがやって来た。

 

「お兄ちゃん、お待たせー」

「お久しぶりですね、お兄ちゃん先輩っ」

 二人は眩しい笑顔を作る。

 茜はいそいそと来ると、俺の膝の上に座る。

「私もお兄ちゃん先輩の上に座りたいです」

 茜を見つめながら、司音ちゃんは唇を尖らせる。

「まぁ、別に俺はいいけど。茜がなぁ」

「学校じゃダメです」

「そんなぁ」

 茜が即答すると、司音ちゃんは残念そうに肩を落とす。

 その光景を見て、俺と翼、奏は静かに笑みを浮かべた。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 放課後。

 俺と茜はかすみんに呼ばれ、『旧生徒指導室』に来ていた。

 まだ部屋にはかすみんしかおらず、黒藤さんは来てなかった。

 俺たちが来てから五分後。

 不意に扉が開かれた。

 

「す、すいません、遅れました……っ」

 走ってきたのか、黒藤さんは息を荒らげている。

「いや、大丈夫だよ。それで、クラスの方はどうだった?」

「えっと……大丈夫でした。その、友達も何人かできましたし、それに今までいじめてきた人たちはちゃんと謝ってくれました」

「それは良かったよ。おめでとう」

 俺は椅子から立ち上がり、黒藤さんの頭を撫でた。

 黒藤さんは目を瞑り、頬を朱色に染める。

「ふふっ、ありがとうございます、先輩。それに、茜ちゃんも」

「別に、礼を言われることじゃないですよ」

 そう言いながらも、満更でもなさそうに笑う茜。

「本当に、良かったよ」

 俺は黒藤さんを優しく抱き締め、頭を撫でた。

 

 

 それから三人で話していると、突然黒藤さんが真面目な表情で「先輩、お話があります」と言ってきた。

「えっと、なにかな」

「……」

 黒藤さんは無言で椅子から立ち上がり、俺の目の前に移動してきた。

 俺は応えるように椅子から立つ。

 黒藤さんはゴクリと息を呑み、そしてゆっくりと口を開いた。

 

「……先輩、私は先輩のことが好きです。……もしよかったら、付き合ってください」

 

 司音(しのん)ちゃんと同じように、真っ直ぐ俺を見つめ、黒藤さんは告白してきた。

 なんとなく、黒藤さんが俺に好意を抱いていたことは気付いていた。だけど、まさか告白してくる程とは思ってなかった。

 俺が「ふぅ」と息を吐くと、黒藤さんはビクリと肩を跳ねさせる。

 俺の背中には、二つの視線が刺さっている。茜もかすみんも、この告白に俺がどう返すか気になるのだろう。

 まぁ、俺の答えは決まってるけどな。


「ありがとう、嬉しいよ」

 そう言うと、黒藤さんはパァっと顔を輝かせる。

「それじゃあっ──」

 俺は「けど」と黒藤さんの言葉を遮り続ける。

「ごめん。黒藤さんと付き合うことはできない」

「……」

 俺の答えを聞いた途端、黒藤さんは顔を歪め、そして俯いてしまった。

「ごめん、ホント」

「…………いいんです、私の考えが甘かっただけですから。先輩が私のこと助けてくれるって言って、嬉しくて……こんな私にも真摯に対応してくれて、こんなこと初めてでっ……」

 黒藤さんはぽろぽろと涙を流しながら続ける。

「気付いたら先輩のことが好きになってて……まだ会って一週間なのに……ひっぐ」

「黒藤さん……」

 泣き続ける黒藤さんの姿が居た堪れなくて、俺は抱き締めようと近付き、

 

「っ! ごめん、なさい……っ!」

 黒藤さんは一方後退り、そして振り向き走っていった。

 俺はどうしていいのか分からず、その場に立ち呆けてしまう。

 どうしたら、よかったんだろうな、俺は。

 いくらいじめが終わったからって、心が癒えたわけじゃないのに。

 言葉が足りなかったと俺は悔やむ。

 もう少し言葉に気を付ければよかった……

 そう考えていると、突然背中を叩かれた。

 振り向くと、茜が深紅の瞳で俺を睨んでいた。


「あ、茜……?」

「なにしてるんですか、早く探しにいってくださいよ」

「っ、あぁ、ちょっとひとっ走り行ってくるわ!」

 そうだ、こういうことは考えるんじゃない。もう、感じたことに従えばいいんだ。

 俺を茜に背中を押され、黒藤さんを追って走り出した。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 正直、黒藤さんがどこにいるかは分からなかった。

 それもそうだ。ここ一週間一緒にいる時間が多かったとは言え、まだ会って一週間なのだ。それだけじゃ相手を詳しく知ることはできない。

 いくら考えも、黒藤さんがどこにいるのか検討も付かない。

 なら、考えるな。感情で動け。直感で判断しろ。黒藤さんがどこにいるのか……

 俺はふと、ある場所が思い浮かび、進行方向をグルッと変えて再び走り出した。

 

 

 向かったのは、俺と黒藤さんがランニングの集合場所にしていた、いつもの公園。

 微かに聞こえる子供たちの声。皆楽しそうに遊んでいる。

 俺は公園の外から中を眺め、黒藤さんを探す。

 いない、のか?

 が、どこにも黒藤さんの姿はない。

 くそっ、俺の直感は外れたか。

 俺は舌打ちをすると、再び走り出す。

 黒藤さん、どこにいるんだ……っ!

 

「──っ!?」

 走り出した直後、俺は見付けた。

 公園に植えてある木々の奥。一つ寂しく置かれているベンチ。

 そこに、黒藤さんはいた。

 俺は公園を囲む柵を飛び越え、その場所へ向かった。

 

「黒藤さん……っ!」

 俺が名前を呼ぶと、黒藤さんはビクッと肩を跳ね、そして顔を上げた。

「せん、ぱい……?」

 ずっと泣いていたのか、黒藤さんの目は赤く晴れており、頬には涙の跡が付いている。

 俺は黒藤さんの前まで行くと、膝に手を突き、乱れた息を整える。

 

「……ふぅ。やっぱりここ(公園)にいたね、黒藤さん」

「どうしてっ、来たんですか……先輩」

 黒藤さんは泣くのを堪え訊ねてくる。

「そりゃ、まだ話は終わってないからさ」

「でも、先輩は私の告白、断りました」

「それはそだけど。……改めて、ごめん」

 俺が頭を下げると、黒藤さんは慌てて「頭を上げてくださいっ」と言う。

 

「でも、俺も黒藤さんのこと好きなんだよ。勿論、友達として、だけど」

 途端、黒藤さんは我慢できなくなったのか、再び鳴き始めてしまった。

「黒藤さんさえよければ、これからも一緒に話をしたり、朝走ったりしたい」

「……わっ、私はっ」

 黒藤さんは涙を拭い、青み掛かった瞳で見つめてくる。

 そして、

「私は、これからも先輩と一緒にいたいですっ」

「よかった。それじゃあ、これからも宜しく。えっと──夜花(よるか)さん」

 俺が名前を呼ぶと、黒藤さん──夜花さんは目を見開き、何故かまた涙を流し始めた。

「えっ!? も、もしかして名前で呼ばれるの好きじゃない?」

 そう聞くと、夜花さんは首を横に振る。

「いえ、違うんです。これは嬉し泣きです……っ」

 そう言いながら、夜花さんは抱き付いてきた。

「先輩、暖かいです」

「そりゃよかったよ」

 

  

 暫くの間そうしていると、突然夜花さんは体を離す。

「えっと、どうかした?」

「私の名前、呼んでください」

「? 夜花さん?」

 そう呼ぶと、何故か夜花さんはジト目で睨んでくる。

「さんは止めてください。距離を感じます。茜ちゃんみたいに呼び捨てにしてください」

「えっと、それはちょっと……」

 俺は夜花さんのお願いに苦笑する。

 俺の反応をどう受け取ったのか、黒藤さんは表情を曇らせ俯いた。

「そう、ですよね……結局私は」

 と始まったネガティブ発言。

「わーわーわー! 分かった、分かったから! それじゃあ…………夜花ちゃん」

 ちゃん付けならどうだ!?

 俺は夜花ちゃんの顔を見る。

 ……真っ赤に染まっていた。

「そ、それがいいです……っ」

「なら、宜しくね、夜花ちゃん」

「はいっ」

 夜花ちゃんは、会って一番の笑顔を見せた。

 ……すっごい可愛いっ!

 俺は夜花ちゃんの笑顔に、悶え倒れた。

 

 

   ◇妹◇

  

 

 夜。

 茜は部屋である人物に電話を掛けていた。

 

『──もしもし』

「もしもし、私です、茜です。夜花さん、一つ話があります」

 茜がそう言うと、夜花は『はい』と震えた声で返事をする。

「確認します、夜花さんはお兄ちゃんのこと好きですか?」

『……はい。私は先輩のこと、好きです』

「それなら、夜花さんもお兄ちゃんの──妹になりませんか?」

 茜の突然の提案に、夜花は『ふぇ?』と()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

『えっと、どういう……』

「今、お兄ちゃんの妹は私を含めて九人います。そして、妹になれば〝妹ハーレム〟に参加することができます。妹ハーレムに参加できれば、お兄ちゃんといつでもイチャイチャできますよ」

 茜の悪魔のような囁きに、夜花はゴクリと喉を鳴らし少しばかり考える。

 が、考えるまでもなく答えは決まっていた。


『──なります。先輩の妹になります。それで、妹ハーレムに参加して先輩とイチャイチャしたいです』

 

 夜花の答えに、茜はニヤリと妖艶な笑みを漏らした。

「分かりました。それではおやすみなさい」

 そう言い茜は電話を切ると、ベッドに横になる。

 

「ふふっ、楽しくなってきましたね、お兄ちゃん♪」

 

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この作品を読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字、改善点等がございましたら容赦なく教えてください!

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