37話 予定
昨日は投稿できなくてすいません。
また、今回は少し短くなっています。重ね重ねすいません。
あれから二日後の木曜日。
その間、俺と黒藤さんは毎朝走り、ダイエットに努めた。
まぁ、正直俺はダイエットなんてしなくてもいいんだけどね。
走った甲斐あってか、黒藤さんは三キロの減量を果たした。
三キロって。三日走っただけで三キロの減量って……。もしかして、黒藤さんは痩せやすい体質なのかもしれない。
そして、放課後は茜が黒藤さんの元に行き、メイクなどのノウハウを教え込んだ。
結果、黒藤さんはこの短期間で見違える程に可愛くなった。
いや、元から可愛かったのだが、更に磨きが掛かったのだ。
暗かった表情には笑顔が増し、漂っていた雰囲気はとても明るいモノに変わった。
放課後。
俺は茜と共に、『旧生徒指導室』に向かった。
部屋にはかすみんと黒藤さんが、椅子に座って話をしていた。
「よっ」
「よう」
「こ、こんにちは、先輩、茜さん」
「……お兄ちゃんと霞さんは軽すぎます。こんにちは、黒藤さん」
と挨拶を交わし、俺と茜も席に着く。
「さて、今日は何をするんだ?」
俺は茜に訊ねる。
俺が言い出したことなのだが、やはり同年代で同性である茜の方が適任だと思い、最近は茜に一任している。
茜は顎に手を当て、「うーん」と唸る。
「そうですね、今日もいつも通り、私が黒藤さんのところに行きましょう」
「なら、終わったら呼んでくれ」
「分かりました」
俺はスマホで時間を確認する。
まだ六時にもなってないな。
「さて、どうするか」
まだ帰るには早すぎる。
だが、今することも思い付かないし……。あれ? 俺って案外役立たず?
なんだろう、目から汗が……
「お兄ちゃん、どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
「それならいいんですが」
と、それから他愛もない雑談を続けていると、いつもの帰宅時間になった。
俺と茜、黒藤さんは揃って『旧生徒指導室』を後にした。
◇妹◇
茜たちと別れ、俺は光月と朝日と共に家に帰った。
俺は私服に着替え、リビングに向かう。
「あ、楓ちゃん」
「葉雪にぃさん、お帰りなさい」
リビングでは、楓ちゃんがソファーに腰掛けゆったりと寛いでいた。
俺は台所に向かい、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出した。
ペットボトルの半分程を飲み干し、冷蔵庫に入れる。
「楓ちゃん、明後日のことなんだけど」
明後日。つまりは土曜日。
この日、俺と楓ちゃんは二人っきりで出掛けることになっている。
つまりはデートだ。
楓ちゃんは〝明後日〟という言葉に反応し、挙動不審になる。
「楓ちゃん、落ち着いて」
俺は苦笑を浮かべつつ、楓ちゃんの頭を撫でる。
「あっ、葉雪にぃさんっ。……はふぅっ」
楓ちゃんは頬を朱色に染め、艶っぽい吐息を漏らす。
少しして楓ちゃんは「もう大丈夫です」と言い、俺の手を掴んだ。
楓ちゃんの手、すべすべしてて気持ちいいなぁ。
「葉雪にぃさん、そろそろ明後日の話を……」
「あぁ、ごめんごめん。それで明後日だけど、どこに行く?」
「その前に、私の部屋に行きましょう。聞かれたらあれですから」
俺は「分かった」と返し、一緒に楓ちゃんの部屋に向かった。
楓ちゃんの部屋は、どれも白を基調とした物で、一見質素に見える。
だが、どれも控えめに模様が付いており、淑やかさが醸し出されている。
一言で表すとしたら、とても楓ちゃんらしい部屋、といったところだ。
楓ちゃんに促され、俺はベッドに腰掛ける。
瞬間、ふわりと甘い香りが巻き上がる。
こ、これは理性が削れそうだ。
そして、楓ちゃんは密着するように、隣に腰掛けてくる。
余計匂いが強くなり、頭がくらくらする。
「それで、明後日なんだけどさ、どこに行く?」
俺は匂いのことから頭を切り替え、楓ちゃんに訊ねる。
「そうですね。葉雪にぃさんと一緒なら、私はどこでもいいです」
どこでもいい、か。結構大変なんだよなぁ。そういう答え。
楓ちゃんはあまりゲームとかしないから、ゲーセンは向いてない。かと言って買い物だけ、というのも少し物寂しい。
さて、どうしようかな。
と悩んでいると、楓ちゃんは「で、でもっ」と声を上げる。
「一つだけ、要望がありまして……」
何故か楓ちゃんは固い口調でそう言う。
「えっと、何かな」
「……」
楓ちゃんは俯き、黙ってしまう。
どうしたんだろう。と思っていると、ふと楓ちゃんの耳が赤く染まっていることに気付く。
もしかして、恥ずかしいこと、なのか……?
よく茜から冗談半分(だといいなぁ)で「ラブホに行きましょう!」と言われたことがあったが、まさかその類いなのか?
そう考えると、何故か冷や汗が止まらない。
とそうしていると、楓ちゃんがバッと顔を上げる。
やはり、楓ちゃんの顔は真っ赤に染まっていた。
少し潤んだ瞳で、上目遣いで俺を見つめてくる。
その姿を見て、俺はゴクリと生唾を呑む。
「その、私は…………葉雪にぃさんと一緒に──」
──ピロリン♪
楓ちゃんの言葉を遮るように、俺のスマホから着信音が鳴った。
「っ!?」
楓ちゃんは驚き、声を詰まらせた。
俺は楓ちゃんに一言断りを入れ、スマホを取り出す。
茜からのメールだった。
『お兄ちゃん、もしかして今、楓さんと秘密のお話をしていませんでしたか?』
……相変わらずと言うか、茜は鋭いよな。ホント。
俺はつい、ため息を溢してしまう。
「えっと、葉雪にぃさん、どうかしましたか?」
楓ちゃんは不安そうに、俺の顔を覗き込んでくる。
俺は無言で、茜からのメールを見せる。
すると、楓ちゃんは目を見開き、口を手で覆い隠す。
「……茜さんって、どこか鋭いところありますよね」
楓ちゃんはそう言い、苦笑を漏らす。
「そうだね」
俺も苦笑を浮かべる。
そして、何がおかしいのか、俺と楓ちゃんは声を揃えて笑い出した。
「さて、今日はもう止めようか。これ以上話してると、茜が感付きそうだから」
「そ、そうですね」
それから少しばかり雑談をして、俺は楓ちゃんの部屋を出た。
◇妹◇
あれから更に時間は過ぎ、暗くなった頃に茜から迎えに来るようメールが来た。
俺は上着を羽織り、小走りで駅前のマンションに向かった。
茜を回収して、黒藤さんと少し会話をして、俺たちは帰路に発った。
それから歩くこと十分。俺がいつも筋トレをしている公園を通り掛かった。
「お兄ちゃんは、ここで黒藤さんと密会しているんですよね」
茜は唇を尖らせそう言う。
いや、密会って。
「ただ一緒に走ってるだけなんだけど」
「……それでも、私に黙ってましたよね?」
「まぁ、そうだな」
そう返すと、茜は頬を膨らませる。
俺は出来心から、茜の膨らんだ頬をつついた。
あ、ぷにぷにしてる。
そうしていると、茜は口の中の空気を抜いた。
あぁ、もうちょっと続けたかったなぁ。
「──ところでお兄ちゃん、楓さんとはなにを話していたんですか?」
「べ、別に、他愛もない雑談をしてただけだけど?」
俺はデートのことがバレないように誤魔化す。
茜は「ホントですかぁ?」とジト目で見つめてくる。
「嘘じゃないぞ?」
そう、嘘ではない。ただ、その雑談の前にはデートの予定を話し合っていたけど。
だが、茜は疑うことを止めない。
多分、茜は自分でも勘が鋭いことを理解しているのだろう。だから、こうも引き下がらないのだと思う。
しょうがない。もう最終兵器を使うしかない。
俺はそう思い、茜の頭に手を伸ばし──そして、ゆっくりと撫でた。
「んっ、お兄ちゃんっ。いきなりどうしたんです、かっ……ふへへ♪」
茜は突然の俺の行動に驚いたが、すぐにだらしない笑みを浮かべる。
いやぁ、流石は最終兵器だ。
「もう、今回は見逃してあげますから。楓さんとしたこと、私にもしてくださいね?」
茜ちょろい。
そう思った瞬間、キッと茜が睨んでくる。
俺は苦笑を浮かべ「分かったよ」と答えた。
「さぁ、お兄ちゃん、帰りましょう♪」
茜は上機嫌からか笑顔を作り、俺の手を引く。
それから俺たちは、手を繋いで家に帰った。
なお、また帰るのが遅くなって、楓ちゃんから叱られたことを、ここに記しておく。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
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この作品を読んで頂いた読者様に最大の感謝を