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30話 波乱万丈の借りモノ競争

 昼休憩は終わり、遂に午後の競技が始まろうとしていた。

 午後の競技は例の〝借りモノ競争〟だ。

 順番は一年女子、一年男子、二年女子、二年男子、三年女子、三年男子の順番になっている。

 

 そしてもう数分足らずで、第一陣である一年女子の借りモノ競争が始まる。

 赤組白組が三人ずつ、計六人がスタートラインに並んでいる。

 その中には蓮唯(れんゆい)ちゃんの姿もある。

 蓮唯ちゃんは俺をチラリと見ると、ニコォと眩しい笑顔を見せる。可愛い。

 

 (しば)しの静寂がグラウンドを包む。

 そして──

 

 パァン!

 

 ピストルの音が鳴り響き、六人は同時に走り出した。

 自負するだけはあって、蓮唯ちゃんは物凄く速かった。

 他の五人よりも早くカードの元に付くと、一番近くにあったカードを拾い上げ、内容を確認する。

 そして蓮唯ちゃんは、ニヤリと妖しい笑みを浮かべた。

 瞬間、ゾクリと悪寒が走る。

 が、すぐに悪寒は過ぎ去り、蓮唯ちゃんの笑みも、いつもの活発なモノに戻っていた。

 どんなお題を引いたのかなぁ。

 と気になっていると、蓮唯ちゃんは真っ直ぐにこちらへ向かってきた。

 

「にぃに~♪」

「れ、蓮唯ちゃん、どうかしたか?」

 俺は動揺を隠しながら訊ねるが、蓮唯ちゃんはニパァと笑顔で制する。

「付いてきてっ♪」

 蓮唯ちゃんは俺の答えを聞かずに(勿論イエスではあるが)再びトラックに戻る。

 俺は蓮唯ちゃんに腕を引っ張られながら、蓮唯ちゃんの後を走る。

 

 他の者よりも早くゴールすると、蓮唯ちゃんは待機していた委員会の人からマイクを受け取る。

 

『さぁ! 最初のお題の発表をどうぞ!』

 

 放送に促され、蓮唯ちゃんはカード掲げる。

 俺はゴクリと喉を鳴らし、蓮唯ちゃんの発表を待つ。

 蓮唯ちゃんは一度俺を見てニヤリと笑い、

 

「お題は〝好きな人〟ですっ!」

 

 と大声で発表した。

 まさか、こんなに早くフラグを回収するなんて……っ!

 俺は──いや、俺たちは驚愕に目を見開き固まってしまった。

 俺はフラグ回収の早さに。そして他の生徒はお題の内容に驚いていた。

 何故なら、何も知らない人からすれば、蓮唯ちゃんは今日初めて会った年上の男子に告白したことになるからだ。

 

 蓮唯ちゃんはやってやったぜとでも言いたげに、ない胸を張っていた。

 俺は解放されると、すぐにテントに走った。

 クラスメイトたちが色々問い質してくるが、俺はそれを全て無視する。答えている余裕なんてない。

 と、俺は一つの鋭い視線を感じ、ハッと顔を上げる。

 時政(ときまさ)くんが、鬼の形相で俺を睨んでいた。

 時政くんはパクパクと口を動かすが、距離が離れていて何を言っているのか全く分からない。

 いや、まぁある程度は想像付くんだけどね。

 俺は時政くんの口の動きで、何が言いたいのかを予測した。

 ──なに(かえで)さんの妹さんまで(たぶら)かしてんですか、このクズ。

 と時政くんは言いたいのだろう。流石に最後のは盛ったが。

 俺は睨んでくる時政くんに、ニヤリと不敵な笑みを返す。

 すると、時政くんは自らの太股を強く叩いた。

 突然のその行動に、時政くんの周りの生徒は驚いていた。

 いやぁ、時政くんってホント面白い。

 

 

 それから数を重ね、遂に残り二走となった。

 赤組の中に、司音(しのん)ちゃんの姿があった。

 表情が強張っていて、緊張していることが分かる。

 六人全員が定位置に着くと、少ししてパァン! とピストルが鳴った。

 

 司音ちゃんは一速くカードの元に辿り着くと、無作為に一枚拾い上げた。

 司音ちゃんは拾ったカードを見て──顔を真っ赤に染めた。

 多分、内容が恥ずかしいモノだったのだろう。

 だが、僅かに頬が上がっているところを見ると、結構嬉しい内容だと言うことが容易に想像できる。

 そして司音ちゃんは真っ直ぐ、俺の方に走ってきた。

 やっぱりか……

 俺は呆れ、ため息を吐く。

 

「お兄ちゃん先輩、行きますよ!」

 パシッと俺の手を掴むと、司音ちゃんは急いで走り出す。

 急がなくても、他の人はまだ借りモノを探してるのに。

 と思いながらも、俺は司音ちゃんに合わせて走った。

 

 ゴール地点でマイクを受け取ると、司音ちゃんは小悪魔的な笑みを向けてきて、そして堂々と言い放った。

 

「お題は、〝好きな人〟ですっ!」

 

 今度は驚きの声が上がった。なんせ、短い時間に一人の男子(俺)が二人の美少女(司音ちゃんと蓮唯ちゃん)から告白されたのだから。

 司音ちゃんが無事ゴールすると、俺は再び走ってテントまで戻った。

 

 再び質問責めにされたが、俺は無視を貫き通した。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 それから更に進み、最終走者となった。

 赤組の最終走者には、やっぱり(あかね)の姿が。

 いやね、もう二回もあったんだから、この先の展開なんて容易に想像できますよ。

 半ば呆れながらも、俺は静かに茜を見守る。

 

 そしてパァン! とピストルが鳴り、六人が一斉に走り出す。

 だが、茜はよく俺と一緒に走っていたため、他の者よりも早くカードの元に辿り着いた。

 

 茜は一枚のカードを引き、そしてニヤリと笑みを浮かべる。

 やっぱりかぁ……はぁ。

 茜の反応から、どんなお題を引いたのか察しが付く。

 やっぱフラグは回収しなきゃだよなぁ。

 うだうだしていると、茜はもうテントの前まで来ていた。

「お兄ちゃん、行きますよ!」

 俺は「おう」と返し、茜の手を握って走り出した。

 

 勿論一番最初にゴールし、茜は委員からマイクを受け取る。

 おい待て委員、何故今俺を見て笑った。何ニヤニヤしてんだ。

 とそんなことをしていると、茜が堂々とお題の内容を告げた。

 

「お題は──〝好きな人〟ですっ!」

 

 再びグラウンドが驚愕の声に包まれたことは、言わなくても分かるだろう。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 一年女子の借りモノ競争が終わり、続いて一年男子の部が始まった。

 男子の方でも色々なお題が出て、皆楽しめていたと思う。

 

 あるときは子供。あるときはサングラス。またあるときはハチマキなど、これぞTHE・借りモノ競争と言うお題が多かった。

 勿論、数人が〝好きな人〟を引き、意中の女子を連れてゴール、そのまま告白といった流れがあった。

 全てが全て成就したわけではないが、少なくとも三分の一程はカップル成立していた。

 なるほど、学校行事から始まるお付き合い。なんとも学園ラブコメな展開だ。

 

 

 と笑っていられたのはこの時までだった。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 一年男子の借りモノ競争が終わり、次は二年女子の借りモノ競争となった。

 ……折角楽しめてたのにな。もう、これ絶対フラグ回収するやつだよね……

 入場ゲートで準備している二年女子。その集団の中でも一際目立つ(かえで)ちゃん。その楓ちゃんは俺と目が合うと意味深な笑みを浮かべた。

 はぁ……俺は今日だけでどれだけの男子の憎悪(ヘイト)を溜めればいいのだろうか。全く……可愛いから許すけど!

 ため息を吐いていると、ふと楓ちゃんが眩しい笑顔を向けてきて、俺のテンションはMAXを越えた。もう男子どもの憎悪なんて怖くない。

 

『えー、今より借りモノ競争、二年女子の部を開始します。参加者の人は入場してください』

 

 と、そうしている間に放送が掛かり、二年女子は動き始めた。

 フラグ回収は免れないとしても、できれば穏便に済ませたい。決して楓ちゃんに両校全生徒の前で公開告白させてはならない。

 と考えている間に第一走者がスタートラインに立ち、合図を待っていた。

 少しの静寂が訪れ、そして次の瞬間それを張り裂くようにパァン! とピストルが鳴った。

 

『遂に始まりました、借りモノ競争二年女子の部。今回はどのようなお題が出てくるのでしょうか!』

 

 場を盛り上げるような放送。それに煽られるように、生徒や来賓の声が大きくなっていく。

 

 一走で出たお題は『水筒』、『体育祭のプログラム』、『日除け傘』などなど、やはり一般的な借りモノ競争となった。

 第二走、こちらもお題は『腕時計』、『赤、白ハチマキ』、『友達』など、やはり一般的である。

 

 それから更に進んでいき、第十二走、(かなで)の番が来た。

 奏はあくまで音楽系で運動は得意ではない。だが、そこら辺の女子よりは普通に速い。

 他の生徒と距離を開けお題を取る奏。そしてカードを読み、俺と(つばさ)に目を向ける。

 お、なんとなく察しが付いたぞ。多分これ『幼馴染み』か『親友』だな。

 そう確信し、俺は椅子から腰を上げる。

 同じタイミングで翼も席を立つ。

 ──ふっ、やはりか。

 ──まぁ、そんなとこだね。

 目線だけで翼とコミュニケーションを取っていると、予想通り奏は俺の翼の両方を呼んだ。

「ほら、早く行くよユキくん、翼!」

 奏は俺たちの手を引き、そのままトラックへ戻りゴールテープ目指して走る。

 

 案の定、俺たちが一番早くゴールした。

 さて、答え合わせだな。

 

『さぁ! お題をどうぞ!』

 

 と放送が掛かり、奏はカードを掲げ、

「幼馴染みでーす!」

 と元気よく言った。

 やっぱり、幼馴染みが来たか。

 俺と翼は予想的中だな、と雑談しながらテントに戻った。

 

 この時俺は楽しくて忘れていた。この後に壮絶な爆弾があることを。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 遂に二年女子の最終走となった。

 スタートラインに立っている女子の中には、楓ちゃんの姿がある。

 ピストルが鳴る寸前、楓ちゃんは俺を見て笑みを浮かべた。

 いつもなら純粋に可愛いと思えたのだろうが、この後起こることがある所為で、少しばかりため息が出てしまう。

 そして──

 

 パァン!

 

 六人がスタートした。

 残念ながら楓ちゃんは三番目にカードの元に着き、残った四枚から一枚を選び手に取った。

 瞬間、楓ちゃんは妖艶な、それでいて悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 そしてやはりと言うべきか、真っ直ぐと俺の方に向かって走ってきた。

 

葉雪(はゆき)にぃさん、一緒に来てください!」

 そう言い、楓ちゃんは俺の手を掴む。

 周りからは「またお前かー!」と言われ、離れた別のテントからは、時政くんが誰よりも鋭い憎悪の籠った視線を送ってきていた。

 翼は苦笑いを浮かべ、小声で「がんばれ」と言ってくる。

 俺は頷き、楓ちゃんと共にゴールへ走った。

 

 結果、俺たちが最初にゴールし、お題発表となった。

 楓ちゃんは待機していた委員からマイクを受け取り、そしてお題を口にした。

  

「〝好きな人〟ですっ!」

 

『はぁぁぁぁぁああああああっ!?』

 

 ハモった。約千人以上の人が声を揃え、驚愕の声を上げた。

 うん、分かるよ、君たちの気持ちはよぉぉぉぉぉっく分かる。だって美少女四人から告白されてるからね。うんうん、全く、俺はなんて罪な男なんだ☆

 ……なんて開き直れたらよかったな。ヨホホ……

 俺は重たい足を動かし、テントへ戻った。

 

 やはり、皆から質問責めになった。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 二年女子の部が終わり、とうとう俺たち、二年男子の部になった。

 すれ違い様に時政くんから「絶対勝ちますから」と言われ、俺はつい笑みを漏らした。

 勝てるもんならやってみな、俺はその先を行くからよぉ!

 と、ここまで来たらもうヤケクソだ。もうどうにでもなれ。

 

 と、そうしている間に、遂に開始時刻となった。

 放送が掛かり、俺たちはグラウンドに入場する。

 そしてすぐに第一走がスタートラインに立ち、そしてピストルの音が鳴り響いた。

 

 やはり出るお題は一般的なモノ、無難なモノばかり。

 もうこれ仕組まれてんじゃないのかと思うレベル。

 

 

 ある程度進み、第十五走者。

 誰が走るかと言うと、当然翼だ。

 

 何を取ったのか分からないが、翼は奏を連れてゴールへ向かった。

 そして発表。お題の内容は『幼馴染み』──……もうやったよ、つまんねぇな。

 

 そして更に進んでいき、遂にやってきた最終走。

 やっぱりお約束、赤組には俺、白組には時政くんがいる。

 更に偶然場所が隣になり、時政くんは俺を睨みながら「これは負けませんよ」と宣言してくる。

 そのふざけた幻想をぶっ壊してやるよ。と俺は不敵に笑った。

 

 そして、俺と時政くんの聖戦の開始を告げる(ピストル)が鳴った。

 俺はスタートダッシュですぐさまカードの元まで着き、適当に一枚拾い上げ──地面に叩き付けた。

 

『おっと、葉雪選手、なにかあったのでしょうか』

 

 とわざとらしい放送が掛かる。

 くっそ、やっぱこうなるのか……

 俺は諦めながら、ゆっくりと伊吹高校の一年女子(・・・・)のテントに向かう。

 テントでは「キャー!」と黄色い声が上がる。そして茜、司音ちゃんは期待に目を輝かせる。

 反対に、楓ちゃんと蓮唯ちゃんは少し悔しそうに表情を歪ませる。

 ……体育祭が終わったら甘やかそう。そう俺は心に決める。

 やっぱり、俺は妹に甘いんだなぁ。

 

「茜、行くぞ」

 そう言うと、茜は満面の笑みで「はいっ!」と頷く。

 俺と茜は手を繋いで、そのままゴールへ一直線に走った。

 

 

 最初から距離を離していたこともあり、俺たちが一番最初にゴールした。

 俺は委員からマイクを受け取る。

 茜は期待の眼差しを、俺に向けてくる。

 俺は一度ため息を吐くと、マイクの電源を入れる。

 そして──

 

 

 

「お題は──〝大好きな人〟です」

この作品を読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字、改善点等がございましたら容赦なく教えてください!

この作品を読んで頂いた読者様に最大の感謝を

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