26話 かすみんは頑張りすぎる
短いですがお許しくださいっ!
金曜日。
目が覚めた時、凉ちゃんはまだ俺の腕の中で眠っていた。
規則正しい、可愛い寝息を発てている。
起こしても悪いし、今日は日課はしなくていいかな。
俺はそう思い、凉ちゃんが起きるまで一緒に寝ようと決めた。
「ふゅ…………ん」
ぱちりと、凉ちゃんの目が開く。
眠たげな瞳は俺の目を真っ直ぐ見つめる。
「──っ!?」
少し遅れて、凉ちゃんは目を見開き顔を真っ赤に染める。
思ったより顔が近かったのだろうか。それとも、俺が凉ちゃんの顔を見つめてると思ってなかったのだろうか。将又、昨晩のことを思いだし、羞恥に悶えているのだろうか。
どれであろうと、赤面してプルプル震える凉ちゃんは可愛い。
「凉ちゃん、おはよう」
俺はあえて凉ちゃんの体を抱き締め挨拶をする。
「ふみゅっ!? ……おはよう、ございます、にぃさま」
凉ちゃんは俺の行動に驚き素っ頓狂な声を上げるも、すぐに嬉しそうに頬を緩め挨拶を返してくる。
最近、凉ちゃんが素直になってる気がする。
そう思いながら、俺は凉ちゃんの頭を撫でる。
「ふみゅ~♪」
凉ちゃんは気持ち良さそうな声を漏らす。
可愛い。
「おはようございます、お兄ちゃん。なにをしてるんですか?」
凉ちゃんを愛でていると、突如茜が部屋に入ってきた。
茜の口から発せられた言葉からは、怒りと嫉妬の感情が漏れていた。
そして俺たちを見つめる瞳は赤く輝き、なんと言うかとても怖い。
茜の威圧に、凉ちゃんは俺の腕の中でプルプルと震えている。
怖がってる凉ちゃんも可愛いなぁ。
と呑気に考えながら、俺は茜の方を見る。
「おはよう、茜」
「はい、おはようございます。それで、お兄ちゃんは今なにをしてるんですか?」
「なに、と言われても。強いて言うなら凉ちゃんを愛でていた、かな?」
そう言うと、茜は「はぁ」とため息を吐く。
「まぁ、いいですよ。それよりも、そろそろ起きた方がいいのではないですか?」
そう言われ、俺は時計に目をやる。
時計には六時三十分と記されていた。
「──あっ、やばっ!」
俺は慌ててベッドから飛び降り、着替えを持って部屋を出た。
「まったく、お兄ちゃんは浮かれすぎです」
そんな声が、聞こえたような気がした。
◇妹◇
急いでシャワーを浴びて、俺はシャツを着た。
部屋に戻ると、凉ちゃんも茜もいなかった。
俺は制服を着て、鞄を持ってリビングに向かった。
「お、おはよっ!」
俺は挨拶をしながら、リビングの扉を開けた。
「おはようございます、葉雪にぃさん」
エプロン姿の楓ちゃんが迎えてくれた。
「……可愛い」
「えっ!?」
なんてことをやってる時間はない。
俺はソファーに鞄を置き、すぐさま台所に行く。
手を洗い、楓ちゃんの手伝いを始めた。
「なんだか、最近は楓ちゃんの方が早く台所に来てるね」
「そうですね、なんとなく葉雪にぃさんに張り合いたいって思ったから、ですかね」
ほう、俺に張り合うか、面白い。なんてことは口にせず、ただいつも通り手を動かす。
朝食と弁当を作り終えたところで、茜たちがリビングに入ってきた。
「おはようございます、お兄ちゃん、楓さん」
「「おはよー」」
「おはよっ! にぃに! ねぇね!」
「おはよう、ございますっ」
順に茜、光月、朝日、蓮唯ちゃん、凉ちゃんが挨拶をしてくる。
「おはよう。早く席着いて」
俺はそう言いながら、朝食をテーブルに並べる。
「いただきます」
皆で声を揃えて、朝食を食べ始めた。
◇妹◇
PTA研修室。
俺と茜は、前日同様かすみんに呼ばれ朝早く登校していた。
そして、去年までの体育祭の書類と、今年の体育祭の計画書を読んでいた。
「特におかしい点はないけど」
書類を読み終え、俺はかすみんにそう伝える。
「そうか、それならよかった……」
かすみんは眠たそうに目を擦りそう言う。
よく見れば目元にクマができている。夜通しで仕事をしていたのだろう。
俺は壁に掛けてある時計を見る。
時計の針は七時四十分を差していた。
時間はまだ大丈夫か。
「かすみん、寝不足だろ」
「まぁ、そうだな」
「だから、ほれ」
俺はパイプ椅子を引き、太股をぽんぽんと叩く。
「ん? なんだ?」
「膝枕。まだ時間には余裕あるし、少しは寝ろ。可愛い顔が台無しだろ」
そう言うと、かすみんは頬を赤らめる。
「な、なら、お言葉に甘えて」
そう言い、かすみんは席を立ち、こちらに向かってくる。
他の椅子に体を預け、頭を俺の太股に乗せる。
俺はゆっくりと、かすみんの頭を優しく撫でる。
「んっ」
かすみんは少し声を漏らす。
少しして、寝息が聞こえてきた。
「頑張りすぎだよ、ばーか」
俺はそう言いながら、時間が来るまでかすみんの頭を撫で続けた。
その間、ずっと茜が羨ましそうに見つめていたのを、俺は見逃していない。
◇妹◇
午前中の授業を難なく熟し、昼休み。
俺は茜を教室に迎えに行き、一緒に『旧生徒指導室』に向かった。
かすみんは先に来ており、昨日同様パソコンでなにかを打ち込んでいた。
「なぁ、かすみん、ちょっと頑張りすぎじゃね?」
そう言うと、かすみんは手を止めずに言葉を返してくる。
「まぁな。でも、このくらいしとかないと大変なんだよ」
まぁ、どっかの社長の所為で余計大変になってるけどな。と笑う。
その意見には同感だ。
厳人さんって、良くも悪くも童心を捨ててないからなぁ。
「でも、ちゃんと寝ろよ? じゃないとまた膝枕するぞ」
そう言うと、かすみんは手を止める。
少し考える仕草をし、頬を朱色に染めながら口を開く。
「それなら、もう少し頑張ろう、かな」
「はぁ……」
俺は堪らずため息を吐いた。
「逆だ。頑張らなかったら膝枕してやる。これ以上頑張るな。体が心配だ」
そう言うと、かすみんは「分かってるよ」と言い笑う。
「あぁ、来週は木曜まで実行委員の話し合いには参加しなくていいから」
「ん、了解」
かすみんが仕事を終わらせ、俺たちは昼食を食べ始めた。
結局、今日も時間ギリギリに教室に戻る羽目になった。
◇妹◇
放課後、実行委員の話し合いが終わり、俺と茜は一緒に家に帰っていた。
「はぁ、今日も疲れましたね」
「そうだな。来週は木曜まで行かなくていいんだし、気が楽だ」
そう言うと、茜はくすっと笑う。
「どうした?」
「いえ、ただお兄ちゃんは霞さんのこと気に掛けてるなって」
「そうか?」
「そうです。だって、気が楽だって言っておきながら、顔はすごい心配してますもん」
そうか……顔には出てたのか。
「まぁ、気が楽なのはホントだけどな。かすみんって頑張りすぎるところがあるから、体調崩さないか心配なんだよ」
そう言うと、茜は「そうですね」と同調する。
「まぁ、そこが霞さんらしいんですけどね」
「そうだな」
俺と茜はそんなことを話していると、気付けば家の目の前まで来ていた。
俺は部屋に入ると、制服から私服に着替え、鞄の中から宿題を取り出した。
帰ってすぐ宿題、これはした方がいい。
と誰に言うでもなく、俺は淡々と問題を解いていく。
結局、俺は一時間程で全ての宿題を終わらせた。
「喉渇いたな」
そう呟き、俺はリビングに向かった。
リビングに入ると、真っ先に蓮唯ちゃんの姿が目に入った。
蓮唯ちゃんは部活のユニフォーム姿のまま、ソファーに横になり規則正しい寝息を発てていた。
確か、蓮唯ちゃんは陸上部だったよな。
部活終わりで疲れているのだろう。そう思い、俺は声を掛けることはせず、物音を発てないように台所の方へ向かった。
冷蔵庫の中から緑茶の入ったペットボトル(500
ml)を取り出し、三分の一程飲み干す。
ペットボトルを冷蔵庫に戻し、俺は蓮唯ちゃんの元に行く。
「可愛いな」
いつも元気な姿からは想像できない程、蓮唯ちゃんの眠る姿は大人しかった。
俺は蓮唯ちゃんの頭を軽く撫でて、リビングを出ていった。
部屋に戻ると、茜がベッドに腰掛けていた。
なんとなくだが、この後の展開は読めた。
「どうしたんだ?」
「お兄ちゃん、膝枕してください」
やっぱりか。
「まぁ、いいよ」
俺はそう言うと、ベッドに腰掛ける。
「わーい」
そう言い、茜は俺の太股に頭を乗せる。
「お兄ちゃん、頭撫でてください」
そう言い、茜は俺の手を掴み頭に当てる。
「分かったよ」
手短に返し、俺はゆっくりと頭を撫でる。
「んっ~♪ お兄ちゃんに頭撫でてもらうの、好きです」
茜は気持ち良さそうに唸り、甘えるような声でそう言う。
「俺も、茜の頭を撫でるの好きだな」
そう言うと、茜は頬を膨らませる。
「私のことは好きですか?」
どうやら、『茜の頭を撫でるのが』と言ったのが気に食わなかったらしい。
まったく、茜は細かいことまできにするな。
「勿論、茜のこと大好きだよ」
そう言うと、茜は急に顔を真っ赤に染める。
「ふ、不意打ちは卑怯ですよ……」
そう言いながらも、茜は嬉しそうに「にへへっ♪」と笑う。
照れながら笑う茜も可愛い。
そう思いながら、俺は茜の頭を撫で続けた。
結局、茜が部屋を出ていったのはそれから一時間経ってからだった。
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