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2話 新妹来たぁぁぁあああ!

「実はな、父さん地方に転勤になったんだ」

 

 父さんの放った言葉に理解が追い付かず、俺の思考はフリーズしてしまう。

 がすぐに気を取り戻し父さんに尋ねる。


「えっ? 地方に転勤って?」

「簡単に言ってしまえば、厳人(げんと)のいつもの押し付けだな。まぁ、俺の仕事の腕を買って頼んでくれたみたいだが」

 誇らし気に胸を張る父さんに、俺は白い目を向けながら続けて尋ねる。


「それで? 地方ってどこ? いつまでなんだ? 理由は?」

 父さんは「慌てるな」と言うと、一つずつ説明していく。

「えっと、まず場所なんだが、大分県だ」

 大分県って、ここ東京だぞ!? 遠すぎるだろっ!


「んで、先に仕事内容を説明するぞ? 大分にあるうちの支店が今大赤字なんだ。俺はそこに期限まで(かよ)い、黒字にすることが今回の仕事だ。期限は二年後まで」

「ちょっ、はぁ!? 二年後!?」

 父さんの言葉に、俺はつい声を荒らげてしまう。

「あぁ、そうだ。それまでにその支店を黒字にしなきゃならない」

「……」

「まぁ、一時的に黒字にするなら半年、一年あればできるが、重要なのはそこじゃないんだ」

 いや、できるのかよ。我が父ながら恐ろしいな。と思いながらも「はぁ」と相槌を打つ。


「俺の役目は、『支店に勤めている社員の教育』と『支店の売上を黒字にする』、そして『これから先入社してくる新入社員の教育方針の改正』だ」

「そ、そんなにあるのか?」

「あぁ。厳人が言うには『このレベルの仕事はお前にしかできない』らしい。まったく、そんなに買われる程ではないんだがな」

 ははは! と豪快に笑う父さんを白い目で睨むが、すぐに新たな疑問を口にする。

「それで、その転勤の間、父さんはどうするんだよ。家事なんて全くできないだろ?」

 俺の言葉に、父さんは「うっ!」と声を上げ胸を押さえた。

 実際に痛むわけじゃないだろうけど。


「ま、まぁ、それは俺も最初に思って厳人に言ったさ。そしたらあいつ『なら美々(みみ)も連れていったらどうだ?』ってな。笑っちまうだろ?」

「いや、笑い事じゃないだろ。どうすんだよ、それだったら妹三人に俺一人になるだろ」

 そう言うと、父さんは待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。

「実はな、そのことでも厳人が提案してきたんだが」

 父さんは一旦言葉を区切ると、テーブルに身を乗り出した。

 

「厳人のところ、つまり羽真家で俺が帰ってくるまでお前らを面倒見てくれるらしい」


「……はぁ!?」

 その言葉を聞き、俺は()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

「それってどういうことだ?」

「えっとな。理由は二つあって、一つは『自分の会社の都合で親を遠くに行かせることに対する罪滅ぼし』」

「二つ目は?」

「『娘の世話をしてほしい』だと」

「娘って?」

「厳人には三人の娘さんがいるんだよ」

「な、なるほど」

 つまり、父さんと母さんが居ない間、住まわせてやるから(うち)の娘の世話をしろ、ってことか。もう何が何だかわかんねぇ……

 俺が今後の生活に頭を悩ませていると、父さんは真面目な口調で続ける。


「勿論、母さんを連れていくことは確定ではない。お前が嫌だと思うのなら、俺は一人で行く。強制も強要もしないから、お前なりに考えろ」

 そう言われ、俺は十分な時間を要して答えを出す。

 

「いや、父さんと母さん二人で行ってきてくれ」

 そう言うと、父さんは嬉しそうに頬を(ほころ)ばせた。

「そうか、(あかね)たちと厳人の娘さんたちを頼んだぞ?」

「あぁ、任された」

「よし。それじゃあ、出発は明明後日(しあさって)だ。必要最低限の荷物は纏めとけよ?」

「了解。茜たちにも後で伝えとくよ」

「ふぅ、これで安心して大分に行けるな」

 そう言葉を交わして、本日の話し合いは幕を閉じた。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 父さんとの話し合いから三日後の土曜日。つまり、父さんと母さんが大分に向かう、そして俺と茜たちが羽真家に厄介になる日である。

 

 そして俺たちは今、豪邸の前にいた。

 

「…………………………………………………………………………………………………………はぁ?」

 

 俺は目の前の豪邸を見上げ、素っ頓狂な声を上げる。

 白を基調とした豪邸は、アメリカのホワイトハウスに引けを取らない程に大きく、そして美しい。

 芝生の敷き詰められた庭はとても広く、サッカーコートが二十とか三十とか、下手したらもっと作れるくらい広い。

 そしてそれを囲む塀。高さは目測でも四メートルを越えており、上の方に見たことの無い機械のような物が設置されている。


 もう、何から何まで規格外。こんなの現代日本にあっていいのかよって思うくらい凄い。

 これが世界一の超大企業の為せる業なのか……っ!


「すごいですね、お兄ちゃん」

「「すごいね、おにぃ」」

 ──なんて俺が羽真(はねま)グループの力に身震いしているのがバカに思えるくらい、妹たちの反応は乏しかった。

 皆、もっと見てくれ。絶対この建物は日本にあっちゃいけないものだから……


 

 

「ようこそ! 我が家へ!」

 場所を移り玄関前。やけに大きい扉を開くと、筋骨隆々の男性が迎えてくれた。

 た、多分この人が厳人さんなんだろうなぁ……


 頬が引き攣るのを感じ、咄嗟に目を逸らす。失礼な反応なのは分かっているが仕方ない。

 ふと隣を見ると、茜たちも頬を引き攣らせていた。それでも無理に笑おうと頑張り、苦笑いを浮かべている。

 そんな俺たちを気にする素振りはなく、父さんと厳人さんは力強く握手を交わした。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 羽真家の門の前で父さんと母さんを見送ると、俺たちは厳人さんに案内され、家の中に入っていった。

 長く広い廊下を数分と歩いていると、一つの扉の前で厳人さんは足を止めた。


「ここが共同スペース、まぁリビングだ。既に娘たちが待っている」

「あ、はい」

 威圧に耐えながら俺は返事をする。

 厳人さんは俺の返事を聞くと、ドアノブに手を掛けゆっくりと回す。

 扉は意外にも一般民家にある扉と同じような音を発てながら、ゆっくりと開いた。

 

 

 部屋には、三人の美少女がいた。


 一人は白髪ロング、そして宝石の様に煌めく碧眼の少女。三人の中で一番背が高い。百六十半ば辺りだろうか。

 その佇まいや溢れる品格に、俺は初めて〝お嬢様〟という存在を感じた。


 二人目は茶髪を肩辺りで切っている、パッチリとした黄土色の目が眩しい女の子だ。背は真ん中で、先の少女より少しだけ背が低い。

 立ち姿から運動系であることはすぐにわかった。


 そして最後、一番ちっちゃい美少女。水色の髪を腰辺りまで伸ばしており、瞳も髪に負けないくらい澄んだ水色をしている。

 この子は控えめな性格なのか、やや俯きがちに直立している。白髪の子と同じくらい溢れ出す品格に、この子の真面目さが伝わってきた。


 正直に言おう、三人ともすごい可愛い。

 うちの妹が一番可愛いって思ってるけど(今でも思ってる)、うちの妹に匹敵する程の可愛さだ。

 

 俺が目の前の三人に見惚(みと)れていると、茜に横腹をつつかれた。しかも強く。

 めっちゃ痛い。

 ついでに茜の視線も痛い。

 そうか、俺が他の女の子に見惚れていたから嫉妬しているのか。

 次の瞬間、茜に頭突きされた。痛い。

 そんな夫婦漫才を繰り広げていると、厳人さんたちから冷やかな視線を向けられた。

 ……てへっ☆

 


 厳人さんが「ゴホンッ」とわざとらしい咳をして、俺と茜の夫婦漫才を終わらせた。

 

「さて、自己紹介をしよう。改めて、私は羽真厳人だ。君たちの父親とは昔からの付き合いだ。羽真グループの社長をしている」

 そう言い、厳人さんは手を差し出してくる。

「ど、どうも」

 明らかにヤバいと思いながらも、礼儀だと怯える本能を抑え俺は差し出された手を取った。

 途端、今まで味わったことのない力が俺の手を握り締める。

 正直言って一般人を遥かに越えている。そんな超人的な怪力になさけなく悲鳴を上げなかったことを褒めてほしい。

 マジで痛かった……


 

「さて……(かえで)、挨拶を」

「はい」

 厳人さんに呼ばれ返事をしたのは、白髪碧眼の少女だった。


「私は羽真楓です。天ノ川学園高等部二年生です。宜しくお願いしますね」

 自己紹介を終えると、楓ちゃんは軽くお辞儀をする。

 俺は遅れてお辞儀を返した。

 確か、天ノ川学園って高偏差値の私立高校だよな……ってことは超お嬢様か。

 流石は羽真家の娘さんだなと感心していると、隣の茶髪っ子が手を挙げた。


「私は羽真蓮唯(れんゆい)ですっ! 天ノ川学園高等部一年生です! 宜しくね!」

 そう言いペコリと礼をする。

 元気な子だなぁ。それが蓮唯ちゃんの印象。どうやら俺の見立ては間違ってはいないようだ。

 そして最後の一人、水色の少女が前に出た。


「わ、私は羽真(すず)でちゅっ…………。天ノ川学園中等部、二年生です……」

 噛んだ。めっちゃ顔真っ赤にしてるよ。可愛い。

 羽真家の自己紹介が終わり、今度はこちらのターンとなった。


「えっと、まず俺から。俺は高木(たかぎ)葉雪(はゆき)だ。伊吹高校の二年生だ。名前が女っぽいけど気にしないでくれ。これから二年間宜しく」

 そう言い笑顔を向けると、楓ちゃんは社交的な笑顔を返し、蓮唯ちゃんはニパァと眩しい笑みを浮かべ、凉ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「ほら、茜」

「はーい。私は高木茜です。伊吹高校一年生です。宜しくお願いしますね」

 やけに棒読みだったが……まぁ良いだろう。というわけで俺は茜の頭を軽く撫でた。

 そして続く双子は、仲良く手を繋ぎ声を揃え、

「「私は高木」」

「光月」「朝日」

「「浦瀬中学校三年生。好きなものはおにぃ」」

 と息ピッタリで自己紹介をした。

 初対面の人の前で好きだと言われると少し照れるのだが……可愛いから許す。後で頭を撫でてあげよう。

 

 とそんな感じに互いに挨拶が終わると、厳人さんがパンッと手を叩いた。

「さて、私は仕事に行くから、後は皆で楽しんでくれ」

 そう言い残し、厳人さんはリビングから出ていくのであった。

 

 ………………。

 

 ……………………。


 …………………………。

 

 ちょっ、無言長くない!

「えっ、えっと、どうしようか?」

 我慢の限界になり、俺は皆に尋ねる。

「私はお兄ちゃんの好きにしたらいいと思うよ」と茜。

「「おにぃと遊びたいー」」と光月と朝日。

 そして羽真家の方は無言。

 つ、辛いっ!

 そう思っていると、蓮唯ちゃんが近付いてきた。

 蓮唯ちゃんは目の前までやって来ると、屈んでと言わんばかりに手招きをしてくる。

 俺は膝に手を当て屈み視線を合わせ、「どうした?」と尋ねる。

「えっとえっと、にぃにって呼んでいい?」

「にぃに」だと!? グハッ! (吐血)

 今まで呼ばれたことのない呼称に、俺はその場に崩れ落ちそうになるのを堪え笑顔で頷く。

「お、おう、勿論」 

 そう答えると、蓮唯ちゃんは目を輝かせウサギのようにピョンピョンと跳び跳ねた。

 嬉しそうだなぁ。


 そんなことをしていると、今度は凉ちゃんがテトテトと小さな歩幅でやって来た。


「あ、あの……わ、私は、にぃさまって呼んで、いいですか?」

 凉ちゃんは語尾のところでコテッと首を傾げた。

 なにこれ天然? 素でやってるの? マジか天使かよ。

 凉ちゃんの可愛さに、俺は鼻を抑えながら何度も頷いた。

「うん、いいよ」

 そう答えると、凉ちゃんは顔を真っ赤に染め頬に手を当てて体を揺らす。その表情はとても嬉しそうだ。


 うん、可愛い子は笑顔が一番だよ。

 そんなことを考えながら、俺は最後の一人、楓ちゃんに目を向ける。

 楓ちゃんは朱色に染まった頬を隠すように手を当てながら、チラチラとこちらの様子を窺っていた。

 大人っぽい楓ちゃんの、子供っぽい仕種。それについ俺は「可愛すぎだろぉおおおっ!」と叫びそうになった。

 危ない危ない、これから一緒に暮らす相手に不審者だと思われてしまうところだった。

 でも可愛いって思うのは自由だよね! 

 そう思い見つめていると、不意に楓ちゃんと目が合う。

 すると楓ちゃんはサッと顔を逸らしてしまった。

 むむむ、彼女と仲良くなるのはもう少し先になりそうだ。

 

 結局、その後は個々で話すだけとなってしまった。

 残念。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 夜の十一時。

 明日は日曜日なので、俺はまだ起きていた。

 いやね、新しいベッドがふかふかすぎて逆に寝れないんですよ。

 なんて頭の中で誰かに対しての言い訳をしていると、コンコンと扉がノックされた。

 

「楓です」

 どうやら深夜の来訪者は楓ちゃんのようだ。

 なにこれ夜這い? 夜這いですかヤター! …………はぁ、違うか。


「どうぞ」

 俺は邪念を殴り捨て、楓ちゃんを招き入れる。

「失礼します」

 楓ちゃんはペコリとお辞儀をすると、なるべく音を発てないように扉を開けた。

 そしてすぐに部屋に入ると、同じように扉を閉める。

 その動作、まるで暗殺者(アサシン)のようだ。


「それで、どうしたの?」

「あの、質問があって」

「質問?」

 楓ちゃんは「はい」と答えると、一旦間を空け口を開く。


「私はどう呼べばいいでしょうか?」


「へ?」

 俺は質問に、素っ頓狂な声を上げる。

「あの、葉雪さんのことをなんと呼べばいいでしょうか?」

 ああ、そう言うことね。

「楓ちゃんの好きな呼び方でいいよ」

 そう答えると、楓ちゃんは唸り声を上げる。

 そこまで悩まなくてもいいんだけどなぁ。

 俺は楓ちゃんの様子を見て、苦笑を浮かべた。



 そして数分くらい経ち良い呼び方を思い付いたのか、楓ちゃんはハッと顔を上げた。


「……葉雪、にぃさん。葉雪にぃさん、と呼んでもいいですか?」

 名前呼+兄さん、だと? これはこれで新しいし……可愛い!

 俺は嬉しさと可愛さで内心悶えながら、グッと親指を立てる。

「う、うん。いいよ」

 そう答えると、楓ちゃんは嬉しそう微笑み、

「実は、兄が欲しいって思ってたんですよ」

 私には妹二人で、あまり甘えられる相手がいませんでしたから──と楓ちゃんは恥ずかしそうに告白してきた。

「そっか。じゃあ俺が今日から楓ちゃんのお兄ちゃんだ! 存分に甘えてくれ!」

「──っ! はいっ!」

 楓ちゃんは嬉しさを表現するように、元気良く頷くのであった。

 


 それから二人で少しだけ話をして、楓ちゃんは部屋から出ていった。

 一人になった俺は、暗い部屋でベッドに横になりながら考える。

 

 結構嫉妬深い実妹の茜。

 性格は真反対だが息ピッタリの双子の実妹、光月と朝日。

 一見クールなお嬢様に見えるが、笑顔がとっても可愛い義妹の楓ちゃん。

 人懐っこいタイプの義妹、蓮唯ちゃん。

 すごい恥ずかしがりやでも、見せる笑顔が天使な義妹、凉ちゃん。

 

 父さんと母さんがいない二年間限定の〝妹ハーレム〟に、俺は頬を綻ばせる。

 二年間っていう短い時間だけど、この時間を大切にしよう。

 可愛い実妹&義妹(いもうとたち)の笑顔を思い浮かべながら、俺は眠りに就いた。

 

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