閑話 くりすますは妹と一緒に
少し短いですが、クリスマスの話をどうぞ。
これはまだ、俺たち高木兄妹が羽真家に厄介になる前の話。
高校に入学し、あっという間に十二月になってしまった。
長かった二学期も終わり、気休め程度の冬休みに入った。
そして今日、十二月二十五日はクリスマスだ。
時刻は午前十時、俺は茜たちへのクリスマスプレゼントを買いに街に出ていた。
「なにを買おうかな」
俺はそう呟き、店を巡る。
だが、どれもピンと来ず、ただ時間だけが過ぎていった。
ふと、視界の端に、一人の女の子が映った。
女の子の髪は、雪のような白色をしていて、宝石のような碧眼は空を見上げていた。
なんだろう、あの子。
ただポツンと立っているその子に、俺は目を奪われていた。
いつも可愛い妹たちを見てきた俺でも、見とれてしまう程の美貌だった。
どのくらいそうしていたのだろうか。
ふと、その子と目があった。
女の子は俺の方にゆっくりと歩いてくる。
目の前までくると、俺の顔を見上げる。
「あなたは、誰?」
ええっ!? いきなりなんだっ!?
俺は声を上げそうになるのを必死に抑える。
「えっと、君は?」
そう訊ねると、女の子は首を傾げる。
「そうですね、私は──」
女の子が名前を言おうとした瞬間、ワアッ! と歓声が上がった。
振り返ってみると、某アイドルがライブを開始していた。
な、なるほど。あれが始まったのか。
「あの」
あっ、そう言えばっ。
「ごめん、ちょっと騒がしかったから」
そう謝ると、女の子はふわりと笑う。
これは、茜とは違った可愛さだな。例えるならお嬢様系。
そんなことを思っていると、女の子はハッとなにかを思い出したように振り向く。
「すいません。私もう行きますね」
そう言い、女の子は走っていった。
「なんだったんだ、あの子」
俺は女の子の後ろ姿を見つめ、そう呟いた。
◇妹◇
もうすっかり暗くなり、俺は夕飯を作っていた。
今日はクリスマスってことだから、豪華なものを作る予定だ。
完成したのは、ステーキやポテトサラダ、シチューと、いつもなら作らない品々だ。
皆は美味しい美味しいと夕飯を食べてくれた。
作った側としては、こんなに美味しそうに食べてもらえてすごい嬉しい。
食後は、これまた俺の作ったクリスマスケーキを皆で食べた。
茜が目を輝かせて、一口一口大切そうに食べていた。
茜は甘いものが好きなんだよなぁ。
夕飯とケーキを食べ終え、俺たちはリビングでくつろいでいた。
父さんと母さんは、ケーキを食べ終えた後「楽しんでくるね」と言い、外出する支度をしていた。
いくら今日がクリスマスだからって、どうどうと宣言しなくてもいいだろ……
と思いながらも、俺は「あんまりしすぎるんじゃないぞ」と言い、二人を送った。
まぁ、こう返す俺も俺なんだけどな。
「お兄ちゃん、クリスマスってなんの日なの?」
お風呂上がりの茜が、髪を拭きながら訊ねてくる。
温まったからだろうか、茜の肌は少し紅潮していた。
それが少し艶かしく見えて、俺は頭を振って邪念を払う。
「まず、茜はクリスマスをなんの日だと思ってるんだ?」
「えっと、イエスの生まれた日?」
普通はキリストって呼ぶんじゃないのか?
と思いながら、俺は訂正する。
「違う。イエス・キリストの誕生日や命日はまず分かってないからな」
「それじゃあ、なんの日なの?」
「クリスマスってのは、キリスト教の行事で、イエス・キリストの降誕を祝う日なんだ」
そう言うと、茜は首を傾げる。
「降誕と生誕って、なにが違うの?」
「降誕ってのは、神仏や聖人などが生まれたとされる日のことだ」
そう言うと、茜はより一層首を傾げる。
もう頭上に疑問符が浮かんできそうだ。
「??? もう私分かんないよ」
そう言い、茜は俺に抱き付く。
「いや、訊いてきたのは茜だろ」
「いいんですぅー、もう興味なくなりましたぁー」
俺は笑みを浮かべ、茜の頭を撫でる。
「ふふっ、お兄ちゃんに頭撫でてもらうの、好きです」
なんだか、茜に上手い具合に薙がされた気がする。
「そうか」
俺はそう返し、茜の頭を撫でていると、
「「あかねぇズルい」」
そう言い、光月と朝日が両隣から抱き付いてきた。
「光月、朝日、危ないだろ?」
そう言うと、二人は声を揃え「ごめんなさーい」と言う。
まったく、全然反省していなぁ。
「まぁ、クリスマスはお兄ちゃんとイチャイチャできる日ってことですよね?」
茜のセリフに、俺は苦笑いを浮かべる。
「別に、そうとは限らないけどな」
「えぇ? ほら、現にお兄ちゃんとイチャイチャできてるじゃないですかぁ」
茜は、そう言いながら、自分の胸を押し付けるように体を密着させる。
風呂上がりのためか、シャンプーの匂いがとても強い。
その匂いに混じって、女の子の甘い匂いがするのは、まぁ気のせいだと思っておこう。
◇妹◇
それから一時間程話をしていると、光月と朝日は眠くなったのか、船を漕ぎ始めた。
俺と茜は二人を抱え、部屋に連れていき、ベッドに寝かせる。
二人は可愛い寝息を発て、完全に夢の世界に落ちていった。
少しの間、その様子を眺め、俺と茜は部屋を出た。
「そろそろ夜も遅いし、茜も寝ろよ?」
そう言うと、茜は「えぇー」と声を上げる。
「せめて、クリスマスプレゼントをください」
「明日の朝、枕元を確認してくださいな」
そう言うと、茜は唸り声を上げる。
なにを考えてるんだ?
「お兄ちゃん、お休みのチューを」
そう言い、顔を近付けてくる。
「ダメだ」
俺はそう返し、茜の顔を押さえる。
「ぶぅ、お兄ちゃんの意地悪」
「はははっ、このくらいで意地悪とか言ってると、試験勉強はもっと意地悪しちゃおうかな?」
そう言うと、茜は涙目になって俺の腹をポコポコと殴る。
「そ、それは卑怯ですよっ!」
なんだこれ、可愛い。
「卑怯じゃないぞ? 俺はただ、茜と一緒に高校生活を送りたいなぁって思ってるだけだぞ?」
俺の言葉に、茜は手を止める。
茜の顔を覗きこむと、茜は耳まで真っ赤にしていた。
か、可愛い。
俺はつい、茜の頭を撫でてしまう。
「んにゅ~♪」
茜は気持ち良さそうに声を漏らす。
あぁ、ホント可愛いな。
廊下でそんなことをしていたからか、俺と茜の体はすっかり冷えてしまい、急いで暖房のきいたリビングに戻った。
それから、俺たちはテレビを観ながら時間を過ごした。
ふと、時計に目をやると、時刻は十二時を過ぎており、日付は変わっていた。
「茜、そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」
そう訊ねると、茜は「ふわぁ~」と欠伸をする。
「ほら、眠たいんじゃないか。部屋まで連れてってやるから立て」
そう言うと、茜は目を擦りながら立ち上がる。
俺は暖房を消し、電気を消してからリビングを出た。
俺は茜を背負い、慎重に階段を登る。
「えへへっ、お兄ちゃんの背中、暖かい」
そう言い、茜は頬擦りをする。
なんか、猫みたいだな。
「茜、部屋着いたぞ」
そう言うが、茜は俺の背中から降りようとしない。
まったく、どうしたものか。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
突然、茜が甘えるような声で俺を呼ぶ。
「なんだ?」
「……一緒に、寝たいな」
茜のお願いを俺が断れるわけもなく、俺はすんなりと了承した。
「やった」
茜は嬉しそうにそう言う。
俺は自室に茜を連れていき、先にベッドに寝かせる。
茜は毛布を上げ、誘うように手招きする。
「ほら、お兄ちゃん、早く早く」
俺は言われるがまま、ベッドに潜り込む。
ほのかに匂う茜の香りに、鼓動が速くなるのを感じる。
いい匂いだな。
と、変態紛いの感想を抱きつつ、俺は茜を優しく包む。
「お兄ちゃん、暖かい」
「そうかい」
俺はそう返し、目を閉じる。
「んしょっ」
茜は少し少し俺に近付いてくる。
そして、足を絡めてくる。
茜の足は少しひんやりとしていて、気持ち良かった。
「むにゅぅ~」
茜は眠たそうな声を漏らすと、俺の胸に顔を埋める。
俺はゆっくりと、茜の頭を撫でる。
茜は気持ち良さそうに揺れる。
「お兄ちゃん、おやすみ、なさい……」
「あぁ、おやすみ、茜」
俺はそう返し、ギュッと茜を抱き締めた。
まるで抱き枕だな。
少しして、茜が可愛らしい寝息を発てる。
その寝息を聞いてるうちに、俺まで眠たくなってきた。
俺は襲い掛かってくる睡魔に抗うことなく、静かな眠りに就いた。
茜を抱き枕にしたまま。
今日は、良い夢がみれそうだな──
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