9話 真・ぷれぜんとふぉーゆー
部屋に戻り、俺はベッドに腰掛ける。
時計を見ると、時刻は既に十時を過ぎていた。
明日も学校あるし、そろそろ寝るか。
そう思い、電気を消そうと立ち上がると扉がノックされた。
うーん、誰だろ。
「はいはい」
扉を引くと、そこには黒色のネグリジェを身に纏った茜が立っていた。
その、非常に言いづらいのだが、ネグリジェが透けて白色の下着が見えてるんだよなぁ……
「お兄ちゃん、少しいいですか?」
茜はベッドに腰掛けると、赤い瞳を潤ませ俺を見上げる。
「あぁ。まぁ、寝ようと思ってたところだけど。それで何かあったのか?」
そう訊ねると、茜は少し頬を朱色に染めながら答える。
「誕生日プレゼント、です」
そう言うと同時に、茜が抱き付いてくる。
だからネグリジェが透けてて下着と肌が──。と内心焦りつつも、俺は平常を装う。
「いや、誕生日プレゼントってさっき貰ったじゃん」
そう言えば茜からは手錠を貰ったな。……あれ何に使えばいいの?
茜は首を横に振り、口を開く。
「確かにあげましたけど、メインはこっちです」
そう言いながら、茜は顔を近付けてくる。
この時点で、茜がなにをしようとしているのか理解できた。
だから俺は、それに繋がらないよう顔を背ける。
「いや、キスは何回もしてると思うんだけど。それにどっちかって言うと茜がしたいだけだろ」
そう言うと、茜は動きを止めニヤリと笑う。
「ふふふ、甘い、甘いですよお兄ちゃん」
は? 甘いだって? ……まさかもっと酷いモノが。
そして茜は言葉を続ける。
「私がプレゼントにあげるのは──」
茜は顔を近付け、
「私の〝初めて〟ですよ」
そう囁いた。
は? 初めて?
「ごめん、それはどういう意味?」
そう訊くと、茜は至近距離で見つめてくる。
どことなく、茜の深紅の瞳が光ったような気がした。まるで獲物を狙うハンターの様に。
「お兄ちゃん、女の子があげる初めてと言ったら、アレしかないじゃないですか」
あれって……アレ? いやいやいやっ! それはいけないだろ。
「バカか、いやバカだ。するわけないだろう」
そう言うと、茜はなにがおかしいのか「あははっ」と笑い出す。
え? ……まさか俺間違えた? もしかして普通のモノだった?
茜の反応に戸惑っていると、茜はフッと笑う。
「大丈夫です。お兄ちゃんは横になってるだけでいいですから。お兄ちゃんがすることはナニもありませんよ」
「いや、よくないから。本当になにする気だよ」
「なにって、ナニに決まってるじゃないですか♪ 女の子の口から言わせるなんて、お兄ちゃんは鬼畜です♪」
「いや、決まってないから。あと、俺は鬼畜じゃない」
そう答えると、茜は頬を膨らませる。
「しょうがないですね。それじゃあ私から、ベロチューをプレゼントします」
いや、だから駄目だろう。というか、朝食前にしたよね?
と、反論する前に、茜は唇を押し付ける。
そのまま茜は口の中に舌を入れ、口の中を蹂躙する。
「んんんっ!」
なんとか茜を引き剥がそうとするが、体に上手く力が入らない。
くらくらする……
「んっ、んぅぅぅ……んむっ♡」
部屋の中に、舌が唾液をかき混ぜる音が静かに響く。
それから二分近く口づけをし、茜は満足したのか唇を離した。
その際に唾液が糸を引き、それがとても艶かしく感じられた。
「はぁ、はぁ……ふふっ♡」
茜は頬を完全に真っ赤に染め、息を荒らげながら、嬉しそうに笑う。
「……」
俺は、明らかに発情した茜を半目で睨む。
その目を見て、茜は更に息を荒らげる。
「あぁ♡ いいです、凄いです。お兄ちゃんのその目、凄いです♡」
「…………変態」
「はうっ♪」
どうやら、今の茜になにを言っても興奮するだけみたいだ。
そう思いため息を吐くと、茜は俺の上から退く。
「今日はここまでにしておきますね」
そう言い、茜は立ち上がる。
そして覚束ない足取りで扉まで向かう。
最後に「初めてはまたの機会に」と言って茜は部屋を出ていった。
そんな機会は来なくていいと、俺は心の底から思った。
◇妹◇
五分程経ち、体の熱も冷め、なんとか心が落ち着いた。
「さて、寝るか」
二度目の来訪者は、光月だった。
「あれ? 朝日と一緒じゃないんだな」
そう言うと、光月はコクリと頷く。
「……誕生日プレゼント、あげる」
光月はゆっくりと、茜と同じことを口にする。
「光月、俺はもう誕生日プレゼント貰ったぞ?」
そう言うと、光月はゆっくりと近付いてくる。
あぁ、この流れは。
茜という前例があるため、光月がナニをしようとしているのか見当がついた。
「光月、別にキスはしなくてもいいぞ?」
そう言うと、光月は首を傾げる。
「……キスも、したいの?」
キスも? 光月はなにをしようとしてるんだ?
「じっとしててね、おにぃ」
そう言われ、仕方なく動きを止める。
さて、なにをされるのかな。……普通のことであってほしいな。
「……」
光月はおもむろに俺の右手を掴み上げる。
そして、光月は俺の指をパクッと咥えた。
「なっ!?」
その行動に、葉雪は驚きの声を上げる。
光月は俺の反応を無視して、一心不乱に指を舐める。
「んっ、はむ……れろっ、んむむ」
光月は親指から小指まで、順番に舐めていく。
指に舌を絡め、何度も何度も舐め回し、五分程で右手の指全てを舐め終わった。
これで解放される……
そう思い、ほっと息を吐いた。
が、光月は今度は左手の指を舐め始めた。
「なっ!?」
まだ終わりじゃなかったのかっ!?
「んむ、れろっ……むぐ、んっ♡」
やはり、光月は左手も親指から順番に舐めていく。
なんか、光月の知らないところを見れた気がする。
できれば知りたくなかった光月の一面に、苦笑いを禁じ得なかった。
結局、同じように舐められ、両手の指は光月の唾液まみれになってしまった。
どうしよう、これ。
そのままにする、という選択肢は存在しないし。ティッシュで拭くのが普通かな。
そう思い、机に置いてあるティッシュに手を伸ばす。
が、光月は腕を掴むことでそれを制止する。
「どうした?」
訊ねると、光月はゆっくりと口を開く。
「……舐めて?」
タイミングからして、俺の指に付いてる光月の唾液を舐めてくれってことか。
なんだこれ、傍から見たらただの変態じゃないか。
「断る」
そう言うも、光月はじっと俺を見つめる。
その視線に、どこか期待のようなものが見えたような気がした。
互いに見つめ合うこと数分、折れたのは俺の方だった。
「……分かったよ」
そう言うと、光月は嬉しそうにはにかむ。
それを見て複雑な気持ちになりながらも、俺は指に付いた唾液を舐めていく。
全ての指を舐め終わり、今度こそティッシュで指を拭いた。
「これていいだろ」
そう光月に言うと、光月はピョンピョンと跳ねる。
「どうした?」
そう訊ねると、光月は「しゃがんで」と言う。
俺は言われた通りに腰を下ろす。
「それで、なにか──」
光月は俺の言葉を遮るように、チュッと軽くキスをした。勿論、唇に。
「なっ」
「おやすみ、おにぃ」
光月は頬を朱色に染め、明らかに目を逸らしたまま部屋から出ていった。
なんなんだよ、今年の誕生日は……
◇妹◇
光月が部屋に戻っていった後も、俺は寝ることはなかった。
直感が告げている……まだ来ると。
丁度その時、扉がノックされる。
「やっぱりか……」
そう呟きながら、俺は扉を開ける。
「おにぃ!」
無防備だった俺に、朝日が抱き付いてきた。
「どうした?」
先の二人と同じように俺は訊ねる。
「えっとね、誕生日プレゼント!」
やっぱりか。
「それで、朝日はなにをくれるんだ?」
そう訊ねると、朝日はニパァと笑う。
うん、元気でよろしい。
「えっとね、私のファーストキス、おにぃにあげる!」
なんて初々しいんだっ!
つい、そんなことを思ってしまう。
実際、実の兄の誕生日に、ファーストキスをあげるのは普通ではないし、初とも言えない。
だが、そんな世間一般の常識は、俺たち兄妹には存在しなかった。
「じゃあ、おにぃ、しゃがんで」
「おう」
言われた通りに腰を下ろすと、光月と同じように唇にチュッとキスをしてくる。
本当に一瞬、初々しいカップルがするような軽いキスだった。
「じゃ、じゃあね! おやすみ、おにぃ!」
朝日は顔を真っ赤にしてそう言い、早足で部屋を出ていった。
「可愛いなぁ」
俺は朝日の反応を見て、心の底から安心してそう呟いた。
◇妹◇
朝日が去った後、次に訪ねてきたのは楓ちゃんだった。
もう、なんか察しがつくんですけど……
そう思いながらも、俺は楓ちゃんをベッドに座らせる。
言っておくが、決して邪な感情があるわけではない。
……いや、ないこともないよ? でもさ、俺はお兄ちゃんだから。妹に手を出すなんてありえない。
実際に妹とキスをした奴が何を言うか。とか思われそうだなぁ。
「どうしたの? もう結構遅い時間だけど」
そう言うと、楓ちゃんは少し頬を朱色に染める。
何故だろう、いつも通りに見えるのに、いつもとは違う。
「誕生日プレゼントを渡しに来ました」
デスヨネー。なんで皆別々におかしいプレゼントを用意してるんだよ。
心の中で愚痴? を漏らしながらも、楓に笑みを向ける。
「プレゼントを渡す前に……お久しぶりですね、葉雪にぃさん」
その言葉と同時に、楓ちゃんの纏う雰囲気が変わった。
お久しぶり? なにを言ってるんだ?
「葉雪にぃさんは覚えてないかもしれませんが、ずっと昔に会っていたんですよ。私たち」
「会ったことが、ある……」
俺は記憶を遡り、楓を探す。
だが、楓に関する記憶はこの家に来て以来のもの以外は全く無かった。
「覚えてないのも無理ありません。あの時は私が一方的に知っていただけですから」
そう言いながら、楓ちゃんはゆっくりと近付いてくる。
「目を閉じてください」
そう言われ、俺は素直に目を閉じる。
それから少しして、頬に柔らかいものが当てられる。
俺は驚き目を開く。
「その、唇は恥ずかしいので、頬っぺたに……」
楓ちゃんはそう言いはにかんでみせる。
先程の意味深な物言いが嘘のように、いつも通りの楓ちゃんに戻る。
「後、最後に一つ。あまり他の女の子と仲良くしないでくださいね?」
そう言うと、楓ちゃんは不意打ち気味に俺の唇にキスをした。
俺は今起きたことの理解が追い付かず、目を点にして情けない顔を作る。
楓ちゃんはカァァァッと顔を赤くすると、慌てて部屋から出ていってしまった。
……楓ちゃんのこと、もう少しちゃんと考えないとダメだな。
俺はそう心に留めたのであった。
◇妹◇
勿論、これで終わるとは思っていない。
そう、後二人残っているのだ。
蓮唯ちゃんと凉ちゃんの二人が。
いや、勿論来ない可能性もある。だが、ここまできたら逆に来ないなんてことはないだろう。
「ふぅ……」とため息を吐くと同時に、扉がノックされた。
扉を開けると、そこには蓮唯ちゃんが立っていた。
やっぱり来た。
別に嫌なわけではない。妹が部屋に来てくれて嬉しくないわけないじゃないか。
だけどさ。皆が皆、おかしい誕生日プレゼントを渡すために来るってのは、なんか上手く喜べないんだよ。
俺は考えていることを出さないように、いつも以上の笑顔を作る。
「どうぞ」
蓮唯ちゃんを部屋に招き入れ、ベッドに座らせる。
「それで、どうしたの?」
そう訊ねると、蓮唯ちゃんは笑みを浮かべる。
「誕生日プレゼントを、渡しに来たの?」
どうして疑問系。
「それでね、少し目閉じてて?」
「お、おう」
そう返し、俺は目を閉じる。
直後、耳になにかが触れる。
若干濡れてる? それで少しぬるぬるしてて……
そして俺はすぐに気付く。
舌っ!? 耳を舐められてる!?
「れ、蓮唯ちゃん!?」
「……はむ」
今度は咥えられた。
なんで耳なんだ!?
そんな疑問を呑み込み、ただ俺は言われた通りにじっとする。
「んむ、れろっ…………ありがと!」
耳を包んでいた温もりから解放され、俺はホッと息を吐く。
俺は目を開き、そして驚く。
目の前まで蓮唯ちゃんの顔が迫っていたのだ。
多分、することは一つしかない。
今更気付いたところで避けることなどできるわけもなく、
「ちゅっ」
そのまま唇を奪われた。
「れ、蓮唯ちゃん……」
「にへへ、私のファーストキス、にぃににあげちゃった」
そう言い、蓮唯ちゃんは恥ずかしそうにはにかむ。
……可愛すぎるっ!
俺は叫びたくなるのを必死に抑え、
「ありがとう」
と言った。
俺の礼に、蓮唯ちゃんは更に顔を真っ赤にする。
「も、もう寝るねっ! おやすみ!」
蓮唯ちゃんはそのまま、ドタバタと部屋から出ていった。
「なんだろう、すごい和むな」
俺は蓮唯が出ていった後を見つめ、そう呟いた。
◇妹◇
そして最後に来たのは凉ちゃん。
これまた同じように招き入れ、ベッドに座らせる。
え? 説明が雑だって? 仕方ないだろ。もう五回もしてるんだよ……疲れた。
それはさておき。
「にぃさま。これ、プレゼント。さっき渡せなかったから……」
そう言い、凉ちゃんは一冊の本を渡してきた。
本のタイトルは、
『上手なペットの躾方 ~子犬編~』
というものだった。
なんで躾方? ペット? どうして?
疑問に思考を巡らせていると、凉が口を開く。
「それで、お勉強してください……」
えっ!? この本でなにを勉強しろと!?
「あと、これも」
そう言い、凉ちゃんは顔を近付けてくる。
そして、俺の唇に自らの唇を当てる。
つまりキスだ。
「わ、私のファーストキス……です。にぃさまにあげちゃった。えへへ」
凉ちゃんは頬を赤く染めながらも、そう笑う。
「あ、ありがとう……」
「は、はい。おやすみなさいです……」
まるで初々しいカップルのようなやり取りを終え、凉ちゃんは部屋から出ていった。
去り際に見えた凉ちゃんの顔は、茹でタコのように真っ赤になっていた。
今日来た中で、凉ちゃんが一番部屋を出ていくのが速かった。
そんなに恥ずかしいならしなきゃいいのに……
だが、嬉しかったことには変わりないので、俺はただ心の中で呟くことしかしなかった。
◇妹◇
俺は部屋の電気を消し、ベッドに横になる。
暗い部屋の中で、天井を見つめながら考える。
茜たちからのちょっぴりえっちぃプレゼント。
楓ちゃんたちからの少し変わったプレゼント。
嬉しいけど苦笑いを浮かべてしまう程にズレてる。
でも、それでも可愛い。可愛い可愛い妹たちだ。
今日貰った誕生日プレゼント。本当におかしいけれど、どれも大切なものだと思える。
「まさかファーストキスを貰うことになるとは」
俺は一人呟き、笑みを浮かべる。
「さて、もう寝るか」
そう呟き目を閉じると、程無くして俺の意識は夢の世界に沈んでいった。
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