73話 新妹、狂愛ちゃん!
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
10分ほどオーバーしてしまいましたが、11月14日で「妹ハーレム」4周年です! これからもよろしくお願いします!
めでたし、めでたし。俺は確かにそう締めたはずなのだが。
「葉雪さん、好きな料理はなんですか?」
狂愛ちゃんに告白された日から数日後。なぜか狂愛ちゃんは羽真宅のリビングにいた。
あまりに馴染みすぎて、元から家族だったかのような錯覚を覚える。
そんな狂愛ちゃんは、手帳とボールペンを構え期待に目を輝かせていた。
戸惑いながらも「玉子焼きかな」と好物の中から一つ答え、茜に目を向ける。
「それで、説明してくれるよな? 茜」
「心外ですお兄ちゃん、どうして私を真っ先に疑うんですかっ!?」
本当に心外だと抗議の意を見せるが、どうにもわざとらしい。
というか口角が上がっている。それに──
「これまでの行いを顧みるに、茜しかいないだろ」
波瀬姉妹しかり、かすみんしかり、夜子ちゃんしかり。彼女たちが俺の妹になったのは茜が原因だ。
ならば今回も茜の仕業だと予想するのは当然だろう。
茜は思い当たる節が多いようで、苦笑を浮かべながら「そうですね」と頷いた。
「お兄ちゃんの予想通り、私が狂愛さんを呼びました!」
そして茜は悪びれる様子もなく、なぜか胸を張った。自慢げに浮かべるドヤ顔は可愛らしいが、誇る要素がどこにあったのか一切わからない。
褒めてくれてもいいんですよと能天気な茜に苦笑していると、狂愛ちゃんがすり寄ってきて耳元で囁く。
「あの、迷惑でしたか……? ワタシ、一度フラれているのに……」
「あぁいや、そんなことないよ。それより、狂愛ちゃんのほうはよかった? 茜はたまに突拍子もないことをしでかすから」
そう尋ね返すと、狂愛ちゃんは首を横に振り笑顔を浮かべた。
「全然問題ありません。むしろありがたかったです。こうしてまた葉雪さんとお話することができるので」
「そ、そうか……。ところで茜とはどこで?」
「一昨日の夕方に、葉雪さんと出逢えた公園でボーッとしていたら突然声をかけられまして」
一昨日。たしかにその日の夕方ごろ、茜は小一時間ほど外出していた。
夏とはいえ夕方に一人で外を歩かせるのは不安だったが、夕食の準備があってついて行けず代わりに防犯グッズをいくつか持たせたのを覚えている。
なるほど、あのときかぁ。
「それで、葉雪さんの妹になったら愛してもらえると伺って、ワタシ思わず即答しちゃいました」
狂愛ちゃんは恥ずかしそうに頬を掻く。
そんな女の子らしい仕草に俺は苦笑する。
狂愛ちゃんは自分のことを特殊だと言っていたが、普通の女の子らしいところもあるじゃないか。
「ところで狂愛ちゃん」
「なんですか?」
「その手帳はなに?」
先ほどから気になっていた手帳について狂愛ちゃんに尋ねる。
「これはですね、葉雪さんのことをメモする手帳です」
「俺のこと?」
「はい。葉雪さんが『相手のことを知りたいならつけ回すんじゃなくて相手と話して知っていけばいい』と言ってくれたので、葉雪さんに訊いたことをこの手帳に書こうと思ったんです」
「なるほど、そういうことか」
「はい。この手帳が葉雪さんの情報で埋まるのが楽しみです。ふふっ♪」
「お、おう」
狂愛ちゃんの持つ手帳に目を向ける。外見は至って普通でページ枚数も一般的なものだ。多機能であったりと特別なものはない平凡な手帳。とはいえ一個人の情報を記すだけでは役不足に思える。
アドバイスを参考にしてくれるのは嬉しいし狂愛ちゃんが変わろうとしている証拠なので否定するつもりは一切ない。ただ、手帳を埋められるほどのものが俺にあるか心配にはなった。
まぁ、あれだな。余ったら茜たちの情報も書いてもらおう。
そんなことを考えていると、茜がポンと手を叩いた。
「というわけでお兄ちゃん、キスしましょう!」
「いきなりだな!?」
「そうでもないですよ? 狂愛さんはお兄ちゃんの妹になりに来たんですから」
「そうだけどな……」
もともと妹間で不平等があるはよくないという理由でキスをしたのだが、妹になるためと半ば作業的になってしまっている気がして不安を覚える。
そんな思いからチラリと狂愛ちゃんに目を向ける。俺の視線に気づくと、狂愛ちゃんはにっこりと笑った。
「大丈夫ですよ、葉雪さん。ワタシはファーストキスが特別だと思っているわけではないので。それに……一回限りじゃありませんから」
「まぁ、狂愛ちゃんがそれでいいなら」
コホンと咳払いをしてから、俺は狂愛ちゃんに向き合う。
少しだけ見つめ合い、そっと狂愛ちゃんにキスをした。
仄暗い瞳がゆっくりと開かれて、そしてゆっくりと閉じられる。
唇を離すと、徐々に狂愛ちゃんの頬が朱色に染まっていく。
「あ、あれ。特別じゃないって思ってたんですけど、あはは」
狂愛ちゃんはひどく狼狽した様子で、赤くなった顔をパタパタと手で扇ぎだす。
その姿が可愛らしくて、俺はつい笑ってしまう。
「なっ、なんですか葉雪さん。そんなにおかしいですか?」
「いや、おかしくないよ。ただ、本当に狂愛ちゃんも普通の女の子なんだなって改めて思っただけさ」
そう言うと、なぜか狂愛ちゃんの顔がいっそう赤くなった。
「は、葉雪さんだけですよ、ワタシを普通だと言ってくれるの……うぅ」
まさに茹でダコのように赤面した狂愛ちゃんは、忙しなく瞳を泳がせで可愛らしく唸った。
そんな狂愛ちゃんの姿を微笑ましく思いながら、俺はチラリと時計を見る。そろそろ昼食の時間だ。
「狂愛ちゃん、昼飯食べてくだろ?」
「え? いいんですか?」
「当たり前だよ、こんなタイミングで追い返したりしないさ」
「そ、そういうことならお言葉に甘えて……」
「よし! じゃあ狂愛ちゃんが妹になった記念ってことで腕によりをかけて作るとするかな」
わざとらしく腕を叩いて笑ってみせると、羞恥に動揺していた狂愛ちゃんはぽかんとして、そして嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、葉雪さんっ」
「──って、いつの間にか二人だけの空間が!? お兄ちゃんひいきはダメですからね!?」
「はいはい、わかったから抱きついてくるなって」
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