あいしてる、貴方
今回は、ざまぁと糖度がこのシリーズの中では最も高い話となっています。つまり、
さて、皆様…バケツの貯蔵は充分ですか?
では、お読み下さいませ。
※さようなら、旦那様のその後の話です後書きにも書きましたが、此方を読んでも大丈夫かと思いますが、先にさようなら、旦那様をお読みすることをお薦めします。
※あいしあう、二人を投稿しましたそちらもよろしくお願いします。
「俺と、今世は幸せに暮らそう…」
そう言って、私を攫って屋敷に閉じ込めた男性は言った。
「前世は、俺が愚かなせいで君を死なせてしまった…俺が君を愛していたことに皮肉も君を失って気付いたんだ…今更だと言われても構わない…だけど、今度こそ俺は君と結ばれたいと思うんだ」
悲しげに歪められた彼は、私に懇願するように言った。
私は、前世の記憶がある。前世は貴族で、しかも上流階級だった。だけど、私は家族に認められなくて、愛されなかった。そして、結婚した旦那様とも、政略結婚だったから、私は愛されていなかったと思った。
私をあの時認めて、大切に思ってくれたのは、家庭教師の先生達だけだった。
だけど、私はとうとう心に限界が来てしまい自殺をした。あの時は、誰もいなくなっても悲しく思わないと思ったから。
でも、目の前の男性…前世の旦那様は、私のことを本当は愛していたと言っていた。
そして、私を死なせたことをずっと今まで、後悔していたと言っていた。
前世の、自殺する前の私だったらきっと喜んでいた。私を認めて、愛してくれたと。私も、貴方を愛していますと。
だけど、
「私も、貴方を愛していました」
私の言葉に、彼は嬉しそうに言った。
「俺も、君を愛している、だから…」
「でも、」
でも、私はもう貴方に対しては、愛していたことを懐かしく思うくらいになっていた。前世では、暫く胸が痛くてたまらなかった。それでも、
「私は、今は貴方を愛してはおりません」
そう、きっぱりと言った。彼は、目を見開いて私を見つめた。それに構わず、私は彼に言った。
「あの頃だったら、きっと私は貴方と両思いだったことに嬉しく思っていたと思います」
「それなら、一緒にいれば良いだろ?今からでも遅くない…」
まるで、私の言っていたことに信じられないのか彼は問うように私に詰め寄る。
それに、静かに下がる。そして、首を横に降る。彼は、どうしてと呟いた。
どうしてなのか?それは…
「私には、心から愛している人がいるからです」
「え…?」
私の言葉を聞いて、驚いた彼は固まってしまった。だけど、続けていった。
「その人は私を…絶望して、立ち止まった私を救ってくれました。迷惑を掛けるのに、迷惑じゃないと…私の頼りない手を優しくて大きな手で握ってくれたのです」
眼を閉じれば、思い出せる。あの、少しぶっきらぼうで…だけど私を私自身や心まで救って癒してくれた、強い彼。
少し、怖い顔をしているけれど…本当は笑うと優しい顔をする人。
私を驚かすと、悪戯が成功したような子供のような顔をしていた人。
いつも大切に、優しくて離さないように強く抱き締めてくれた。
思い出すだけで、返せないくらいの愛情をくれた旦那さん。
私は、旦那さんを誰よりも…それこそ、前世を思い出す前から愛している。
前世では、寿命まで生きたけれど、先に死んだのは私だった。
だけど、それまで私の手を握り…私を看取ってくれた、顔は悲しげだけど私の好きな優しい顔だった。その時に交わした、最期の言葉…
最期の言葉は、
「嘘を付かないでくれ!」
思考を戻して、彼を見れば、彼は怒ったように言った。
「そう言って、君は本当は、俺が許せないからそんな事をいったんだろう!?俺がっ…君を哀しませたから!…だけど、俺はもう間違ったりしないから!だからっ…」
必死の言葉に、私も真剣に返そうとした。
「嘘ではありません、私は…その人が好きなのです…」
紛れもない言葉に、だけど、彼は納得してはくれなかった。
「そうか…俺を…試しているのかっ…だから、そんな事を…」
「いいえ、試してはいません…私は、本当に…」
ハッとして、彼を見れば…表情が、無くなり…私の方を向いた。
彼の目を見れば、明らかに正気ではない様子だった。そして、近付けば遠ざけようと足を下げれば、いつしか、私は窓に当たってしまった。
逃げられなくなった私に、彼はもう少しで手が届くあたりまで来た。そして、
「なら、君が俺を愛してくれるまでこの屋敷から出さない。ずっと、死ぬまで永遠に…いいや?愛してくれても出したくない」
その言葉に、私は彼に抱き締められてしまった。
それに、怖さと他の男性に抱きすくめられた私は、体と心が拒否を示した。
抵抗をしようと体を動かすけれど、させないとばかりに強く抱き締める。
ー…怖い…!…ー
「誰にも、君を見せたくない…この屋敷にいて欲しい…大丈夫、この屋敷は安全だから…だから、俺の傍から、永遠に離れないでくれ…」
「離してくださいっ…!」
「君しかいらない、君しか欲しくない…もう間違えたりしないから…もう一度、俺を愛して、愛しい君…」
声や様子からは狂気が宿っていた。言葉は、どれも本気で私はその恐ろしさに震えた。たまらず、離して欲しいと言えば、余計逃がさないように強く…抱き締められて、逃げられない。
「君を唆した男を忘れさせて、あげる…」
そう言って、抵抗も虚しく私の顔を片方の手で顎を掴み、顔を上げさせられた。
「いや…やめて下さいっ…!」
反らそうとすれば、させないとばかりに固定されて顔が近付いてくる。
顔は、優しげだけど…それが返って怖く感じてしまう。
目が、焦点があってなくて徐々に近付いてきた。
ー…やだ…怖いっ!助けて……ー
もし、口付けをされたことを考えてしまい…私は、せめてその事実から逃れるために、眼を固く閉じた。
思い浮かべたのは、最愛のあの人。私は、目から涙が流れて頬を伝うのを感じた。
「其処までだ、お坊ちゃん」
その、知っている声に目を開ければ、
「なっ…!ぐっ!?」
彼から離され、私を片手で抱き締めている一人の男性を見た。その人は、私を見ると、
「悪かったな。遅くなった…」
そう言って、私の目からの涙をもう片方の手で、拭ってくれた。
私の、怖い…だけど、大好きな優しい顔、
私を、今世でも見つけてくれた人
私の、最愛の男性
「旦那……さ……ん」
「ちっと、手こずった…怖い思いをさせたな。」
心配そうな旦那さんに私は安心感から、また涙を流した。
「たくっ…慰めたいが、この状況じゃ充分に慰められねーから、我慢してくれ」
困ったように言うのに、声は何処までも私を気遣う。
「貴様っ…!」
「ま、手加減はしてやったが…それでも立てるのか」
彼は、私から遠く離され、左のお腹と背中を強く打ち付けたのか、壁に支えるように立ち上がった。
私は、先程のことを思い出してしまったけれど、旦那さんが安心させてくれるように笑ってくれた。
「安心しろ…」
囁くように言った言葉に、これが夢ではなく本当なんだと思った。
「彼女を…彼女を離せ!」
「断る。誰が離すか」
彼の必死の言葉も、旦那さんはあっさりと斬るように言い放つ。それに余計火がついたのか、彼は怒鳴っていった。
「ふざけるな!彼女は俺のだ!前世から、今まで記憶を持っていたのは、彼女に会うためだったんだ!彼女は、前世では俺の妻だった…だけどすれ違い死なせてしまった…だから今世では間違えないように、今度こそ結ばれるためにっ…此処までやってきたんだ!!それを今更…他の男に奪われてたまるか!…返せ!」
彼の言葉から必死さと本気が見えた。彼は心からそう思っていていた。でも、私は…
声を出しそうとしたけれど、その前に旦那さんに遮られてしまった。
「悪いが俺も前世の記憶がある。だが、俺はお前と違って死なせてないんだよな…これが」
「だからどうした!?それと彼女に何の関係がある!!」
旦那さんの言わんとしている言葉に、彼が食いつく。その様子に旦那さんはため息を付いて
「わかんねぇのか?俺の腕にいるコイツが……前世の嫁だ。」
そう言って、私の頭に顔を寄せた。
「嘘だっ!そんな事っ!」
「前世ではコイツは谷に落ちたとき生きてたんだよ。その後は色々あって、まぁ寿命まで生きたが…」
彼の言葉を流しながら、最後の言葉はどこか寂しげだった。私は、そっと回された腕を両手で優しく触った。
「そんな事…」
「本当です…彼が、旦那さんが私の、前世の夫です…彼に会ってから私は幸せになれました。…今も私は、愛しています」
それは私の言葉だった。それこそ、前世を思い出す前から好きになった。
彼と出会ったのは、数年前だった。そして、ある日彼を一目見たとき私はこう思った。
やっと、見つけた。
そしてその後、彼の方からなんと話し掛けてくれて、彼から告白してくれた。私は勿論
私も、好きです
そして、恋人同士になった。
彼の仕事は、前世と変わらない傭兵だった。前世と変わったのは私だった。
今世は、ある下町の家庭に産まれた。
その家庭は、今世の母と私の二人だけの母子家庭だった。
母は宿屋で働いていて、私も少し成長したら母の手伝いをした。
今世の母は、優しくて私を誰よりも愛してくれた。
一人で育てるのは大変なのに、いつも嬉しそうに私を育てることを、成長することを何よりの楽しみだと言ってくれた。
私は、最初は何故かそんな母に、失敗すれば捨てられると根拠もないのに思っていて、今でも申し訳なく思っているけれど…
今なら分かる。私は、前世のことが逢ったからなのだと…家族に、愛されなかったからなのだと…それが、記憶の片隅で覚えていたのだと思う。
でも、そんな事をひっくり返してしまうくらいに母は私を愛してくれた。
時には厳しく、時には優しい…私の自慢の母。
だから、そんな母のために私は前世の時の経験で宿屋の近くの定食屋さんで働いた。
旦那さんと会ったのもその頃で、実は告白されたその夜に、私は前世を思い出した。
暫く悩んだけど旦那さんに打ち明ければ、旦那さんは産まれて暫くしたときに思い出したと言っていた。その事に、私達は笑い合って自分が悩んでいたことも吹き飛んだ。
皆にも、旦那さんを紹介すれば、
宿屋の女将さんは、めでたいと笑ってくれて、
その宿屋のおじさんからは、おめでとうと言ってくれた。
だけど、私のことを姉のように慕ってくれた男の子は、拗ねてしまった。暫くちょっと困ってしまった。
お母さんは、
『娘のことを、よろしくお願いします…良かったわね、良い人で…幸せにしてもらいなさい』
そう言って、私達を祝ってくれた。その顔は、優しくて暖かかった。
思い出す前も、思い出した後も幸せだった。前世の時のように裕福ではなかったけれど、それが気にならないくらい幸せで、優しくて…あの頃のギルドの人達といた頃と同じくらい幸福な日常。
大好きな母がいて、優しい下町の人達がいて…そして、時を越えて愛する人と巡り会えた。
私の毎日は、充実していた。
だけど、ある日…私は定食屋さんの帰りに攫われた。
その日は、旦那さんと会う約束をしていて、私は急いで帰った。
速く、会いたかったから。
少し身だしなみを整えて、逸る気持ちで歩いていたときに
私は、後ろから何かを嗅がされてそのまま気絶した。
気が付いたら、窓からは木々が立ち並んでいた。そして、簡素だけど最低限暮らせるように、丁寧に整えてある部屋のベッドに寝かされていた。
その時に、ある男性が現れた。
銀髪に紫の瞳…前世では、社交界では誰もが美しいと言われてきた男性。
その顔立ちも変わっていない…私の、前世の…夫だった人。
ベッドから起き上がり、彼を見れば彼は、
「やっと、見つけた…俺の愛おしい人」
感極まった様子で私に向かってそう、言った。
私も、容姿は変わらなかったけれど髪と目の色は変わった。
髪は、薄紅色から亜麻色に
目は、青色から灰色になった。
その髪と目の色彩は、私の母とお揃いでお気に入り。
旦那さんは、髪と目の色が前世とは逆になっていた。
だけど、目の前の彼は前世とは変わらない色をしていた。
最初は、似たような人だと思った。だから、
「人違いではありませんか?私は、」
ただの、庶民ですと言おうとしたけれど、彼は私に近づいた。
「人違いじゃない…君は、俺の妻だ…」
その言葉に反応したけれど、私は言った。
「私は、貴方の妻ではありませんよ?私は、結婚していませんし…第一」
私には、恋人がいます。そう、言おうとした。だけど…
「探したんだ…ずっと、君がいると思って…前世の君は綺麗な薄紅色の髪に、目は青かったよね…そして、スミレの砂糖漬けが何よりも大好きだった」
それは、前世の私の特徴だった。最後には、
「君は、谷から落ちて亡くなった…俺があげたストールをしていなかった…違うかい?」
私が谷に落ちたことまで知っていた。しかも、気が付かないうちに何処かに無くしたと思っていたストールの事も知っていた。
つまり、彼は
「あぁ…思い出してくれたんだね…」
そういって私の元に来た。ベッドに乗ったままの私の手を跪いて口付けをした。
「君を見つけるのに苦労したよ?今世の俺は、地位が前世よりも遥かに上だった。だから、茶会や夜会には必ず…どんな小さな所でも参加して、君と同じ特徴の女性を見つけては、話したりしたんだけどね?だけど、皆、嘘を着いたり、違う人ばかりだった…」
その体制のまま、彼は私を見つめるように話した。
その目には、熱が籠もっていて…何故か恐ろしかった。
「だから、今度は城下に行った。だけど…見つからなかった…勿論、君を探すために雇った者もいたけど、どれも違っていた…」
今度は、私の手に頭を着けた。まるで、懇願するかのように
「だから最後の賭として、下町に変装して行ったんだ…もし、居なければ、今世は諦めるつもりだった…だけど、諦めて帰ろうとしたとき…通り過ぎた少女がいて、それにまさかと思って振り向いたら…」
前世では、見たことのない顔で誰かと笑いながら話をしている君を見つけた。
「そして髪や目は変わっていたけれど、君の容姿は変わっていなかった。だから、君の通う食堂に行った後…気が付かれないように俺の密偵に話し掛けさせた…そして、傍で聞けば…」
好きなものですか?そうですね…甘いもの…特にずっと昔…いいえ、小さな頃からスミレの砂糖漬けが好きでした。
「確信したんだ、その言葉に…君が、前世の妻だと。だから、その日のうちに君をどうやったら、上手くこの別荘に連れていけるのか…そして、君を連れ去ることに成功したんだ」
確かに、私はフードを浅く被った男性とそんな事を話した気がする。その時は、単なる世間話だと思っていたから。
そして、彼を見れば、再度私を見た。
「だから、今度こそは幸せにするから…俺のモノになってくれ」
その後は数日間、私は、彼にこの屋敷に軟禁された。
私のドアに見張りをつけ、彼がいないとき以外はいるように言われているのだろう、帰るときはその人達を呼んでドアにいるように指示して去って行く。
逃がさないために…。
彼の話では、私がまた何処かに消えることが怖いからと言っていた。
そして、夜になれば決まって一緒に食事をした。
寝るときも、必ず私の部屋に寄っていた。
そんな日が、今日まで続いた。
だけど、私はその間も片時として、旦那さんを忘れたりはしなかった。
私が来なかったことで、心配させてないか
約束を守れなくて、申し訳ないなとか
私が、此処にいることを伝えられたらとか、
どんな時でも、いつでも思っていた。
きっと、旦那さんの事だから私を探して、心配してくれていると思ったから。
だから私は、旦那さんが来てくれることを信じて待った。
何も出来なくて、下手に動けばきっと警備が厳しくなる。
ある日、私が窓辺にいたときだった。
私は二階にいて、そのベランダに立っていたフードを被った人を見たのは。
その人は、私を見れば窓を開けるように、指を動かした。
その指示に従って、開けた。
「やっと見つけた。けど、ごめんね…今の私じゃ、君を助けたくても助けられない…下手に動いたら、危ないしね」
どうやら、女性のようだった。
「君を見つけて欲しいって言っていた人がいてね…君の恋人からの依頼だよ。特徴も一緒だね…とりあえず、君のことをその人に必ず伝えるね」
多分、旦那さんが依頼してくれた人みたいだった。私は、その人を呼び止めた。
「あの、一つだけ、伝言をお願いします」
「なんだい?」
「待っていますと…伝えて下さい、私は、貴方を信じていますと…」
私の言葉に、フードを被った女性の表情は分からなかったけれど、僅かに笑ったような雰囲気で…
「了解、愛しの恋人に伝えるよ…だから、大丈夫」
そう言って、ベランダから木に移り、そのまま飛び降りて去っていった。
私は、旦那さんが依頼した人だからきっと、信じられた。
それに、なんだかあの人は私が…なんとなく、知っている人の雰囲気に似ているような気がした。
だから、彼女に全てを託した。
そして、私は彼女を信じて、最愛の人と再会できた。
私を抱き締めてくれる腕に、心から安堵した。
「…そういう訳だ。俺も、コイツのことを大切で俺なりに大事にしている…お前が、入る隙なんてないんだよ」
「どうしてっ!俺は、本当に…前世のことで君に酷いことをしたことを後悔したんだ…君の為に、準備だってした…今度こそ、幸せにするって」
旦那さんの言葉に、彼は俯き、呟いた。
「なのにっ…!今更っ…今更諦めるか!!」
激昂して、彼は今度は私を見た。
その目は、激しい怒りに染まっていた。
思わず、肩を跳ねてしまったが旦那さんが、それから守るように私を着ていたコートで隠した。そして、囁いた。
「大丈夫だ、俺がいる」
そして、彼に言った。
「てめぇの酷いことって言うのは、前世のこいつを死なせるくらいのことか?」
「そうだ!だからっ…今度は幸せにっ!」
「てめぇには無理だ」
「なっ……」
其処で、旦那さんは一拍置いた後…
「コイツの気持ちを、前世でも…ましてや今世でも考えられねーで突っ張って、しかも、お前が好きだって言っているコイツの話しも聞きやしない…そんな奴に、渡すほど…俺は、馬鹿じゃねぇんだよ…大体な」
そう言って、コートに隠した私を更に抱き寄せて、それこそ体がくっついてしまった。彼の胸に頭が当たり、彼の心音がとても近くに聞こえた。
そんな事に、自分の胸の音が早くなり、顔が赤くなる気がした。そんな事を気にしている場合じゃないのに。
私を離さないとばかりに、優しく抱き締め、言った。
「俺が、前世以上に幸せにするから、お前は引っ込んでろ」
その言葉に、私は嬉しいと思いながらも彼の胸元に顔を押しつけて、隠すように顔を当てた。
そんな私を、旦那さんが優しく笑いかけてくれたような気がした。背中も優しく撫でてくれた。
「だから、お前は…これ以上俺達に関わるな。またコイツを攫うなら…本気で、俺を敵に回すぞ」
その声は、いつもの声よりも遥かに怖く聞こえた。私に対して言われているのではないのに、怖いと思った。
そして、コートから出された後、彼は崩れ落ちたように膝を着いていた。そして、俯いた彼に、私はあの時言えなかった言葉を言った。
「私は、前世の頃…貴方が好きでした。ですが、私には、私を見て、そして私のことを愛してくれる人に出会いました。私も、彼のことを見て彼を愛することが出来ました。だから、貴方とはもう、お会いすることも無いと思います。どうか、私の事を忘れて下さい…私は、旦那さんの事を愛しています…誰より、何よりも」
そして旦那さんに横抱きにされて、まだ俯いている彼と、彼の屋敷が何やら騒がしくなっていることに気付きながらも…彼に、最後の別れの言葉を告げた……。
「さようなら、旦那様…貴方を愛していた私は、あの谷で既にあの時に死にました。此処にいるのは、ただ、旦那さんの事を愛するたった一人の娘です」
そして、その扉から入って来る人と入れ違うように、私は旦那さんに横に抱かれ、窓のベランダから去って行った。
最後に見た彼は、私を見ることをせず、俯いて動かなくなっていた。
私が連れ去られたのは、私が住んでいた王都からかなり離れた…それこそ隣国に近く、更に深い森の別荘に攫われていたらしく、旦那さんが、教えてくれた。
そして、少し休むために近くの街に今日は泊まることになった。
私は、追っ手とか来るのではと思ったけれど、旦那さんは宿の一室に入ったときに教えてくれた。
話によると、旦那さんと私が入れ違いに入って来た人達は、彼が私を攫った事を突き止めて、その屋敷に来た人だと言うこと。
つまり、お母さんが私が居なくなって、王都のギルドに私を捜すように依頼してくれて、その時に私が来ないことに何かあったと思った旦那さんとその旦那さんのギルドの人達が私を捜索するために受け持ってくれたこと、
そして、攫われた私を見た騎士の方がいて、慌てて自分の騎士隊長に伝えて、お母さんが依頼した内容と一致したので、ギルドに自分達も同行することを願い出たこと、
そして、旦那さんのギルドの人が私がいる屋敷を突き止めて、報告してくれた時に、どうやら彼も兵士や傭兵を雇っていて、その騎士隊長と少数の騎士の方、そして旦那さんもギルドで少数の人を連れて作戦を練って、旦那さんは私を助けて、騎士とギルドの人達はその兵士達の相手を、騎士隊長さんは特に彼を捕まえるために率先して突撃したところに、旦那さんが私を連れてこの宿に騎士隊長さんと待ち合わせるというモノだった。
此処の国は、ギルドと騎士の関係は他の国に比べてとても良好だった。
昔、この国が戦争に巻き込まれたときに、ギルドの人達が助け、ギルドの人達が理不尽な扱いをされたときにはその時の事を返すためにこの国が一番先に助けたと言う話がある。
だから、少し諍いがあっても喧嘩両成敗という、ちょっと他の国からはちょっと変わった所があるらしい。
宿の寝台に腰を下ろした後、旦那さんが私を抱き締めた。
それほど経ってないはずなのに、ずっと離れていたような感覚に、私は安心するとともに抱き締め返した。
「……無事で、良かった…」
その言葉に、私を思う全てが詰まっていることが分かる。旦那さんの顔を覗けば、安心したように目を瞑っていて、私を見れば優しく笑った。
「心配掛けて、ごめんなさい…」
私が謝れば、お前のせいじゃないと言って、それ以上は何も言わないで優しく、強く抱き締めた。
攫われ、あの屋敷に囚われたとき、きっと旦那さんが来てくれると信じていた。信じていたけれど…
本当は、怖かった。捕まれられて、何かされたらと思うと怖くて仕方なかった。
だから、旦那さんが来てくれて凄く安心した。迎えに来てくれて、心から良かったと思った。
涙が、また溢れ出て私は止まらなくなり、拭おうと手を離したけれど、
その前に旦那さんが私の涙を拭った。そして、困ったように笑うと、
私の唇に、自分の唇を優しく重ねた。
旦那さんは、唇を離すと私を見て、
「やっと、充分に慰められる…もう俺がいるから、大丈夫だ。」
その言葉に、たまらず私は、
「信じて、いましたっ…でも、やっぱりっ…怖かった…怖かったんですっ…もし、何かっ…されたらってっ…」
旦那さんに、言葉が上手く言えなくてそのまま思った事を言った。涙もずっと流れていて、なかなか止まらなかった。だけど、旦那さんは私の頭を撫でて、
「ちゃんと、間に合っただろう?それに、」
そこで区切り、私の顔を両手で優しく掴み、
「何かされる前に、また、駆けつけてやる。どんなに遠くても。ま、それ以前に今回のことが二度と無いようにしねぇとな」
目元に口付け、そうしてこう言った。
「だから、俺と…一緒になろうか…」
おどけた言い方なのに、目は真剣だった。私は彼の頬を包んでいる手を両手で添えて、
「私もっ…貴方と…これからも、ずっと一緒にいたいです…だから、私と…」
私のその後の言葉を敢えて遮るように、今度は先程よりも深く口付けた。そして、あまりにも長すぎる口付けに体が旦那さんの方へ倒れ、受け止められ
「その先は、俺から言わせろ…悪いな、俺の勝手で」
声は、謝っているのに…まるで、その先を譲らせない意志が宿っていた。そのこえを耳元で囁かれて、私は動けなかった。先程の口付けで顔が赤いのは分かっていた。
「俺と、結婚してくれ…良いよな?」
私は、その言葉に頷いて…
「私も、貴方と結婚したいです…だから、お願いします…」
そして、何度目かの口付けをした。
その後は、
先ずは、私は騎士隊長さんと翌日会い、私に起きたことを話した。私を見つけてくれた騎士さんは、直ぐに助けに行けなかった事を謝っていたけれど、私はお礼を言った。だって、もし騎士さんが見つけてくれなければ、私の発見は遅れていたと思うから。そして、その騎士さんとはこの事があって、仲良くなった。
私は王都に帰れば、先ずはお母さんが私を見るなり走って来て、泣きながら抱き締めてきた。頻りに無事で良かった…本当に良かったと泣いていた。お母さんは、苦しくなるくらいに抱き締めていたけれど、私はお母さんにごめんなさいと言えば、お母さんは貴方に何もなければ、無事でいたら、これ以上のことはないと言って顔を上げて涙を流しながら笑って言った。その言葉に、私まで泣いてしまい二人でお互い抱き締め会った。
下町の皆さんも、私を心配してくれていて、宿屋の女将さんやご亭主さんにも、仕事を休み、行けなかった事を謝るとあんたが悪いんじゃない、あんたは何もしてないんだから。君が無事で良かった。今は暫く休んで、また仕事が出来るようなら来て欲しいと優しい顔で言ってくれた。その事に私は頭も下げて、ありがとうございますと心から感謝した。そして、私のことを姉のように慕ってくれた子も、私の事を見た後、ずっと静かに、女将さん達に言われるまで私の傍から離れないでいた。
他の皆さんも心配してくれて友達も、私を見たら、怪我をしてないかとか、後は、その中でも一番しっかりした子は、あんたをこんな目に遭わせたやつ、絶対許さん。と、怒ってくれた。私は、その子を宥めながらも、他の友達の優しさを心から感じて、とても嬉しかった。
そして、彼…前世の旦那様は、騎士隊長さんから聞くところによれば、どうやら今回のことを彼の親に知られ、特にそのお父様がとても怒り狂い、やらかしたことへの責任として、彼を投獄して欲しいと自ら騎士団に言い、そして出された後はこの国に二度と踏み込ませないように国外追放、万が一、戻る可能性も考えて、かなり遠い国の更に辺境で、とても厳格な、噂では脱出する事すら不可能と言われている、有名な修道院に入れられた。話によれば、断崖絶壁の島にあり、食料などは、運ばれてくるけれどそれ以外は外界とほぼ断絶している。まさに、聞くだけで怖いと思った。
流石に、それは少しやり過ぎなのでは?と思ったけれど、
『最初は、反省して二度と同じ事をしなければ投獄だけして貰い、王都には出すが国外追放まではしなかったが、反省ややらかしたことへの責任がなく、挙げ句、周りに当たり散らしたからな。妥当の判断だと思う…君や、君の母君には、 頭を下げても足りないくらいだ…本当に、愚息…それ以上に私達夫婦のせいであなた達に多大な迷惑をかけて、すまなかった…』
そう言って、彼のお父様は私達にその後の彼のことを伝え、謝罪をしに来てくれた。何度目かの頭を下げた彼のお父様をなんとか頭を上げさせた後、私達に今後、何かあれば全力で手助けをすると言って下さった。
そして、今度は謝罪をしに来たのは、彼のお母様と弟様で、私達にお詫びとして、高級なお菓子とお茶を貰ってしまい、母と二人で食べた。お二人も、こんな物は自己満足なのは承知ではあるし、これであなたに起こったことを無しにする気は毛頭ない。だけど、どうか、良ければ受け取って欲しいと言ってくれ、暫く話した後、彼のお父様と同じ事を言って、終始謝罪をして下さった。
頂いたお菓子とお茶にお母さんは初めてなのか、少し楽しそうにして、私からしたら久し振りの高級なお菓子を嬉しそうに食べた。お茶も、とても美味しかった。
そんな事が目まぐるしく起こり、漸く落ち着いた頃に私は旦那さんとある日、二人で、草原に来ていた。その時、木に寄りかかって、私は旦那さんに何故か横抱きをするように座らせられていた。そして、不意に言った。
「俺は、お前と一緒に生きていられて、幸せだった。俺もお前を愛している……」
その言葉は、私が前世で旦那さんと最期に交わした言葉だった。
もう、長くない私に旦那さんと変わらない話をした後に、私が永遠の眠りにつくときに、言った言葉。
私は、旦那さんを見れば、あの時を思い出したように寂しそうに笑った。私は、旦那さんの顔を見て、
「今度は、私が旦那さんを看取ります…前世は、貴方が看取ってくれたから…だから、」
「…そうか…だが、今世も俺がお前を看取る気でいるからな。」
不敵に宣言されて、私は少しムッとして、
「いいえ、今度は、私が!貴方を!看取りますから!」
その言葉に、旦那さんはそうかいと言って忍び笑いをして私を見た。
そして、穏やかな時が過ぎた。
私も、旦那さんを見た。旦那さんはどうしたと聞いてきたけど、私は旦那さんに、言った。
その言葉は、前世の最期言葉だけどその言葉は今でも、そしてこれからも続いていく言葉。
その言葉を聞いた旦那さんは、嬉しそうに目を細めて、そして私に口付けを何度角度を変えてした。
そして、旦那さんは、こう言った。
「俺もだ」
私達は、いつの間にか笑い合い、幸せな時間が過ぎる。
旦那さんとは、近いうちに結婚する。その日が、楽しみで仕方ない。
この先も、大変なことがあるし、悲しんだりするかもしれない。
だけど、私は最愛の貴方と生きていきたい。この先も、そして、また来世で会えるのならば、貴方と結ばれたい。
そんな思いを胸に、私は貴方と生きていく。
彼に言った、最期の言葉。それが今に繋がり、これからも繋がると信じて、貴方に言った。
「愛している、貴方…だから、私は今も昔も幸せでいっぱいです」
女神「私のこの手が真っ赤に燃える、感情が追いつかない(旦那様の事やその後のラブい雰囲気の事)と轟き叫ぶ!!」
神「(旦那様が)出てこなければ、(旦那さんに)やられなかったのにっ…!!」
騎士「ねぇ、隊長…次は(この雰囲気を)どうすればいい?」
騎士隊長「ならば、彼女の恋人らしく…頂いていく!!(旦那さんが)」
熊「思いだけでもっ!!力だけでも!!(旦那様に対して)」
月「貴方(旦那さん)に、力を……」
母「私がっ…私達(下町の皆さん)があの子の幸せを見守り隊だ!!」
太陽「(テンションが)おかしいですよ!?(上記の)皆さん!?」
と言うわけで、今回はざまぁとかなり糖度を高めにしましたが、皆さんからしたら糖度は…その…足りていましたでしょうか?(;・д・)前書きにあんな風に書きましたが…個人的に、今回が一応、このシリーズにおける最終シリーズということで、一区切りです。ただ、また書きたくなったときに書くかもしれないので、その時にも読んで下さると大変嬉しいと思います。(*´∀`)
それでは、このシリーズやこの話を読んで下さった皆様…お付き合い下さり、本当にありがとうございます。(*・ω・)ノ
少しだけ補足を…実はあのフードの人は、旦那さんの仲間ですが、彼女も前世を持っています。ただ、今世では目立たないようにしていますが、正体があのダンスの家庭教師という裏設定。本人からしたら、前世より今の方が楽しいとのことです。本編に入れられなかったので、此処に…(;´Д`)すみません…
それでは、失礼しました。