ダーク・ハロウィン 2
自分には記憶が無い。
いつか取り戻せるのではないかと思うのだが。
†
「ああ、ゼフィスからのお使いですね?」
そこは、店というよりも、ただの一軒家だった。
中にいたのは、柔和な顔の優男で長くて黒い髪が、もじゃもじゃと天然パーマを作っていた。
「わたしはヴォーグと言います」
テーブルと椅子があり、アリスはテーブルに座らされた。
アリスは出されたキャラメル・マキアートを飲みながら、ヴォーグの身体をまじまじと見ていた。まず、彼の額には縫い目があった、黒い縫い糸もあった。首や手首にも、縫い目、縫い糸が存在する。そして、彼は白い縫い目だらけの黒いTシャツを着ていた。
「では、薬です。ゼフィスに渡してください」
そう言うと、紙袋を、彼はアリスに渡す。
「絶対に開けないように」
「…………分かりました」
†
道に多少、迷ったが、彼女は無事にザーディーの家に着く事が出来た。
すると、家の前で、ゼフィスが手を振っていった。
「やあ、薬は受け取ってくれたかな」
「ええ」
そう言うと、アリスは少年に紙袋を渡す。
「しけた、ザーディーなんかよりも、今夜は俺の家に泊まりに来ないか?」
今夜、といっても、ずっと空は闇に包まれている。辺り一面はランプやランタンが置かれており、住民達はその光に頼っている。
「送り狼ですか…………?」
「ま、まさか。そんな事はないよ」
†
ゼフィスの家の中に入る。
どうやら、彼の家には物が沢山、置かれているみたいだった。
「これから、街の住民で、気を付けないといけない奴を上げていくな」
「え?」
「まず、魔女ルーレス。こいつは他人を実験材料にする。ヤバい。特に、お前のような外から来た人間だと狙われやすい。次に、墓掘り屋のジャンピール。あの男にも気を付けろ。気が付いたら、お前が埋められる事になっているかもしれないからなあ」
「そ、そんな怖い人達がいるんですか?」
「ああ」
彼は脅かすように、掌をかざす。
「怖い人ばかりだぜ。だから、アリス。お前はこの俺が守ってやるよ!」
彼はとても眩しい顔で告げた。
「ねえ、ゼフィ」
「なんだ? アリス」
「私、此処に来て、右も左も分からない。気が付いたら、此処にいた。もっと、この場所の事を教えて欲しい。貴方には私の傍にいて欲しい」
そう言うと、狼耳の少年は、にっこりと笑った。
「いいよ、アリス。俺が色々な場所を紹介してやるし、ここでの過ごし方も教える。危険な奴からは守ってやるよ」