あんたあの子のなんなのさ
だいぶ遅くなってしまいました。皆様よいお年を。
はっきり言おう。
私の魔導法の実技テストは再テストになり、合格最低点しかもらえなくなった。
拡大した私の清潔、清浄の結界は校舎にまで影響を及ぼしており、何事かと驚いた先生が判定魔石の位置情報で、図書室にいた私の元にやって来て説明を求められた。
「そういうわけですみません、魔法が拡散してしまいました。」
事情を説明して謝ると、先生は呆れ顔で判定魔石を私から受け取ると、
「事情は分かりました。今回の光魔法は素晴らしいとは思いまよ。学校をこんなに綺麗してくれたのだから。でも、テストはやり直しですし、再テストだと合格点しかあげられませんね。」
そう言って、翌日の再テストをセッティングしてくれた。
ガックリ肩をおとし、図書室を出た廊下で落ち込む私にギリス様が背中越しに声をかけてきた。
「すまん、私の監督不行き届きだ。」
「…モウイイデス。」
ギリス様より、ソラ、ソラよりナラタが悪い。私は、まっすぐ顔をあげられなかった。光魔法で再テストなんて初めてで、ショックで頭の中がぐるぐるする。
「ご両親に今日のことを話さなければ。家に送ろう。」
ギリス様が私の右肩に手をおき、私を見た。
「~ッ!」
私の顔を見たギリス様は目を見開き真っ赤になった。
「本当にすまない。」
そう言いながら、私を胸に抱き込んだ。
えっ、ちょっと、なんでこんなことしてくるの?びっくりして身体が固まってしまう私に
「今回のことで、何か困ったことが在ればいくらでも私が力になるし、アリアがよければカンバルに来ればよい。だから泣くな。」
耳許で低く囁かれ、私は自分が泣いていることを知った。イヤ、でもギリス様、これはやり過ぎなのでは?
焦った私はポケットからハンカチをだし、目の周りを押さえると同時に身をよじり、ギリス様から離れた。
「慰めて下さってありがとうございます。ギリス様は本当にお優しいのですね。」
涙が出たせいか鼻声で少し声が震えたが、ギリス様に視線を合わせにっこり笑って伝える。
「今回のことは気になさらないで下さい。たまたま悪いことが重なったんです。それにまだ挽回のチャンスはありますから。」
ギリス様は私の顔から目を離さなかった。離さないまま、ハンカチを持たない私の左手を両手で包み優しい声で、
「それでも、ご両親には説明させて欲しい。行こう。」
そう言って、手を繋いだまま歩き始めた。
ちょっと、こんなの誰かに見られたらどんな噂が広がるか、分かんないじゃない。やめて、やめて~!という私の思いに気付かないまま、ギリス様はサクサク歩いていく。
すれ違う生徒たちから、好奇の視線が突き刺さってツラい。
「あ、あのギリス様。」
手を離して欲しいと伝えようとした時だった。
「アリア ウィスカ?」
同い年位だろうか?サラサラストレートのブルーの髪を、顔の横で三つ編みにし、切れ長のマリンブルーの瞳が印象的な、端正な顔立ちの背の高い男の子が私を呼び止めた。
「そちらは、カンバル公国のギリス殿。」
彼はギリス様の方へも声をかける。マリンブルーの切れ長の瞳がにこやかに笑ってる。
「そうだ。5年振りになるか。久しぶりなのによく私の顔を覚えていたな。」
「人の顔を覚えるのは、得意なんだ。」
ギリス様と親しげな、ブルーの髪の持ち主で私とも知り合いらしい。
顔を見てるとモヤモヤとあまり良くない感情が湧いてくる。
「それにしても、ずいぶんと君たちは親しいみたいだね…。」
繋いだ手に視線が注がれ、私は失礼とは思いながらギリス様の手から、自分の手を引き抜いた。
「たまたまです。今からギリス様は私の家に来たいと言うので…。」
彼が誰だか思い出せず答えると、
「そう、では私も一緒に行こう。ミリアの顔も久しく見てないから。」
有無を言わせない様子でそう言い放った。
「え?」
ちょっと、図々しくないですか、この人。
思わず聞き返した私に、
「もうそろそろウィスカ家には中央に戻って貰わないと。」
そう言ってニヤリと笑った顔を見て、思い出した。
こっ、この方はエドワルド様だよ。
この国、聖グレイド王国の第1王太子だよ!
ふいに、最近では霞のように薄くなった前世の記憶が、やけにリアルに頭の中によみがえった。
アリア、学園で恋と魔法の勉強中!
この恋は、一生に一度だけ!
などというイージーなキャッチコピーと共に、主人公のアリア ウィスカの後ろに控えるどや顔の男たちが次々に流れていくCM。
本来なら、王都にある王立学園で開始されるシミュレーションのはずだけど、私がここにいることで、ゲームに補正がかかったのか?
ゲームからは、外れた人生送れてると思ってたのに~!
お読みいただきありがとうございました。