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ヒロイン降ります  作者: ベルル
13/33

春のばかもの

少し長めです。

 さて、この時期、私やエリカを含めテストを受けるほとんどの6、9年生は死んだ魚のように顔色も悪く、活気の無いゾンビ状態になる。


 しかし、国に帰る者や、就職が決まった者は、テスト終了後にある終了式まで我関せずとばかり、元気で遊び回っている。


 私たちが頭をぎゅうぎゅう絞られている間、カンバル公国に帰国が決まったギリス様と、ダレーン国に帰国が決まったウナス様とナラタは、ソラと訓練という名目の自主的な課外活動をしたり、論文制作の為の実技と称して野外でキャンプをしたりと、それはそれは楽しそうに過ごしている。


 う、羨ましくなんかないんだから!



 

 テスト期間もラストスパート。必須科目のテストは最初の週に終わり、私のとっている防御術や高度マナー術も終了した。

 ちなみに、今回のテストで防御術の講座は終了。

 この講座、普通の女子は1~6年生の間に2回、7~9年生の間に1回のトータル3年間しか受けれない。理由は講座内容が女性には不向きだから。なので男子と一緒に講座を取れるのは、抜きん出た才能を持つ子だけ。私は凡人なので、通り一般の内容で終了デス。



 高度マナー術の今回の実技テストはお茶会だった。紹介状がなかったり、名前を呼び間違えられたり、茶器の目利きやメイドが粗相をしたときの対応など、とても気を使った。先生方は楽しそうにこれでもかと、仕掛けをかけて来るので、本当に大変だったよ。そのうえ高度マナー術の座学テストはは近隣各国の上位貴族の家系図。本当にほんとうに、大変でした…。


 

 

 テスト最後の週、この学校で一番多くの生徒がとっている必須科目以外の講座、魔導法のテストがあった。

 この講座を受ける生徒は座学は皆同じことを学ぶのだが、実技は個々の性質によって土風水火光に分かれるので各クラスに分かれる。(本当は闇魔法もあるけれど、闇の性質を持つ人は本当に少ないので習うとしたら魔導省に行くことになる。)


 光魔法の実習テストだったこの日、このクラス(といっても光魔法の使い手が少ないので私を含めて3名なんだけど。)講師の先生からある課題を出された。

 それは一定時間自分を中心に半径1メートルを清潔、清浄に保つというもの。これは、術者の魔力やテクニック、汚染度の浄化具合や指示された時間の間ちゃんと魔法が維持できたかによって評価される。

 

 先生に渡されたテスト用の判定魔石を首にかけ、半径1メートルに清潔、清浄の結界を張りテストを開始。

 今から一時間、結界を張るのだが、同じクラスのミナとヨナスは不安げな顔で、

「集中力持つかな?ツラい。」

「わたしも~。ねぇ、今からどうする?」

 そう聞いて来たので、

「私は図書室で読書するよ。時間過ぎるの早そうじゃない?」

 あらかじめ考えてたことを答える。

 先生からは、判定魔石を外さなければテスト中どこで何をしても構わないといわれているのだ。できれば、静かな所で落ち着いて過ごしたい。そう伝えるとミナとヨナスもいいネと言うので、3人で図書室で過ごすことになった。

 しかし、

「ごめん、先に図書室行ってて。朝ごはん食べ損ねちゃって。」

 お腹が空いて集中力が持たなかったら困ると言って、ヨナスが食堂に寄りたいと言う。ミナも喉が渇いたらしく二人は先に食堂に寄ってから向かうとのこと。お腹が空いては集中できないよね。

 私も二人に誘われたけど、実は朝ごはんを食べすぎて、一緒に食堂に行ってお菓子の誘惑に負けたら確実に眠くなるという腹心地だったので、一人別れて図書室に向かった。

 


「あっ、アリア~、ちょうどよかった!」

 中庭を抜け図書室のある棟の扉が見えたその時、名前を呼ばれた。


 振り向くと、頭の先から爪先まで泥だらけのナラタ。き、汚い。

「ソラがさぁ、しばらくアリアに会ってないからって機嫌悪くてさぁ、ちょっと顔見にきてよ。」

 へにゃりと笑いながら手を伸ばし、私の手を掴もうとするのでそれをかわしながら、

「イヤよ。ソラにはいまテスト中だからテストが終わったら会えるって言ってあるし。それに、ナラタ汚いから近づかないで。」

 ジリジリ距離をとりながら答えるけど、敵もさるもの

「そこをなんとか。」

 片目を瞑り、右手で拝むポーズをしながら私に素早く近づいて来る。

「本当、5分だけで…ってなんだこれ?」

 私に近づくにつれ、泥だらけだったナラタの姿がどんどんきれいになっていったのだ。

「いまテスト中って言ったでしょう?清潔、清浄だから汚れが落ちたのかも。」

 そして、私は軽く疲れてます。ってどんだけ汚かったのよ!

 うんざりした私の表情には気付かず、

「スゲー!風呂入ったより気持ちいい!ちょうどいい、来てよ!」

 素早く私の腕を掴むと走り出した。

「ちょ、やだ、いーやーだー!」

 振りほどこうにも力は強く、術に集中しなきゃならないのに転ばないよう走らなければならない。

 いーやーだー!


「もう、なんなのよ!って何よこれ!」

 ナラタに連れられて着いた先は、人気の無い裏庭の奥だったがそこはまさに混沌だった。


 泥だらけのギリス様、ウナス様が沼の中でガンガン何かを飛ばしている。ソラは、ギリス様のそばでやっぱり泥だらけでギャオギャオ言ってる。

 なんだ、この汚さは…。


 唖然とした様子の私などお構い無く、

「ギリスとウナスが、土魔法で攻撃練習始めたんだけど、熱が入りすぎてさぁ。」

 先の展開が見えて、この場から逃げ出したい私の腕をつかんで離さないナラタは説明し始めた。 

「他に影響無いようにこの中でやってんだけど、汚れがすごくてやってる間は気にならないんだけど、終わって風呂入ってもキレイにならないんだよ。服だって、泥で染まるしさ。」

「だから、何よ。」

「だからさ、おーいソラ、アリアだぞ~!」


 だから、なんで呼ぶのよ、と思ったとたんソラがギャギャッとこちらに瞬速で向かってきた。うわ、ドロ跳ね散らかしてる。同時に、ギリス様とウナス様も何かを投げるのを辞め、こちらにやって来る。

「うん、たまたま会ったからさ、連れてきちゃった。」

「ギャギャ~。」

 私に近づいたソラは結界内分、頭だけキレイになった。泥汚れがあると分かっているせいか距離をおいてくれたのだ。お利口だ。

「何だアリア、テストは大丈夫なのか?」

 そう言いながら近くに来たギリス様とウナス様も汚れが落ちていく。彼らは知らずとはいえ、結界内に入って来たので頭から爪先、服の汚れまでしっかり落ちた。

「これは、何だ?泥が。」

「すごい、爪の間の泥もなくなってます。」

 ギリス様とウナス様は目を見開いて、自分の体を確認している。

「気持ちいいだろ?アリアがすごいんだって!」

と、なぜかどや顔で答えるナラタ。

「私は今テスト中なの!」

 だるさが半端なくなってきたわたしは、半泣きだった。

 この人たちどんだけ汚れてるのよー!


 私の気持ちと状況を察したのか、ソラがギャギャとナラタに向かって怒ったように詰め寄る。

「イヤ、だってソラ二言目にはアリアに会ってないからっていうからさ、オレたちもキレイになるしちょうどいいかなって。」

「ギャー!」

 一声あげるとナラタはソラに頭突きされ、沼に吹っ飛んでいった。ギリス様とウナス様も仕方ないとばかりため息顔だ。


「ギャギャ?」

 ソラが私を気遣うように見る。

「大丈夫か?だそうだ。」

「大丈夫じゃないよ。まだ、テスト終了まで時間あるのにナラタひどいよ。」

 立っていられなくて、ペタンと座り込んでしまった私を見て、驚いたソラは、ギャオギャオ騒ぎ始めた。

「いや、それは。」

何を言ってるのかわからないけど、ギリス様もソラの言ってることに戸惑っているようだ。ウナス様はなぜかワクワクした声で、

「それはいけません。見てはみたいと思いますが。」

ソラに言っている。何を話してるんだ?


 ぶつぶつ話している彼らに構わず、目を閉じて膝に頭つけうずくまって、テスト終了まで動かずにじっと座っていようと思った時だった。触れ慣れた感触のソラの頭がそっと寄り添ってくる。

 うーん、体力削られてないから汚れたところは結界内に入ってないのかなぁ、とチラリとそちらを見やると、目にいっぱい涙をためている。というか、こぼれている。

「なんでソラが泣くの、ソラは悪くないでしょ。」

びっくりして涙を手で拭ってやった時だった。


 ぶわり、と結界が拡散したと同時に私の疲労感もなくなった。

「な、なんなの!」

 辺りの空気が清浄だ。地面も心なしかキラキラしてる。なんというか、普通の景色なのに美しいのだ。

「おぉ!」

 辺りを見回し、嬉しそうに呟くウナス様。ギリス様は苦虫を潰したような顔になっている。


 私はあわてて拡散した結界を、自分の周り半径1メートルに収縮する。どういうことだ?あの一瞬、自分の結界範囲がこの学園全体まで広がったよ。


 信じられない思いでソラを見ると、汚れが落ちただけでなく、なんだかピカピカしてる。ギリス様とウナス様も、泥沼に落とされ這い上がってきたウナスでさえキレイにピカピカ。

 イヤ、泥沼が綺麗な池になってるじゃん!


「ソ、ソラ何したの?」

 私は呆然としてギリス様に尋ねた。

「アリアの力になりたいと、体液を通して繋がったそうだ。私はそれは、やめておけと言った。しかし、アリアの光魔法はとてつもないな。」

 さすが、ウィスカ家と小さく呟くのが聞こえたけど、ねぇ、私今テスト中だよ!

「ギャギャ~、ギャン。」

「あんな状態のアリアを放っておけなかった。ごめんね。だそうです。イヤ、素晴らしい効果を見せて頂きました。」

 ウナス様が生クリームを舐めた猫のように、満足げな表情でソラの言葉を訳してくれた。

 ねぇ、私テスト真っ最中なんだけど。


 私は立ち上がり、無言で彼らに背を向け、図書室を目指し歩き始めた。

 後ろで、なんかうるさいけど、私には関係ない。


 ワタシは今この瞬間だって、テストしているんだよ~!

 



お読み下さりありがとうございました。

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