学力テスト
いつもありがとうございます。
私が、ソラの半身となってから5年がたった。
一時期、私とギリス様の仲が噂されることもあったが、真実(単なるソラの通訳とバルト兄さんへの御執心)を知ると、私よりもギリス様がみんなから優しくされていた。謎である。
体が大きくなるにつれ単独行動ができるようになったソラは、ギリス様に連れられて我が家にやって来ていたのが、次第に一匹で来るようになった。今は、カバと象の間位の大きさなので、庭のパティオで会ってる。
ギリス様としても一国の皇子が、他国の魔導師一家と仲良くしているのは自国での外聞がよろしくないのだろう。我が家にやって来るのは、ここ3年位の間に徐々に減り年に1,2回になった。
年に1~2回しか我が家に来なくなったギリス様は、ピンポイントでバルト兄さんが家にいるときを狙ってやって来るようになった。しかも一日コースで昼ごはんから晩ごはんまで食べた上、名残惜しいのか帰りは、バルト兄さんに寮まで送ってもらってる。
知り合った10才から5年たち15才になったギリス様は、銀青色の髪を後ろで一つに結び、男らしさが際立ってきた甘い顔立ちによく似合っている。
相変わらず、ウナス様とナラタとは仲が良く、学校でも一緒にいるのを良く見るのだが、彼らはやはり目立つ。学園カーストの頂点って感じで女の子にモテモテだ。
そんなギリス様だが、いまだにバルト兄さんに会うたびに顔を赤らめるは、話をしてるときは乙女のように恥じらってるは、という状況なので兄にどういう感情を持っているのか、一度聞いてみたいが、竜騎士への憧れという答え以外だったら…と思うと怖くて聞けないでいる。
ソラが一匹で来るようになってからは、週末よく遊びに来るエリカやママが通訳をしてくれるようになったのだが、
(久しぶりなんだから、一緒にいて。)とか
(アリアと離れたくないけど、ギリスのこともあるから…。)
とか、どうでもいいことを毎回言ってる。
ソラに私の気持ちは筒抜けらしいが、ソラの気持ちは私には全く分からない。それで不安になるのか同じことを何回も繰り返しちゃうらしい。通訳する側も大概飽きないかな、と思うのだが毎回にっこり笑って、微笑ましいわね~って感じで私に伝えてくれる。ありがたいんだけど嬉しくない。
この前エリカとソラの三人で庭のパティオで過ごしていた時のこと。
「ギャギャ~。ギャオギャオギー!」
「アリア、今日はギリス様から早めに戻るようにって言われた、少ししかいられなくて寂しいよー!って言ってます。」
エリカは、ゆったりとお茶を飲みながら訳してくれた。
「ワタシモサミシイナ。」
ガリガリ、ソラに顔もむけず宿題をしながら相づちをうっていたら、ソラが帰ったあとエリカから、
「以前から思っていましたがアリア、ソラの対応は雑ですね。」
と言われた。
でも学校では毎日会うし、家には週2~3回のペースで来てるのに、毎回言ってるどうでもいいことに丁寧な対応もないだろう。
また、最近は誰に言われたのか、時々光る石や花を持って来るようになった。
(男の甲斐性ってやつ。)
と小首をかしげながら言うので、ありがたくもらっておいたが、あんまりあっても仕方ないので、
「こんなの探してる時間あったら、会いにきたほうがいいんじゃないの。」
と言ったら、近くで聞いていたママからソラが
“アリア、優しい。やっぱり僕のこと好きなんだ。”
と呟いていたことを教えてもらった。
イヤ、好きだよ、ちゃんと。
恋愛じゃないけど。
もふもふだったらもっといいけど。
あと、私はいつも優しいけど!!
そしてモキロスに入学してから5年目の春のこと。
この学校では、2度進路を決める時期があって、6年生と9年生の春、職業訓練か学業か決める希望調査とテストがある。一定の学力と実力があると認められれば自身の希望に沿ったカリキュラムが組める。
そうでなければ自分に合った仕事の訓練を始めることになるのだが、この時期それぞれの国に帰って学校や個人教育を受ける子もいるしその逆で、編入学してくる子もいる。
まぁ、落ち着かない時期ってことだ。
テスト期間は1ヶ月あり、座学と実技の両方かどちらか一方のテストを受ける。
今年9年生の私は、必須科目以外に高度マナー術と魔導法、防御術の3講座をとっている。実技だけの防御術はともかく前の二つは座学と実技のテストがあり、ちょっと大変なのだ。
でももっと大変だったのはエリカだった。
エリカは高度マナー術に魔導法、対外戦略術の3つをとっている。前の2つは私と同じクラスだし元々とてもよい成績をとっていたので、あまり苦労する様子はみられなかった。
ただ、対外戦略術については希望者は全員入れるが、最初の1ヵ月でふるい落とされ、その後もどんどん容赦なくしごかれ、ついていけなければどんどん落とされるという、ある意味優秀な人間しか残れない恐ろしい講座だ。
今回のテストも実技しかなく、しかも、前ぶれなくいきなりテストになるため、応用力が試されると同時に気が抜けない。
ある日、お昼を食べようと食堂に私とエリカが向かっているときだった。
「あらエリカ、今からお昼ですか?」
すれ違いざま、対外戦略術のメギ先生が声をかけてきた。
エリカは、先生の方へ向き直り
「はい、今からアリアとお昼ご飯なんです。今日はアリアの国のメニューなので楽しみにしてて。」
ね?と相づちをうってくるので、私もコクコク頷いて、
「そうです。好きなデザートがあるので。」
と答えると
「そういえば、最近聖グレイドでは新しいお菓子が流行っていると聞きましたが、先生はご存知ですか?」
エリカは先生と雑談を始めた。
対外戦略講座のメギ先生と、10分位最近巷で流行っているお菓子の話をしたあと、
「先生のお話とても面白く聞かせて頂きました。またこのような時間をとってくださいますか?」
問いかけるエリカに対し、
「有意義な時間でしたので。」
うなずきながら、先生は答えた。
「貴重な時間を割いていただき、ありがとうございました。」
エリカが一礼して、雑談が終わる。
戦略講座の先生を見送りながら、エリカは小さくガッツポーズを作った。
「次の機会を頂きました。」
私に向かってにっこり笑う。
「お菓子の話で何で次に繋がるの?次もあると、何かいいの?」
不思議に思って聞けば、
「アリア、今のが対外戦略術のテストです。今回の会話からお菓子に使う材料と購入層、どの地方まで流行っているかで、国がどのような状態か推測できます。」
なんていうから、びっくりした。
横で聞いていた私は、サックリ焼いた一口大のパイ生地の中から甘い果物のソースが出てくるなんて、こっちでも流行らないかなぐらいしか思ってなかったよ。
しかもこのテスト、先生との問答回数が多ければ多いほど、評価が上がるらしい。
エリカはお父さんみたいな外交官になりたいそうで、この講座をなんと6才で入学したときからとってると教えてくれた。国と国との間を話術や情報収集で、より良い状況に取り持つことに強く興味をひかれたそうだ。
エリカなら容姿だけでなく、中身も期待できる外交官にきっとなれるんじゃないかな?
読了ありがとうございました。不定期更新ですみません。