つながりたいの
少しずつ、ブックマークが増えてきてうれしいです。読んでくださりありがとうございます。
私が寝込んでから5日後、私と竜の体調も整ったことでギリス様との話し合いが我が家の応接間で行われた。
ティーテーブルをぐるりと囲んで、入り口に近い3人掛けのソファにはパパとママと私。向かいの2人掛けのソファにギリス様。お付きの人はその後ろに立ち、私達の右手の1人掛けにバルト兄さん。
うちには使用人がいないので、ダリオ兄さんがお茶を出した後、竜を連れて来てギリス様に渡してくれた。
色ツヤ良く元気そうになったその姿に、
「よかったな、さぞ手厚いもてなしを受けたのだろう。感謝する。」
ぎゅっと抱きしめながら、目を潤ませ頭を下げるギリス様の姿は感動的だった。
パパもバルト兄さんもなんかウルッときたのか、目が赤くなってる。
感動的、だと思う。竜がギリス様に抱かれた後、私に気づいてもぞもぞしなければ。
それに気づいたギリス様が、更に強く竜を抱き込んだのに気がつかなければ。
私は(おとなしくしてないと知らないから!)のオーラを出し竜を見た。竜は視線があうと何故かコクコク頷きおとなしくなった。
「さて、どのように話を進めるとよいのでしょうな。」
口火を切ったのはパパだった。
「今回、ギリス様の使役獣である竜が、半身であるかもしれないアリアと離れた為、具合が悪くなり我が家で預かった訳ですが、今後もこのような事があれば、同じようにされるのでしょうか?」
真剣な顔のパパの話を聞いたギリス様は
「いいや、今回は緊急事態だと考えてほしい。ソラは私が父から賜ったものなのだ。守護獣として、使役獣として育て上げよと。それを人任せにするなどできぬ。」
首を横に振りながら答えた。
うん、うちだって王様から貰ったものを預かってなんかあったら困ると思うよ、パパ。
「半身ゆえに、ソラがアリア嬢を恋慕うことは仕方がないとしても、ソラの育成は私に課せられた父からの課題なのだ。」
ギリス様は、少し思い詰めたようにぽつぽつ言葉を洩らした。
そんな彼の様子を見て、思いやったのか、
「その子は、会話はまだできないのかしら?」
バルト兄さんがギリス様に尋ねた。
会話って?竜って喋れるの?なんかこっちの言うことは分かるみたいだけど。
不思議に思っていると、
「生まれて1年経つのだが、どうなのだろうか?」
首をかしげて、バルト兄さんにギリス様は聞いた。
「早い子は早いとしか言えないのね。その子はどうしたいのかしら?ギリス様に対しての契約とアリアに対する執着、そこをきちんと分けないと、これから訓練なんてできないわ。」
その言葉を聞いたギリス様は、ひどく動揺した様子で
「私よりもアリア嬢がよいと?」
と呟くから、私は思わず立ち上がり
「誰がいいって話じゃないと思うよ!」
と言ってしまった。
口は災いの元ってあるよね…。
「結局、誰も竜にどうしたいって聞いてないから。」
「みんなも、私がどうしたいって聞いてないし。」
「だいたい、竜がどうしたいか決めないとどうにもならないんじゃないって思うの。」
はい、続けて言った私の言葉です。
みんなポカーンとして聞いていたけど
「ギャー!」
と竜の一声で、我に帰ったようだった。
「竜も、ギャー、じゃなくて私に分かる言葉で喋って。バルト兄さんが喋れるって言ったんだから、喋らないなら知らないから!」
キィッとした私の言葉に
「アリア、この子今喋ったわよ。アリアに会えればいいって。」
バルト兄さんが呆然としたように言った。
ギリス様も同じように驚いた顔で
「私にも聞こえた。」
竜を見ながら言う。
いや、ギャーしか言ってないじゃん。
「もしかして、全く伝わってないの?」
「何が?ギャーって言うのは聞こえたけど。」
バルト兄さんは、竜を可哀想にって顔で見た。そして、
「あのね、竜の会話は伝えたい人の頭に直接聞こえるの。この子アリアと会話ができるように、ここにいる間頑張ったと思うのね。でも、人間の中には全く会話できない人もいて…。」
な、な、なんだってー!
確かにうちにいる間、ずっとギャー、ギャーって言ってたけど、私の前でしか鳴かないし、他の人の迷惑にはならないからいいかって思うぐらいだったよ。
「ギャー…。」
「あと、名前で呼んでって。いつまでも竜って呼ばれるのはさみしいって。」
「え、名前呼んでもよかったの?」
私の言葉にバルト兄さんは呆れたように、
「名前を呼んだくらいで何か変わるわけないじゃないの。アリアが頑なに竜って言ってるから、私達も竜って呼んでたけど。」
そうなんだ。何か名前を呼んだら離れられなくなりそうで呼ばなかったんだけど、大丈夫なんだ!!
「とりあえず、ソラはどうしたい?」
ギリス様が優しく竜に、いやソラに尋ねると、なんだかグネグネしながら、
「ギャギャー、ギャッ。」
と、チラチラ私を見ながら言ってる。
ふと周りを見回すと私以外、みんなうんうん頷きながら話を聞いている。
「パパもママも、もしかして、あれがなんて言ってるから分かるの?」
おそるおそる聞くと、
「まぁ、みんなに対して伝えているから。」
「竜、アリア一筋なのね。ママちょっと感動。」
って言うんだけど、私にはギャギャとしか聞こえないんだけど。
「なんて言ってるの?」
ママの方にもたれて聞くと、
「あのね、最初に会った日はあんな別れ方をして、もう会えないかと思ったからすごく辛かった。また会えて一緒に過ごせて本当に嬉しい。ギリス様のこともあるからずっと一緒にいられないのは分かった。でも、定期的にアリアと過ごしたい。ですって。」
なんか、ギャギャしか言ってないわりに長い会話だ。
でも、ギリス様はその話を聞いてすごく優しい顔で頷いているし、お付きの人も納得した表情を浮かべてる。
「ソラがこう言ってるので、定期的にこちらへ伺うことにさせてもらえるとありがたいのだが、どうだろうか?」
ギリス様がパパに尋ねると、パパはそれは構わないと答えた。
なんとか、話は決着した感じ。よかった、よかった。
私が竜の言葉が分からないなんて、どうでもいいよ。
話がまとまって、しばらく和やかに談笑してギリス様とソラは帰り支度をはじめた。
ギリス様はバルト兄さんの竜の話が楽しかったのか、名残惜しそうにしてたけど、お付きの人に“時間ですから”と言われ、しぶしぶ玄関に向かった。
「今日はありがとう。これからも世話になるがよろしく頼む。」
と、パパと握手をしてギリス様は別れようとしたんだけど、ソラがギリス様の腕のなかで、ジタジタと私の方へ来たがるから、しぶしぶ手を伸ばして抱っこする。
「ちゃんとご飯食べて、ギリス様の言うことよくきいてね。」
「ギャー。」
コクコク頷くので、頷き返してギリス様にソラを渡し、
「じゃあ、またね、ソラ。」
と、初めて名前を呼んだ瞬間だった。
ぐいっと何かがソラに引っ張られた。
細い糸で繋がった感じがする。
(半身ってこういうこと?)
ソラは、これが分かってて、名前を読んで欲しがったの?
すごく、してやられた感がする。こういうの私はあんまり好きじゃない。好きじゃないよソラ。
「ソラ、次来たとき分かってるよね。」
にっこり笑ってもう一度名前を呼んでやった。
ギリス様は私の笑顔に
「ありがたい、次も世話になる。」
と嬉しそうに、でもソラはびくっとして帰って行った。
繋がってるなら、私の不快感はダイレクトに伝わったはず。
そう考えて気がついた。
繋がってるのに、ソラの気持ちは全く私わかんない。あれ?本当に繋がってる?もしかして、一方通行?
読了ありがとうございました。