階段話
当時俺は大学生で、住宅街にある二階建てのマンションで一人暮しをしていた。
ある日の夜、隣の部屋から「ドン」と、壁を叩く音が聞こえてきた。きっと隣に住んでいる人が、壁に手でもぶつけたのだろう、と考えて特に気にしなかった。
次の日の夜、また隣の部屋から「ドンドン」と、音が聞こえてきた。今度は二回だった。もしかして、わざとやっているのか? と思ったが、注意するのもめんどくさいので無視した。
その壁を叩く音は毎晩続いた。しかも日を追うごとに叩く回数が一回ずつ増えていった。
隣から壁を叩く音が聞こえるようになって八日目たった。流石にうざかったので、俺は注意するために隣の部屋のインターホンを押した。しかし、隣の住民は出てこなかった。
無視されたと思った俺は、大家さんに相談することにした。
「あのすいません、202号室に住んでる〇〇なんですけど、隣の201号室から毎晩壁を叩く音が聞こえてきて、迷惑しています。注意して貰えませんか?」
「あー、〇〇さんこんにちは。201号室? 201号室には現在、誰も住んでいないですよ?」
「え? でも確かに毎晩、隣から壁を叩く音が消えて来るのですが……」
「んー、とりあえず今から201号室に行って、中を見てみますか? 何か原因が分かるかも知れませんし」
「お願いします」
俺と大家さんは201号室の部屋に行くことにした。中へ入るとそこには家具らしきものは一つも置いてなく、殺風景な部屋が広がっているだけだった。つまり本当に誰も住んでいなかったのだ。
「特に変わった様子はありませんね」
「んー、もしかしたら疲れてて、幻聴が聞こえてたのかも……。大家さん、わざわざ中を見せてくれてありがとうございます」
最近はバイトや学校のレポートで忙しかった。もしかして、そのせいかも? と俺は考えた。
「いえいえ、また何かあったらいつでも相談してくださいね」
その日はそれで終わり、大家さんとは別れた。
その日の夜……
「ドンドンドンドンドンドンドンドン」
また隣の部屋から壁を叩く音が聞こえてきた。昨日から一回増えた八回だ。俺は「幻聴だ!」と自分に言い聞かせ、その日はすぐに寝た。
しかし、その壁を叩く音が無くなることはなかった。
十一日目の朝、いつものように学校に行くため二階から下に階段を降りた。その時、あることに気づいた。階段に足跡の様なものがあったのだ。しかもその足跡は……、まるで時間が経った血のような、暗い朱色だった。その足跡は下から十段まで続いていた。
そう、今までの音は壁を叩く音ではなく、階段を登る音だったのだ。毎晩増えていく「ドン」の回数……、そして階段までの段数はあと三段……
それはつまり十三日目に何かが起こることを示唆している。そう俺は考えた。
そして十三日目の夜がやって来た……。
俺はその日、友達を家に呼んだ。一人だと不安だったからだ。
しかし、その日の夜は何も起きなかった。壁を叩く様な音も聞こえなかった。
友達は「やっぱり嘘だったのかよ。残念だな」と言って帰っていった。
俺はホッとしながら、ベットに潜り込んだ。深夜二時頃、インターホンの音で俺は目を覚ました。
「こんな時間に一体誰だ?」と思いつつ、ドアを開けた。開けてしまった。
そこには…………
血塗れの男性が立っていたのだ。目玉は飛び出し、服はボロボロ。そしてその血塗れの男性は一言……
「トリックオアトリート、お菓子をくれないとイタズラするぞ?」
そう、その日はハロウィンだった。友達の手の込んだドッキリだったのだ。