夢と現実との距離
ここはユヅルナ王国
人や妖精、ドワーフにウェアウルフなどなどたくさんの種族が住む王国
はるか昔、魔物を率いる魔王が国を攻めた際、避難してきた者達が平和になってからも
王国の美しさと国王の優しさに感動しそのまま住み続けているという
その王国には古いおとぎ話があった
ー救世主が王国を救ったー
という、どこにでもありふれていそうなお話だ
ただ、そのおとぎ話をとても愛している女性がいる
淡い桜色の長い髪を持ち、目は大きく何もかもを見通すような黒い瞳
鼻は愛らしい小さな鼻で、背丈は平均より少し小さい
綺麗なドレスに身を包んだ彼女はいつも周りから可愛がられていた
彼女はこのユヅルナ王国のお姫様であり、とても可愛らしい容姿とその地位のおかげで
何でも手に入れることができた
だが、唯一彼女がどれだけ望んでも手に入らないものがあった
それは、
ー王子様ー である
彼女が望めばいくらでもお見合いの話はくるだろう
しかし、どれだけの王子とあっても彼女が望む王子様とは全く違うのだ
いくら王子の容姿が整っていても、どれだけ王子が人々に愛されていたとしても
彼女が望む王子様とは全く出会えなかった
彼女、リリアナはもうほとんど諦めていた
「王子はたくさんいるのに、王子様には出会えないとかどんだけよ…」
彼女の云う王子様とは、おとぎ話に出てくる救世主とよく似ていた
己を信じ貫き通し、また多くの人々に愛され、そしてその笑顔は人々の心に癒しを与えてくれる
「そんな人と一緒になれたら、どれだけ幸せなんだろう?」
リリアナは幼少の頃からこのおとぎ話を愛し、いつかこの救世主様みたいな人と結婚するんだと
ずっと思い続けてきた
しかし、現実はそう上手くはいかないらしい
「リリアナ」
名前を呼ばれて、振り返ってみるとそこには父である国王がいた
いつも笑顔で優しい国王であったが、今は別人のような、そう、何かに怯えているような顔をしていた
「お父様?どうしたんですの?顔色が優れないようだけれど?」
「ああ、最近仕事が忙しくてな…そのことについてお前に話さなければならないことがある。私の部屋まできてくれるか?」
「はい、お父様」
お母様が亡くなってからお父様が私の私室に来るなんてことは滅多にないことだった
何かあったのだろうと思い、覚悟を決め国王の私室に向かった。
コンコン、
「お父様、リリアナです。中に入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、どうぞ入りたまえ」
「失礼いたします」
キー、っとドアを開くとそこはどこもかしこも書類が山積みになっていた
そして、その書類たちをよく見てみると
「…被害報告?」
「リリアナ、落ち着いて聞いてくれ。今少しずつではあるが確実に魔物とよばれる存在が確認されているんだ。この書類たちはその被害報告と魔物たちの生態研究書だ。」
「えっ?お父様いきなりどうしちゃったんですの?魔物なんておとぎ話の話ででてくるやつらのことでしょう?なぜそんなことが…」
「どうやら魔王の封印が解けてしまったみたいでな。兵士に確認に行かせたが魔王城を封印していた鎖が解けていたらしい。」
「そんな!魔王城なんて今まで聞いたこともありませんし、第一なんでいきなりそのようなことが起こっているんですの!?」
「それは私にもわからん。ただ代々国王には救済の儀というものが継承されているのだ。救済というからにはこの件と関係なくもあるまい。」
「救済の儀?それはどのようにして行われるんですの?」
「王城の地下に決して立ち入ってはいけない部屋があることは知っているな?」
「もちろんですわ」
「そこで、救済の儀を行うのだが、代々国王にしかそのやり方は継承されていないし、他言も厳禁とされている。」
「えっ、では何故お父様はそのことを私に話してくださったんですか?」
しばらくの沈黙の後、国王は覚悟を決めたように言った
「私の命に関わることだからだ。お前は幼い頃に母を病でなくし、肉親といえるのは私しかいない。そんな私にもしものことがあったらと思うとな。話さずにはいられなかったんだよ…」
「そん、な…」
「私はお前の父であると同時に、この国を守る責務がある。リリアナどうかわかってほしい。」
リリアナは、どう返事をしていいのかわからなかった。お母様を失った時の悲しみと苦しみがまた訪れるのかと思うと嫌だって言いたかった。でも、私達王族は国を守る責務がある。
わかっているけど、わかりたくない
「リリアナ」
リリアナが考えていたことが顔にでていたのだろう。国王はいつもの優しい笑顔でこういった。
「リリアナ。お前に頼みたいことがあるんだ。どうか救済の儀を終えるまで私の側で祈っててはもらえないだろうか?救済の儀が無事成功し必ず平和が戻るようにと」
「わかりましたわ、お父様。リリアナは救済の儀が成功し必ず平和が戻るようにと全力でお父様のお側で祈りますわ!」
「ありがとう、リリアナ。そして私の我儘に付き合わせてすまないな。」
「こちらこそありがとうございます、お父様。最後までお父様の側にいられることができて、リリアナは幸せですわ!」
「本当だったらお前の花嫁姿見る予定だったのにな。それだけが無念だよ。」
「お父様!相手も見つかっていないのに、なーにが花嫁姿を見る予定だったーですのよ!本当に見たいとお思いでしたら生きて帰ってきてくださいな」
2人の間にはもう暗い空気なんてなかった
例え国王にもしものことがあっても、国王からは今までたくさんのものをもらったのだから
明日のことは明日にならなくちゃわからないんだ
明日行うと言われた救済の儀は、必ず成功する
そして、その後平和が戻ってみんなが笑顔でまた暮らせるようになる。
リリアナは、何故かわからないけれどそんな予感で心が満たされているのだった