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第六話 モブ、基本的人権について考える

「君たちが召喚された場所はどこなのか尋ねてもいいかい?」

「――ええと」

『交渉マックスのスキル使いますか?』


 おいおいおいおい、魔法少女ぉ、この状況で喋るなよ! 馬鹿じゃないのか!


『大丈夫です。私は学習するマスコット。この音声はお客様にしか聞こえません。お客様のご迷惑になるようなことはいたしません』

 なら最初からそうしろよ。

 っていうか俺の心の声と会話してない?

『はい、しています。お客様の本当の気持ちを汲み取るのも私の役目ですから!』

 うっわ、嘘くさい。ていうか、だんだんと機能拡張が洒落にならないレベルになってきている。いわゆる成長するAIというやつなんだろうが、どこか悪意を感じる。

 あまり、この魔法少女のことも信用しないほうがよさそうだ。


 とりあえず交渉マックスのスキルは使用できるものなら使う。ヴィザードさんは異世界人じゃないしな。

「昨日、ここに来たばかりで、方角も何もわからないんです。適当に歩いてきたので……。記憶もぼんやりとしていて……」

 そう俺が答えると、

「ふうん、そうか」

 質問したわりにはヴィザードさんはアッサリ引き下がる。

 一応交渉スキルが効いたのか? それともこれ以上はしつこく質問しても何も出ないと思われたのか。


「それと君の手の甲を見せてくれる?」

「……え、ええ、ああ――」

 ヴィザードさんの言葉に俺はゆっくりと彼に自分の甲を見せた。

 まあ、そうなるよな。

 ある程度、異世界人の知識があれば手の甲に痣があるかないかでスキルの有無がわかる。

 まあ、俺、わりと何でもできるスキル持ちなんですけど。

「……君はツキナシか」

「……」

 ツキナシ、スキルを持っていない異世界人のことだ。レア中のレアで、役立たず中の役立たず、存在する意義がないとまでいわれるほどのアレさ加減だ。


「なるほど、ふむ」

 おっとヴィザードさんの態度がちょっと、いや、かなり、わかりやすく変わったぞ。

 おおっと、俺には一切興味がないという表情だ。

 モブとして何度も経験したことのある感覚に俺は懐かしみさえ感じる。これぞモブの醍醐味だ。モブは誰にも気にされずに、道ばたの石ころのような存在として、そこにありたいのだ。

「ええと、ツキナシって何ですか?」

 一応何も知らないふりだけはしておいたほうがいいのかもしれない。だが俺が問いかけてもヴィザードさんは「ううん」と苦笑しただけに終わる。


「……そこの女の子とは会話できないのかな?」

 ヴィザードさんは俺の質問に答えずに向田さんのことを気にしだした。

 まあ、風魔法が俺じゃないという話になると彼女に矛先が向かうのはわかりやすい流れだ。

「彼女がスキル持ちだというなら、この首輪をつけてほしいんだ」

 そう言いながら彼はカナラさんに含みを持たせた視線で一瞥する。

 彼女は頷きながら腰に下げていた袋から首輪を取りだして俺たちに見せつけてきた。


「異世界人のスキルは暴走すると危ういもの。彼女にその自覚がないなら尚更よ。この道具はスキルの暴走を制御するものなの。彼女の安全を確保したいからつけてくれるかしら」

 その首輪はカナラさんの首にしているものと一緒だった。

 カナラさんはゆっくりと向田さんに差し出してくる。

 向田さんは「ヒッ」と叫んで後ろに数歩下がった。

「大丈夫よ、危険なものじゃないわ。あなたのためなの」

 ぜったいうそだろ。

 俺の突っ込みをよそにカナラさんは優しく言葉を続ける。

「実は私も異世界人だという説明はしたかしら。……でも今はこうして主様の傍で良くしていただいている。主様はとても優しいし、何も怖いことはないわ。むしろ新しい喜びもきっと感じることができるわ」


 向田さんが、すっごくガタガタブルブル震えている。

 異常な状態だ。

 首輪を差し出されているが、とても受け取れる状況じゃない。

「すみません。彼女に言葉は通じないし、彼女は怯えています。少し俺が彼女と会話していいですか?」

 俺の言葉にカナラさんが残念そうに首輪を持った手を引っ込めた。

 俺は向田さんに向き直り言う。


「……向田さん、彼らは俺たちの言葉がわからないから、ここで喋っても大丈夫だよ。何か気になることがあるんだろ? すごく怖がっている」

「忠之くん、ごめんなさい。……私、あの人たちの目が怖い。なんでも見透かしてしまいそうな……いいえ、なんていうか、私は今まであんな目で見られたことがない……! まるで自分が自分じゃないような目で……」


 なるほど、気付いていたか。だが、ううむ。

 一応、もしかすると百万分の一の確率で善意や親切心から言っているかもしれないし、どうやって確認したものか。


『読心……試してみます?』


 魔法少女の提案に頷く。そうだな、頼む。


「……あの、今更で構わないんですけど、俺たちをこれからどうするつもりで?」

 ストレートにヴィザードさんに尋ねてみる。

 彼は微笑みながら「もちろん先程も言ったけど衣食住は保証するよ、落ち着くまで保護したいんだ」と答えてくれた。


『男はいらないな。適当なことを言ってその場にうち捨てよう』

『女のほうの素材が良いなら幾らでも躾がいがある』

『もし使えないなら、ステータスを解析してスキルと魔力だけ吸い取ってしまえばいい』

『女も見目だけは良いから何もかも吸い尽くしたあとの身体は性奴隷として売り飛ばしてしまえばいい。使い道はいくらでもある』

『もちろん、ある程度楽しんだあとでな』

 

 俺は顔をしかめそうになって我慢する。心を読み取っていることを気付かれてもまずいしな。

 これはあかん。駄目だ。駄目だとかいう問題じゃない。

 なるほど完全な敵でしたか。いやあ、わかりやすいね。ここまで下衆だと、いっそ清々しい。

 そうだよな、基本的人権の尊重って大事だよな。言葉にしてくれる世界、言葉にしなくても大事にしてくれた世界、俺の村も地球も人に優しい場所でした。

 そういや、俺の村は小さかったけど、物知りの近所のお爺ちゃんが、学校みたいな場所を開いて色んな知識を俺たち村の子どもに教えてくれたっけ。

 当たり前のように人を人として接する。

 俺たちが俺たちらしく生きること、それがモブライフ。

 基本的人権と根本的信念は大事にしていきたいのです。


 うん、よし、逃げよう。

 ついでに色々とアレコレ押しつけてしまった野盗の皆さんも助けてあげよう。こんな奴らに捕まっていたら何をされるかわからないしな。

 正義心じゃなく、俺のこうチキンな心が彼らを置いて逃げていったら、あとでギリギリと痛みだしそうなので予防したいだけです。チキンなモブはどうでもいいことをいつまでも気にしてしまうので。


『――しかし、この二人がガレイア国の最高位導師が喚んだ異世界人だとしたら、ずいぶん、ここと距離が離れている。馬車でも七日はかかる位置だ。二人ほど行方がわからないので捜してほしいと通達がきたが……ここガレイアの隅にいるなんて思わなかった』


 うん、今なんと?

 聞き捨てならないこと言いませんでした?

 俺は頭を抱えそうになるのを必死で堪える。


 ――ああ、俺の国。もう俺の国じゃなくなってるやんけ……。

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