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第五話 モブ、尋問(もどき)されてしまう

 イワギンチャクは俺の魔法みたいなものの攻撃で息絶え絶えだった。そこを大量の矢でとどめを刺されてしまったのか、ピクリとも動かなくなる。

 大量の矢はどこから?

 その答えはすぐにやってきた。馬に乗り銀色の鎧をまとった兵士の大群が遠くに見える。弓やを持つ歩兵もかなりの数がいるようだ。俺たちの姿をとらえたのか、こちらに向かってくる。


「……消してくれ」

『ああ、防壁ですかね? 了解です!』


 俺の呟きに魔法少女が反応する。再び向田さんがキョロキョロ辺りを見回したが、とりあえず気のせいだと思い込んでほしい。

 防壁を消した理由は簡単だ。あいつらが誰かは知らないが、俺たちの味方とは限らない。

 その状況でスキルを使うと俺たちが異世界人だと警戒されてしまう。


 ――まあ、向田さんの手の痣を見れば一目瞭然なんだけど。俺たちが召喚された異世界人だって。それでも、ほら、余計な情報は与えないほうがいいだろう?

 決して俺のハートがチキンで臆病者だから慎重深くなっているわけじゃないぞ! いや、本当に。何事も用心深くありたいだけだ。

 俺たちにゆっくりと近づいてくる兵士が見える。一際美しく逞しい馬に乗っており、複雑な紋章模様が刻まれた鎧を身につけていた。

 あの模様は俺の国じゃない。隣国の模様だ。何故、俺の国に?

 嫌な予感を覚えながら俺は、こちらに向かってくる兵士を迎える。兵士は冑を脱いだ。出てきたのは金髪碧眼美形の王子様みたいな男だ。


「……ああ、君たちを保護できて良かったよ」


 そう言いながら彼は男から見ると腹の立つくらいに美麗なスマイルを浮かべてみせたのだった。



 俺たちは文字通り男の言うがままに保護されていた。

 場所は俺の村で一番損害の少なかった村長の家だ。その一部屋で俺と向田さんは兵士たちのリーダーとご対面な状況だった。

 兵士たちの大群は白龍騎士団と呼ばれており、この一帯に巣くう魔物と盗賊の討伐任務の途中であったとか。

 野盗たちはというと壊れた倉庫の中で一網打尽、鎖で縛られて動けない状態だ。

 もちろん地面の上で気絶していたボスも一緒だ。哀れな彼は活躍の機会がないまま拘束されてしまったのである。


 リーダーは壁によりすがるようにして立って俺たちを見ている。

 彼の傍には流れるような見事な長い金髪の女性がよりすがっていた。大変見目の麗しい方なのだが、首に巻き付けられた金属製の拘束具が痛々しい。それに目のやり場に困るくらい露出度の高い服を着ている。薄い布を巻き付けたような、腕も太股も胸も露わで、まるで踊り子だ。


 彼と彼女の頭上には魔力値が見える。女性も男性も10000だ。

 あの男も異世界人なのか? いや、隣の国――ガレイアは、とにかく国民のプライドが高く異世界人に高い称号や地位を与えることはないはず。俺の知識が古くなっていなければ、だが。それに彼の碧眼に混じる虹色は、ガレイア人の特徴だ。

 何故、スキルも持っていない、ここの世界の住人が魔力を持っているんだ。謎は深まるばかりである。

 ひたすらに嫌な予感がするぞ。元々俺がいたときと大分国の状況が変わっているのでは?

 ていうか、隣国ガレイアの連中が荒れ果てた村だとはいえ、この国に平気で入り込んでいるんだ。俺の村は別に国境付近じゃなかったはずだ。

 ああ、本当に嫌な予感しかしない。


「……怖い思いをさせてしまったね。改めて初めまして、僕の名前はヴィザード。白龍騎士団の団長だ。隣にいるのが傍仕えのカナラ。君たちと同じ異世界人だよ」


 知っています。彼女の手の甲に痣が見えるからね。

 カナラは優雅に会釈した。

 ヴィザードさんが柔和に笑みながら俺たちに問いかける。


「さて、質問していいかい? 君たちのスキルはなんだ?」


 ほらきた、やっぱり。

 俺は用意していた言葉をすらりと舌の上に乗せる。


「俺たちは昨日、召喚したばかりで、よくわかりません」

「――へえ、昨日ね」


 ゾクリとするような男の声に俺は頬を引きつらせた。

 なんだ、こいつ。どうしてその単語に反応するんだ?


 向田さんが深くため息を吐いて俺のマントの裾を握ってくる。無意識なのだろうか。顔が真っ青だ。ものすごく怯えている。

 そりゃ、まあそうだな。だって言葉がわからないし。

 この部屋の扉の前にも変な兵士はいるし、ていうか、この場所は多くの兵士たちに占有されているし。逃げ場なんてどこにもない。

 さっきは魔物とも戦ったんだ。彼女の精神状態は限界だろう。

 俺としては早く男たちとの会話を切り上げて、彼女をケアしつつ、モブらしいライフの土台作りを始めたいのだが。

 カナラさんも恐怖に震える向田さんに気付いたのか優しい声で話しかけた。


「……もし、私たちのことを警戒しているのなら安心してほしいの。私たちはあなたたちに危害を加えるつもりはないわ。それどころか、さっきも説明した通り、あなたたちを保護したいと思っているの」


 彼女は俺を意味ありげに見つめてきた。

 なんだ?

 そんな俺の視線に気付いたのかヴィザードさんがフォローするように付け足す。


「異世界人にとって、この世界は危険極まりない領域だということは理解しているよ。だからまずは君たちのために衣食住を用意し、生活基盤を整えてあげたいんだ」


 わーお、弱っている人には効果覿面な親切ですね。

 俺があんたをガレイア人だと知らなければホイホイと乗っただろうね。あと向田さんも人を素直に信じそうな子だから大人しく従っただろう。彼女に言葉が通じなくて本当に良かったよ。


 俺はそんな感情はおくびにも出さず申し訳なさそうに言う。

「……ええと、気持ちはありがたいのですが、そこまでしてもらう理由がよく……」

「この世界では君たちの能力は大事に考えられているんだよ。……先程、魔物をあっという間に倒した力。それが君たちの力の一片だというなら、ぜひこの国を支える手助けをしてほしいんだ。もちろん、すぐにとは言わない。君たちが落ち着いてからでいいから、ぜひ僕たちに力を貸して欲しい」

「……」


 ヴィザードさんの言葉に少しだけ眉根を寄せる。

 たしかに、そういう国も存在する。異世界人の人権を尊重し、能力の育成と教育に力を入れて、元々いた国の住民と異世界人が共存できるように目指しているところも。

 だけど何度も繰り返しているようにガレイアはそんな国ではない。自分たち国民が一番、難民は奴隷、異世界人はもっと奴隷、ひたすらに奴隷を酷使してウマイウマイを素でやる国なのだ。

 胡散臭すぎること、この上ない。

 おおかた、こうして俺たちを保護しますーって演出をしているのも、俺たちの力に不安を抱いているからだろう。

 ヴィザードさんは黙り込んだ俺を気遣うような素振りを見せながら言葉を続ける。


「……だからこそ大事なんだ。あの風魔法は誰が使ったのか」

「いやあ、知りません。……本当に何も知らないんです。ただ……」

 俺は少し考え込むようなフリをする。

 よし野盗のボスさん。あんたに恨みはないが、少しだけ時間稼ぎをさせてほしい。ちゃんとこのあと、借りは返すから。

 心の中でペコペコ謝りながら口を開いた。


「実は野盗のリーダーが異世界人だと聞いたので……彼が力を放ったのかもしれません。……俺はその現場を見たわけではありませんが」


 必殺、人のせい。

 本当にごめん。ちゃんとあとでフォローしておくから。

 野盗のボスさんも仕方なく野盗をやっていたっぽい雰囲気だったので悪い人じゃないだろう、たぶんたぶん。だからこそ、こうして話の身代わりにして心は痛むのだ。

 チラリ、と俺はヴィザードさんを見る。あまり納得していないようだった。

 俺の交渉力マックスが自動発動しているかどうかは調べないとわからないが、彼の疑念は何か根拠があるようにも感じた。


「そうか、ところで――」

 ヴィザードさんは目を細めて言った。


「君たちが召喚された場所はどこなのか尋ねてもいいかい?」


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