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第四話 モブ、いろいろとエンカウントする

「どうして忠之くんは、あの男の人たちとお話できるの? 私にはあの人たちが何を喋っているのかわからないんだけど」

 俺は向田さんに向き直り、咄嗟に考えた言い訳を言った。

「お、うぉれの熱意が言葉の壁を超えたんだよ!」


 ……。

 向田さんが、曖昧な表情を浮かべて、首を傾げる。

「…………………………………………………………えっと」


 滑ったぁ―――――っ!

 すいませんモブの分際で調子こいてすいませんここに来てから勢いで何とかなってたから今回もいけるかなって甘かったですっていうか俺さっき噛んだなもう忘れてくださいっ!!


「…………っていうのは冗談で、俺にもよくわからないっていうか……そういうもんだって思ってほしい、なぁ……」

 熱意ってなんだよ俺……。その熱で自分が火傷負ったら世話ないっつーの……。

 思わず顔を覆う。慣れないことなんてするもんじゃない。知ってた


「でも……」

 ですよねー。そんな説明で納得いくかって話ですよねー。

 というかこういう時に発動するんじゃないのか、例の洗脳……もとい交渉力と魅了スキル。もうちょっと交渉っぽくないとだめなの? 

 俺は今この空気を改善するための交渉をしたい気分なんだけど。


 でもこれ以上口開くと今度こそ自爆しそうでちょっと勇気ない。向田さんの純粋に俺を気遣うような視線がかえって痛かった。


「おにいさん大丈夫ですか? アジトに着いたんで今日はゆっくり休んでくださいよ!」

 答えに窮していると野盗Aが声を掛けた。もうちょっと早く声掛けてくれると助かります……。


 顔を覆っていた手を放して、見上げれば確かに建物があった。


 こう、いろんなものを蓄えてそうな……。


「って、村に逆戻りじゃねーか!」

 なんか見覚えある道だと思ったよ!


 正確に言うと、ここは俺の家からは集会場をはさんで反対側にあるところだ。

 目の前にある野盗たちのアジトは、収穫物や加工品を保管するのに使う村で一番大きい倉庫。奪った物を管理したり住処にするには十分だろう。


 ……そりゃ、廃墟の村があるなら下手に洞窟とかを根城にするよりもこっちの方が物品の保存とか衛生面とか都合がいいよな……。


「……それにしてもよく鉢合わせなかったなぁ」

「偶然ってすごいね……」

『スキル:エンカウント率低下の効果です! いかがでしょうかお客さ』

 ポケット越しにスマホを力任せに叩いてやった。俺も太ももが痛い。


 ついに勝手に割り込んでくるようになりやがったあのマスコット。あの『転生―ショッピング!』が無かっただけでもマシだが、この音声何とかしたい。

 向田さんがキョロキョロ辺りを見回していたが見ないふりをした。

 

 それはさておき、俺の家側に比べて、倉庫側は被害が少ないようだった。

 子供の頃は村の財産が入っているこの倉庫に近寄らせてもらえなかったが、こうして里帰りして村が荒れ果てた後になったら入れたというのはなんか変な感じだなぁ。

 

 ……と、現実逃避したい。

 厳ついおっさん達が俺達の処遇を巡って怒鳴り合ってるこの状況から目をそらしたい。


 倉庫の中に入れてもらえたものの、こう、いかにも『野盗のボスです』というナリの男が登場してから、俺達は倉庫の隅っこで震えている。


「大丈夫かな……」

「えーと……なんか説得してくれてるみたいだよ」

 向田さんは顔を青くして小さくなっている。怖いおっさんの怒鳴り声なんて聞きたくないもんな。

 あのおっさん達が何を言ってるのかわかっていても、俺もめっちゃ怖い。今すぐ逃げたい。家に帰りたい。実家があるのはこの村だけど。


「えーと、大体なんだけど……」

 向田さんにも状況がわかるよう、俺は以下の通りに説明した。


『お母さんこの子達飼っていいでしょ?』

『いけません。ちゃんと元のところに返してらっしゃい!』

『でももうお空真っ暗だもん、危ないよ! お母さんのわからずや!』


 ……おっさん達が母と幼女みたいな会話してたら気持ち悪い? そうだよ。

 でも実際に言ってることなんて真面目に翻訳したら、向田さんはそれこそ恐怖で卒倒しかねない。


 ついに俺達に親切にしてくれた野盗さんが突き飛ばされた。部下に聞いても埒があかないと判断したのか、野盗のボスがこっちに来る。

 俺よりもずっとガタイは良いが人相は悪い。この手の商売の人にはとんと縁遠かったし、これからもなりたくない。


 隣を見れば向田さんが口から魂出そうな顔をしている。頑張れ向田さん。もうちょっと意識保って!


「み、道に迷ってるところを助けてもらいました! もう暗くなったので一晩泊めてもらえませんか!」

 交渉力、魅了マックスの力でこの場を切り抜けられるはず……!

「舐めたこと言ってんじゃねぇ!」

 断られた!

 どういうことだ、あの部下のおっさん達みたいに言うこと聞いてもらえるんじゃないの?


『交渉力、および魅了の成功判定は確率でーす。値が最高値でも、限りなく成功になりますが、確定ではありません』

 限りなく成功に近いならこの場を切り抜けられるだろ。判定失敗ってどういうことだよ!

『当スキルは、被召喚者には効果がありません。あくまでこの世界の住人に対するスキルです』

「んん?」

 俺は野盗のボスをまじまじと見てみる。

 

 スキル『魔力感知』発動。2000/2000

 お、結構強そう。でも魔力感知が働いたってことは……。


「その服、もしかして地球から来たのか?」

 ボスらしき男の手の甲には例の痣があった。


 そこからは質問攻めだ。とはいえ俺達に答えられることはそんなにない。例えば、

「お前らの能力はなんだ」

「俺たち昨日召喚されたばかりで、ちょっとよくわかんねっす」

 まさか『割と何でもあり』とは言えないし、向田さんに至っては『なんとなく方角がわかる』くらいで属性すらわからない。


 ボスは胡散臭げに俺たちを交互に見た後、俺を睨み付けた。

「その割には帰化が早いじゃねぇか。こいつらを説得できたんだろ?」

「きか?」

 いよいよ聞きなれない言葉が出てきた。

 ボスは俺の反応を見て嘘がないと思ったらしい。使えない物を見るような目で説明した。


「この世界の召喚されてからしばらくすると、いつの間にか習ってもいないのに文字の読み書きが自然とできるようになる。前に会った異世界人はそれを『帰化現象』って呼んでたな」

 え、そんな便利な現象ってあったの?

 俺は元々こっちの世界で生まれて、その記憶を持ったまま転生して、またこっちに里帰りしたわけで、その『帰化現象』とかいうのとは違うんだろうけど。


「体質とかも変わるらしいな。俺がこっちに来たての頃は、体が重くて仕方なかったんだが、もうそれも無くなった。ようはこの世界に馴染むってことだな」

 

 やっぱり召喚されてみないとわからないことってあるなぁ。

 なら、そのうち向田さんもこの世界の言葉がわかるようになるのか。

 ……つまり、あの時は俺の恥のかき損ってことに……。


「た、忠久くん」

 向田さんが青い顔のまま俺の服を引っ張る。あ、口から出そうだった魂ひっこめられたようで何より。


「地面に、何かいる!」

 向田さんの表情は真剣そのもので、断言した直後に地響きがした。地震か?

 

 地震じゃなかった。

 太い木の根のような物が何本も地面を突き破った。何かを探すようにゆっくりと宙をうねった根のようなものは、不規則に暴れまわり、割と頑丈な作りである倉庫を裁断した。


 ……え、今何が起こった?


 降ってくる木片なんて問題にならないくらい、目を疑うようなものが倉庫の裂け目から見えた。


 うねうねと動く木の根っこのような触手を生やした……湯呑みたいなものが、地中から顔?を出している。こう、イソギンチャクみたいなもの。

 だがイソギンチャクは陸上にはいないし、大きさが段違いだ。目視でも民家くらいはあるとわかる。


「な、なんだぁ!?」

「イワギンチャクが出たぞー!」

 呆然と見上げている俺や向田さんをほっといて、野盗たちが慌ただしく叫ぶ。


「あ、あれなんですか?」

「あれがこの辺に出る魔物で、俺達はイワギンチャクって呼んでる」

「こいつのせいでこのあたりの開発が遅れてるんだ。で、それを隠れ蓑にして俺らがぽつぽつと盗賊稼業やってたっす」

「この辺は抜け道だから、正規のルートを通らずにやり取りしてる商人がたまに来る。こいつはそいつらを襲って、俺らはその食べ残しの金品を奪ってたんですよ!」


 忙しい時に説明ありがとう。交渉力&魅了スキルってこういう時には働くんだな。

 でもイソギンチャクが襲った獲物のおこぼれもらうとかカクレクマノミなの? 悪いニモなの?


 蜘蛛の子を散らすように逃げる野盗たち。だが運が悪い人はそのまま触手に捕まって口の中に放り込まれる……。

「向田さん! 走って!」

 向田さんを引っ張って逃げる。走りながらちらっと後ろを振り返ると、突然俺の視界が薄緑色に染まった。


JOB START JOB No11.monster library 0,0

Analyzing... complete!


《名称:◇◇%#@?@(表記不可能) 俗称:イワギンチャク

生息世界:△○※××@*(表記不可能)

弱点:風  耐性:物理、地

特徴:主に地中に生息。地面に擬態し、体の上を通った獲物を触手で捕獲、捕食する。

    本体を覆う殻は硬質。触手を切り落としても即座に再生する。》


 薄緑色の膜が右目にかかったと思えば、あの魔物の情報が浮かび上がる。

 

 文字化けしている個所はあるものの、この『魔物図鑑』とかいうスキルはあらゆる魔物の情報を網羅するらしい。それこそ、この世界の外から来た魔物でさえも。


 ようするにこのイワギンチャクとかいうデカいのは、この世界にいた魔物ではなく、この世界に召喚された人間に巻き込まれた運の悪い異世界の魔物らしい。

そういえば俺達の時も教室ごと召喚されてたな。


召喚範囲の設定がアバウトすぎて大惨事じゃねーか。

 

「襲ってきてるんだけど! 共生してたんじゃないのかよ!」

「前は大人しかったんだ! それこそ体の真上を馬車が通っても三回に一回は見過ごすような……」


 その時、野盗のボスが言っていた言葉を思い出す。

『体質とかも変わるらしいな。俺がこっちに来たての頃は、体が重くて仕方なかったんだが、もうそれも無くなった』


「……帰化現象」

 まさか、あの魔物にも帰化現象が起こっていたのか?

 今までこの世界の環境が合わなくて割とおとなしめだったのに、環境に慣れて元気になった……今になって活性化したってことか?


 襲撃に遭うわ、国からはほったらかしにされるわ、こうして魔物に大暴れされるわ、俺の村は負のパワースポットか。


「この程度の魔物なんてなぁ、俺が倒してやんよ!」

 さすが、アウトローとはいえ集団のトップ。この危機的状況にボスが立ち上がった。

 魔力も2000とか、結構強そうだったもんな。これは、いけるか……?


「見せてやるぜ! これが俺のスキルだ!」

 野盗のボスがなんかかっこよさげなポーズをとりながら長々しい呪文を唱える。

 おお、何言ってんのかよくわかんないけどなんか強そう!


 放置されていた荷台の後ろに隠れた俺と向田さんは、固唾をのんでそれを見守る。

 そしてボスの手にはサッカーボール大の火球が現れ、それをイワギンチャク目がけて投げつけた!

 

 火球はイワギンチャクの固い殻にはじかれて散り散りになり、ボスは触手によって吹っ飛ばされた。


「「「ボスーーーー!」」」


 えぇー見かけ倒しぃー。

 じゃなくて、イワギンチャクが強いのか。そうだよな、こいつゲームとかのボス級な感じがする。


 でも俺はただの高校生! 一般人! モブが相手するような奴じゃないよこれ!

 エンカウント率低下仕事しろ! あれか、ボスだから強制戦闘って奴なのか!

でもこれ絶対勝たないと全滅するパターンの奴だ。負けイベントが起こりそうな空気じゃない。


 さらに間の悪いことに、魔物に気付かれた。触手がこっち目がけて飛んでくる。

 あー、積んだ。これ絶対積んだ。


「きゃぁぁぁぁっ!」

 向田さんの悲鳴が聞こえる数秒前、俺と向田さんの周りに半球状の透明な壁みたいなものができて触手の攻撃を防いだ。


「えっ、何だこれ結界みたいなやつ?」

『正式名称は防壁でーす。これも自動発動に対応してまーす』

 防壁は砕かれる気配はないが、このまま膠着状態が続くのは精神的によろしくない。とにかくこの場を何とかしたい。俺はその一心だった。


『ふむふむ。この魔物の弱点は風だそうですよ。』

「風、風……なんか強い風!」

かっこいいポーズとか長い呪文とか考えてる余裕なんかない。


「とにかく、あいつを吹っ飛ばすくらいの強い風、出てこい!」


 イワギンチャクの真下――地中から竜巻が発生。本体ごと、文字通り根こそぎ吹き飛ばされて、そのまま天高く舞い上げられた。


 おおおお、やってみたらなんかできた。


「おぁあぁあああっ」

 ずぅん、とあの魔物が地面に叩き付けられた衝撃で周囲が大きく揺れる。体勢を保てず、俺と向田さんは防壁の中で転がった。

 視界をふさいでいた土埃が収まったころ、イワギンチャクの固い殻は粉々に砕け散り、中の本体は痙攣している……ような気がする。


 確認できなかったのは、イワギンチャク目がけて大量の矢が降り注いでそれどころじゃなかったからだ。


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