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第三話 モブ、獣道で盗賊に親切にされてしまう

 しばらく獣道を歩いていると向田さんがゼエハアと荒い息をつきながら立ち止まってしまう。

 そうだよね、女の子だよね。俺も気を遣うべきだった。


「獣道だしな。いいよ、ゆっくり進もう」

「私……体力に自信はあったんだけど、色々あって疲れちゃったみたい。言い訳ばかりでごめんね」


 いいんだよ。暗くならないうちに近くの街に辿り着けばいいんだから。

 向田さんは弱々しく俺に笑いかけてくる。

 彼女の手の甲にある痣も同じように力なく点滅していた。


 もしかして、これは――


「ごめん、向田さん、ちょっと俺、少し離れた場所にいくけど気にしないで」

 俺はポケットからスマホを取り出しながら彼女から離れていく。

「え?」

「いや、本当に気にしないで。すぐ戻ってくるから」

「……あの、もしかしてトイレ?」


 ええ、まあ、そう、そういうことにしてください。

 女の子からトイレを気にされるなんて初めての経験だ。こんな初めて嬉しくない。




 木陰に隠れた俺はスマホの電源を入れた。


『転生~~~~ショッピング! スタートッ!』


 いや、もうそれはいいから。

 俺は向田さんの疲労に心当たりがある。それを調べたいのだ。

 なんだかよくわからないシステムと無駄に関わっている暇はない。


「これ、ヘルプとかないのかな。検索機能とか……探したいスキルがあるんだけど」

 そう俺が呟くと魔法少女が答えた。

『もちろんありまーす! 私に話しかけてくださーい!』


 え、いやだ。

 そう考えてしまった気持ちを読まれてしまったように魔法少女はプンプンと頬を膨らませて言った。


『話しかけないなら自力で探せばいいと思うのです!』

「あんなアホみたいな数のスキルをチェックするのはちょっと……」


 そういってもシステム相手に意地になっても仕方ない。相手はAIだ。まともに対応するほうがアホらしい。必要なことだけを質問して利用すればいいのだ。


「たとえば魔力感知とかある? 視覚で確認できるくらいの簡単なやつ」

『ありますよ。常時発動に切り替えますか?』


 魔法少女の言葉に俺は考え込む。

 スキルには魔力を使用するのだ。そして魔力は人によって量が決まっている。魔力は生命力と直結しており、使いすぎれば当然体力が削られる。魔力は睡眠を取れば回復するが、この世界に召喚されたばかりの人間は勝手がわからず、つい魔力を使いすぎて疲れてしまうのだ。

 魔力量は鍛えれば上げることもできる。これから色々な人間に会った際に、魔力の量をみれば、どういう相手なのか一つの目安にはなるだろう。


「じゃあ、それで」

『魔力感知スイッチオン☆です!』


 魔法少女の言葉とともにペンギンがぴょんと跳びはねる。するとピロリロリンという古くさいゲーム音が鳴り響いた。

 ださすぎる。よくわからないペンギンみたいなマスコットといい、一体、このシステムを作った開発者はどういうセンスをしているんだ。


 ――さて。彼女の魔力量を確認してみるか。

 俺は木陰から顔を出して、遠くからこちらの様子を窺っている向田さんを見つめた。

 彼女の頭上に魔力の量が数値化されたものが映り出す。最大値と現在値の両方が表示されていた。4/100。思った通り、ずいぶん減っている。

 おそらく北の方角にある街を確認するために常時スキルを発動していたのだろう。

 申し訳ない。ここまで来ればあとは、俺の記憶を頼りに何とかなるから、彼女には休んで貰おう。何とかなる、よな。頑張れ、元々この世界にいた俺の記憶!

 あとで彼女に「もう力を使わなくても大丈夫」と言わなくちゃな。


「……俺の魔力量もわかるのかな」


 むくりとわいた欲求に俺は呟いた。


『当然わかりますよ! というか、それに関連するスキルを既に購入済みですので、お客様の場合はスキル一覧を確認してくださいましー!』


 いちいち独り言に反応してほしくないのだが。

 ていうか購入したスキルに関係するって、一体どういうことなのやら。

 まあ、見るだけ見てみるか。モブといっても、最低現、現状を把握するくらいはしたほうがいいだ――


 ――魔力∞


 よし、見なかったことにしよう。

 っていうか、魔力感知とか普通に使用できる奴、この世界にもいるんだけど、俺はどう見えるんだ? それはそれで有事の際とやらが起こりそうだから実力を隠すスキルも一緒に発動してそうだけど怖い。もうやだ。

 もういい、これ以上は考えたくない。現状を把握? 前言撤回、モブは余計なことを知らなくていいのです。

 俺は何も見なかった。いいな、そうしよう。


 用事が終わった俺はいそいそと向田さんのもとに戻る。


「……あの、大丈夫? 疲れてない?」


 急に彼女はそんなことを上目遣いに尋ねてくる。


「どうしたんだ、いきなり?」

「……あの、ううん、なんでもない。私も頑張るからね」


 彼女はぐっと拳を作ると、フンと鼻息を洩らした。


 もしかして俺がスマホ相手に喋っているのを聞かれてしまったのか。それを独り言だと勘違いしたのであれば良いことなのやら悪いことなのやら。




 さて、そんな俺たちは夕方になりかけた頃、当たり前のように盗賊の男たちに出くわしてしまった。屈強な肉体に、露出の多い服でありながらも使い古された鎧を纏っている。タチの悪そうな顔つきの二人組だ。

 そりゃそうだ。こんな田舎道の中を弱そうな少年少女がヨタヨタとわかりやすく慣れない足取りで進んでいるのだ。良い鴨である。

 だが解せないのは――


「この辺り、足を引っかけやすいから気をつけて」

「もうすぐボスのもとに着くから、それまで頑張ってくれ」


 彼らは俺たちを気にしつつ前に進んでくれる。


 盗賊のせいに何で親切なの?

 さっき俺たちの前で金をせびってきたよね?

 そう、彼らは俺たちの前に現れて「金を出せ」と脅したのだ。俺が「金目のものは持っていないので見逃してほしい」と懇願した途端に、コロっと態度が変わり、この状況だ。

 もうすぐ暗くなるし、魔物も出てくるから、盗賊の住処に案内してくれるらしい。

 まるで客人の扱いだ。なんなの? 罠ですか? 盗賊の住処で俺たちを料理するの? 色んな意味で!


 正直「もうすぐ街に着くので結構です」とお断りしたい、というか実際断ったのだが、夜になると本当にこの辺りは危険だと言われて押しに負けてしまったのだ。

 俺がいた頃は、人里の近くに魔物などいなかったはずなんだけどな。一体何があったのやら。やはり盗賊の罠なのか?


 向田さんは俺をチラチラと気にしている。そうだよね、明らかにヤバそうな奴について行っていいものかどうか困るよね。俺も困っているから大丈夫だ。


 しかし、この盗賊の急変、嫌な予感がする。まさか転生ショッピングで購入したアレの影響じゃあるまいな。


 不自然に思われるかも知れないが、俺は「ちょっともよおしたいので……」とゴニョゴニョしながら盗賊の方々から離れてスマホを取り出す。スマホを掌でギュウと握りしめて、いつもの『転生ショッピーング!』という音声をなるべく聞こえないようにした。


「これ、直近で使用したスキルの確認はできないのか」


 すると『できますよーう!』といわんばかりに使用履歴の画面に切り替わる。こんな便利なものがあるならさっさと教えてくれ。

 さて、使用履歴で何のスキルが自動発動したのか確認してみるとするか。


 交渉力マックス 自動発動。

 魅了 自動発動。


 ――えーと、つまり洗脳?

 洗脳ですよね、これ。


 有事の際に自動発動する奴だから、そうしないと俺たちが殺されていたってことなんだろうが――

 ほんっとう、モブには心臓がもたないって、こんなヤバそうな能力は。

 人間を洗脳するとか道徳的な意味とかアレとか色々なものに引っかかりそうで恐ろしい

 チキンだと罵られてもいい。こんなん、しょっちゅう自動発動してみろ。そのうち誰とも話したくなくなるぞ!


 トボトボと戻った俺に向田さんがクイクイと俺の服の裾を引っ張って自己主張する。


「……あの、……」


 わりと大人しいと思っていた彼女の大胆な行動に驚きながら俺は小声で答えた。


「うん、向田さん、もう少しだけ彼らに従ってみようか。今は下手に抵抗すると……」

「そうじゃなくて……」


 彼女はキョトンとした顔つきで言う。


「どうして忠之くんは、あの男の人たちとお話できるの? 私にはあの人たちが何を喋っているのかわからないんだけど」


 ――おっと、そっちか。

 さて、どう誤魔化そうか。俺は空を仰いだ。

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